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「シェル・アドバンス・アジアタレントカップ」参戦の日本人ヤングライダーが集結
7名が世界への登竜門となる二輪の250ccレースに挑戦
(2014/3/7 11:50)
2014年からアジア圏を舞台に新たに立ち上げられる二輪レースのシリーズ戦「シェル・アドバンス・アジアタレントカップ」。このレースに参戦する7名の日本人ライダーの発表会が、3月4日に開催された。7名は13~17歳の少年たちだが、世界への足がかりとなるレースへの参戦を前に、それぞれが決意と抱負を力強く語った。
プロジェクトにはアルベルト・プーチ氏も関わる
「シェル・アドバンス・アジアタレントカップ」は、MotoGP世界選手権やスーパーバイク世界選手権など、二輪レースの最高峰となるシリーズのオーガナイザーを務めるドルナスポーツのほか、レッドブル、ブリヂストンなどの協力・協賛のもと、アジア圏の若いライダーにロードレース参戦の機会を提供することを目的に立ち上げられた。
2013年10月にマレーシア セパン・インターナショナル・サーキットのカートコースで選考会が行われ、参加者108名の中からレースに出場する19名(補欠3名除く)が選出。日本人は7名が選ばれた。そのほかに選出されたライダーは、マレーシアが6名、インドネシアとタイが3名ずつ、中国、フィリピン、シンガポールが1名ずつとなっており、日本人が最多選出となる。
去る2月17日~20日には、選出されたライダーたちがレースで実際に使用するNSF250Rを用いてテスト走行を行い、それぞれがマシンの感触を確かめた。今後は3月23日の開幕戦・カタール大会を皮切りに、インドネシア、中国、マレーシア、日本と各地を転戦し、6大会、全8レースでポイントを争う。
アジアタレントカップの年間成績によっては、2015年からのレッドブル・ルーキーズ・カップ、あるいはFIM・CEV・レプソル・インターナショナルチャンピオンシップ(2013年まではスペイン選手権)への参戦権の獲得にもつながるため、世界で活躍するのにもっとも近道となるシリーズ戦とも言える。数々のトップライダーを発掘・育成してきたアルベルト・プーチ氏が関わっている点も注目だ。
「一番必要なのは、24時間レースのことを考えること」
発表会では、レーシングライダーの青木宣篤氏が挨拶に立った。「1980年代~1990年代は、メーカーさんにたくさんの予算があり、僕ら若いライダーたちにも温かい手が差し伸べられ、世界へ押し上げてくれた。しかし、今は(市場的に)厳しい事情もあり、レース部門、特に若手に対しての予算が削られ、ここ10年くらいはなかなか世界に出る道がなかった」と述べ、同氏がキッズバイクやミニバイクのレースを始めたり、2013年にレース専門のNPO法人青木ノブアツ2輪促進委員会を立ち上げるといった活動を行ってきたことを報告。そんな中で、「ドルナスポーツが世界へつながる道を作ってくれた」とし、アジアタレントカップについて「今のジュニアライダーや皆さんに知ってもらいたい」と話した。
7人の選手に対しては、「一番必要なのは、24時間レースのことを考えていること」とレーシングライダーとしての自覚を促すとともに、「君たちが休み時間にスマホをいじっている姿は、プーチさんは嫌いです。絶対嫌いです」と、きつい一言も。MotoGPのレーススケジュールにアジアタレントカップの日程も記載された特別製作の“グランプリ手帳”を7人に配りつつ、「有名ライダーの誕生日も入っている。ここに君たちの名前が刻まれるように頑張ってください」と激励した。
発表会場に整列した7名のライダーたちは、緊張した面持ちながらも、司会らの質問に答える形でそれぞれがレース参戦に向けた決意を語った。また、青木宣篤氏にも簡単なインタビューができた。それぞれのコメントは以下の通り。
青木宣篤氏へのインタビュー
──アジアタレントカップに期待していることは?
