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富士通テンなど3社、eCall緊急通報システムの試験用設備を公開
eCallは「人命を助ける究極のソリューション」
(2012/12/20 13:33)
横須賀テレコムリサーチパーク、富士通テン、ジェムアルトの3社は12月19日、eCall緊急通報システム対応の試験用プラットフォームを国内初構築したと発表した。同日、神奈川県横須賀市の横須賀テレコムリサーチパーク(YRP)で開催されたイベント「eCall Day in Yokosuka」において、来場者向けにデモンストレーションを行った。
欧州やロシアで新車に装着義務化されるeCallを国内で試験
eCallは自動車事故が発生した際、自動車から緊急通報を行うシステム。エアバッグ作動や横転などをきっかけに自動的に緊急通報を行い、GPSなどによる位置情報も同時に伝達し、ドライバーの意識がなくなる事態になっても自動的に救助を求められる仕組み。
ヨーロッパでは2015年からの導入を欧州委員会(EC)が勧告、ロシアでは2014年からの導入が発表され、その準備となる実地検証プロジェクトの「HeERO」が展開されている。eCallは既存の高級車向けの有料サービスとは違い、装着が義務化され、かつ無料で利用できることが特徴。通報に利用する携帯電話のネットワークは、日本と韓国以外の世界中で利用中のGSM方式を採用する。
GSM方式は国内では商用サービスを行っていないため、通常では試験環境がないが、YRPは政府の「ユビキタス特区事業」として日本で唯一、GSM方式の屋外試験環境を整備し、それが終わった後も1.8GHz帯のGSM方式の試験環境を運営、メーカーなどに提供している。
GSM方式は通常、日本では周波数の関係などで認可されないが、YRPでは国内メーカーが海外向け製品の開発に必要なため特別に認可されている。また、YRPが山と海に囲まれ、外部に電波が漏れて影響を与えない地形である点も認可されている理由の1つと言う。
今回のデモンストレーションでは、富士通テンが装置を試作、ジェムアルトの1部門であるCINTERIONの通信モジュールを内蔵し、実際にクルマや実験装置を動かし、事故に見立てた通報を実際のGSM方式の通信で行うなど、一連の動作を再現してみせた。
自動車に設置する装置は1つだけ
eCallのシステムを自動車に設置する設備は、通信モジュールを含めた車載器ユニット本体(IVS)と、操作パネル、アンテナ類となる。
展示された富士通テンのIVSの本体サイズは140×120×27mmと、カーオーディオユニットよりも小型。これに手動で通報する押しボタンスイッチや状態表示のLEDを組み込んだ操作部分、GSM通信のためのアンテナやGPSアンテナを車両に設置する。
現在のところ、どういった衝撃等から事故と判断するかなど、細かな点が決まっていないが、エアバッグ動作情報を車両から得るなど、車両との通信も必要となる。
また、GSMの通信アンテナやGPSアンテナは、万一の事故の際に破損などで役立たないことのないように装備する必要がある。例えば、棒状のアンテナが外に出ていれば、横転事故の際はアンテナが折れて機能しない可能性がある。GPSアンテナも同様で、車両が完全に反転した状態ではGPSアンテナは地面向きとなり、衛星を捕捉できなくなる恐れがある。
一方、IVSの電源確保という点も重要な点になる。万一の際に動作しなければならないので、エンジン回転から電源を得ていては意味がない。現在、すでに商用サービスとして開始されている緊急通報システムでは、充電できないタイプのリチウム電池を装備することが多いと言う。
充電できないリチウム電池を使用するメリットは、長期に渡って信頼性を維持しなければならない充電回路を搭載するより、クルマの製品寿命の中でたった一度しか使わない機能ならば充電回路を搭載せず、リチウム電池だけで緊急通報に必要なエネルギーを賄ってしまおうというものだ。現在は無交換で10年ほど利用でき、併せて装置の軽量化もできる。
