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ヤナセオートシステムズ、「YANASE The Bodyshop Network技術大会2014」開催

全国9個所の内製工場の代表チームが日々研鑽する技術を競う

2014年12月1日開催

板金部門でパネル交換時の切り接ぎ個所を溶接するようす
会場は第三京浜 港北IC(インターチェンジ)の近くにあるBPセンター横浜

 ヤナセオートシステムズは12月1日、神奈川県横浜市にあるヤナセオートシステムズ BPセンター横浜で「YANASE The Bodyshop Network技術大会2014」を開催した。

 全国に9個所ある直営BP(Body Repair&Painting)センターから代表者2人が参加して行われるこの大会では、「板金部門」「塗装部門」の2部門で与えられた課題に取り組み、この補修実技の仕上がり具合に加え、作業中の手順、工具などの扱い方、安全管理などに対する取り組みなどを150満点で評価。さらに部門別の基礎知識や応用・専門知識などの習得具合をチェックする50点満点の筆記試験を加えた200点満点で個人戦を実施する。

 これに加え、代表2人の400点満点の合計点を競うチーム戦も設定し、日ごろの業務で磨き上げた技術を披露。全国の直営BPセンターの規範となる技術レベル、取り組み方を確認して紹介することを目的に新たに開催された。

 開会式で挨拶したヤナセオートシステムズ 取締役社長 菊池正幸氏は「今、私どもが重要だと考えていることの1つに、全国で統一した修理手順、修理品質を提供するということがあります。私どもが自動車メーカーの設計に基づいた修理品質を実現することがお客さまに安心・安全をご提供可能にすると考えています。日々複雑化する技術の進歩に応え、将来の自動車の進化にいかに対応するか。板金塗装に関わるものとして新技術を採り入れ、自動車メーカーから提供される情報を元に、正確に修理をすること。そして手作業に頼ることが避けられないボディー修理ですので、実際に修理を行う人をなによりも大事にしたいと考えています」と語っている。

開会式で挨拶するヤナセオートシステムズ 取締役社長 菊池正幸氏
開会式では選手宣誓も行われた
会場となったBPセンター横浜の施設内には、2015年に迎えるヤナセの創業100周年に向けた掲示物も用意されていた

塗装部門(競技時間:溶剤系塗料70分、水性塗料90分)

塗装部門の実技審査風景

 実技審査は塗料が乾燥する時間が必要であることから、塗装部門が先に実施された。この実技ではメルセデス・ベンツ 初代Aクラスのボンネットを使い、課題色の「ポーラーシルバー(カラーコード:9761)」に塗装するという内容。クルマのボディーカラーは名前とカラーコードで管理され、一般的には同じ色として扱われるのだが、実際には生産した工場やモデルイヤー、塗料の生産ロットなどによって同じ色でもわずかに内容が変化するため、この実技では色見本パネルを使って塗料を作る「調色競技」がまず審査の対象となる。

 同社ではカラーコードごとに複数の色見本パネルを用意しており、すでに生産が終了している初代Aクラスのポーラーシルバーでは約20種類の色見本が設定されているという。通常の作業ではこの色見本パネルを塗装する車両の現状と見比べて一番近いものを選び出し、さらに経年劣化などによるわずかな変化に合わせて調色を実施している。しかし、この調色競技では参加選手の技量を見極めるため、選手たちには秘密で大きなハードルが設定されていた。ここで用意された課題色には、通常の作業で使用している塗料とは異なる塗料メーカーの塗料が使われていたのだ。もちろん、選手がそれぞれ持参した塗料は通常作業で使用しているもの。異なるメーカーの色を手探りで再現する技量が調色競技で審査された。なお、審査では色を数値化できる測色機が使われている。

 また、塗装に関しては各自動車メーカーで従来の溶剤系塗料から環境負荷が低い水性塗料へのシフトが進んでおり、これに対応するため直営BPセンターでもBPセンター茨木、BPセンター三郷の2個所で水性塗料を導入。今後も順次切り替えを実施し、最終的には全直営BPセンターで水性塗料を使う予定とのこと。このため、今回の塗装部門の実技でも茨木と三郷の参加選手は水性塗料を使用。水性塗料は乾燥に時間がかかることを配慮して、競技時間を溶剤系塗料の70分から90分に延長している。