ここ10~15年は、世界選手権でスペイン選手がすごく強い。なぜかというと、スペインではこういうジュニア向けプログラムが充実しているから。10年、15年前からのそういう状況が、今世界選手権でスペイン人ばかり活躍するという状況につながっている。
ただ、ドルナスポーツとしても、一国だけで盛り上がっても仕方がないと考えている。モーターサイクルというと、やっぱり代表的なのがホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという日本のメーカーで、マーケットはアジアにあるのでそこを重視している。
自国に速いライダーがいないと、その国でレースを開催するきっかけにもなりづらい。たとえばタイやインドネシアなどのライダーが速くなってくれば、その国としてもレースをやってみようかという話になる。ドルナスポーツとしては、そういったレースのマーケットをアジアで作りたいという意味合いもあるのではないか。
先ほども話したように、日本では世界に向けたルートがここ10年まったくなかった。ドルナスポーツが開拓し始めたこの道にうまく乗っかって、世界選手権で活躍する日本人ライダーが1人でも多く現れるといいなと思っています。
──吉田翼選手は青木さんのAoki Trek Sports Clubに所属していますが、彼に対してはどんな期待を?
彼が7歳の時から面倒を見ている。今回アジアタレントカップに合格したのを機に、僕らが通ってきた道を順に追いかけてきてほしいし、僕が使える道はどんどん使って彼に協力していきたいという気持ちはあります。
──世界を目指していく上で、一番な重要なことは何でしょうか。
先ほども言いましたが、やっぱり24時間レースのことを考えることが一番重要です。考えられる環境が必要なんですよね。
──しかし彼らは学生です。1日中レースのことだけ、というわけにもいかないかもしれません。
たとえばメカニックとのコミュニケーションがうまく取れないとすると、じゃあそこで、きちんと伝えるための(バイクのパーツなどを指す)単語は何だろうと考える。それでいいんですよ。そこで僕も英語力を上げていった。それもレースに関する勉強の1つだと思うんですよね。そこからどんどん言葉が派生していくので、トータルで考えれば学業にもプラスになるし、レースがきっかけになって英語も覚えていく。
セッティングについて勉強しようと思えば、サスペンションのスプリングレートが0.9kgf/mmだった時、プリロードを締めていったら(ベストな感触になるのは)どれくらいの数値なんだ、っていう数学的な突き詰め方もあるでしょう。そういうことなんです。
──青木さん自身の今後のレース活動は?
MotoGPはないですが、鈴鹿8時間耐久レースは10年ほどヨシムラさんから出させていただいているので、オファーがある限り続けようと思っています。
──ありがとうございました。
各選手のコメント
●2月のテスト走行について
北見選手:テストは初めてのコースで、これまで乗っていたマシンと比べてサスペンションが違ったりして、最初は少し戸惑った部分はある。でも、マシンの乗り換えにも苦労せず、わりと自分の好きな感じのコースだった。ヘルパーさんとのコミュニケーションがうまく取れなかったことに後悔している。
自分の伝えたいことが伝わらず、セッティングを詰め切れなかった。もっと具体的に1つ1つのことを細かくしっかり話し合っていけるようになればと。英語力が足りないところは自覚しているので、もっとしっかりしゃべれるようになりたい。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
北見選手:速さが大事だと思うけれど、それ以上にバイクというのは人とのつながりが大事。スポンサーさんとのコミュニケーションだったりとか、メカニックの人、チームとの関係が一番大事だと思っている。
●2月のテスト走行について
伊達選手:テストではメカニックの人に英語で伝えることを目標にした。どう伝えたらいいかと、単語ばかり探して結局うまく伝えられなかったので、2日目からは知っている単語だけ並べてあとはジェスチャーで伝えるようにしたら、最後の方はメカニックの人に顔と名前を覚えてもらえるほどになった。
