ニュース

VIA Technologies、JapanTaxiとタクシー用車載システムを共同開発

タクシー配車アプリ「全国タクシー」と連携

2016年3月14日 開催

 台湾のITメーカーVIA Technologies(ヴィアテクノロジーズ、以下VIA)は、東京都内で記者会見を開催し、同社とJapanTaxiが共同で開発したタクシー向けのスマートIoTモビリティシステムを発表した。

 JapanTaxiは東京都内で4000台のタクシーを運行しているタクシー会社である日本交通のIT子会社で、日本交通向けの車載システムの開発や”全国タクシー"というスマートフォン向けタクシー配車アプリを提供し、タクシーをスマートフォンだけで呼べるサービスを提供している。

 今回VIAとJapanTaxiが発表したのは、その車載側に相当するシステムで、JapanTaxiがAIOSと呼んでいる車載コンピュータを、VIAが提供する組み込み向けシステムをベースに開発したものとなる。

スマートカーの時代、PCや組み込み向けで積み上げた経験を自動車メーカーに提供

 VIA Technologies 国際マーケティング担当副社長 リチャード・ブラウン氏はVIAの紹介と戦略の概要を説明した。VIAは1992年に米国カリフォルニアで半導体メーカーとして設立された企業で、現在は本社を台湾の台北に置いている企業だ。

VIA Technologies 国際マーケティング担当副社長 リチャード・ブラウン氏

 VIAは1990年代に、PC用CPU(中央演算装置)向けの周辺チップとなるチップセットを開発してシェアを獲得して成長した。1990年代の終わりから2000年代の初めに、PC向けのプロセッサの開発を行なっていたCyrix(サイリックス)、Centaur Technology(センターテクノロジー)を相次いで買収し、PC向けのプロセッサを設計、製造/販売する企業になった。その後、組み込み向けと呼ばれる産業用途のソリューションを提供する企業となり、現在に至っている。なお、VIAのCEOであるウェン・シー・チャン氏は、世界的なスマートフォンメーカーとして知られるHTCのCEOであるシェール・ワン氏と夫婦で、VIAとHTCは1つの企業グループとして運営されていることもよく知られている事実だ。

 ブラウン氏は「以前はPCが人々の生活の中心にあった。それが今はスマートフォンになっている。そしてこれからはIoTが、そして自動車が重要な市場になっていくと考えている。その中でどのようなビジネスモデルを構築するかが重要になるが、ユーザーのニーズも所有から共有へと変化しつつあり、それに自動車メーカーも対応していく必要があり、ハードウェアを作るということから、テクノロジーをどのように統合していくかが重要になっている」と述べ、自動車の開発も以前とは違って複雑になり、ITを利用したソフトウェア開発の重要性が増していると指摘した。

 その上で、そうした時代のVIAの強みとして「VIAでは自社で設計しているSoCだけでなく、パートナーのシリコンも含めて長期的に供給できるプラットフォームとして提供していく。実際、今回JapanTaxi様との協業でも自社のSoCではなくNXPのSoCを採用している。大事なことは、そのプラットフォームの上でソフトウェアがシームレスに動作すること。VIAは組み込み向けのLinuxやAndroidで長い経験を持っており、それらを併せて提供していく」と述べ、VIAが持つSoCだけでなく、他社のSoCを含めてその時点で最適な半導体を利用したプラットフォームを構築し、そこにソフトウェアを併せて提供できることがVIAの強みだとした。

VIAの強みはPCや組み込み向けで培った開発力

 実際、VIAはPC向けのプロセッサを積極的に展開していた時期にも、その後産業用のPCなどで事実上の標準として使われるようになったMini-ITXと呼ばれる規格を提唱して他社に先駆けて導入するなど、基板設計に関しても定評がある。それとLinuxやAndroidといった最近の組み込み向けのソリューションで一般的な基本OSとを組み合わせて提供していくのが同社の戦略ということになる。

様々なハードウェアソリューションをメニューとして用意している
VIAとパートナーで協力して製品開発を進める方式

 ブラウン氏は「現在スマートカーはトレンドの1つになっており、シリコンバレーでも自動車産業へと移るエンジニアが増えている。実際ベンチャーでEVを製造するという企業はでてきているが、グローバルなスケールでのビジネスとなると疑問符をつけざるを得ないところが多い。日本にはそうしたグローバルなスケールでビジネスができる自動車メーカーが多く、そうしたメーカーへ弊社のノウハウを提案していきたい」と述べ、VIAの持つ豊富な組み込み向けのソリューションを日本の自動車メーカーや部品メーカーなどに積極的に提案していきたいとした。

ブラウン氏のプレゼンテーション資料

NXPのSoCを搭載した車載コンピュータAMOS-825を採用

 続いて登壇したのは、同社の日本法人となるVIA Technologies Japan プロダクトマネージャー コーディ・世羅氏。世羅氏は今回同社がJapanTaxiと共同開発したタクシー車載システムに採用されているコンピュータユニットについて説明した。

VIA Technologies Japan株式会社 プロダクトマネージャー コーディ・世羅氏

 世羅氏によれば、今回のシステムのコントロールユニットには、AMOS-825(アモスハチニーゴ)と呼ばれる製品が採用されているという。このAMOS-825はVIAの型番がついている標準品で、それを元にJapanTaxi向けのカスタマイズが行なわれていったという。世羅氏は「今回のシステムは開発から量産まで6カ月という非常に短期で実現する必要があった。当初は10型のタブレットを利用するという案もあったが設置場所が難しいということになり、AMOS-825と7型のタッチパネルをベースに開発を進めた」と選ばれた理由を説明した。

