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首都高、道路維持技術を紹介する「首都高点検・補修デモ2014」

土木工学等を専攻する大学生らが実際の橋の点検作業を見学

土木を専攻する大学生が参加した「首都高点検・補修デモ2014」
2014年6月5日開催

 首都高速道路は6月5日、土木工学等を専攻する大学生約50名を招き「首都高点検・補修デモ2014」を実施、報道陣に公開した。このデモは、「首都高施設安全月間」(5月9日~6月8日)の一環。「橋を守る技術(点検・補修)の体験」として葛西と舞浜の間にある舞浜大橋とその葛西側にある管理地において、実際の橋の点検作業の見学をはじめ、点検技術や保守技術の実演、維持管理に関わる技術や機材展示などが行われた。

舞浜大橋の箱桁内の点検作業

 現場は首都高湾岸線で、通行量が多く、大型車も多いため騒音だけでなく揺れも多い場所。しかも点検場所の下は旧江戸川の河口で、ほぼ東京湾と言ってもよいところ。高架下に設置された足場から道路中央の鋼床版Uリブを点検したほか、点検口から密閉された箱桁内に入っても点検を行った。幸いにして公開日は雨で気温が低かったが、天候によっては高温になるなど、作業者にとって厳しい環境だ。

 点検作業では、鋼床版Uリブのデッキプレート方向の亀裂を調査する。道路の下となるデッキプレートにはクルマの進行方向と平行に補強のUリブが溶接されている。この部分に亀裂が生じ、亀裂が進展して貫通した場合には、路面陥没につながるおそれがある。

 点検に用いる機材は、超音波によって亀裂を調べる超音波探傷器で、デッキプレート下面から斜めに超音波を入射、超音波ビーム内に6mm以上の進展した危険な亀裂を発見する。点検方法は人間の超音波診断のように、密着させるための液体を塗布、接触子を表面にスライドさせるようにして行った。

階段を登り、橋の足場へと進む
橋の足場の内部。橋は2本あり、その中央部を通路としている
箱桁の下をくぐり道路中央部へ向かう
道路のすぐ下、デッキプレートの下で説明を受ける
鋼床版Uリブ。道路を支える構造で、ここは足場がなければ下は川の河口で潮風も受ける場所
点検口から箱桁内部に入る
箱桁内部。密閉された空間だけに比較的きれい
箱桁内部にも鋼床版Uリブがある
超音波探傷器で亀裂がないか検査する

高所作業車による点検作業

 足場を組まずに下から高所作業車を使っての点検も実演された。舞浜大橋から葛西側にあるコンクリート床版の下側を、高所作業車で接近点検。実際にハンマーで叩き、打音検査を行った。

 ハンマーでの検査は、音だけでなく、もう片方の手をコンクリートにあて、手の感触でも異変を感じ取ることが必要だという。デモに参加した学生がそれぞれ、ハンマーで実際に叩いて音を確認したほか、あらかじめ見つけておいた軽度のコンクリートの浮きを叩き、音の違いが実演された。また、目視による点検では内部の亀裂を発見するため、塗装面の割れがないか注視していくことなども説明された。

 実際に補修の必要な個所が見つかった場合は、その場で応急処置を行う。はがれ落ちそうなコンクリートは剥がしてしまい、鉄筋が露出してしまった場合は防錆塗料を塗る。状態によってランク付けをし、すぐにでも補修が必要な異常が見つかった場合はすぐに補修工事を行い安全と交通を確保する。

 点検の際の7つ道具も紹介され、ハンマーや転がして打音を確認する道具、露出した鉄筋の錆を抑制する塗料、作業の安全を確保するために熱中症の警報機なども用意しているという。高所作業に用いるものだけに、いずれも落下防止用のコードが取り付けられていた。

高所作業車で橋の裏側を検査する
コンクリート床版に接近点検。ハンマーで叩き、コンクリートの状態を音で検査する
コンクリートの浮きを発見、明らかに音が違う
コンクリートのほか、ボルトの緩みといったところも打音検査で分かる
検査の道具類。高所作業だけに落下防止コードがついている
高所作業車に乗る際は安全帯着用