ジェスチャーのやり方は、コース図を出して(フロントがチャタリングで暴れる状態になる)コーナーを指さしつつ、「ディス・コーナー・フロント、ワァァァーーーー」(笑)。それでだいぶよくなってきたので、たぶん伝わったんじゃないかと(笑)。シリーズでは全部表彰台に上ってチャンピオンを獲れるように頑張りたい。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
伊達選手:スポンサードしていただくにあたっても、第一印象が大事だと思うので、常に笑顔で。コミュニケーションも取れないといけないので、英語も大事だと思う。
●2月のテスト走行について
水野選手:初のアラゴンサーキットで、4日間という自分の中では長期間のテストだったが、NSF250は去年から乗っていたので慣れていた。けれど、バイクもタイヤもアジアタレントカップではイコールコンディションになる。2013年までの全日本選手権では、他のライダーと自分とで選ぶタイヤのコンパウンドが違っていて、それはライディングフォームのせいでもあったけれど、これからはイコールコンディションということで変えられない。
テスト初日、2日目はタイヤにいい走りができなかった。でも、4日間のテストで走りを変えていって、タイヤの使い方を変えることができたので、アジアタレントカップだけでなく、全日本選手権に向けてもいいテストになった。テスト結果には満足していないが、技術面で向上できたのがよかった。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
水野選手:世界を目指すには結果を残すことが一番大事だと思うが、日々の練習やテストの時だけでなく、バイクに乗らなくても、常に自分の心の中では「貪欲」という言葉を忘れずにいることが重要。
●2月のテスト走行について
鳥羽選手:テストではバイクのセッティングを詰めていった。2013年に乗っていたバイクとフレームが違ったので、最初はバイクに慣れようと考えた。セッティングもある程度詰まってきたので、カタールでは優勝を目指していきたい。最初はけっこう戸惑ったけれど、だんだん慣れてきてスムーズにいくようになってよかった。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか@@
鳥羽選手:速さも必要だけれど、日々のトレーニングなどの努力も必要。人とのつながりも大事だと思っている。
●2月のテスト走行について
関野選手:2013年の全日本選手権に出ていた時とタイヤもサスペンションも全然違うので対応に苦労したが、去年できなかったことにトライすることができて、カタールに向けて課題が明確になってきた。
去年できなかったのはヒジスリ(笑)。2013年は(他の人から)ずっとヒジを擦れと言われていたが、今回試してみたら意外といけた。今はまだ左しか擦れないので、カタールでは両ヒジを擦れるようにしたい。(MotoGPの)マルケス選手もヒジを擦って速いので、その方が速いタイムが出るのでは。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
関野選手:速さは大事だけれど、海外でのレースなので英語力も必要。自分の一番好きなライダーである富沢選手がずっと笑顔でいたので、そういう振る舞いも大切にしていきたい。
●2月のテスト走行について
吉田選手:NSF250Rの経験は少ないので、テストにはなるべくバイクを理解することを目標にして挑んだ。タイヤ、サスペンションなどについて理解でき、自分の課題も見つかったので、次につなげられるように努力してカタールに挑みたい。
ただ、メカニックにバイクの状態を話す時に、普段とは違った英語を使わなくてはならず、そこがスムーズに伝えられなくてうまくいかなかったところがある。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
吉田選手:速さが一番大事だと思うが、日々の努力を一番大切にしている。レースでは(それまでに培った)自分の能力を発揮することしかできなくて、それを準備するのは日々の努力次第だと思っている。
●2月のテスト走行について
佐々木選手:テストではフロントとリアのサスセッティングがあまり詰められなかったが、カタールで勝てるようにセッティングを詰めて、(表彰台の)一番高いところに立てるように頑張りたい。
●世界で戦っていくには何が重要だと思うか
佐々木選手:メンタルが一番大事。レースが始まる前に自分が絶対勝つんだと思い込んで、メンタルでもバトルでも負けないようにしている。