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「フォーミュラ E」のレースカーが東京 六本木の公道でデモ走行

「今国会でモータースポーツ推進法案を通したい」と自民党 モータースポーツ振興議員 会長の古屋氏

2015年8月23日開催

封鎖された六本木のけやき通りを疾走するフォーミュラ Eカー

 電気自動車(EV)のフォーミュラカーを使ったFIA(国際自動車連盟)の世界シリーズ「FIAフォーミュラ E選手権」。この電動フォーミュラカーが8月23日、東京 六本木のけやき通りを一部封鎖して公道を疾走した。ナンバープレートを付けない競技車両のフォーミュラ Eカーが公道を走るのは日本初。ハンドルはレーシングドライバーの山本左近氏が握り、沿道に詰めかけたファンの声援に応えていた。

 フォーミュラ Eは2014年9月から開催されていて、2シーズン目となる2015-2016シーズンは10月17日の中国 北京を皮切りに全11戦が行われる。レースはすべて大都市の市街地内を通行止めにしたコースで実施。走行時の爆音と排ガスがないため、市街地での開催がしやすい。走行時はほぼ無音のため、会場ではDJブースを設け音楽が流され、野外ライブのような雰囲気となる。SNSを使ったファン投票で人気を集めたドライバー上位3名が、一時的に急加速ができる「Fan Boost」と呼ばれるインタラクティブな仕掛けもあり、ファンが一体となって楽しめる工夫がされている。

 今回走行したマシン「SRT_01E」は最高出力200kW、最高速225km/hを誇り、0-100km/h加速は3秒。メンテナンスはルノー、シャーシはダラーラ、モーターはマクラーレン、バッテリーはウィリアムズが担当している。タイヤはミシュランの全天候タイプを履いていた。ホイールはO.Z.レーシング。

 なお、前シーズンはワンメイクレースとしてスタートしたフォーミュラ Eだが、今シーズンからはパワートレーンを独自に開発することが可能となり、技術競争が始まる。

今回走行したフォーミュラ Eで使われるマシン「SRT_01E」
デモ走行前にフォーミュラ Eホールディングス CEO アレハンドロ・アガク氏、自民党 モータースポーツ振興議員連盟 会長 古屋圭司氏、チームアグリ プレジデント 鈴木亜久里氏から簡単な挨拶があった

 公道でのデモンストレーション走行は、ゆっくりとした速度での走行だったが、ときおり加速時に「ギュルルル」という音がして強く加速する。その加速性能の片鱗を垣間見ることができ、間近で見るとかなりの迫力が感じられた。もちろん、エンジンのような爆音や排ガスの臭いはない。

レーシングドライバーの山本左近氏が登場。ファンの声援に応える
山本左近氏がマシンに乗り込む
乗車前にスタッフとしばし談笑
六本木けやき通りでの公道デモンストレーション走行開始。沿道にはファンがひしめきあう
走行時にはエンジン音はない
フォーミュラ Eカー走行時のアップ。タイヤ同士の接触を防ぐ工夫がされている
ときおり沿道のファンに手を振って応えてくれている
リアには、テールランプを装備。当然エキゾーストはない
音が小さく速度を抑えているとはいえ、間近で見ると迫力満点
走行中の山本左近氏
デモ走行後の記念撮影
フォーミュラ Eホールディングス CEO アレハンドロ・アガク氏

 公道デモンストレーション走行の後、報道陣向けに説明会が開催された。

 フォーミュラ Eホールディングス CEO アレハンドロ・アガク氏は、「フォーミュラ Eは、マシンもないゼロからのスタートから、昨年はじめてのシーズンを迎えることができました。電気自動車にはまだ多くの課題があります。特にバッテリーの問題は進化させていかなくてはなりません。テクノロジーを進化させるのにベストなのは、競争させるということです。これは過去のクルマの歴史を見ても明らかです。現在多くの企業に参加していただいていますが、日本の企業にもたくさん参加をしていただきたいと思います。今日のデモ走行では、沿道で若者やお子様がたくさん見てくれていたのを嬉しく思いました。フォーミュラ Eには“FanBoost”という新しい取り組みがあります。この“FanBoost”はファンが投票してレースの結果に反映されます。投票で子供たちもレースに参加できるユニークな仕組みです。“FanBoost”でフォーミュラ Eに親しんだ若者が大人になって、購入する車は電気自動車になるでしょう」と、挨拶とともにフォーミュラ Eの概要を説明した。