検査作業について詳細を展示

 点検作業の実演のほかに、点検・補修技術の紹介が行われた。点検作業で見学した超音波による亀裂の調査、磁粉による亀裂の発見などが実演され、説明された。

 そのほかでは、跳ね返りの強さをによって判断する反発度法によるコンクリートの強度検査、電磁波レーダーを使ってコンクリート中の鉄筋等の鋼材を判断することも実演された。また、点検のためのツールとして、高い場所の打音検査をするため、ボールの先に自動で壁を叩くハンマーとマイクを軽量ポールの先につけた打音検査システムや、軽量な高解像度USBカメラをポールの先に付け、接近して検査ができないような場所の映像を確認するポールカメラが紹介された。

 また、サーモグラフィのカメラを使うと、温度差から鋼材内への水の進入や、異変を感じ取ることができる。

塗膜割など異常を発見した場合は磁粉探傷試験を行う。電磁石で表面を磁化、蛍光磁粉を塗ると傷の部分に磁粉が集まり、ブラックライトを照射すると亀裂部分が浮かび上がる
超音波探傷器。鋼材の中に亀裂があることが超音波の反射で分かるようになっている
反発度法によるコンクリートの点検。バウンドハンパーによって打撃し、跳ね返り高さから圧縮強度を推定する。JISで定められた9点測定を行う
電磁波レーダーでコンクリート内の鉄筋を探査している。コア採取時に鉄筋を傷つけないようにするほか、完成検査で設計どおりに鉄筋が配置されているかの確認にも使う
PCグラウトの充填具合を検査する。ハンマーでトリガーを与え、波形を見ることで充填状況が確認できる非破壊検査。検査のためのコンクリートを剥がしたり補修する必要がなくなる
内部中央の突起がハンマーで、電動で検査個所を叩き、マイクも入っているので打撃音を聞くことができる。ポールで接続し人間が登らなくても高さ8mまで点検が可能
点検用のカメラ。USB接続のカメラとなっており、パソコン画面で確認が可能。290gと軽量化を実現し、ポールの先に付けて目視検査が可能になる
打音検査機、カメラのどちらも8mのポールを付けて高いところに登らず検査ができる
サーモグラフィによる検査
コンクリート表面に熱を与えると、内部に空洞があると温度分布にもムラができ、異常を推定することができる。鉄鋼材を使った場所では内部への滞水もサーモグラフィで発見が可能
直接目視ができない場所は先端が折り曲がるビデオスコープも利用する
実際の補修作業のデモも行われた。鋼材に穴を開け、面取り、ボルト締め。ボルトは規定トルクで先端が折れる特殊なものを専用工具で締め付ける

その他のパネル展示、検査機材や、ECO標識車等を展示

 会場では検査の方法のほか、今後の首都高のメンテナンスの予定などが書かれたパネルや、首都高が持つ作業車も展示されていた。

首都高の今後のメンテナンスについても説明された
老朽化が進む個所があり、1号羽田線の東品川桟橋・鮫洲埋め立て部ではすでに50年が経過し、橋の架替を行う計画。迂回路を設置して長期通行止めを避けて実施する予定
レインボーブリッジは開通してから20年以上が経過。主ケーブルは結露のため、内部に水分が溜まってくるが、これを送風によって解消する送気システムを備えている。主ケーブルに大きな異常があれば、補修がむつかしいため橋を掛け替えるしかなくなる
軸重試験車。料金所の軸重計測の精度を維持するために利用する。後ろ1軸の大型トラックの荷台のウエイトが前後に移動する仕組みで、軸重を8tから16tまで1t間隔で可変することができる
水噴霧試験車。道路上のスプリンクラーの放水点検を受け持つ。実際に水を巻いて検査する場合は道路を封鎖しなければならないが、これを使い、放水点にヘッドを近付けて放水試験を行えば車線規制程度で対応できる。放水した水を回収する仕組みもあり、給水車とホースで連結すれば、道路を水浸しにすることもないという
ECO標識車。従来はエンジンをかけっぱなしでその発電で表示を点灯させていたが、リチウムイオンバッテリーによりエンジンを止めていても10時間点灯できる。排気ガスやCO2排出を抑制するとともに、騒音対策でも有効。首都高では51台配備している
ETC用電界強度測定車。ルーフキャリアに測定器が取り付けてあり、ETCゲートの電波状況を走行しながら検査可能。ETCに異常があると追突事故につながるおそれもあり、検査は欠かせない

(正田拓也)