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【インタビュー】SUPER GTタイヤメーカーインタビュー 2015(ブリヂストン編)

SUPER GTのGT500クラスで現在ポイントランキングトップの12号車 カルソニック IMPUL GT-R(安田裕信/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ組)。ブリヂストンタイヤを装着する

 日本最高峰のモータースポーツシリーズとなるSUPER GTは、GT500にはレクサス(トヨタ自動車)、日産自動車、本田技研工業の日本の三大メーカーが参戦し、GT300にもBMW、メルセデス・ベンツ、アウディなどの欧州車メーカーやスバル(富士重工業)、トヨタ、日産、ホンダなどがセミワークス体制で参戦するなど、車種やメーカーのバラエティに富んだシリーズとして人気を集めている。そして、SUPER GTを特徴付けているもう1つが、タイヤ戦争の存在だ。現在は世界中のモータースポーツではコスト削減の大義名分の下、タイヤはワンメイクというシリーズがほとんどだ。しかし、SUPER GTはその例外で、トップカテゴリーとなるGT500には4つのメーカーが参入し、激しくしのぎを削るレースとなっている。

 そうしたSUPER GTに、全日本GT選手権と呼ばれていた時代から参戦し、常にGT500でトップ争いをする車両をタイヤで支えているのが、ブリヂストンだ。ブリヂストンは世界最大のタイヤメーカーで、仏ミシュラン、米グッドイヤーとともに世界的なタイヤメーカーとして知られている。ブリヂストンのモータースポーツの歴史は古く、例えばトップフォーミュラとなるスーパーフォーミュラには、その前身となるフォーミュラ・ニッポン、全日本F3000選手権、全日本F2選手権などを含め古くから継続して参戦しており、日本のトップドライバーであれば1度は履くタイヤと言ってもよい。一般のファンには、1997年から2010年まで参戦していたF1への挑戦がよく知られているだろう。

 そのブリヂストンが現在主戦場としているのが、日本のSUPER GTだ。日本のトップカテゴリーは、フォーミュラカーで争うスーパーフォーミュラと、ツーリングカーで争うSUPER GTの2つのシリーズがあるが、その両方にタイヤを供給しているのはブリヂストンだけだ。そのブリヂストンがSUPER GTにタイヤを供給してるのは、言うまでもなく“そこに競争があるから”であり、その中で常に勝つことを義務づけられた“王者”として各メーカーの挑戦を受ける立場だと言える。そうしたブリヂストンのモータースポーツ活動を率いるブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏、ブリヂストン MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏のお2人に、2014年シーズンの振り返り、そして2015年シーズンのSUPER GTの活動について、第2戦富士の開催中にお話を伺ってきた。

SUPER GT、そしてスーパーフォーミュラと、日本の2大レースをサポートするブリヂストン。ブリヂストン グローバルモータースポーツ推進部 ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏(左)、同 MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏(右)

GT500を足下から支えるブリヂストン、15台中10台にタイヤを供給

 ブリヂストンにとって昨シーズンのGT500は、8戦して5勝のまずまずのシーズンだったとも言えるが、最終的にはわずか2点差でチャンピオンを逃す結果になっており、常に“王者”になることを自らに義務づけているブリヂストンにとってはやや不満の残るシーズンだったと言ってよい。特に、最終戦でチャンピオンの可能性を残していた、12号車 カルソニックIMPUL GT-Rと36号車 PETRONAS TOM'S RC Fが同じブリヂストン同士ながらレース序盤に接触する展開になってしまったのは、まさに不運だったとしか言いようがないだろう。両車ともにランキングでは上位に来ていたため、結果としてライバルにチャンピオンを持って行かれる展開になってしまったからだ。

グローバルモータースポーツ推進部 ユニットリーダー 塩谷聡一郎氏

 そうした昨シーズンについて塩谷氏は「GT500に関しては、大きなアクシデントもなく供給することができた。弊社の運営や物流面でも事故なく安定してユーザーチームをサポートできたという意味ではスタッフ達に100点をあげたい。しかし、ブリヂストンとしては常に勝つことを意識しており、チャンピオンを獲ることができなかったという意味では、少し減点して87点としたい」とする。勝負を運不運が左右するのも事実だが、それでも自分達に“常に勝たなければならない”と義務づけるブリヂストンの意識の高さは称賛に値する。しかしながら技術陣にかかるプレッシャーは並大抵のことではないだろう。逆に言えば、それだけの強い意志をもって競争に取り組んでいる。だからこそ見る側はライバルメーカーとの死闘が面白くなるのだ。