 実技審査が開始されてまず驚いたのは、選手たちがかなりバラバラの手順で作業を進めていくこと。スタートしてすぐに作業用つなぎの上にビニール製の保護服を着用する人もいれば、じっくりと色見本パネルの見極めに取りかかる人などさまざまで、これは午後に実施された板金部門の実技審査でも同様だった。これについてヤナセオートシステムズ BP統括部 西日本BP営業部 部長の桒原秀行氏に質問したところ、ヤナセオートシステムズがヤナセオートパーツとヤナセの板金・塗装事業を統合して誕生したのが2011年4月であり、まだ全国のBPセンターを再編する途上でもあり、画一的な作業ノウハウが確立されていないことが原因であると説明。今回の技術大会も、今後の作業内容の統一に向け、どのような作業、取り組み方が望ましいのかチェックすることも大きな目的の1つであり、ここで評価された内容を全国の直営BPセンターや全国約230個所の協力工場で働くスタッフが各自の仕事に採り入れてくれることも期待していると解説された。

審査スタート直後のようす。作業手順が異なるのは、BPセンターが誕生する前の業務体制が引き継がれて運用されており、各BPセンターの使う機材なども異なっているため。将来的には人材育成時から画一的な体制を整え、全国均一なサービス実施を目指すという
色見本パネルには各塗料の使用グラム数が記載されており、デジタルスケールで計量しながら1滴単位で微調整しつつ混合
塗料は色むらが出ないようしっかりと撹拌。この作業内容の適正さも審査対象
混合した塗料は塗装ブースで手持ちサイズのパネルに吹き付けてテスト塗装
テスト塗装したパネルは乾燥させ、課題色のパネルと見比べる
水性塗料は乾燥時間を短縮するため、ドライヤーなどの送風を利用することもある

 調色競技で作り上げた塗料をボンネットに塗装する「上塗り競技」では、均一な厚さで塗装する塗装ガンさばきやゴミなどの付着状態に加え、塗装ブースに入るときの身支度、塗装ブース内での所作などが評価される。とくに調色競技と上塗り競技の両方で「安全な作業」に対する取り組みが重視され、身支度などに対しても厳しいチェックが行われていた。

事前に塗装が行われた課題色は、同じ初代Aクラスのボンネットにパネルを設置して塗装。すべてのパネルが同じ条件で塗装されるようになっている
上塗り競技では下塗り状態の初代Aクラスのボンネットを使用
塗装前に各選手が自分の扱うボンネットにマスキングを実施したが、ここでも選手ごとに内容が少しずつ異なっていた
塗装開始前にブース内でボンネットを拭き上げてゴミの付着を防ぐ
塗装中のようす
塗装ガンに接続されたエアケーブルの扱い方なども審査の対象
塗装中にマスキングテープのこよりで塗装面に付着したゴミを除去するシーンも見られた
塗装終了後、自分のブースに戻って挙手することで終了をアピール
乾燥後に審査されたボンネット。ほぼ中央の位置に10×20cm(縦×横)の計測ゾーンを設定し、この部分の塗膜を膜厚計で実測。範囲内のゴミの数なども審査対象となった

板金部門(制限時間:70分)

板金部門の実技審査風景
板金部門の審査はピラーの切断部分をつなぐ「溶接競技」、フェンダーの凹みを復元する「ハンマリング競技」の2種目で実施

 午後になって実施された板金部門ではメルセデス・ベンツ CLAクラスの右フェンダーを利用。70分の競技時間内でCピラーの切断部分をつなぐ「溶接競技」、フェンダー下側のプレスライン上にできた凹みを復元する「ハンマリング競技」の2種目で審査が行われた。どちらの競技を先に行うかは各選手が自由に選択して取り組んだので、溶接個所の地金を出すベルトサンダーの摩擦音やハンマーの打音が同時に会場内に響く状態となった。

 溶接競技ではメルセデス・ベンツがリアフェンダー交換時の切り接ぎ個所として指定する位置で事前に切断されており、この部分の溶接が競技の対象。溶接作業では熱の影響で鋼板が伸びるように動いてパネルに歪みが発生する。この歪みの少なさのほか、溶接部位の美しさ、前出の作業時の安全確保の姿勢などが審査された。

溶接時にボディーに施された塗装が影響しないよう、接続部周辺をベルトサンダーで削ってボディーパネルの地金を露出させる
各作業に審査員の目が光る
溶接前に身体が当たったり溶接で出た火の粉が影響しないようカバーを設置
溶接作業のようす
溶接機で設定する電流・電圧も重要な要素とのこと
作業完了後の溶接部位

 ハンマリング競技では、フェンダーのプレスライン上に用意された凹みを、ハンマーで方面から叩きつつ、背面からドリーと呼ばれる金属製の工具で挟むように作業してフェンダーを復元。プレスラインの上側に与えられている曲面、同下側の平面をどれだけ純正状態に近づけられるかが評価されている。

