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地元の空港から世界の観光地へ直行!! JALチャーター便運航の裏側

 旅行会社のパンフレットなどを見ていると、「チャーター便で○○へ!!」などと書かれたものがある。旅行者にとっては、何か特別な雰囲気の漂うチャーター便という言葉だが、このチャーター便とはどのようなものだろうか。実際にチャーター便を運航するJAL(日本航空)のスタッフに、チャーター便運航の実像についてうかがってきた。

 対応していただいたのは、日本航空 本店 国際旅客販売推進部 法人販売推進室の吉澤聖智氏、同 路線統括本部 路線計画部 ダイヤ運用グループ 岩﨑慎一氏、同 空港企画部 教育・サポート室 髙橋信孝氏の3名。部署名から分かるように、複数部署にまたがる形でチャーター便運航は行われているようだ。

今回お話をうかがった、日本航空 空港企画部 教育・サポート室 髙橋信孝氏(左)、同 本店 国際旅客販売推進部 法人販売推進室の吉澤聖智氏(中)、同 路線統括本部 路線計画部 ダイヤ運用グループ 岩﨑慎一氏(右)

 そもそもチャーター便という言葉の定義とは何だろう。「チャーター便は、通常運航していない空港とか、通常運航している空港においても特別に飛ばす便がチャーター便と呼ばれます」と吉澤氏はいう。このチャーター便の対義語となるのが定期便で、定期的に通常運航している航空機を指す。

 今回初めて知ったことだが、チャーター便は国土交通省によって以下の3形態に明確に定義されているという(正確には、旅客便、貨物便それぞれ3形態だが、本記事では旅客便のみを取り上げる)。

●1.オウンユースのためのチャーター
●2.アフィニティ・グループ(旅行以外に主たる目的を有する法人又は団体であって、チャーター便の運航に係わる申請以前から法人又は団体としての実体を有しているものをいう。以下同じ。)が用機するチャーター
●3.包括旅行チャーター

 それぞれに詳細な要件が定められているが、一般社団法人 全国旅行業協会(ANTA)のWebサイトに関連する書類がPDF掲載されている(http://www.anta.or.jp/law/pdf/international_charter_kaisei0516.pdf)ので興味のある方は参照してほしい。

 上記の文書にはいろいろ難しいことが書いてあるが、吉澤氏はそれらのチャーター便について平易に解説してくれた。

 吉澤氏によると「JALで行くパラオ」など、旅行会社が企画してJALなど航空会社が運航するものが3.の包括旅行チャーターになるという。最も一般的に目にするもので、誰もが利用できるチャーター便だ。このチャーター便のメリットは定期便にないインパクトのある旅行商品を旅行会社が打ち出せることにある。

 たとえば、前述の「JALで行くパラオ」は、成田空港のほかセントレア(中部国際空港)からの直行便が設定されている。通常はJALの直行便の飛んでいない路線をダイレクトに移動できることになり、旅の移動時間や疲労が減り、旅行商品の魅力アップにつながるわけだ。

●JALチャーター直行便で行く「癒しの楽園パラオ」
http://www.jal.co.jp/intltour/mic/palau/

●JAL チャーター便で行く旅
http://www.jal.co.jp/intltour/charter/

 成田空港やセントレアなど、都市部の空港でも大きなメリットが得られるチャーター便だが、地方空港になるとその魅力はさらに大きくなる。現在は各都道府県に空港があるものの、地方空港では国際線はごくわずか。以前は、一般的に地方から海外に行く場合、国内線が多数飛んでいる羽田空港へ飛行機で移動し、そこから国際線が多数飛んでいる成田空港へ陸路を移動。数時間をかけて移動した後、初めて国際線に乗ることができた。現在は、羽田空港の再国際化、成田空港の国内線LCC増加、仁川空港へのネットワーク充実などにより状況は改善されているが、いずれにしろ乗り継ぎが必要になっている。地元の空港から海外の空港へダイレクトに移動できる“直行便”はとても魅力的だ。