開発時に課題になったこと

 VIAのAMOS-825は、SoCのNXP(実際にはNXPと合併した旧Freescale)のi.MX6 Quad/1GHzが採用されているという。i.MX6 Quadは、CPUとしてARM Cortex-A9(クアッドコア)とGPUとしてVivante GC2000(3x2D/3Dグラフィックスユニット、OpenGL ES 2.0、OpenCL、OpenVG 1.1対応)というスペックになっており、車載向けの強力なARMベースのSoCとなっている。これにより、0度〜60度という稼働温度範囲、CAN-BUS対応、イグニッションに連動したブートなどの車載向けの機能を搭載した車載コンピュータとなっている。

AMOS-825というVIAの標準品をベースに開発が行なわれた

 世羅氏によれば「今回はタクシー用のシステムということで、タクシーサイン、メーター、プリンター、決済機などをすべて1つのシステムに接続する必要があった。このため、豊富なI/Oを持つシステムということが決めてとなった。また、電源管理も苦労した部分で、アイドリングストップの間もシステムが動き続けるように、アクセサリがOFFになってからも一定時間はシャットダウンしないような仕組みなども必要になったし、OSのカスタマイズでロゴを入れるなど様々な要求にお応えした」と述べた。

タクシーの車載システムとしてクラウドやユーザーのスマホアプリと連携するシステムを構築

 JapanTaxi プロダクトマネージャ 山本智也氏は、JapanTaxiの概要と今回のシステムを開発した経緯を説明した。

JapanTaxi株式会社 プロダクトマネージャ 山本智也氏

 山本氏は「JapanTaxiはこれまで日本交通のIT子会社として活動してきた。これまで無風だった日本のタクシー業界もUberの国内参入やライドシェアなどの取り組みが始まり、それがタクシー業界を侵食するのではないかという危機感が広がっている。これまでは、日本交通の業務システムを構築してきたが、数年前からIT化に力を入れており、『全国タクシー』というどこでもタクシーを呼べるアプリを提供して好評を博している。今回のVIAとの協業は、タクシー側での車載システムで、クラウドを介してコンシューマ向けアプリケーションと接続することで業務効率の改善や安全性の向上を目指している」と述べ、VIAとの協業の狙いを語っている。

JapanTaxiは全国タクシーというタクシー配車アプリを提供している

 山本氏が示したスライドでは、コンシューマ向けのアプリとなる"全国タクシー"からのリクエストが、クラウドサーバーを介して車載システムに伝えられる。リクエストをドライバーが受けると即座にカーナビゲーション上に目的地が入力され、効率よくドライバーを目的までガイドすることができるというシステムが紹介された。

 山本氏によれば「従来こうした車載システムは、メーターはメーターメーカーから、ナビはナビメーカーからとそれぞれ別のハードウェアメーカーから購入しており、タクシー1台で80万円近くに達していた。それを内製しようとなったのは、1つには日本交通のタクシーだけで4000台あり、損益分岐の基準となる3500台を超えていて自社だけでペイするということが見えていたから」とのことで、導入後開発費は別にしてハードウェアだけのコストで考えれば3分の1〜4分の1ほどに減らすことができたという。

 なお、山本氏によれば、このシステムは日本交通だけでなく、日本の他のタクシー会社に対しても外販しており、新しいビジネスとしても有望になりつつあるということだった。

従来のタクシーではこれだけのシステムがそれぞれ別に提供されていた

 山本氏によれば、AMOS-825を利用して構築されているシステムは、同社ではAIOS(All In One System)と呼ばれており、そこにタッチ液晶、メーター、プリンター、電子マネーやクレジットカードの決済機、ODB IIなどが接続されており、車速などの運航情報、売り上げ情報、車内映像、音声などが、Wi-Fi経由で接続されるWi-Fiルーターのセルラー回線を経由してクラウドサーバーにアップロードされていくのだという。

「こうして集めた情報は非常に有益で、将来的にはそれをデータとして外部に販売することもできると思っているし、国土交通省などに提出して安全性の向上に活用するなど様々な可能性が考えられる」(山本氏)と、将来的には集めたデータをビッグデータ的に活用していることも検討しているとした。

ユーザーの手元にはスマホ上で動くタクシー配車アプリが、タクシーにはAIOSの名前を持つ車載端末が搭載され、クラウドサーバーを経由して両者がつながる形
同社システムのアーキテクチャ

 山本氏によれば今回のシステムを検討する以前に、民生用として販売されているタブレットを利用してテスト導入もしてみたのだという。だが「真夏に温度が高すぎてシャットダウンしてしまうなどの稼働温度の点で問題があったり、民生用のタブレットだとドライバーにも設定をいじれるようになってしまうので、業務用のシステムでYouTubeを見るドライバーがでてきてパケット代が大変なことになったりという課題があった。また、安全性の観点からシステムにバッテリーを搭載したくなかったので、ACCをOFFにしてからも数分は起動しているように調整してもらったりしている」とした。

 なお、実際に導入してみると、これまでは機器毎に異なる乗務員研修が必要だったが、システムを一元化できたことで乗務員フレンドリーになり、そこを短縮できたりというメリットもあったとのことだった。

JapanTaxiのAIOS。タクシー業務のすべてが1つのユニットをベースに実現されている
乗務員向けに操作しやすいUIなどを開発して実装している
ベースはAndroidだが、乗務員からは設定が呼び出せないようになっているなど、組み込み向けのカスタマイズが行なわれている
VIAの小型マザーボード(picoITX)となるVAB-820
今回のシステムのベースとなっているAMOS-825
似た筐体だが、こちらはx86(PCで使われているCPUアーキテクチャ)ベースのAMOS-300S
産業用ゲートウェイとなるARTiGO-A820
スマートHMIタッチパネルの開発キット
山本氏のプレゼンテーション資料

(笠原一輝)