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ノキアソリューションズ&ネットワークス、自動運転への利用も予想される5Gへの取り組み説明会

2018年の韓国冬季オリンピック、2020年の東京オリンピックに向け開発が加速

2015年4月27日開催

ノキアの考える5Gのタイムライン。業界のコンセンサスとしてこのようなスケジュールで実現していくと考えられているという。商用化のターゲットは2020年の東京オリンピックだ

 通信キャリアなどに対して通信インフラストラクチャを提供するノキアソリューションズ&ネットワークスは4月27日、東京 六本木の同社オフィスで記者説明会を開催し、2020年に向けて規格策定、技術開発などが進められている5G(第5世代移動通信システム)に関する説明会を開催した。

 現在のスマートフォンやWi-Fiルーターなどに利用されているのは4G(第4世代移動通信システム)と呼ばれる方式で、近い将来に最大1Gbps(1秒間に1G(ギガ)ビットのデータ通信が可能な通信速度、1Gビット=128Mバイト、高解像度のデジカメの画像10~50枚ほどを1秒間で転送できる計算になる)を実現する予定だが、5Gではその10倍となる10Gbps(1秒間に10Gビット、10Gビット=1.28Gバイト、高解像度のデジカメの画像100~500枚を1秒間で転送できる)の通信速度を実現する予定だ。

ノキアソリューションズ&ネットワークス テクノロジー・ディレクター 赤田正雄氏

 ノキアソリューションズ&ネットワークス テクノロジー・ディレクター 赤田正雄氏は「5Gでは従来のスマートフォンやタブレットだけでなく、IoT(Internet of Things)や自動車といった機器も携帯電話通信で接続されるという前提で設計が進む見通しで、現在よりも低遅延を目指す」と述べ、5Gでは単に通信速度を上げるだけでなく低遅延の通信方式を採用することで、今後増え続けるであろうIoTや自動車に搭載される車車間、路車間通信モジュールや、自動運転などに活用されることになるだろうという見通しを明らかにした。

 また、「高速通信実現のために、ミリ波のような高帯域と既存のセンチメーター波の両方の帯域を活用していくことになる」とも述べ、既存の4G通信などで使われている極超短波(UHF、300MHz~3GHz)やセンチメーター波(マイクロ波とも呼ばれる、3GHz~30GHz)だけでなく、ミリ波と呼ばれる30~300GHzという超高帯域での通信にも対応することが重要になると説明し、ミリ波を利用した通信のデモを公開した。

4Gの発展型となる5G、高信頼性/低遅延で自動運転実現のインフラに

 携帯電話には、その通信の世代により分類することが多く、1G(ワンジー)、2G(ツージー)、3G(スリージー)、4G(フォージー)と言った名称で各世代を示している。1Gとは1st Generationの略称で、日本語にすれば第1世代となる。つまり、1G=第1世代、2G=第2世代……ということを示していると思ってよい。

 1987年に最初の携帯電話サービスが開始された時には、アナログの通信方式が採用されており、通信業界ではこれを1Gと呼んでいる。その後、1993年に日本のNTTドコモがPDCと呼ばれるデジタル方式の携帯電話通信を導入したのを皮切りに、アナログからデジタルへと通信方式が変わったときを2Gと呼んでいる。さらに2001年により高速なデータ通信ができるように導入されたのが3Gで、それをさらに高速化したのが4Gとなる。

 もともと4Gというのは、通信速度最大1Gbpsを実現する方式と定義(より厳密にいうならLTE-AdvancedとWiMAX2のこと)されていたが、米国などを中心に、マーケティングの観点から3Gの発展系であるHSPA+やLTEなど3.xGと呼ぶべき方式も4Gと呼ぶことが一般的になっている。日本ではすでにLTE-Advanced、WiMAX2+(WiMAX2の上位規格)のサービスも開始されており、本格的な4G時代へと突入しつつある。

 今回の説明会で説明された5Gは、その4Gの後継となる移動通信システムで、4Gが最大1Gbpsをターゲットにしているのに対して、最大10Gbpsと10倍高速なデータ通信を実現する仕組みとなる。ノキアソリューションズ&ネットワークスの赤田氏は「5Gでは主に3つのターゲットがある。それがスループットの向上、接続される端末数やそれに伴うコストや消費電力の削減、さらには低遅延で高い信頼性を実現することだ」と述べ、5Gでは通信速度が大きく向上するだけでなく、今後増え続けるインターネットに接続することができる機器や、デジタル化された自動車などのニーズに応えることができる通信網になると説明した。

携帯電話の通信方式の進化の歴史。アナログの1G、デジタルになった2G、データ通信が高速になった3G、4Gと進化してきた
5Gが目指す2020年代のユーザー体験を示すスライド。自動運転も5Gでの重要なアプリケーションの1つ
5Gで要求される条件、高スループット、増え行くIoTへの対応、低遅延・信頼性の確保
ユースケース毎に異なる必要となる要素
4Gとの比較を示すチャート

 これまでインターネットに接続できる機器といえば、一般的にはPCやスマートフォンなどのコンピューティング機能を持つデバイスだった。しかし、今後2020年に向けては、従来はインターネットに接続する機能を持たなかった機器、例えばカメラ、時計、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電、自動車などがインターネットに接続する機能を持ち、それにより新しい使い方をユーザーに提供すると考えられている。例えばある半導体メーカーでは、2020年にそうしたインターネットに接続される機器が500億台になると予想しており、それらがインターネットにつながると考えるとネットワークへ負荷が大きく増大することになるため、5Gにそうした機器向けの接続性が用意されることは喫緊の課題といってよいのだ。