 1.のオウンユースのチャーター便とは、サッカーの日本代表であったり、F1チーム関係者であったりなど、企業、個人、団体が主となって契約するものだという。団体が主となって契約するチャーター便になる。

 2.のアフィニティ・グループのチャーター便は修学旅行が代表的とのこと。生徒が修学旅行のために旅行費用を積み立て、その費用を団体が取りまとめて払う。では、企業の社員旅行はどうなるのだろう。費用を明確に積み立てている場合もあるだろうし、明確に積み立てを行わず「業績達成○○旅行」となる場合もあるだろう。これについて吉澤氏は、「この2つのチャーター便の違いは、お客さまのお金がどのように動いているかで変わってきます」とのこと。いずれにしろチャーター便を飛ばす場合には国交省への申請が必要であり、いずれかの形態に分類されていく。

多くの部署がかかわるチャーター便

 その国交省への申請以前に必要なのがチャーター便を飛ばすための準備。定期的にJALの航空機が飛んでいない個所に航空機を飛ばすため、空港、航空路の選定や、機材、パイロット(運航乗務員)、CA(客室乗務員)の確保。さらには、現地空港で乗客のチケット発券業務を行うスタッフや、整備スタッフなど多数のリソースが必要になってくる。

 吉澤氏によると、チャーター便の準備が始まるのは運航の1年前。最も多くチャーター便が設定されるのは夏休み近辺となるが、その辺りで翌年のチャーター便運航の準備が始まるという。とくに不特定多数の人に販売することが必要な包括旅行チャーターの場合は、旅行代理店からのリクエストによってチャーター便の設定が始まる。たとえばある旅行代理店が「JAL直行便で行くパラオ」や「JAL直行便で行くヨーロッパ」などを企画した場合、それに対応できるリソースの確認が必要になり、値段面で折り合えば交渉成立となり、旅行代理店の商品となって世に出てくる。

 早い時期からのチャーター便販売には理由があるという。前述したように一般的にチャーター便は夏休みに飛ぶ便が多いが、その販売は前年の12月ごろには始まる。これは、旅行商品購入者側にボーナスが出て旅行資金の計算ができるほか、正月休みに帰省する人が多いため。国際チャーター便は国内旅行よりも特別な旅行となるが、実際に旅行するにはそれなりの資金が必要になる。その資金を帰省先の実家が補助してくれることが多いためだという。

 もちろん旅行代理店もこの時期にチャーター便を目玉の旅行商品として売り出し、旅行代理店のパンフレットには“初売り!!”などの文字が並ぶことになる。このような流れの中、1人の子供に対して複数の祖父母がつきそう旅行形態も増えてきており、リゾート路線では子供+両親+祖父母(2組)という7人以上の家族旅行客も普通に見られる。とくに子供や老人にとって、乗り継ぎがなく旅行時間の短いチャーター便は体力面からも楽に違いなく、何より乗り継ぎ空港で迷うことがないのは同行者からすると安心だ。

 人気のハワイ路線においては、これら子供連れにターゲットを絞ったチャーター便も夏に設定されており、そのチャーター便では子育て経験豊富なCAを運航スタッフに配し、座席の一部を授乳スペースとして用意。なにより、すべての乗客が子供連れのため、子供特有の問題を共有できることが人気になっているとのことだ。

 このように魅力的な旅行商品を作り上げることのできるチャーター便だが、実際にチャーター便が飛ぶ際においては複雑なオペレーションが発生しているとのこと。JALにはチャーター便専用の航空機はなく、チャーター便計画時に必要な航空機を捻出している。捻出方法の1つとして航空機には定期の検査があり、ある一定期間は必ず検査に回らなければならず、必ず定期便から外れる時期がある。検査に問題のない範囲で、定期便から外れる時期を延長して航空機をチャーター便に利用しているという。

