ニュース

【インタビュー】SUPER GTタイヤメーカーインタビュー 2015(ミシュラン編)

チャンピオンゼッケン「1」を付けて走る、1号車 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ組)。ミシュランは、この4年間で3度GT500のチャンピオンを獲得している

 日本最高峰のモータースポーツシリーズとなるSUPER GTは、GT500にはレクサス(トヨタ自動車)、日産自動車、本田技研工業の日本の三大メーカーが参戦し、GT300にもBMW、メルセデス・ベンツ、アウディなどの欧州車メーカーやスバル(富士重工業)、トヨタ、日産、ホンダなどがセミワークス体制で参戦するなど、車種やメーカーのバラエティに富んだシリーズとして人気を集めている。そして、SUPER GTを特徴付けているもう1つが、タイヤ戦争の存在だ。現在は世界中のモータースポーツではコスト削減の大義名分の下、タイヤはワンメイクというシリーズがほとんどだ。しかし、SUPER GTはその例外で、トップカテゴリーとなるGT500には4つのメーカーが参入し、激しくしのぎを削るレースとなっている。

 そうしたSUPER GTに参戦するタイヤメーカーの中で、海外のタイヤメーカーとして現在唯一参戦しているがミシュランだ。ミシュランはフランスのタイヤメーカーだが、実は世界に3つしかない研究開発部の1つを日本に置くなど日本のマーケットへの造詣は深い。もちろん日本でのモータースポーツ活動の歴史も長く、4輪でのレースは1994年の全日本ツーリングカー選手権を皮切りに、SUPER GTがまだ全日本GT選手権と呼ばれていた時代の当初からGT500にタイヤを供給しており、2011年にはブリヂストン以外のタイヤメーカーとしては初めてGT500でチャンピオン車両に装着されたタイヤとなった。そして、その翌年の2012年、そして2014年も今年の1号車 MOTUL AUTECH GT-R(昨年の23号車)が見事チャンピオンを獲得している。

 ミシュランの日本法人である日本ミシュランタイヤでモータースポーツを統括する日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャ 小田島広明氏に、同社のSUPER GT活動についてお話を伺ってきた。

日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャ 小田島広明氏

競争があるからSUPER GTに参戦するというのがミシュランのフィロソフィー

 フランスのタイヤメーカーであるミシュランは、日本のブリヂストン、米国のグッドイヤーと並び称される世界的な大手タイヤメーカーだ。同社の歴史は空気入りタイヤの歴史と言ってもよく、19世紀の自動車黎明期から一貫して空気入りタイヤを自動車メーカーなどに供給してきた。前述のように日本でのモータースポーツの歴史も長く、SUPER GTのGT500クラスではブリヂストンと激しい戦いを繰り広げている。とくにGT500クラスにおいては、直近4年間で3度チャンピオンに輝くなど、ミシュランとブリヂストンの2強対決は、2006年までのF1でのタイヤ戦争の延長戦といった様相を呈してきている。

 そうしたミシュランのモータースポーツ活動は、実に多岐に渡っている。4輪で言えば、2014年から始まった電気自動車のフォーミュラカーレースであるFormula Eへのタイヤ供給、さらにはトヨタ、アウディ、ポルシェの3メーカーに加え、今年から日産もトップカテゴリーであるLMP1に参戦するWEC(世界耐久選手権)への供給、WRC(世界ラリー選手権)への供給が代表的。来年、2016年からは2輪の最高峰レースであるMoto GPへの供給も決定しており、ミシュランのモータースポーツ活動の幅は広がっていくことになる。

 ミシュランがSUPER GTに参戦するのは「このレベルでタイヤの開発競争をしている選手権は世界中でここしかないから。まさに走る実験室になっており、新しい技術を適正に対比することができる」(小田島氏)とのとおりで、競争があるからこそGT500に参戦しているのだ。実際、このSUPER GTでの競争の激しさは折り紙付きで、小田島氏によればSUPER GTで鍛えられた技術がWECなど、ほかのレースへフィードバックされることも多いという。

2014年の自己評価は120点、日産、ホンダの両陣営で1位になったことを評価

 そうしたミシュランのSUPER GT活動だが、自らには厳しい点をつける小田島氏が昨年のGT500に関しては「120点」というほど、非常によいシーズンだった。ミシュランを装着する日産の23号車がチャンピオン、そしてホンダ勢で唯一ミシュランを装着していた18号車 ウイダー モデューロ NSX CONCEPT-GTがシリーズ4位で、ホンダ勢最上位という結果を残したことがその最大の要因だという。

「昨年に14年規定の車両が登場したとき、ラップタイムが2~3秒上がり、コーナーリングスピードも上がるなどタイヤにかかる負荷は大きくなった。このため、2014年の開発では、まず安全性の確保を最優先して開発し、その上でこれまでミシュランのウィークポイントと言われ続けてきた寒い状況での性能向上を実現すべく開発した」(小田島氏)と、昨年タイヤメーカーの関係者誰もが言い続けてきた安全性をしっかり確保し、その上で弱点を潰していくというミシュランの目標が達成できたのが、その120点という高得点の要因だという。

