NEXCO東日本、清掃時間を短縮する「キャビテーション トンネル清掃車」を展示
キャビテーション技術で水量5分の1、50km/h走行での清掃を可能に

キャビテーション トンネル清掃車

2009年6月3日開催
「EE東北'09」
会場:夢メッセみやぎ



 NEXCO東日本(東日本高速道路)東北支社は6月3日、宮城県仙台市にあるコンベンションセンター「夢メッセみやぎ」で開催された建設技術展「EE東北'09」(EEはEngineering Exhibitionの略)にて、キャビテーション技術を利用してトンネル内の清掃時間を最大約95%短縮する「キャビテーション トンネル清掃車(以降、キャビテーション清掃車)」を展示した。

 キャビテーション清掃車は今年4月から実践導入され、すでに2カ月ほど運用されている新型作業車。キャビテーション噴流を用いた清掃技術の解説と、ハンディタイプの噴射ノズルを用いたデモンストレーション、およびキャビテーション清掃車の展示をリポートする。

会場となった「夢メッセみやぎ」は、広い敷地面積で東北地方最大を誇る6月3日、4日に開催されたEE東北'09の入口。屋内と屋外において、さまざまな建設技術が展示された屋外展示場の一角に設置されたNEXCO東日本ブース。デモンストレーションは2009年6月3日に3回行われた

高い衝撃力を生み出すキャビテーション技術とは?
 キャビテーションとは、液体(水)を減圧することで発生する発泡現象のこと。炭酸飲料の栓を開けたとき泡立つのは、栓を開けたことで瓶内部の圧力が低下し、液体の蒸気圧を下回ったことによる。この発生した気泡(水蒸気)が消滅する際に衝撃力が生まれる。船舶のスクリューなどでは、スクリューが回ることで圧力差が生まれてキャビテーションが発生し、騒音や破損の原因となっている。キャビテーション清掃車では高圧の水流を噴射ノズルから噴出させ、効率よくキャビテーション現象を発生させ、消滅時に発生する衝撃力を利用して清掃を行っている。

今回展示されたキャビテーション清掃車。車両総重量1万9940kg、最高出力265kW(360PS)キャビテーション噴流を出して照明灯具を清掃する噴出ノズル。アンテナのようなものは、障害物センサー。距離センサーは右側に設置されている特殊な内部構造により、キャビテーション噴流を発生させる噴出ノズル

 会場では、キャビテーション清掃車の洗浄力を間近で確認できるように、ハンディタイプの噴射ノズルを使ったデモンストレーションが行われた。コンクリートや金属に缶スプレーで塗布したアクリル塗料を汚れに見立てて清掃するのだが、塗料が瞬く間に洗浄されていく。


キャビテーション清掃でコンクリート上の塗料が洗浄される様子

 その後、キャビテーション清掃車のエンジンを始動し、水圧が高まると実演がスタート。すごい音とともに勢いよく噴射ノズルから水蒸気が噴出される。洗車場にあるような高圧洗浄機とは違い、水が出ているという感じではない。超強力なスチーム洗浄機といった印象だ。デモンストレーターは雨具を着ていたが、靴以外にほとんど水がかかっていなかったのが印象的だ。なお、本記事の最後に実際にトンネル内を清掃するキャビテーション清掃車の映像を掲載しておくので、あわせてご覧いただきたい。

今回話をうかがった東日本高速道路株式会社東北支社管理事業部施設課課長の丸茂等氏。デモンストレーションの解説も担当していた実演を行ったキャビテーション清掃車。噴出ノズルは左右に動かすことができる

 キャビテーション清掃車は効率よくキャビテーションを発生させるため、80度の温水を噴出するようになっている。実演開始直後、水温が低いうちはあまり洗浄効果がないように見受けられたが、水温が80度に近づくにつれ驚くほどの洗浄力を発揮していた。

 80度の水温とキャビテーションの泡で、水が蒸散して水しぶきがほとんど出ないのが特長。実際の運用においても、作業中に後方を一般車両が走行しても汚れや水が飛び散ることは少ないと言う。従来の清掃は、洗剤や大量の水を必要としていたが、キャビテーション清掃車は少量の水で済むため、地球環境にも優しい技術といえる。

コントロール部や高圧ポンプなど、詳細な内部を公開
 キャビン内でオペレーションするためのコントロール部も取材させていただいた。まず目を引くのが、運転席と助手席との間に設置されたコントロール装置だ。オペレーターは助手席に座り、カメラの映像を見ながらコントロールパネルを操作する。眼前のモニターには噴射ノズルを支えるアームの様子が映し出され、照明との距離や位置をスティックで調整するが、基本的な位置合わせは自動的に行われ、手動のオペレーションは微調整のみ。

 このキャビテーション清掃車にはGPS連動自動制御装置が搭載されている。トンネルごとの照明位置のデータがあらかじめ入力されていて、GPSと連動させることによって車両がトンネルに近づくと自動的に噴射ノズルが最適な位置にセットされる仕組みだ。車両の速度を50km/hに正確にあわせることで、照明に対する噴射ノズルの距離や位置などが自動調整される。また、噴射ノズル部には距離センサーも付いていて、照明を痛めないように、最適な位置をキープしている。そのためオペレーターは、わずかな誤差を修正する程度だと言う。

