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スリーエム、近赤外線による自動車塗装乾燥機「3M クイックドライシステム」を開発

水性塗料の乾燥時間が最高で従来の1/6に短縮

2014年11月27日開催

「3M クイックドライシステム」(MODEL2000)が設置された塗装ブース

 11月27日、スリーエム ジャパンは相模原事業所(神奈川県相模原市)にて近赤外線を利用した自動車用の塗装乾燥装置「3M クイックドライシステム」を報道陣に公開した。

 3Mといえば、身近なものとしてテープや付箋紙などが知られるが、実は自動車の補修部材をラインアップするメーカーという側面もある。カーラッピングなどでよく使われるシートも3Mの製品が高いシェアを占める。さらに、塗り分け塗装では欠かせないマスキングテープも実は3Mの発明品だ。同社の技術を利用した研磨材や接着剤、各種テープなどは自動車用で300種類もある。今回の乾燥システムは、同社の自動車関連事業の一環として新たにラインアップされるものだ。

 自動車の補修や塗装において、時間を要する工程が実は乾燥だ。ボディーの下地処理としてパテなどを使用した場合、ボディーの色を下地として塗装する、クリアー塗料などでコーティングする、これらすべての工程で乾燥ブースでの高温乾燥やブロアーなどによる乾燥と冷却の時間を要していたが、今回の「3M クイックドライシステム」を使用すればあらゆる塗料の乾燥時間を短縮でき、乾燥ブースでの高温乾燥が必要ないため、冷却の時間も大幅に短縮できる。1台あたりの作業工程が短くなれば、ユーザーがクルマを整備に出して戻ってくるまでの所要日数が短縮されるほか、1人の作業員がより多くの作業を行えるため、整備費用のコストダウンにも繋がる。同社によると、従来の工程で40分弱の所要時間が10分弱に短縮できるという。

 また、水性塗料の乾燥時間は従来の約1/6としている。近赤外線を利用した自動車用の塗装乾燥装置は、新規の技術というわけではないが、同社の「3M クイックドライシステム」は従来の電気式と異なり、ガス触媒による反応を利用して近赤外線を発生させるため、従来よりも幅広い範囲で近赤外線を発生させることができるとのこと。

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スリーエムジャパン オート・アフターマーケット製品事業部 事業部長 永田裕介氏

 「3M クイックドライシステム」の説明を行ったスリーエム ジャパン オート・アフターマーケット製品事業部 事業部長 永田裕介氏によると、自動車整備業界は2011年の東日本大震災や新車販売台数の減少などによって厳しい状況にあり、国内に3万3000個所ある自動車整備工場では競争が激化しているという。また、塗装や補修に掛かるコストは約40%が人件費であり、これをコストダウンするための作業時間の短縮、作業内容の標準化が必要とされている。

 これに対し3Mは、既存製品のコンサルティングと新製品の提案を行っており、ソリューションの開発を事業戦略の軸にしている。今回発表された「3M クイックドライシステム」はその一翼を担うもので、仮に月間100台の整備をこなす工場で本製品および3Mによる工程改善ソリューションが投入された場合、作業時間は平均9.7時間から7時間へと27.8%短縮でき、乾燥コストは電気方式の乾燥に比べて1/30、受け入れられる台数は37.7台増加するという。さらに納期も短縮できるため、代車費用などのコストも削減できる。

 また、環境面からヨーロッパで導入が進んでいる水性塗料にも対応しているため、先進性にも優れている。永田氏は補修や塗装作業のムダを省き、効率を上げることで自動車補修を変えていきたい、と語っていた。

コンサルとクイックドライシステムによる相互効果
3M クイックドライシステムのイメージ図
3M クイックドライシステムの特徴
3M クイックドライシステムの製品ラインアップ
3M クイックドライシステムは水性塗料にも対応
3M クイックドライシステム導入の経営者メリット
3M クイックドライシステム導入の従業員メリット
ソリューション導入よるクルマのオーナーメリット
導入効果のシミュレーション1
導入効果のシミュレーション2
ソリューション導入がもたらす価値
自動車補修工場の経営課題の解決をスリーエムが事業として取り組む

