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岡本幸一郎のアウディドライビングエクスペリエンス「Circuit trial」に参加してみた

「TTS」に乗って富士スピードウェイでタイムトライアルに挑戦!

初開催の「Circuit trialコース」に参加

 メーカーやインポーターが自社車両のオーナー向けに実施しているドライビングスクールにもいろいろある。本国ドイツで30年以上の歴史を持つ「アウディドライビングエクスペリエンス」は、日本でも2001年にスタート。アウディ AGの厳しいアセスメントをクリアした公認インストラクターが直接指導してくれて、初めてモータースポーツに参加する人でも安心して楽しめる、クルマを操る技術を磨くプログラムだ。

 その「アウディドライビングエクスペリエンス」の中にもいくつかの種類があり、さまざまな危険な状況を体験し、その対処法を学ぶ「Active safetyコース」や、理論と限界時のコントロール、サーキットの走り方などを学ぶ「Training sessionコース」が用意されている。さらに、R8およびRSモデルでスポーツドライビングの基礎を学ぶ「Audi Sportコース」も企画中という。

 そして今回、初めて「Circuit trialコース」が開催される運びとなり、筆者も体験取材することとなった。同コースは基礎トレーニングプログラムである「Training sessionコース」を修了した人が参加できる、タイムトライアル形式の競技会である。もっと速いスピードで思い切り走りたいという参加者の声に応えるべく、存分に楽しめるプログラムを、と精鋭インストラクター陣が実に1年をかけて考えたものだ。

 会場は富士スピードウェイのレーシングコース。参加料はランチ、富士スピードウェイ共済会費、表彰パーティなどすべて含め8万円となり、定員は30名だ。この日は23名の参加者が全国から集まり、FISCOライセンス所有者も3名いたものの、富士は初めてという人が大半だった。今回は現役レーシングドライバーである井尻薫氏、今村大輔氏、金子陽一氏らがインストラクターを務めた。

「Circuit trialコース」のインストラクター陣。写真左から井尻薫氏、今村大輔氏、筆者、金子陽一氏。みな懇切丁寧にドライビングについて教えてくれる現役レーシングドライバーだ

 この日の天候はあいにくの雨。ただし、アウディではこうした天気を「クワトロ日和」と呼ぶそうだ(笑)。まずは車両の準備から。自身の愛車にゼッケンを貼ったり、走行前のチェックを行なったりする。周囲を見ると、参加者の車両は「A4 アバント」から「R8」までさまざま。S系やRS系の比率も高い。筆者は今回「TTS」を拝借した。

 2015年夏に登場した3代目「TT」の高性能版となるTTSは、標準モデルでは230PSのところ、286PSまで引き上げられた2.0リッターのTFSIエンジンを搭載。駆動方式は標準モデルでは2WD(FF)も選べるのに対し、TTSは4WDのみの設定で、0-100km加速は4.7秒という俊足ぶり。

 水平基調でエッジを効かせたTTのスポーティなフォルムが、TTSではさらにシングルフレームグリルやエアロパーツ、ホイールなどが専用デザインとされている。また、TTよりも車高が10mm低められているほか、ダンパーの減衰力をアクティブに制御する「マグネティックライド」を標準で装備しているのも特徴だ。

プログラムには「TT」の高性能版「TTS」で参加。ボディサイズは4190×1830×1370mm(全長×全幅×全高)。パワートレーンは直列4気筒DOHC 2.0リッター直噴ターボエンジンに6速DCT(6速Sトロニック)を組み合わせ、4輪を駆動。最高出力は210kW(286PS)/5300-6200rpm、最大トルクは380Nm(38.8kgm)/1800-5200rpmを発生

走り方についてのポイントまとめ

 まずはインストラクターによる座学が行なわれ、タイムトライアルへの基礎的なことから富士スピードウェイの走り方のアドバイス、フラッグの説明などがあった。

座学のもよう

 ユニークなのは、富士の象徴である1.3kmのホームストレートを使わないこと。計測はホームストレート上のフラッグタワーよりもずっと1コーナー寄りの地点からスタートし、最終コーナーを立ち上がってすぐにゴールとなる。さらには1コーナーとコカコーラコーナー(Aコーナー)の間にシケインを設定している。こうすることで参加者の走行経験や車両による有利不利をできるだけなくするとともに、スピードが上がりすぎて危険な目に遭わないようにしているのだという。

