ケンウッドの2DIN一体型ナビ「HDV-909DT」を徹底チェック<前編>
コダワリのAV機能を検証する

ケンウッドHDV-909DT

オープンプライス



 システムコンポやポータブルオーディオプレーヤーなど、音質を重視したオーディオ商品でコダワリ派に人気のケンウッド。そんな同社が手がけたカーナビが「AV Master HDV-909DT」だ。このモデルは「HDD[Sma:t]Navi」シリーズとして“誰でもカンタンに操作できる”を基本コンセプトに、充実したAV機能と高音質再生を目指しているのが特長。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は18万円前後。

 今回のレビューでは本機について2回に分けて紹介する。1回目となる今回はオーディオ機能について見ていくことにしよう。

すべての機能を2DINサイズに凝縮した一体型カーナビ
 HDV-909DTは、カーナビの主流となっている2DIN一体型タイプ。ハード面の基本的なスペックはタッチパネル対応の7.0V型のワイドモニター(480×234ピクセル)、40GBのHDD、AM/FM&フルセグ地デジチューナー搭載と、このタイプのモデルとしては標準的といえる内容。とはいえ、もともとこのクラスのカーナビはハード面での差別化が難しく、メニューを工夫することで「使いやすさ」を向上させたり、通信機能を使った渋滞予測などの「プローブ」を追加したりと、独自機能によりオリジナリティを出している。そんな中で本機が目指したのがAV機能の強化だ。

汎用性の高さが魅力のUSB端子を採用
 充実したAV機能の中でもとくに注目したいのが、先代モデル「HDV-790DT」から搭載されたUSB端子を利用したデータ再生/転送機能だ。今回、音楽ファイルだけでなく新たに動画や画像ファイルにも対応したことで、より使い勝手が高められている。対応フォーマットは音楽がMP3/WMA/AAC、動画がMPEG-1/MPEG-2/DivX、画像はJPEG/BMP/PNG/GIFの各形式。よって、音楽や動画ファイルの場合は、パソコン上で事前に変換しておくことが必要だ。残念ながら非圧縮(WAV)や可逆圧縮フォーマットには対応していない。高音質を謳うのであれば、せめてWAVフォーマットぐらいは対応して欲しいところだ。

 USB端子採用のメリットは、まず第1に高速転送が可能なこと。HDV-909DTは音楽CDを再生して直接内蔵HDDに録音することもできるが、これだと転送速度は約3倍~4倍速。60分のアルバムだと15分以上は掛かる計算だが、USB経由ならわずかに約1分ほどで済むと言う。実際に3フォルダー、54ファイル(291MB)を転送してみたところ所要時間は3分9秒。タイトル数でいえばアルバム約4枚分相当で、この速度は十分に速いと言える。もちろん、すでに圧縮データになっているせいでもあるが、パソコンに取り込んだデータを持っているなら断然このほうが便利だ。

 次にメディアを選ばないのも大きな利点だ。最近ではSDカードに対応したカーナビが多いが、これだと汎用性は高めとはいえSDカードは必須。一方、USB接続ならUSBメモリーをはじめ、カードリーダーを介せば各種メモリーカードが利用できるほか、マスストレージクラス対応のHDDやデジタルオーディオプレーヤーも接続可能とまさに自由自在。カーナビのために新たにデータを作る必要がなく、溜め込んだデータの流用ができるのは、音楽好きのヘビーユーザーほど嬉しいハズだ。

 また、これらのデータは内蔵HDDに転送せず、メモリー上からそのまま再生することも可能だ。動画データは高圧縮がウリのDivXにも対応するとはいえ、1時間クラスの動画となるとファイルサイズも大きく転送には時間が掛かる。それならいちいち転送せずに、バスパワー対応のポータブルHDDなどを利用し、数百GBクラスのデータをそのまま使ったほうがラク。こういった使い方をすれば、DVDビデオのようにいちいちディスクを家からクルマに持ち運んだり、ディスクを入れ替えたりという手間いらずで大量の映像を楽しむことができる。

 内蔵HDDへのデータ転送はUSBだけでなく、CD-R/RWやDVD±R/RWでも可能。音楽・動画・映像ファイルの対応フォーマットはUSB利用時と同じだ。もっとも、わざわざディスクを「焼く」ぐらいなら、USBメモリーなどを使ったほうが手っ取り早い。あくまで、すでにそういったディスクを持っているユーザー向けの機能だろう。