今回の「eCall Day in Yokosuka」では、電池メーカーのパナソニックとFDKがブースを出展、バッテリーを紹介していた。
エンジンをかけたままのクルマを収容できる電波暗室
「eCall Day in Yokosuka」では、YRPの設備も公開された。YRPの常務取締役でテストベッド事業統括部長の仲川史彦氏は、「海外で携帯電話を売り込むために必要でGMS方式の試験環境を整えた。当初想定していたのは携帯電話端末だが、近年、多様な需要ができた」と説明、付近でGSMの車載器を積んだクルマの走行試験が可能になっている。
屋外試験環境向けに、YRPの建物屋上から道路に向けたアンテナを設置、走行試験走路と設定したYRP1番館隣の1区画を周回する道路と、工事車両試験のグラウンドに向けて電波を発射している。
屋外試験のほか、電波暗室を使った屋内試験も可能となっており、自動車をまるごと収容できる17×11×11m(幅×奥行き×高さ)の大型電波暗室を用意している。エンジン稼働状態でも試験ができるよう大型エアコンも装備している。
電波暗室内には、2基の方向が制御できるアンテナを備え、持ち込んだクルマを横転させなくとも電波の位置関係で横転状態を再現できる。緊急時の通信確保に最適なアンテナ配置も検証することが可能だ。
この電波暗室を使うことにより、覆面試験をするように通常は秘密裏で行われる新型開発にも対応できるとしている。
また、仲川氏によれば、今回のeCallの試験に備えて新たに用意した設備は、PSAPと呼ばれる緊急通報受付センターのサーバーとIP電話など一式。欧州に合わせたOECON製とした。
海外ゲストが欧州やロシアの現状を講演
eCall Day in Yokosukaには多数の来場者が訪れ、eCallへの関心の高まりが感じられた。欧州からはITSを推進する組織、ERTICOのHeEROプロジェクト・コーディネーターのAndy Rooke氏と、ERTICOのサプライヤーセクタープラットフォームの委員長でもあるジェムアルトのMarcel Visser氏が来日した。
「2015年までにヨーロッパでeCallを実現するのが私の責務である」というAndy Rooke氏は、事故にあった人を救うために「12年前からある高級車向けの民間緊急通報システムでは限界がある。eCallはすべての新車に適用しなければならないと決定した」と説明する。
Andy Rooke氏は、プロジェクトの課題にも触れ、地続きの欧州で隣国のPSAPに接続してしまう問題や、既存のクルマに装着するアフターマーケット製品の対応なども挙げた。
Marcel Visser氏は、EC(欧州委員会)におけるeCallの活動と今後について説明。今後は2013年の第4 四半期に採択された規格が公開され、2014年の第1 四半期には詳細な技術的要件や規則案が示されると言う。
来場者からクルマ本体の製品寿命と、第2世代であるGSM方式のサービス期間について質問されたMarcel Visser氏は、「広くGSM通信モジュールが普及しており、期間は分からないが、今後20年は存在すると思う」と携帯電話の方式の進化で、現在のIVSが途中で使えなくなる懸念について見解を示した。
また、2014年に導入予定のロシアからは、ERA GLONASS プロジェクトオフィスディレクターのYaruslav Domaratsky氏が電話で参加、ロシア版eCallシステムであるERA GLONASSの説明を行い、試算ではシステム稼働後に毎年4000人の命を救えると発表した。
ロシアでの導入スケジュールは、2014年10月1日から新車の9人乗りまたは2.5t以上の乗用車と、3.5t以上の危険物を積載する貨物車を皮切りに段階的に車種を広げ、2017年1月までに全車に義務化を拡大するとした。
日本からは富士通テンの理事でHeERO II プロジェクトリーダーの白石美成氏が「ドライバーや同乗者が命の危険にさらされているときに、コンマ1秒でも早くつながってパトカーや救急車を呼べるシステム。最後の命の砦、人命を助ける究極のソリューション」とeCallを統括し、イベントは終了した。