「チーム・マイナス6% エコドライビングコンテスト」リポート
学生対抗でエコドライブ度を競う

鈴鹿サーキットで開催された第4回全日本学生対抗 チーム・マイナス6% エコドライビングコンテスト

2009年8月31日開催



全国から54チームが参加して開会式が行われた

 8月31日、「第4回全日本学生対抗 チーム・マイナス6% エコドライビングコンテスト」(以下、エコドライビングコンテスト)が鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された。エコドライビングコンテストは、地球温暖化や環境問題に対して積極的に取り組んでいる「全日本学生自動車連盟」が、環境省の「チーム・マイナス6%」と連携し、地球温暖化防止のための“エコドライブ”技術を習得することを目的として開催しているもの。チーム・マイナス6%がCO2削減のため提案している「自動車の使い方で減らそう(エコドライブしよう/ふんわりアクセル“eスタート”)」の普及・啓発を目指している。

 競技に先立ち行われた開会式では、全日本学生自動車連盟会長である長谷川聰哲大会会長が「地球温暖化防止を考え、実践するきっかけとするとともに、各校自動車部員から学内、さらには全国の学生に対する地球温暖化防止運動に拡げていくことを期待する」と宣言した。

 続いて壇上に立った環境省 地球環境局地球温暖化対策課の小森繁氏は、環境省の斉藤鉄夫大臣のコメントとして、「多くの方々にエコドライブの認識を高めていただけると期待しています」と語った。さらに鈴鹿市 環境部の長田孝雄氏は、市議会のため欠席した川岸光男市長のコメントとして、「鈴鹿市が行う環境対策の一例として、クリーンエネルギー車購入の補助金制度を紹介。また、来年も鈴鹿でのF1開催が決まったことが喜ばしいと、鈴鹿市のモータースポーツに対する熱い姿勢を語った。

開会式で挨拶する全日本学生自動車連盟会長 長谷川聰哲氏環境省 地球環境局地球温暖化対策課の小森繁氏鈴鹿市 環境部の長田孝雄氏

 エコドライビングコンテストは昨年までは、「カローラ」「シビック」「フィット」「キャラバン」などの車種を使用して争われていたが、今年の大会では、「プリウス」「インサイト」「ノート」と、日本を代表する燃費性能の優れた車両が競技車両として選ばれ、メーカー各社から協賛、提供されたそれぞれ20台、計60台が使用された。

 競技に加え、大会会場ではエコドライブの講習会や、モータージャーナリスト日下部保雄氏とレーシングドライバー荒聖治氏による「エコドライブトークイベント」も実施された。

車種ごとに異なる競技方法
 競技方法は車種ごとに異なるパートを走行して、タイムと消費燃料量の少なさをポイント制で競う。各競技内容は下記のとおり。

・ハイウェイコース(使用車両:ノート)
 鈴鹿サーキット国際レーシングコースを5周。5周を周回する間に1回ピットインし、自作のコメントを書いたカードで記念撮影する課題が与えられている。レーシングコースは2輪用のコースを使用するので、ヘアピン先のシケイン、最終コーナー手前も2輪用シケインを通過する。これは各コース共通。

・チャレンジングコース(使用車両:プリウス)
 鈴鹿サーキット国際レーシングコースを1周し、2周目のダンロップコーナー先でコースを外れ、観客席の後ろを通る外周路を1コーナー付近まで走り交通教育センターへ。交通教育センター内でS字クランク、スキッドパッド(濡れた滑りやすい路面)、7.5m四方のボックス内で方向転換、バックでの車庫入れといった課題をクリアした後、パドックへ戻る。

・エンジョイSUZUKAコース(使用車両:インサイト)
 鈴鹿サーキット国際レーシングコースを3周し、毎周裏ストレートにある西ピットにピットインしてオフィシャルのチェックを受ける。4周目のダンロップコーナー先でコースを外れ、観客席の後ろを通る外周路を1コーナー付近まで走り交通教育センターへ。交通教育センターを通り抜け(課題なし)パドックへ戻る。

 第1ステージでノートに乗ったチームは第2ステージでインサイト、第3ステージではプリウスと、全チームが3車種を順番に乗り換える。各車種のタイムと燃費で順位付けを行い、以下の表のようなポイントが与えられる。

 燃費タイム
1位200100
2位17090
3位15080
4位12070
5位10060
6位9055
7位8050
8位7045
9位6040
10位5035

※11位以降は1ポイントずつ減少する。

 第1ステージのみメインストレートでル・マン式スタートを3グループに分けて行い、第2ステージ以降はピットレーンからのスタート。今回の参加チームは男子学生の部が34チーム、女子学生の部が6チーム、一般の部が14チームの合計54チームでの争いとなる。3車種の燃費、タイムの計6項目を合計したポイントが成績となり、順位は各部門の中で争われる。

