【短期連載】「スポーツ&エコ・プログラム」でハイブリッド・スポーツ走行を学ぶ
スポーツ走行の基礎からレース参戦まで


 ただ速く走るだけじゃなくて、「速く、燃費よく」走ることは、モータースポーツなどプロの世界ではもう常識になっている。私たち一般ドライバーの間でも、エコドライブ講習やイベントへの参加者が増え続けていることから、その常識が着実に広がりつつあるのだと実感する。

 そしてもうひとつ。プリウス、インサイト、アクア、フィットハイブリッドをはじめ、爆発的にユーザーが増え続けるハイブリッドカーでも、新たなトレンドが生まれている。それは、ハイブリッドカーだからといってエコ運転をするばかりではなく、その特性をうまく活かして「楽しく、燃費よく」走るということ。バッテリーのモーターアシストや回生システムを使いこなすことで、エンジンだけのクルマよりも何倍も、いろいろなテクニックが楽しめるのがハイブリッドカーの面白さだ。

レッスンからレースまでをサポート
 そんな面白さをもっとたくさんの人たちに知ってもらおうと、今年からスタートしたドライビング・レッスンが「Honda スポーツ&エコ・プログラム」。世界で初めての量産スポーツ・ハイブリッドカー「CR-Z」を発売したホンダは、スポーツカーらしいスポーツドライビングと、ハイブリッドカーならではの環境性能をうまく両立させる、新世代のモーターレクリエーションを提案している。

 レッスンには、ロールバーなどが装着された、レースにも参戦できるCR-Zの無限バージョンを教習車として使い、まったくの初心者でも1から学べる「基礎コース」、経験者がスキルアップするための「アドバンスコース」、そしてステップアップしてきた人がレースデビューできる「晴れ舞台プログラム」まで設定されており、希望すればJAFの国内A級ライセンスなどが取得できる。自分ではサーキットを走れるようなクルマを持っていなくても、手ぶらでレッスンに参加してレースにも出られるという、本当の意味での手軽さが魅力だ。

 しかも、講師陣にはSUPER GTなどトップカテゴリーで活躍中のレーシングドライバー、経験豊富なモータージャーナリストなどが揃うという豪華さ。レッスンを受ける場所は、三重県の鈴鹿サーキット、栃木県のツインリンクもてぎという、日本が誇る国際サーキットだ。

 プライベートでCR-Zを愛車としている私は、同じクルマで耐久レースに参加したいという憧れがあった。でもサーキットでいきなりCRーZを乗りこなす自信はない。サーキット走行の基礎はもちろんん、ハイブリッドカーならではのドライビングや、速いだけではなく効率よく走るテクニック、バッテリーの使い方なども学びたいと思っていた。

 そんな私に、このSports&Ecoプログラムのコンセプトはピッタリだ。また、これまで数々のドライビングスクールを体験取材してきただけに、このプログラムのどこが新しいのか、本当に初心者でも大丈夫なのか、実際に確かめたいという希望もあった。

 まず、このブログラムの参加申し込みをするために向かったのは、いつもお世話になっているホンダの販売店、ホンダカーズ。Sports&Ecoプログラムの公式サイトからも申し込めるが、ホンダカーズから申し込むと参加料金が割引になる。「CR-Zベーシックスルクール」のBasic1、Basic2、Basic3、「CR-Zアドバンススクール」(各1日で計4日間)と、その成果を試す晴れ舞台プログラムの「10リッターチャレンジ」に申し込んだ。担当のセールススタッフに「がんばってくださいね」と笑顔で送り出され、当日がとても楽しみになった。

自分の名前が貼ってあるマシンで
 「CR-Zベーシックスルクール Basic1」の当日は、ツインリンクもてぎの「ASTP」(アクティブ・セーフティ・トレーニング・パーク)で参加受付をし、更衣室でレーシングスーツに着替えて教室に集合する。この日の生徒は総勢13名で、女性も3人が参加していた。女性は着替える場所や荷物保管が心配だけど、更衣室とロッカーがあるのが嬉しい。

 そして間もなくブリーフィングが始まり、本日の講師が登場。山野哲也さん、伊沢拓也さん、中山友貴さんと、トップカテゴリーで活躍する3人とは超豪華な顔ぶれだ。それぞれフレンドリーな挨拶で、ちょっぴり緊張気味の私たちを和ませてくれる。