塗料そのものを硬化させる「3M クイックドライシステム」

 「3M クイックドライシステム」では3つのモデルがラインアップされる。「MODEL2000」は塗装ブース内に設置するスタンダードタイプで価格は1750万円、さらに上位の「MODEL3000」は車体の形状をなぞって乾燥させることができ、こちらは2300万円。「TYPE P」は塗装ブースの外で使うタイプで、下地塗装やパテなどの乾燥に使用する。価格は1300万円。なお、それぞれの価格は本体価格であり別途設置費用などが掛かる。3Mによると、生産性の向上により、月100台で保守を行う工場であれば、20%生産性が向上することで1年程度で費用を回収できるとしている。

デモ用車両と「MODEL2000」が設置された塗装ブース
塗装ブース外の下地処理などで使う「TYPE P」
「MODEL2000」のコントローラー部分。設定を入力すると自動的に作業が行われる
このパネルに触媒がセットされており塗装面に当てると塗料が発熱して硬化する。塗料だけ発熱するので近づいてもそれほど熱くない
従来の近赤外線を使ったヒーター。3m前後の距離でもかなりの熱を感じる

 実際に下地塗装とコーティング塗装のデモが行われたが、工程はいたってシンプルだった。まず下地となる黒の水性塗装を塗ったあとに、2分の予備加熱のあとブースのレールに沿って乾燥装置が移動。触媒のパネルが塗装面を通過するだけで塗装部分が5分も満たない短時間で乾燥した。次にクリアー塗装を行い、同じように乾燥装置が車両の周囲を通過し、塗装面を乾燥させた。クリアー塗装の場合は3回の往復が必要で、1回目は溶剤を揮発させ、2回目、3回目で硬化させる。こちらも10分以下で終了し、少しエアーをかけて冷却するだけですぐに手で触って問題ないレベルになった。

 車両を囲うように配置された6枚の触媒がセットされた乾燥パネルは、表面を450℃~750℃まで加熱するため、近寄るとほんのりとストーブに当たっているように感じるが、それほどの熱は感じなかった。このパネルから1.0~3.5マイクロメートルの波長の近赤外線が発せられ、温度差をつけるのはより広い範囲の材料まで反応するようにするためだそうだ。そして近赤外線を当てることで塗料そのものだけが発熱して乾燥する。このため生乾きというのがなく、完全に硬化するため従来の塗装に比べて経年劣化や縮み、退色が少ないという。本製品は塗料メーカーと共同開発しており、日本で使われる塗料やパテなどに関してはほぼすべて対応する。

 なお、前述の水性塗料の場合はその名の通り水分が多いため、揮発性塗料に比べて工程が煩雑になる。下地の乾燥では70℃近い乾燥ブースに車両を入れ、圧縮空気を吹き付けて水分を飛ばす。このとき、空気中の浮遊ゴミなどが付着すると塗装し直しになってしまうが、「3M クイックドライシステム」を使えば乾燥ブースでの高温乾燥が不要なため、ブースの冷却時間を取られることなく、また圧縮空気の吹きつけも不要なのでゴミが付着することもない。さらに、水性塗料ではワキと呼ばれるクリアー塗装後に気泡が発生することがあるが、本製品ではこれを発生させないように最適な設定が行われているという。つまり、本製品を使うことで作業が不慣れな塗装者による塗り直しも防ぐことができる。実際のデモではワキもゴミの付着もなく、鏡のような表面が20分も経たないうちにでき上がった。

「3M クイックドライシステム」の導入が進めば、補修や塗装の品質が向上し、ユーザーも仕上がりに不安なく安心して愛車を預けられるようになるだろう。

まずは水性塗料で下地を塗装する
塗装後に「MODEL2000」が前方に移動しつつ、触媒部分を塗装部に当てる
ボンネット部分は上部の触媒が下降して適切な距離をとる。センサーにより、車両の形に合わせて触媒のアームが可動する
水性塗料が乾燥した表面。乾燥時は湯気が出ていた
続いてクリアー塗料を吹き付ける
先ほどと同じように「MODEL2000」が移動して乾燥。クリアー塗装の場合は、溶剤の揮発と硬化のため移動を3回繰り返す
側面から見た乾燥中の様子
従来の塗装工程では、水性塗料を使うと溶剤が気泡になったり、圧縮空気を吹き付ける際に空気中のゴミが付着し、塗装不良になることがあった
乾燥作業後に軽く圧縮空気を吹いて冷却すれば、すぐに触れるようになった。塗装表面に気泡やゴミは一切見られなかった

(シバタススム)