 今までのブラシを使った洗浄では、照明とブラシの距離や位置の調整をすべて人が行っていた。そのため1~2km/hの速度でしか作業できず、長時間の車線規制が必要だった。キャビテーション清掃車なら50km/hで走行しながらの作業が可能なので、規制の必要がなく高効率。延べ160時間ほどかかっていた作業時間が、6時間にまで短縮されたと言う。

コントロール装置やモニターが設置されているコクピット内。オペレーターは助手席から操作するコントロール装置の画面はタッチパネル式。左手前(助手席側)にあるスティックを操作することでアームの微調整が可能運転席側、助手席側でそれぞれモニターを確認しながら作業を進める
キャビン上部に設置されたカメラ(撮影時点ではカバーで覆われている)とライト。このカメラからの映像をモニターで確認するモニターに映し出されたアームを見ながら、照明と噴射ノズルの位置、距離を最適に調整するアームの伸縮および上下を調整するスティック。ノズル角度などはあらかじめ設定されて自動で調整される
アーム操作のオペレーション画面GPSの画面。あらかじめ各トンネルの照明灯具の情報が入力されている

 続いて見せていただいたのは、心臓部ともいうべきキャビテーション発生装置。車体中央にあるのが、高圧ポンプとそれを動かすディーゼルエンジン。このディーゼルエンジンの出力は143kW(190PS)で、その動力を元に高圧ポンプで洗浄水を約480気圧に加圧する。

 高圧となった洗浄水は噴射ノズル手前で加熱装置(ヒーター)によって80度の水温まで加熱され、特殊な内部構造の噴射ノズルに送られる。噴射ノズル直前まで加熱しないのは、水温が上がるとキャビテーションが発生しやすくなるため、装置内部でキャビテーションを発生させないためだ。

 1つの噴射ノズルは、毎分12.3Lの噴射能力を持ち、6つのノズルから合計毎分74L弱の洗浄水を吹き出して洗浄を行っている。これは、サビ落としなどに使われる一般的な業務用高圧洗浄機の1/5~1/6程度だと言う。また、圧力に関しても業務用高圧洗浄機は2000気圧ほどだが、キャビテーション清掃車は約480気圧で同等の洗浄効果を発揮するとのこと。

高圧ポンプを作動させるディーゼルエンジン。手前にあるのが3基の高圧ポンプ49Mpa(メガパスカル)の性能を持つ高圧ポンプが3基設置されるシルバーの四角い箱が貯水タンク。3t(3000L)積載可能。1tで10kmの清掃が可能
3基の加熱装置で、高圧の水を一瞬のうちに80℃に加熱する各種圧力計が並ぶ縦に6つ並んでいるのが洗浄水が噴出するノズル。キャビテーション現象はこの特殊なノズルで発生させる

さまざまなオプションや展開に期待
 キャビテーション清掃車は、照明灯具の清掃だけでなくレーンマーク(路面の白線)の清掃にも対応している。車体両脇にも照明清掃同様の6本の噴射ノズルを備え、通常走行時には格納してあるレーンマーク清掃用のノズルが張り出し、走行しながら下方へキャビテーション噴流を吹き出しレーンマークの汚れを取り除いていく。

 キャビテーション清掃車に搭載されている高圧ポンプなどキャビテーション発生装置の能力では、一度に6本のノズルからしか洗浄水の噴出ができないため、残念ながら照明灯具清掃と同時にレーンマーク清掃をすることはできない。しかし、いずれの場合でも50km/hで走行しながらの高速清掃作業が可能なため、従来よりも作業効率は向上している。

車体脇に格納されたレーンマーク清掃用の噴射ノズル清掃作業時は横に40cm、下に30cm張り出し、レーンマークの真上にセットされるレーンマーク清掃確認用のカメラとライト。この映像を見ながら走行を調整する

 このキャビテーション清掃車の導入で、トンネル内の照明清掃にかかる車線規制時間が約20%短縮され、高速道路の利便性向上に役立っていると言う。導入コストは1台1億円程度とのことだが、清掃時間や規制時間の短縮によりトータル的にはコストダウンが図れる。とはいえ、NEXCO東日本管内のトンネルは上下線別で120本あり、総延長は約11kmにも達する。トンネルの照明清掃は通常年1回程度とのことなので、キャビテーション清掃車のように効率よく作業を進めればあっという間に終了してしまう。そこで、レーンマーク清掃のようにキャビテーション清掃を照明灯具以外の用途に使うことにより、多様な作業を可能とし、さらなるコストダウンを計れるよう研究・開発が進められている。このキャビテーション技術は、さまざまな分野への応用が期待できそうだ。


前方からのキャビテーション清掃車作業映像(提供:NEXCO東日本 東北支社)


後方からのキャビテーション清掃車作業映像(提供:NEXCO東日本 東北支社)

 

(政木 桂)
2009年 6月 5日