いよいよ競技開始
 12時半、54台の競技車両がメインストレートのピットウォールに並べられル・マン式スタートで競技は開始された。参加者は競技車両に走り寄りエンジンを掛け一斉にスタートを切った。雰囲気は8耐のようだが、耳をつんざくエキゾーストノートはなく、タイヤノイズをかすかに残して各車ゆるゆると1コーナーへ向かった。1分遅れて第2グループ、さらに1分のインターバルをおいて第3グループがスタートして行った。

第1ステージはル・マン式スタートで競技が始められた先を急がず、ゆるゆるとスタート
1分遅れて、第2グループもスタートさらに1分後、第3グループもスタート
S字を走る各車メーカーが用意したのは中部、関西地域の「わ」ナンバーの車両が多かった

 ノートによるハイウェイコースのポイントは、速度と燃費のバランスだ。速く走ればタイムの順位が上がるが、燃費の順位が下がる。タイムの順位より燃費の順位のほうがポイントが高いのでゆっくり走行し、燃費を向上させたほうが高得点につながるが、1周のラップタイムは4分30秒以上6分以内、最高速は110km/hと決められている。

 各車両に搭載されたトランスポンダーによりラップタイム、最高速などが計測され、基準値を外れた場合はペナルティとして獲得ポイントが減算される。さらにタイムに影響するのはピットで行われる記念撮影だ。数台が撮影待ちの周にピットインすると、簡単に分単位のタイムロスとなる。逆に言うとピットインの運不運でタイムの順位は大きく変わってしまう。

ノートはレーシングコースを5周する途中で1回ピットインまず自作のコメントで記念撮影。「恋愛も運転もやさしさから」……Good。残念ながらコメント内容はポイントに関係ない
事務局が用意したホワイトボードでもう1枚記念撮影撮影が終わると急いで乗車ピットアウト
タイミングが悪いとピットの渋滞で大幅にタイムロスするゴールしたら燃費と距離をメーターで確認

 プリウスによるチャレンジングコースは運転テクニックの差が出やすい。交通教育センターで行われる7.5m四方のボックス内での方向転換では、切り返しに手間取り大きくタイムロスするチームもあった。ここでもスキッドパッドへの進入が1台ずつ行われることによる渋滞があり、どの課題からクリアするのかがタイム順位に影響する。

スタンド裏の交通教育センターでS字を抜けるプリウス燃費走行なのでスキッドパッドでスピンする車はいなかった方向転換では大幅にタイムロスするチームも
パドックに戻ってゴール。燃費と距離を確認

 インサイトによるエンジョイSUZUKAコースは、ハイウェイコースとチャレンジングコースの中間的な競技で、レーシングコースの西ピットで毎周オフィシャルのチェックを受けるが、降車する必要もなくタイムロスは比較的小さ目だ。交通教育センターも外周路を通過するだけなので、運不運に左右されることはなさそうだ。

インサイトは毎周西ピットでチェックを受ける。間違ってノートもピットインサーキット3周、教育センターを抜けてパドックに戻りゴール。燃費と距離を確認

 各コースを終えた競技車はピットで燃費、タイム、走行距離などのチェックを終え、一旦ゴールとなる。ピットレーンに車を停止して、次の車両に乗り換える。

パドック内を走り抜ける競技車両続々とピットに戻ってくる競技車
ゴールして係員が燃費と距離をチェックするチェックが終わるとピットレーンへ
ゴールした車両がメーカー別に並べられ、チームは次の車両に乗り込む第2、第3ステージはピットからスタート
ピットからもゆっくりスタートあっと言う間に渋滞

 各コースの成績を見てみよう。ハイウェイコース(ノート)のタイム順位1位は京都産業大学の31分30秒、燃費1位は広島大学の23.5km/Lで、燃費最下位は11.5km/L。チャレンジングコース(プリウス)のタイム順位1位は同志社大学の23分5秒、燃費1位は関西学院大学女子チームの35.1km/L、燃費最下位は16.6km/L、エンジョイSUZUKAコース(インサイト)のタイム順位1位は近畿大学の25分56秒、燃費1位は同志社大学の28.0km/L、燃費最下位は11.8km/Lとなった。

 各コースの順位をポイント換算し、合計した結果で総合順位が決定する。34チームで争われた男子大学生の部は

順位チーム名総合ポイントハイウェイチャレンジングエンジョイSUZUKA
1位同志社大学424タイム13位/燃費11位タイム1位/燃費51位タイム11位/燃費1位
2位慶應義塾大学B345タイム18位/燃費13位タイム4位/燃費7位タイム44位/燃費4位
3位東海大学343タイム29位/燃費3位タイム23位/燃費5位タイム39位/燃費11位

 6チームで争われた女子学生の部は

順位チーム名総合ポイントハイウェイチャレンジングエンジョイSUZUKA
1位関西学院大学女子286タイム48位/燃費28位タイム40位/燃費1位タイム53位/燃費13位