 たとえばアフリカに10日間の旅行日程でチャーター便を飛ばす場合、現地の空港で作業するスタッフが定期便を乗り継いで先乗り、チャーター便到着、10日後出発という流れではなく、到着したチャーター便は一旦戻ってしまうという。これは航空機を現地で遊ばせておくわけにはいかず、別の運航に(もしくは検査に)回すため。そのため現地への先乗りスタッフは、空港で作業するスタッフだけではなく、航空機を一旦戻すためのパイロット(パイロットやCAには連続して乗務可能な時間が決められており、長距離便などもそうしたケースに該当すると岩﨑氏はいう)も必要となり、多くのリソースが必要となる。

 つまり、チャーター便に先行してスタッフを送り込み、その後チャーター便が到着。一旦チャーター便を日本に戻す必要があり、さらに乗客の帰国便のためにチャーター便を飛ばす。そして乗客が帰国後、各スタッフは帰国するということになる。吉澤氏によると、チャーター便運航スタッフ以外は、定期便を乗り継いで目的の空港に移動しているという。

3人が持っているのは、JALがこれまでチャーター便を飛ばした空港が示されている世界地図。定期便とは異なる苦労があるチャーター便だけに、空路開設の思い入れがあるようだ

災害対応のチャーター便とは?

 「海外の災害対応のため、○○がチャーター便で飛び立ちました」というニュースを見たことがある人もいるだろう。これはチャーター便としては、オウンユースのチャーターに分類される(特定団体が借り切るため)のだが、当然ながら災害は事前に予測できない。災害救助では災害が起きてから72時間以内の対応が1つの目安といわれており、関係団体から要請があったらできるだけ短時間で飛び立てるようチャーター便を用意しているとのことだ。

 通常は数カ月かけて作り上げるチャーター便だが、路線統括本部の岩﨑氏によると、「災害対応ということでJALの各部署に特別なお願いをしていることもあるが、行って帰ってくるということで、なるべく72時間以内に飛ばせるような工程を作り上げている」とのこと。目的がシンプルなチャーター便とはいえ、72時間以内に国際的な調整を終えることができるのは、JALのこれまでの経験によるものだろう。

 これらのチャーター便のほか、JALはさまざまなチャーター便を運航している。たとえば読売巨人軍の優勝旅行チャーター便。読売巨人軍の優勝旅行チャーター便ではオリジナルメニューカードなどを用意したと吉澤氏はいう。機内食は安全性など多様な観点から作り上げられているため、自由なメニュー構成は難しい。とはいえ、ちょっとした変更やメニューカードの飾り付けなどの工夫はできるので、そうしたリクエストがあるという。

 冬期オリンピックの選手および観客の帰国便については、ロシアのソチ国際空港でのオペレーションが大変だったと高橋氏はいう。JALは一度もソチに定期便を持ったことがなく、運航はオリンピック開催時が初めて。そのため、欧州やモスクワの支店、そして日本からもスタッフを集め、国際的な共同体制で出発手順を作り上げたとのこと。ソチ便の出発に関しては、各国の便がオリンピック終了時期に合わせて増えるため、それら各国の便との調整が大変だったという。

 JALのチャーター便は、およそ300項目以上のチェックリストをクリアして運航を行っており、定期便とは異なる特有の大変さがあるとのことだ。一旅行客としては、その大変さを乗り越えて定期便にはない魅力的な旅行商品の登場を期待したいところ。年末・年始や、来年夏の旅行シーズンは“チャーター便”の文字に着目してみるのもお勧めだ。

ハワイ島 コナ空港への直行チャーター便。日本からオアフ島 ホノルル空港への直行定期便は多数あるが、日本からコナ空港への直行定期便はどの航空会社も運航していない。コナ空港への直行チャーター便は、夏のハイシーズンに用意される特別な便となる

(編集部:谷川 潔)