USB端子には写真のようなUSBメモリーだけでなく、カードリーダーやポータブルHDD、デジタルオーディオプレーヤーなども接続可能。マスストレージクラス対応デバイスなら基本的に接続できるUSB端子にメモリーなどを接続、認識すると専用のメニューが表示される。メモリー内のデータをHDDに転送するなら「全転送」または「選択転送」を、そのまま再生するなら「再生」を選べばよいそのまま再生を行う場合は、ファイルを選択する画面に。写真は画像ファイルだが、音楽ファイルでも画面や操作は同様。画面下部のボタンでフォルダーの移動も可能だ
メモリーから直接再生している場合でも、画面上の「転送」ボタンでHDDへの転送が可能。この時も「一括」や「選択転送」を選べる「転送」を選んだ場合はファイルの選択画面に。「選択転送」の場合はフォルダーごと、1ファイルだけなど自由に選択できるUSB2.0による高速転送を実現。テストでは54曲(約291MB)分のデータを3分9秒あまりで転送することができた。パソコン上で変換する時間を考慮しても、十分なスピードだ
転送するファイルは音楽や動画ファイルが混在していても大丈夫。動画ファイルなど容量の大きなモノはHDDに転送せず、このまま再生したほうがラクだろう

楽しみ方が広がるHDD MUSIC
 音楽CDを内蔵HDDに録音するリッピング機能は、先代モデルにはなく新たに追加されたもの。記録フォーマットはMP3形式で標準(128kbps)と高音質(192kbps)が選択可能となっており、約18GB用意されている内蔵HDDのユーザーエリアをすべて使った場合、前者で約4500曲、後者で約3000曲の収録が可能だ。

 録音速度は「標準速」と「高速」の選択が可能。前者が等倍速、後者は3~4倍速程度となるが録音しながら再生を行ういわゆる「追っかけ再生」ができないなど制約が加わる。最近のカーナビでは「追っかけ再生」はもちろん、8~12倍速での高速録音が可能なモデルもあるため、ここは少し残念。ただ、パソコンでリッピングし、USBで転送することをメインと考えれば、それほど不便ではないとも言える。

 音楽CDのリッピング時に、アーティスト名や曲名などを自動的に付加してくれるデータベース機能も搭載。多くのカーナビでは米gracenoteのCDDBを利用しているが、本機は「AMG Lasso」を採用。これはアーティスト名や曲名といった基本的な情報に加え、アルバムジャケットイメージ、影響を受けたアーティスト、似ているアーティストなど豊富な情報を収録、関連付けできるもの。CDDBは有志によってデータが更新されるのに対し、AMG Lassoはデータベースをプロが管理するため、同じ楽曲に対して複数のメタデータが存在するようなことがないのがメリット。一方データの更新の早さでは、CDDBに分がある。

 このAMG Lassoのデータを利用することで、一般的なアルバム、アーティストといった項目だけでなく、独自の情報を利用した検索や再生ができ、気分やシチュエーションに応じた楽しみ方が可能だ。また、アーティストのディスコグラフィーを一覧で表示できるモードも用意されており、未収録となっている空欄部分を埋めていくといった楽しみ方も。このあたりは一般的なカーナビやカーオーディオにはマネのできない本機ならではのモノ。

 USBを利用したデータ転送でも、付属の「ケンウッドミュージックエディターEX(KMEX)」を利用することで、AMG Lassoデータを付加することが可能。これはKMEXでパソコン内のファイルを取得するときに行うため、すでにパソコンに記録されているデータでも新たにリッピングし直す必要はない。ネットに接続されたパソコンで情報を取得、USBメモリーなどにコピーしてカーナビに転送すれば、AMG Lassoデータを反映した曲データを利用できるようになる。なお、KMEXはCDやDVDが付属するのではなく、カーナビ本体に記録されていて、USBメモリーなどで吸い出してパソコンにインストールする。