実際の作業前に、凹みの状況を目視と指先の感覚でチェック。プレスラインとの位置関係などによって硬い部分、柔らかい部分が変化するという
選手により、最初から金属ハンマーで叩く人、まずは木槌から始めて金属ハンマーに持ち替える人と違いがあった
ハンマリングする部位を内側から支える金属製のドリー。ハンマーとドリーをオフセットする「オフドリー」、ドリーを当てた部分を叩く「オンドリー」の2種類の叩き方があるとのこと
地道にコツコツ、カツカツと叩き続けるうち、少しずつ凹みが平面に近づいてくる
作業の仕上げとして、グラインダーで塗装を落としてパテ盛りの下地作りを実施。実作業ではここからパテを盛りつけていくが、今回の実技審査ではこの段階で終了となった

 板金部門の実技審査で目を引いたのは、審査時に多彩な特製器具を使って仕上がり具合をチェックしていたこと。これは器具によって審査することで競技結果を客観的に数値化することが目的で、審査員の主観でよしあしが判断されないようにするほか、審査方法の画一化で今後も一定の判断基準で大会が行えるようにしたいとの意向が反映されている。

溶接競技のパネルの歪み計測では、4個所に測定位置を設定したアクリルパネルを使用。ノギスを差し込んで奥行きを測り、歪み具合をチェック
溶接部位の測定では、大中小とサイズの異なる凹みを作ったアクリル製の特製器具を使用。上から下まで通過するサイズが小さい方が高得点
ドアストライカーをボディに固定するホールを利用するハンマリング競技の計測器具。3個所のスリットにノギスを差し込み奥行きを計測。金属製で凝った作りとなっている
奥行きの計測後、ハンマリングされた部分にカッティングシートを貼り付けて目視した美しさや指先の感覚でもチェックを実施

優勝はチーム戦、個人戦とも「BPセンター三郷」が独占!

板金部門の1位になったBPセンター三郷の森本徹氏(左)と塗装部門の1位になったBPセンター三郷の須田有一氏(中央)。右はプレゼンターを務めたヤナセオートシステムズ 取締役社長 菊池正幸氏
代表2人がそろって1位を獲得したため、必然的にチーム戦はBPセンター三郷の優勝となった。中央右に立つのはBPセンター三郷 所長の尾形謙介氏

 審査の結果、板金部門の1位をBPセンター三郷の森本徹氏が獲得、塗装部門の1位も同じBPセンター三郷の須田有一氏が輝き、合計点で争われるチーム戦の優勝もBPセンター三郷が獲得。2013年4月に茨城県、栃木県、群馬県、千葉県の4県をとりまとめる中核拠点として新設されたBPセンター三郷が上位を独占する結果となった。

塗装部門の1位となった森本徹氏。課題となったメルセデス・ベンツ CLAクラスはこれまでに扱ったことがなく、また通常は車両ごと作業するところがパネル単体となっており、ボディーパネルに加えた熱の逃げ場が少なくいつも以上に影響が出たという。また、パネルを支える部位が通常とは異なり荷重のかかり方が違うので歪み方も変化していることなどの困難があったが、これまでの積み重ねが結果に結びついて自分でも驚いていると語った
塗装部門の1位となった須田有一氏。水性塗料は溶剤系塗料と比べて扱いが難しく、さらに当日は雨が降って湿度が上下するなど困難な状況だった。そんな水性塗料を使って1位になれたことが本当に嬉しいとコメント。また、水性塗料は配合するフレークが均一に分散しやすいなど塗料として優れている部分もあると語った
ヤナセオートシステムズ BP統括部 西日本BP営業部 部長 桒原秀行氏

 閉会式ではヤナセオートシステムズ BP統括部 西日本BP営業部 部長の桒原秀行氏が総括を実施。このなかで桒原氏は、審査で重視したポイントを解説し、安全な作業方法の確認と服装などについてはおおむねしっかりと規定が守られていたが、塗装ブース内での着帽とシューズカバーの使用などのシーンで不徹底だったことを指摘。また、低い位置の作業となった溶接競技では膝をついている姿が見られ、これはお客さまの車両に乗り込む場合に車内を汚してしまうリスクに繋がることから好ましくないという点を取りあげた。

 このほか、自分たちが目指すのは自動車メーカーが設定する基本的な修理方法を踏襲し、補修では新車状態にどれだけ近づけられるかを目指していること。さらになによりも重要なのは作業者の安全確保で、これらに留意しながらこれからも技術研鑽に励んでほしいと語っている。

実技審査終了後に行われた見学会のようす
閉会式で整列する選手たち

(編集部:佐久間 秀)