 その後、講習で乗るN1仕様のCR-Zやタイヤなどの説明があった。バッテリー残量によって点灯する「エコインジケーターランプ」など、やはり愛車のCR-Zとは違うポイントがたくさんあり、「無限」特製のエコアシストメーターに、ラップタイムや燃料消費量などが表示されるのも面白い。

 いよいよ外に移動して講習がスタート。最初は、実際のマシンを使ってシートポジションの取り方から丁寧に教えてくれる。シートベルトも普通車とは違い、レースで使う4点式ベルトなので、その扱い方を教えてくれるのも親切だ。その後、全員が各自のマシンに乗り込み、講師から運転ポジションのチェックを受ける。なんとマシンには自分の名前がステッカーで貼ってあり、ぐっと親しみが湧いてきたのだった。

 

全員がどんどん上達していく
 最初に走るのは、普段から安全運転の講習を行っている場所で、ブレーキコース、定常円コース、バランスコースなどがある。準備万端で全員がエンジンをかけると、講師の先導でまずはコースをゆっくり完熟走行。各車には無線が置いてあるので、連絡事項や次の指示も聞き漏らすことがなく安心だ。

 そしてフルブレーキングを的確にかける練習へと入った。これは簡単なようでいて、実は一般のドライバーのほとんとができていないという。しっかりできるようにしておけば、サーキット走行だけでなく普段のドライブ中にも、万一の時に助かるテクニックだ。

 1回の走行ごとに、ゴールで講師が待っていて1人ずつにアドバイスをくれるので、自分のどこがダメだったのか、どうすればもっとうまくできるようになるのか、すごくよくわかる。最終的には、ただ闇雲に強く踏むのではなく、狙った位置で無理なく止まれるように加減をしつつ、「ベストブレーキ」を見つけるのが目標だ。

 そして次に、水が吹き出す滑りやすい路面が八の字になっているスリバリーコースで、マシンの挙動を思い通りにコントロールするための練習に移る。ちょっと乱暴にアクセルを踏むとすぐツツツーとマシンが滑り始めて、思った方向とは別の方向に流れていってしまう。手、足、頭とすべてに集中して操作しなければならず難しいが、できてくると楽しくなってくる。

 これも1回ごとにアドバイスがあり、マシンのアンダー、オーバーといった挙動をしっかり感じながら走ることを覚えていく。ほかの参加者の様子を見ていても、全員がどんどん上達していくのが分かった。

 さて、午前中いっぱいみっちりと特訓したあとは、お待ちかねのランチタイム。教室で講師と参加者が一緒に食事をしながら、普段は聞けない質問を講師に投げかけたり、和気あいあいとした時間が楽しめた。

 

一生思い出に残る1日に
 午後からは、南コースという1周約1.2kmのショートコースに移動し、「ワンコーナー・レッスン」に入った。

 これはコースの中の1つのコーナーだけを徹底して練習するというもので、最初の1クール(5回)はブレーキングポイントとクリップポイント(コーナーの最もイン側につく場所)に目印となるパイロンを置いてくれる。それでもラインの取り方やアクセルの開け方がなかなか決まらず、1回ごとに講師にアドバイスをもらい、次回にトライしてみることを繰り返す。

 そして2クール目にはパイロンを外して自分の感覚で走ってみる。1クール目でしっかりとタイミングやラインをつかんでいるので、思いのほかうまく走れて嬉しくなった。でもちょっと気を抜くと、アクセルを開けるのが早くて外側にふくらんでいってしまったりするので、丁寧に集中して走ることが大事だと実感。最後に、講師の先導でコースを10分間走り、Basic1のレッスンは終了となった。

 教室に戻っての修了式では、講師からの総評に続いて1人ずつに修了証が贈られる。ひとつ、ステップをクリアしたという達成感が湧いてきて、とても清々しい気持ちになった。

 また1日目を終えて強く感じたのは、運営体制の素晴らしさ。普段から教えることを仕事としているASTPのインストラクターや、モータースポーツのプロである「無限」のスタッフが揃い、タイムスケジュールや移動の引率、そのほか参加者が戸惑うことのないように、しっかりサポートしてくれるので、これなら初めて講習を受ける人でもまったく問題ないはずだ。