 走り方については、以下のようなアドバイスをいただいた。

①先導走行では状況をよく確認しつつ、冷静に落ち着いて、ベストな走り方のイメージを描いておき、本番ではそのイメージのとおりに走れるように心がけるとよい。

②タイムトライアルはレースでいうと予選のようなものだが、ウォームアップがなく、タイヤを温める時間がないので、とても滑りやすい状態にあるため、やや抑えてスローインファーストを心がけ、コースアウトしないよう走ることを念頭に置いたほうがよい。

③この日の雨の状況からすると、4回の走行ともグリップが違うはずだから、状況に合わせてどのように走るべきかを判断するのも大事。無理をするのはもちろんよろしくないが、余裕を持ちすぎるとタイムが出ないので、そのあたりの見極めも肝要である。

④タイムトライアルというと、ブレーキで頑張る人が多い傾向にあり、練習走行では大丈夫でも、本番で頑張りすぎてミスするのはよくあること。ブレーキで突っ込みすぎると立ち上がりで早く踏めなくなるし、ブレーキで詰めるのはリスクも大きい。立ち上がりでコースアウトしそうになっても、アクセルを戻せばいいだけなので、ブレーキよりも立ち上がりを重視したほうが賢明である。

⑤走り終わったあとに、臭いや異音、メーターに警告の表示がないかなどもチェックしたほうがよい。

 やはり百戦錬磨のインストラクターの話は参考になる点多し。レースでの体験談を交えながら分かりやすく解説してくれた。これを聞けることも同コースに参加する大きな価値の1つだ。

雨&濃霧で走行するには?

 そしていよいよ走行開始。午前中にインストラクターの先導による慣熟走行を2回行なう。そして午後にはまずプラクティス(練習走行)を実施してから、タイムトライアルを2回行なう。

 先導走行はいくつかのグループに分かれ、3~4台が連なって走る。そこそこ走り慣れた人にとってはプロのライン取りを盗むチャンスだし、ビギナーにとっては走り方の基本を学べるよい機会となる。

 そしてランチの時間。このときインストラクターが各テーブルについてくれて、一緒に食事を採りながら直接話を聞くことができるのもうれしい。そんなわきあいあいとした雰囲気も、「アウディドライビングエクスペリエンス」ならではである。

金子陽一インストラクターに取材。当日のようなウェットコンディションでタイムを出す走らせ方を聞いた

 そこで金子陽一インストラクターに、当日のようなウェットコンディションを走る場合、ESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール:横滑り防止装置)をスポーツにすべきか、OFFにすべきか迷ったので、ESCをどのようにしたほうがよいのかを質問してみた。なお、TTSの場合、ESCはデフォルトの「ON」のほか、1回押すと「スタビライザーコントロール(ESCスポーツ)警告! 安定性が低下しています」という表示が出る。長押しすると「ESC OFF」となる。この3通りが選べる。

 金子氏によると、むろんESC ONで走るのがもっとも安全であることには違いないが、タイムトライアルのように速さを追求する場合は、「安全に走ることを大前提として、OFFにしたほうが速いことには違いありません。ESCの制御が入るとブレーキだけでなくエンジンの出力も落ちて前に進んでいかなくなり、そのぶん損することになります。ON(スポーツを含む)で走るなら、出力制御が入った場合はハンドルを切らないといけない状況でも、わざといったん戻して挙動を安定させることによって制御が入らなくなるので、それもON(スポーツを含む)で走る上での1つのテクニックです。今回は何度か走れるので、走行中にいろいろ試してみるといいでしょう。走行中にスイッチを押せるぐらいの余裕を持って走れたほうがいいですね」と、大変参考になるアドバイスをいただいた。