自民党 モータースポーツ振興議員連盟 会長 古屋圭司氏

 また、自民党 モータースポーツ振興議員連盟 会長 古屋圭司氏は、「国内でのモータースポーツというと、古くからアウトロー的なイメージがあります。自動車産業は世界一だが、モータースポーツ文化や産業はトップではない。これまでモータースポーツを推進する力が不足していたのではないかと思います。モータースポーツを推進する立法(モータースポーツ推進法案。自動車モータースポーツの振興に関する法律案)には、10年前から手をつけています。法律の第1条では、モータースポーツを振興することで関連産業の育成、技術の推進、観光資源を開発、青少年の健全育成、クルマの正しい安全知識を広めていこうという目標を掲げています。モータースポーツの盛んな国イギリスでは、暴走族がほとんどいない。モータースポーツがきちんと文化として定着しているからです。残念ながら事故で亡くなられてしまいました加藤大治郎選手が2輪の世界選手権で総合優勝したとき、海外では大きく報道されましたが、日本ではほとんど記事が出ませんでした。私が文部科学大臣にかけあって、文部科学大臣顕彰(スポーツ功労賞)の受賞をしたとき、お父様はようやく国内でも認められたと泣いていました。もっとモータースポーツ文化を振興させることを考えなくてはなりません。大都市でたくさんのクルマで公道を使ってレースをすることはなかなかハードルが高い。現在、法律においては全党の了解を得つつあり、近いうちに国会に提出されます。そして、9月27日までの今国会でなんとか法案を通したいと考えています。法律ができたらまず関係者を集め、協議会を作ります。この公道レース実現に向け、安全対策を含め協議していきます。桝添知事との会談でも、とても前向きなお話をしていただいています。ほかに横浜や沖縄でも、公道レースを希望する声を聞いています。世界的に見て、公道レースは騒音の問題から少なくなっているのは否めませんが、フォーミュラ Eは騒音がありません。その面からもハードルはすごく低くなります」と、モータースポーツ振興と立法面からフォーミュラ Eの国内誘致に向けた動きを語っている。

 さらにフォーミュラ Eに参戦中のチームアグリ プレジデント 鈴木亜久里氏と、チームを経営するチームアグリ チームプリンシパル マーク・プレストン氏も登場し、チームがフォーミュラ E第4戦ブエノスアイレスで初優勝したことを報告。今シーズンの抱負について、鈴木亜久里氏は「1年目は手探りでしたが、2年目はもっと質の高いフォーミュラ Eのレースができると思います。応援よろしくお願いします」と述べた。

 今回運転をしたレーシングドライバー山本左近氏は、その感想などを「とても楽しみにしていたイベントで、とても楽しみながら運転できました。六本木けやき坂の両サイドに大勢の観客の皆様が集まってくれて、1人ひとりと目が合うくらいの距離でクルマを走らせることができたというのも、フォーミュラ Eならではだと思います。フォーミュラ E第10戦~11戦のロンドンでは、公園の外周路にコンクリートブロックとフェンスを立ててサーキットにしていました。テムズ川の近くで街の中心地です。フォーミュラ Eはすぐ近くで見ることができるのが魅力です。今までだとうるさくて耳を塞がなくてはならなかったのが、友人と会話しながら観戦できるというのも、モータースポーツの新しい楽しみ方だと思います。ドライバーにとっても、エネルギーマネージメントという決められたエネルギーをいかに効率よく使っていくかという技術が求められます。ブレーキングでエネルギーを回生でき、次の加速につなげられるというのもポイントです。これまでのモータースポーツとは異なる技術が必要になります。フォーミュラ Eを通じてイノベーションを起こしていくことで、日本でモータースポーツが発展していくのではないかと思っています」とコメントしている。

チームアグリ プレジデント 鈴木亜久里氏
チームアグリ チームプリンシパル マーク・プレストン氏
レーシングドライバー山本左近氏
フォーミュラ E関係者で肩を組んで写真撮影

 なお、2シーズン目となる2015-2016年の開催予定は以下となる。現時点では開催地や日時で未定の部分がある。もちろんチームアグリも参戦予定となっている。

 全戦市街地コースで行われるフォーミュラ Eのシーズンカレンダーに、近い将来日本の名前が載る可能性を十分に感じとることができる、今回の六本木での公道デモ走行だった。日本での開催を心待ちにしておきたい。

第1戦:2015年10月17日 中国(北京)
第2戦:2015年11月7日 マレーシア(プトラジャヤ)
第3戦:2015年12月19日 ウルグアイ(プンタ・デル・エステ)
第4戦:2016年2月6日 アルゼンチン(ブエノスアイレス)
第5戦:2016年3月19日 未定
第6戦:2016年4月2日 アメリカ(ロングビーチ)
第7戦:2016年4月23日 フランス(パリ)
第8戦:2016年5月21日 ドイツ(ベルリン)
第9戦:2016年6月4日 ロシア(モスクワ)
第10戦:2016年未定 イギリス(ロンドン)
第11戦:2016年未定 イギリス(ロンドン)

【お詫びと訂正】記事初出時、表記に誤りがありました。お詫びして訂正させていただきます。

(村上俊一)