音楽CDを再生すると「AMG Lasso」データを持っているアルバムならタイトルなどの表示が可能。自動で録音を行う機能は持っていないため、録音時は右端の赤丸「録音ボタン」を押す必要がある録音ボタンを押すと選択画面へ。アルバムを丸ごと録音するなら「全選択」でよい。最後に下段の「標準速録音」と「高速録音」を選択。音質も「標準」と「高音質」を選ぶことができるが、これは設定画面で事前に決めておく必要があるHDDに録音したアルバムデータは、ジャケット写真から再生したいデータを選べる「モーションピクチャー」を採用。右端の▲印で希望のアルバムを選択し、中央に大きく表示されたジャケット写真にタッチすれば再生できる
AMG Lassoデータを利用することでアーティストやアルバム名のほか、様々な情報を利用し録音された曲を選択できる。「検索」ボタンを利用すれば、様々な項目を入力して絞り込むことが可能だ
AMG Lassoデータを持っている曲であれば、通常の再生画面にはタイトルやアーティスト名、アルバムジャケットイメージなどが表示される再生画面左下の「DISCOGRAPHY」ボタンを押すと、そのアーティストのアルバム一覧を表示。HDDに収録されている曲ならアルバムジャケットイメージが表示され、未収録ならアルバムの文字表示だけになる。多くのアルバムを出しているアーティストなら、これを埋めていくのも楽しそうだ再生画面のジャケットイメージを押すと「影響を受けたアーティスト」や「似ているアーティスト」を見ることができる。ランダムにアルバムを入れていたらAとBというアーティストに実は関連があった、なんて発見があるかも
新譜などHDDに未収録のAMG Lassoデータは後から追加することが可能。年4回程度予定されている更新のほか、USBメモリーなどを利用して未対応データのみを更新することもできる。その際は「楽曲DB都度更新」を選びその曲をメモリーに書き出し、付属のパソコン用ソフト「ケンウッドミュージックエディターEX(KMEX)」でデータを更新。それをもう一度カーナビで読み取ることで実現できる
パソコン内にある音楽データをカーナビに転送する際、KMEXを介することでAMG Lassoデータを付加することが可能。まずはアルバムデータをKMEX読み込み、「楽曲情報を取得」を選択すれば自動的に各種データを取得してくれる
アルバムジャケットイメージが用意されていないタイトルの場合、パソコンでイメージを検索してファイルを取得、そのデータをUSBメモリーを介してカーナビに転送することで表示が可能。ただ、事前に同様の作業をKMEX上で行っておけば、ほかの情報と同様に自動で設定される。カーナビでの操作は少々面倒なので、パソコンでの作業がオススメだアルバムジャケットイメージを設定しておけば、再生時にカーナビ画面への割り込み表示も行える

オプションでiPod接続なども可能に
 オプションの専用ケーブル(KNA-i909/6825円)が必要になるもののiPodとの接続にも対応。このケーブルはiPod側に専用コネクター、カーナビとの接続にUSB端子と本体後面の専用音声入力/映像入力端子を利用する。

 音楽はもちろんiPodビデオの映像再生も可能で、地図中に映像をウインドー表示するPinP表示にも対応。再生や選曲など操作はタッチパネルで行える。ケーブル接続時はiPodの充電も可能だ。

 また、オプションのため今回は利用できなかったが、Bluetoothユニット(KCA-BT200/2万1000円、接続ケーブルKNA-BT909/1575円)が用意されており、携帯電話などの対応機器を利用すれば、ワイヤレスで音楽を楽しむこともできる。

iPod/iPhone 3Gの接続はオプションの専用ケーブル(KNA-i909/6825円)を利用。カーナビ本体背面の映像入力、音声入力端子のほかUSB端子を利用するため、iPod利用時はUSB機器の接続ができなくなるiPod操作時のメニュー画面。「ジャンル」「アーティスト」「アルバム」など、iPodと同様のメニュー項目を採用するほか、オーディオブックの再生にも対応している
音楽ファイルと動画ファイルの切り替えもタッチパネルでOKiPodのファイル再生中も表示そのものは他のソース再生時と大きく変わらない。また当然ながらAMG Lassoを利用した機能は利用できない

地デジをはじめとした多彩なビジュアル対応
 地デジチューナーは12セグとワンセグの自動切り替えに対応した「4チューナー&フロント4ダイバシティアンテナ方式」を採用。アンテナは4本ともフロントウインドーに貼り付けるフィルムタイプで、ほぼエレメント部分だけが残るため視界を妨げず受信感度も良好だ。

 電子番組表(EPG)やデータ放送の受信にも対応。チャンネルや番組表の選択、各種設定などもタッチパネル操作でカンタンに行える。地図画面中に子画面表示可能なPinP表示は地デジでももちろんOK。好みに応じて1/2と1/4サイズを選択できるのも便利だ。

 そのほか映像面ではDVDビデオのほか、家庭用DVDレコーダーなどで記録したCPRM対応ディスクにも対応。メニュー選択画面ではカーソルを使ってメニューを選ぶのではなく、直接選びたいメニューに触れることで選択可能だ。また、USBの項目でも触れたとおり、CD-R/RW、DVD±R/RWに記録したMPEG-1/2、DivXファイルの再生にも対応している。