 かといってブリヂストンが自社のことばかり考えているのかと言えば、そうではない。例えばGT500への供給枠だが、昨年は3台だったホンダ勢が今年は4台に増え(新規チームである15号車 ドラゴ モデューロ NSX CONCEPT-GTがブリヂストンユーザーに)、レクサスの5台、日産の1台、ホンダの4台と、合計10台に供給している。他のメーカーが、2台ないしは1台に供給しているのと比べると、ブリヂストンがGT500の足下を支えていると言っても過言ではない。しかし、このように多数に供給すると1台に集中することができないため、ブリヂストン勢同士でポイントを食い合ったりすることがある。昨年の最終戦でチャンピオンを争っているブリヂストンユーザー同士が接触して後退するというのがその端的な例だ。それでも、「台数が多いのはメリット、デメリットが両方ある。実際コストもかかるが、それがブリヂストンの責任だと考えている」と、今後も多数への供給を貫くと塩谷氏は説明する。

 一昨年にはフル参戦1年目でチャンピオンを獲得したGT300だが、昨年は1勝のみに留まった。このGT300への評価について塩谷氏は「2013年のチャンピオンに関してはボーナスのようなもの。2014年は苦しい戦績になってしまったが、その中でも経験を積むことができ、開発が進んだ」との自己評価。今年のブリヂストンのGT300は、昨年からの継続になる55号車 ARTA CR-Z GTに加えて、31号車 TOYOTA PRIUS apr GTに新たに供給している。これにより、トヨタ、ホンダの両レーシングハイブリッドがブリヂストンで走ることになる。ブリヂストンとしても市販タイヤではエコタイヤに力を入れており、マーケティング的な観点からも意味があるサポートと言えるだろう。

開幕戦のレースを演出した、ブリヂストン自信作のウェットタイヤ

 ブリヂストンの2015年シーズンだが、開幕戦となった第1戦岡山のレースでは、GT500は37号車 KeePer TOM'S RC Fが優勝したほか、7位までをブリヂストンのタイヤを履いた車両が独占し、GT300は31号車 TOYOTA PRIUS apr GTが優勝で、55号車 ARTA CR-Z GTが2位を得るというこれ以上望みようがないぐらいの結果となった。

MSタイヤ開発部 設計第2ユニット 課長 細谷良弘氏

 この岡山の開幕戦だが、特にGT500に関してはウェットタイヤの選択が明暗を分ける結果になった。レースの前半では日産とホンダが強く、レースの後半になってくるとレクサス勢がどんどん順位を上げてくる、そういうレースになっていた。前半でも、後半でも強かったのはブリヂストンのウェットタイヤを履いたホンダ勢、トヨタ勢だった。実はブリヂストンは昨年からウェットタイヤに関しては強い自信を持っており、昨年のインタビューでも早く実戦で試したいと語っていた。細谷氏は「ここ数年ちゃんとしたウェットのレースがなくて確認することができなかったのだが、開発してきた方向性が間違っていなかったと確認できた」と、そのパフォーマンスを確認できたことに満足しているという。

 見ている側として気になったのは、前半は日産とホンダが、後半はレクサスが速かったのはなぜかという点だ。この点に関しては「実はメーカーによって得ている天気の予想が逆だった。それにより選んだタイヤが別れた結果、前半と後半で速い車両が変わった」(細谷氏)という裏話を明らかにしてくれた。結局のところレースというのは、最後は人が判断して戦略を決める。特に天気のように予報があっても外れることがある情報の場合には、最後は“人間の勘”で勝負せざるを得ない。だからこそ予想外の人が勝ったりするから面白いのだが……。