「タイヤメーカーにとっては、タイヤの性能というのは同じクルマで比較してこそ。昨年は供給した2つの車種の両方で1番を獲得し、かつ3つのメーカーの中で最も強いメーカーだった日産がシリーズチャンピオンを獲得できたので大満足です」(小田島氏)と、ミシュランの考えでもある、同一車両で速いタイヤこそが本当に速いタイヤということを、日産、ホンダの両メーカーの車両で実現できたことを評価している。

 なお、2015年は昨年とは若干体制が変わっている。1つには昨年までは、日産2台、ホンダ1台という3台に供給していたGT500だが、今年はホンダ勢への供給はなく、日産の2台(1号車と46号車 S Road MOLA GT-R)への供給になっている。昨年ミシュランが供給していたのは、ホンダ勢の中でもワークス扱いだった童夢だったが、今年は童夢が撤退して新チームが参戦することになったのだが、そのチームとは契約を結ぶことはなく、日産2台への供給となった。小田島氏によれば「童夢さんの撤退とは別の話としてホンダさんとも継続を望んでいたが、車両メーカー、チームと様々な関係の中で今年はなしということになった」と語ってくれた。また、昨年はGT300の61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTに1チーム供給していたが、今年はGT300への供給はなくなった。

第2戦富士でブリヂストンとのガチンコ勝負で勝利を収める、今シーズンも激しいバトルを展開

 ディフェンディングチャンピオンとして臨んだ開幕戦の岡山のレースだが、結果から言えば46号車が8位。予選4位からスタートした1号車 MOTUL AUTECH GT-Rが、途中トラブルなどもあり16週遅れの13位とあまりふるわない結果に終わった。この結果に関して小田島氏は「予選に関しては、すごく優位性があったかと言えばそうではなかった。決勝はドライになれば結構自信があったのだが、残念ながらウェットコンディションになり、目まぐるしく変わるコンディションの中で、チームがどのタイヤを選んだかに左右されるレースとなった。そうした中で、1号車、46号車はノーマルウェットを選択したのだが、それが序盤には功を奏して1号車がトップに、46号車も順位を上げた。しかし、その後は1号車がトラブルで後退し、46号車の方は序盤にタイヤを酷使したことが大きく響いて順位を下げる結果となった」と説明する。

 岡山の開幕戦は雨中での決勝レースになったが、序盤に雨が上がっていく傾向のときに最速だったのは1号車とホンダ勢で、逆に雨量が増えていったときには、優勝した37号車が最速という展開だった。要するに雨量が増えたり減ったりするので、雨が少なくなってきた時に何とか耐え、後半に雨量が増えてきたときにはドンピシャにはまった37号車が優勝したというレースだった。そうした中で、1号車にトラブルという不運もあって、ミシュラン勢は結果を残すことができないというレースになってしまった。

 このインタビュー(第2戦富士戦の予選前に行われた)後の、第2戦富士の予選、決勝では、開幕戦の暗雲を見事に払いのけることができたレースになった。予選でポールを獲得した1号車は、決勝のスタートを決め、2位になった同じGT-Rながらブリヂストンを履く12号車 カルソニック IMPUL GT-Rとのマッチレースを展開していく。第1スティント、第2スティントともに1秒程度の差の中で激しいレースを展開し、ピットイン時に順位を入れ替えては、再び1号車が前に出るというレースを展開し、最終スティントで1号車が12号車を引き離して優勝したのだ。これは小田島氏の言うところの、同じクルマ、同じコンディションにおいて、両タイヤメーカーがガチンコで勝負した結果とも言え、そうした中でブリヂストンを履く12号車を振り切って1号車が優勝したことはミシュランにとって大きな意味がある。

 最後に、今シーズンの目標について小田島氏は「タイヤメーカーとしての勝利を実現するためにGT-R勢の中でのトップを獲る。それでGT-Rがほかの2メーカーよりもよい車両であれば、自動的にチャンピオンが獲れるだろう」とのとおり、昨年同様、同車両のほかのタイヤメーカー(日産車でほかのタイヤメーカーとはブリヂストンと横浜ゴムになる)を上まわる、それが目標だという。「昨年は新しいレギュレーションに対して、各社どれだけ歩み寄るかの戦いだった。その中で開発の速さが結果に大きく影響したと考えている。しかし、このレベルの選手権では1年経つと理解度はどのメーカーも同じになるので、決して今年が楽な戦いになるとは思っていない」と自らを戒める。果たして今シーズンの終わりに、昨年同様の120点をつけられるのか、それとも、他メーカーの巻き返しはあるのか、そのあたりも今シーズンのSUPER GTの焦点の1つだと言ってよいのではないだろうか。

 GT500は、第1戦岡山がブリヂストン、第2戦富士と第3戦タイがミシュラン、第4戦富士が横浜ゴムと、勝者がめまぐるしく変わっている。今週末にはシリーズ最長の1000kmで争われる第5戦鈴鹿が開催される。勝者が分散したためポイント的にはシリーズ2位となっているミシュランだが、差はわずか。1号車 MOTUL AUTECH GT-R、46号車 S Road MOLA GT-Rに注目するとともに、「ミシュランSUPER GTフォトコンテスト」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20150819_716771.html)も開催されるため、カメラを持って鈴鹿に出かける場合は、ぜひ応募してみてほしい。

(笠原一輝/Photo:安田 剛)