 大学のOBやテレビ番組のチームなど14チームが参加した一般の部は

順位チーム名総合ポイントハイウェイチャレンジングエンジョイSUZUKA
1位エコチュウ by PROTO363タイム44/燃費27位タイム37位/燃費2位タイム47位/燃費3位
2位ルボラン☆エコファスター320タイム11位/燃費34位タイム2位/燃費10位タイム3位/燃費20位
3位チームEDC238タイム8/燃費6位タイム32位/燃費25位タイム37位/燃費13位

 SUPER GTで活躍するKONDO RACINGの荒選手はチームEDCとして参加。結果は一般の部3位となった。荒選手といえば、2004年にチーム郷のアウディ「R8」でル・マン24時間耐久レースに参戦。日本人で2人目となるル・マン24時間レースの総合優勝を果たしている。

 荒選手は表彰式のコメントで、「今日はこんなに本気になって走るとは思っていませんでした。でも走り始めたら本気でやりました。鈴鹿サーキットのここのコーナーはこんなに上ってるんだと新しい発見がありました。このコーナーでこんだけエネルギーを失っているんだとか、レーシングカーのライン取りにもつながった。本気で走ったので3位は正直悔しい。方向転換の課題の場所にチーム監督が見に来ていて、そこでエネルギーを使ったのが敗因」と、会場を笑わせた。

ル・マン優勝経験を持つ荒選手も参加したGTマシンの1/5くらいの速度でS字を走る荒選手スキッドパッドを抜ける荒選手

表彰式にはサプライズゲストが登場
 競技終了後には表彰式・閉会式が行われ、全日本学生自動車連盟 名誉顧問審査委員長の多賀弘明氏は、「数値どおりではない人間味のある結果となった。学生の皆さんには、大会を通じてこれからの自動車の動向も身体で感じていただければと思う」と語った。午前中に行われた開会式には出席できなかった川岸光男鈴鹿市長も会場に駆けつけ、優勝チームに鈴鹿市長杯を贈呈した。

 ここで壇上にサプライズゲストが登場した。荒選手が所属するKONDO RACINGのチーム監督 近藤真彦氏。そうマッチがいつのまにか大会に来ていたのだ。壇上に立った近藤監督は、「皆さん若いので僕のこと知っているか分からないので……」と切り出したが、紹介された瞬間、サプライズゲストの登場に会場がザワザワとなったので、多くの学生は知っているようだった。

 「今日、皆さんの走行を見せていただきました。皆さんの目が輝いていて、こんなに車とエコに興味がある人が沢山いたんだと実感しました。先週もここ鈴鹿でSUPER GTが熱い戦いをしたのですが、あまりニュースで流れない。素晴らしい今日の競技もなかなかニュースにならない。モータースポーツにかかわる者としてこれが悩みどころで、世の中では車離れとか言われていますし、その辺を皆さんも一緒に考えてほしい。ただ1つだけ気がついたことがあります。表彰式を見ていて、皆さん少々暗いんじゃないか(会場爆笑)。1位を取っても喜んでない。飛び上がるほど喜んでほしい。そうすると熱意がもっと外に伝わると思う。環境問題や自動車の素晴らしさ、楽しさがもっと伝わると思う」と自動車に対する熱い思いが感じられるコメントを残した。

全日本学生自動車連盟 名誉顧問審査委員長の多賀弘明氏長谷川会長からトロフィーを受け取る同志社大学の学生女子の部の優勝は関西学院大学女子チーム。今大会最高の35.1km/Lを記録した
鈴鹿市長杯を贈呈し、挨拶に立つ川岸光男鈴鹿市長環境省 地球環境局地球温暖化対策課の杉山徹氏。自らも一般部の部に参加、7位に入ったサプライズゲストとなった近藤真彦監督。自らの言葉で自動車発展への熱い思いを語った
「本気で走って3位は悔しい」と荒選手閉会式で挨拶する全日本学生自動車連盟副会長 鈴木伸一氏

 鈴鹿サーキットはアップダウンのあるコースで、燃費よく走るには難しいコースだ。加えて、方向転換、車庫入れなどの課題もあり、さらにピットタイミングの運不運など単なる燃費走行だけでないゲーム性もある面白い大会となっていた。

 優勝した同志社大学の成績を見ても、エンジョイSUZUKAでは燃費1位だが、チャレンジングでは燃費51位と、燃費走行が容易ではないことが感じられる。単に順位を争うだけでなく、学生同士が感じた燃費走行のノウハウを広く告知し、エコドライブの伝道師として今大会の成果を伝えてほしい。

 さらに、今回はKONDO RACINGの荒選手が参加したが、来年はもっと多くの著名レーサーが参加し、大人気なく勝ちに行くなど、速さだけではないドライビングテクニックを見せ、自動車産業全体の活性化になるような発展を期待したい。

(奥川浩彦)
2009年 9月 7日