 画像ファイルの表示にも対応。対応フォーマットはJPEG/BMP/PNG/GIFの各形式で、サムネイル表示やスライドショー形式で楽しむことができるほか、アルバムジャケットイメージとして利用することも可能だ。

地デジチューナーはもちろんB-CASカードリーダーも本体に内蔵。余計な機器を取り付ける必要がないのは嬉しい地デジチューナーは4アンテナシステムを採用。すべてフロントガラスに貼り付けるフィルムタイプ。エレメント部分のみが残るタイプのため目立たない
地デジならではのEPG(電子番組表)、データ放送の表示が可能。どちらも便利な機能だが、モニターの解像度が低いため内容が見づらいのが残念
ナビ画面の中に子画面を表示するPinP表示も。1/2サイズと1/4サイズが選べるのも便利
DVDビデオをはじめ、DVDレコーダーでDVD-Rなどに録画した番組、さらにUSBメモリーなどに記録した映像フォーマットデータの再生が可能。各種操作はタッチパネルで行える

音質
 ナビゲーション部とオーディオ部を、完全に分離したセパレートシャシーを採用。さらに地デジチューナーの基板を上下2枚のシールドで完全に覆うなどにより、オーディオ回路へのノイズ干渉を遮断している。また、各コントローラー間で基準電圧を統一することで、安定した信号伝達を実現する新・独立中点回路システムの採用など、回路設計から高音質化を追求している。各回路に使用されているパーツも、AKM製DACをはじめオリジナルコンデンサやオーディオ用オペアンプを採用するなど、コダワリ抜いた仕様となっている。

 DVDビデオなどでお馴染みとなっている5.1chサラウンドには未対応だが、4スピーカーで5.1chシステムに匹敵する臨場感を実現する「SRS CS Automotive」を採用している。実際に聞いてみると、確かに単純な4スピーカーシステムから出る音とは別物。通常、5.1ch化を行うにはセンタースピーカーやサブウーファーの追加が必要となるが、これならほとんどのクルマにポン付けで対応可能なのが嬉しい。

 さらにカンタンに音場設定が可能なSound Management Systemに加え、デジタルタイムアライメントや13バンドのイコライザーなども用意されているため、クルマにあった設定をカンタンに、またマニアックにも追求できる。

4つのスピーカーで5.1chに匹敵する臨場感を実現する「SRS CS Automotive」を搭載。一般的な2chステレオをサラウンドで再生する「SRS Circle Surround II」をはじめ、豊かなサラウンド空間を実現する「SRS WOW HD」は細かな調整を可能とすることで、車種やスピーカー位置にかかわらず高い効果を得ることができる
車両タイプとスピーカーサイズを入力するだけで、カンタンに音場設定が可能な「Sound Management System」を採用。設定内容がグラフィカルに表示されるため、オーディオに詳しくないオーナーでもラクに設定できそうだ
音楽を聞く位置によって最適なセッティングを可能にするポジションコントロール。簡易的なポジション選択のほか、各スピーカーから音が出るタイミングをキメ細かく調整可能なデジタルタイムアライメントも用意
イコライザーは「NATURAL」「ROCK」など5つのプリセットを用意。また、ユーザー設定も可能で、フロント/リアの独立調整や、ソースごとに異なる設定もできる画面を指でなぞるだけで簡単にグラフィックイコライザーのセッティングができるモーションイコライザー
フロント/リア/サブウーファーの3系統で独立した調整が可能なデジタルクロスオーバーを採用。ハイパス、ローパス周波数はもちろん、スロープ設定も可能ソースレベルも独立して設定が可能。BGM的な使い方の圧縮ファイルは低め、迫力あるサウンドを楽しみたいDVDは大きめなど、自在にセッティングできる

ホーム、カーとも異なる独自路線のオーディオ機器
 本機をオーディオ機器として見た場合、家庭用のシステムコンポやカーオーディオとも一線を画す異色の存在といえる。AMG Lassoによる情報を利用した楽しみ方はへビーな音楽好きならずとも、おもしろく新鮮だ。一部にサイズやハードの性能による制約が感じられるのが残念だが、カーAVセンターとしての実力は相当なもの。オーディオ好きにはオススメできるモデルと言える。

 次回は同製品のナビゲーション性能について迫ってみたい。

(安田 剛)
2009年 7月 30日