 開幕戦こそ雨のレースになってしまったが、もちろんドライタイヤの開発にも引き続き力を入れていく。「14年規定のクルマは、13年までの車両に比べてタイヤによるタイムアップが驚くほど大きく、タイムが予想以上に上がった。2014年のテーマとしては、そうした速い14年型車両にいかに安全性を確保したタイヤを供給するかだった。2014年はそれができたので、2015年は15年型車両に合わせたタイヤを作り込んでいった。15年型車両はダウンフォースがやや増えていあた。タイムアップ要素は小さいが、その分グリップは必要になっているので、グリップのより高いタイヤを作れるかどうかが2015年の課題になる」と述べ、すでに安全性などは昨年の段階である程度見えているので、今年はさらに高い領域でのグリップなどを実現していくとした。

 実際、GT500での競争は明らかに激しくなっている。このインタビュー後に行われた第2戦富士の決勝でも、ミシュランを履いた1号車とブリヂストンを履いた12号車という日産同士のマッチレースになっていった。結果は別記事でもお伝えしたとおりで、1号車が12号車をやや引き離してゴールするという展開だったが、はっきり言ってほんのわずかな差だったと言ってよい。実は日産の車両というのは、ワークスカーとなる1号車が装着しているミシュランをベースに開発している。

 これに対してブリヂストンを履く12号車はユーザーチームで、そこにはなにがしかの差があると考えることができる。それだけに、ブリヂストンにとっては12号車がライバルメーカー装着車を倒せば、それだけブリヂストンの優秀さをアピールできるだけに、今後も日産内でもブリヂストン vs. ミシュランは熱い戦いになっていきそうだ。

2014年にCR-Z向けに作ってきたタイヤをベースにプリウスにもスペック違いで供給しているGT300

GT300では、CR-Zとプリウスのハイブリッド車へタイヤを供給している

 開幕戦の岡山では、GT500だけでなくGT300でも上位を独占した。すでに述べたとおり、2015年は31号車、55号車の2台に供給しているので、その2台が1-2を占めたのだから最上の結果と言ってよい。細谷氏によれば「今年31号車に供給しているタイヤは、昨年までCR-Z向けに開発したものがベースとなっている。実際には両車に供給しているタイヤは別スペックになっている」と語る。この開幕戦の1-2という結果は、細谷氏によれば「できすぎ」と、想像以上の結果だったとのことだ。

 なお、塩谷氏によれば、GT300でホンダに加えてトヨタのハイブリッド車もユーザーになったのは「ハイブリッドつながりということもあり、トヨタさんともご一緒したいという話は以前からしていた」とのことで、それが実ってハイブリッド車がブリヂストンということになったのだそうだ。現在ブリヂストンは、GT300ではJAF-GTのハイブリッド車にのみ供給しているが、FIA-GT3勢には興味がないのか聞いてみたところ、「GT500もこれだけの台数に供給し、GT300の方まで手が回らないというのが正直なところ。そうしたことはタイミングで、最近ではGT300も力を入れているメーカーさんもあるので、よいお話があれば検討したい」(塩谷氏)とのことだった。

 最後に今シーズンの目標を聞いたところ、塩谷氏は「GT500もGT300もシリーズチャンピオンを獲る」と豪快に言い切ってくれた。その横で苦笑いする細谷氏に今シーズンの課題を聞いたところ「昨年の最終戦が象徴的だったが、一発のタイムが重要な予選で並ばれてしまったというのが大きな課題。今年は予選順位で前を取っていく。それにより相手に楽をさせないで、抜きつ抜かれつの激しいレースをやっていきたい」とした。第2戦富士の決勝レースでは、その抜きつ抜かれつの激しいレースを12号車と1号車が見せてくれた。果たして、最終戦に笑っているのは赤か青か……。その点にも注目してSUPER GTを見てみるとより楽しめるのではないだろうか。

 第4戦富士終了時のGT500ドライバーおよびチームランキングは、ブリヂストンタイヤを装着する12号車 カルソニック IMPUL GT-Rがトップ、GT300も55号車 ARTA CR-Z GTがドライバーランキングで3位、チームランキングで2位に2位につけている。今週末開催され、全8戦の折り返し1戦目となる鈴鹿は最長の1000kmで争われる。ドライバー、チームが激しく争うSUPER GTだが、タイヤにも注目してレースを観戦していただきたい。

(笠原一輝/Photo:安田 剛)