当日は雨が降り、霧も厳しいコンディションのなか行なわれた

 そして午後。雨足は相変わらず強く、霧も出てきたのだがひるまず行こう。練習走行1回目は、ESC OFFで走行。すると1コーナーの立ち上がりでいきなり大カウンター状態。100Rでは速度を上げるとリアがムズムズしてちょっと怖い。さらに最終コーナー立ち上がりでも再び大カウンター状態に。いくら“クワトロ”を誇るアウディといえども、タイヤが冷えていてはこうなるのも無理はない。

 本来、練習走行は1回だけだったところ、進行がスムーズだったのでもう1回走れることに。そこで今度はESC スポーツを試してみることにした。するとけっこうスムーズに走れて、2番手に約5秒の差をつけてトップタイムをマークすることができた。タイムを見ると、ヘビーウェットだとなおのことだろうが、件のコース設定も功を奏して、たしかに車種による有利や不利があまり見受けられない印象だった。

 筆者は富士スピードウェイをこれまで何度も走っているものの、さすがにこれほど大雨の中で走ったことはあまりない。高速コースゆえ何かあると大変なことになるので、3回目の走行で心がけたのは、とにかく無理をしないこと。あえてあまりメリハリをつけないよう運転した。高速コーナーでは、Gが残ったまま攻めて振り出されることのないよう、できるだけフラットライドを心がけた。

 TTSについては、これまで一般道で試乗したことがあり、従来よりもスポーツカーとしての資質が高まったことを感じていたが、ウェットながらこうして富士スピードウェイを走って、そのスポーツカーぶりをよりつぶさに実感することができたように思う。パンチの効いた痛快な吹け上がりを示すエンジンは、「S」への期待に大いに応えるもの。ショートホイールベースと軽量な車体による軽快で一体感のあるハンドリングは、ウェット路面でも変わらずよく舵が利き、操る楽しさを味わわせてくれる。従来モデルよりもアンダーステアが軽減されているようだし、FR車のようにコントローラブルゆえリアがブレイクしてもアクセルワークで立て直しやすい。

 その後は雨は強く、霧も濃くなってきたのだが、いよいよタイムトライアル本番。入魂の1周で、ブッチギリのタイムを出すべく、1コーナー目指して全開で加速!

 ところが、だいぶ霧が濃くなって、練習走行では見えていたはずの1コーナーが直前まで行かないと見えなくなっていて、そろそろブレーキかなと思った矢先に、ブレーキングポイントの目安である「100m」の看板が視野の左上を通り過ぎたのを感じた。ヤバイ! と思ったときにはときすでに遅し。あえなく1コーナーをオーバーランしてしまった……。4輪ともコース外に脱輪すると、失格=ノータイムである。

 しょうがない。気を取り直して、2回目は少し抑え気味に走ってとりあえずちゃんと結果を残そう、と思っていたところ、なんと濃霧により走行不能に。というわけで結果はノータイム。本番に弱いことを露呈してしまったわけだが、こうなることも想定に入れて、1回目にとりあえずタイムを残す走りをしておくべきだった。まあ、そうした諸々のことを学ぶことができたのも今回の収穫、ということにしておこう……。

4輪ともコース外に脱輪してあえなく失格となった筆者。お恥ずかしい限りです……

 参加者の中にはTTが大好きで、学生のときからコツコツお金を貯めて22歳で手に入れた人もいたし、四国から遠路はるばるこのために駆け付けた人もいた。という感じで、走って、学んで、話して、有意義な1日を過ごすことができた次第。あいにくの雨と霧に翻弄されたわけだが、こんな天候だからこそ得るものもあったともいえる。とくに筆者にとっては(苦笑)。

 なお、この「Circuit trialコース」、2016年は7月7日(木)と11月24日(木)の開催が予定されている。そのほかのいろいろなプログラムも各種設定されているので、詳しくはWebサイトなどで確認してほしい。

最後に「Circuit trialコース」への参加証明書をいただいた。もし次回挑戦する機会があればぜひリベンジしたい

(岡本幸一郎/Photo:中野英幸)