 またスタッフみんながとてもフレンドリーで、空いている時間には雑談や質問などが気軽にできる、終始和やかな雰囲気だったのもよかった。終了後には講師たちとの記念撮影タイムで盛り上がったが、日本のモータースポーツを背負って立つスターとこうして1日一緒に過ごし、コミュニケーションできるというのも、考えてみればなかなか貴重な機会。ファンの人にとっては、一生思い出に残る1日になるにちがいない。

 

効率のよい走りにシフト
 翌日のBasic2では、午前中はJAFの国内B級ライセンスが取得できる座学があった。私はすでに取得済みだったが、復習を兼ねて一緒に受講。モータースポーツを楽しむ土台となる、安全のルールやマナーを今一度確認できた。

 そして午後は南コースでBasic1の「ワンコーナー・レッスン」から一歩進み、「複合コーナー・レッスン」を行った。集中力を少しずつ長く保つトレーニングとして、ドライビングの高い精度をキープできるよう、練習を重ねていく。これもまた、何度も走るうちに着実に自分が上達しているのがわかり、これまで苦手だったところも克服できていた。「よいドライバーとは、クルマのパフォーマンスを引き出すことを維持できる人」だという山野哲也講師の言葉が、とても印象に残った。

 そしてBasic3に進むと、講師はフォーミュラ・ニッポンで優勝を飾るなど、若手のホープとして注目の塚越広大さんと、山野哲也さんにチェンジ。レッスンのステージもいよいよ、ツインリンクもてぎのフルコースになった。

 Basic1、2がクルマの性能を引き出すトレーニングだとすると、Basic3はそれを踏まえて効率のよい走りにシフトしていくトレーニングだという。燃費やラップタイムの安定化と、タイヤを長持ちさせる走り方を学ぶ。まずは先導走行でコースに慣れながら、ライン取りを覚えたり、シフトチェンジのタイミングを確かめたり、サーキット独自のローカルマナーなども覚えていく。

 次に講師の運転するCR-Zの助手席に乗り、同乗走行を体験。私は塚越講師に同乗したが、ブレーキングポイントの近さに驚いたり、シフトダウンの時の音がとてもよい音で感心したり、プロの技を間近で見る貴重な体験となった。

 そして単独走行へと移っていくが、ここで大切なのはただアクセルを全開にすればいいのではなくて、ハイブリッドカーならではのエネルギー回生とブレーキの関係など、一歩踏み込んだ走り方をアドバイスしてくれることだ。また、バッテリーが満タンの時とカラの時ではどう違うのか、タイムはどれくらい変わるのかなど、知れば知るほど面白くなってくる。

経験者にもおすすめ
 そうしたレッスンを踏まえて、最後にはちょっとした遊びとして「ECOチャレンジ走行」という競技を行った。1周を基準タイムの3分以内で走り、その燃費を競うというもので、ラップタイムが速すぎると燃費が悪くなるし、燃費を気にし過ぎると3分以内で走れないということで、なかなか奥が深く面白い。競技には講師も加わって、修了式での結果発表はとても盛り上がった。

 こうして「CR-Zベーシックスクール」をすべて終えたわけだが、いちばん強く感じたのはやはり「楽しかった!」ということ。レッスンの内容や雰囲気そのものはもちろん、無限チューニングのCR-Zがノーマルの愛車とはひと味ちがい、運転してさらに面白いクルマだったことも大きな理由だ。

 また、最初の高速ブレーキング練習から始まり、スポーツ走行の基礎から大事なポイントをしっかり押さえた、とても秀逸なプログラムだと感じた。これまで中途半端に習ったテクニックや、独学でやっていた走り方ではわからなかったことがスッと理解できたり、できるようになったのがその証拠だ。できるならば、このプログラムからモータースポーツ人生をスタートしたかったと思うほどで、初心者はもちろん、近頃タイムが伸びやんでいるという経験者にも、必ず得るものがあるはずだ。

 年内のSports&Ecoプログラムは、Basic1がツインリンクもてぎで9月3日から、鈴鹿サーキットでは11月12日から予定されているので、ぜひたくさんの人に体験してみてほしいと思う。

 私のアドバンスコースへの参加、10リッターチャレンジ、そして耐久レースへの参戦レポートは、次回へ続く。

(まるも亜希子)
2012年 8月 3日