 赤田氏は「今後ネットワークへの性能要求はユースケースで変わってくる。例えばモバイルゲーミングなら低遅延が重要になるし、自動車なら信頼性やE2E(デバイス間通信)などが大事になる」と述べ、アプリケーション(ユーザーの利用例)により異なる要求に応える柔軟性を持つネットワーク構築が重要だと説明した。その上で自動運転車の例を挙げ、「自動運転車であれば、基地局と自動車が通信するだけでなく、自動車同士が通信する仕組みを用意したり、高信頼性、低遅延の仕組みを用意し信頼性はシックス・シグマ以上にする必要がある」と述べ、自動車同士が通信したり(V2V)、自動車とクラウドサーバーが通信したり(V2I)といった、インフラとして5Gが使われるようになるだろうと説明した。

 また、自動運転を実現する前段階として、5Gの通信を経由してドライバーがリアルタイムで事故情報を受け取って危険を回避したり、高速化された通信速度を利用して地図情報や娯楽情報などをリアルタイムに受け取ったりといったユースケースも考えられると説明した。

自動運転で必要となる要素
コネクテッドカー(ネットワークに常時接続された自動車のこと)でのユースケース

ミリ波を利用した通信と、既存の帯域とを併せて活用することで高速なデータ通信が可能に

全世界的に見て空きをたくさん確保できる周波数はもはやミリ波しかないという現状

 また、赤田氏は、5Gで通信速度を上げられる理由として、既存の4Gなどで使われている極超短波(UHF、300MHz~3GHz)やセンチメーター波(マイクロ波とも呼ばれる、3GHz~30GHz)だけでなく、ミリ波と呼ばれる30~300GHzという超高周波数帯域での通信にも対応することが大事だとした。「5Gでは、センチメーター波などに加えてミリ波に対応する。これは世界的に見て空いている周波数帯域がミリ波の帯域ぐらいしかないからで、その帯域で通信キャリアに対して1GHzなどの大きな帯域を割り当てることで高速な通信を可能にする」と述べ、ミリ波での高速通信を実現することが5Gでは鍵になると指摘した。

 一般的に無線というのは、周波数が高くなればなるほど直進性が高まり、電波の減衰も起こりやすくなる。このため、使えれば高速にデータ通信が可能になるのだが、使い勝手はあまりよくないため、現在の携帯電話網は1GHz前後~3GHz程度の周波数を利用して通信している。しかし、こうした帯域の周波数は使い勝手がよいため、すでに携帯電話だけでなく、他の電波(例えばテレビ放送など)に割り当てられており、ほぼ空きがない現状だ。

 例えば、日本のLTEやWiMAX2+などには20MHzといった非常に狭い幅の帯域が割り当てられており、それで110Mbps、150Mbpsといった通信速度が実現されている。1Gbps(=約1000Mbps)の通信速度を実現しようと考えれば、7~8倍の帯域を割り当てる必要があるので、7倍だとすれば140Mzの帯域を携帯電話事業者に対して割り当てる必要があるが、現状の電波の空き具合から考えて、テレビ放送でも終了しない限りはほぼ不可能だ(つまり実際には不可能だということだ)。このため、注目されているのが「グローバルでほとんど割り当てがされていない」(赤田氏)というミリ波の周波数で、ここなら1GHz(=1000MHz)などの広い帯域を通信キャリアに割り当てることも不可能ではない。これを従来の極超短波、センチメーター波と併せて使うことで、高速な通信を実現しようというのが5Gなのだ。

 しかしすでに述べた通り、ミリ波は直進性が高かったり電波の減衰も起こりやすかったりと使いにくいため、ミリ波の基地局で周囲をカバーして、極超短波、センチメーター波の基地局でもう少し大きいエリアをサポートするなど組み合わせて利用することが検討されているという。赤田氏はそうしたミリ波帯の通信では、セルと呼ばれる1つの基地局がカバーするエリアを小さくしたり、通信方式もダイナミックTDDと呼ばれる上りと下りの通信速度を動的に変える方式などを採用したりするなどして実現する必要があると説明した。それらの工夫により、「ニューヨークで行われたブルックリン5Gサミットでは10Gbpsの無線伝送のデモに成功している」と述べ、すでに同社がミリ波を利用した5G通信の研究成果で10Gbpsの無線伝送に成功していることなどをアピールした。

5Gではミリ波への対応が重要になるが、ミリ波通信だけではない
6GHz以下と、6GHz以上の通信をそれぞれ包含して5Gとなる
ニューヨークで行われたブルックリン5Gサミットではミリ波を利用した10Gbpsの通信がデモされた

 赤田氏によれば、今後のスケジュールとしては、2つのマイルストーンに向けて開発が進んでいく可能性が高いとした。1つは2018年に計画されている韓国での冬季オリンピックで予想される技術デモで、もう1つが2020年の東京オリンピックで予想されるサービスインに向けて業界が動いていくのではないかと赤田氏は指摘し、「その2つに向けて日本と韓国を中心に5Gの開発が進んでいくと予想している」と述べ、日本では第5世代モバイル推進フォーラム(http://5gmf.jp/)という業界団体を中心にして議論が進むことになることなどを説明した。

ミリ波での通信のシミュレーション。ミリ波を利用した場合に、人間や木なども通信障害の原因となることが分かるという

(笠原一輝)