フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2009リポート
世界最大の自動車用マイコンベンダーが最新技術を披露

左は自動車用半導体市場のベンダー別シェア、右は自動車用マイコン市場のベンダー別シェア。自動車用マイコンでFreescale Semiconductorは、最大のシェアを誇る

2009年9月9日開催



 マイコン搭載機器というと、電子炊飯器やエアコン、冷蔵庫、テレビ受像機、DVDレコーダーなどのデジタル家電製品を想像する方が少なくないと思う。それでは、1台の機器で最も数多くのマイコンを搭載している機器とは何だろう。

 答えは乗用車である。それも高級乗用車だ。最新の高級乗用車は、100個近いマイコンを搭載していると言われる。100個ものマイコンを搭載する工業製品は、たぶん、ほかにないだろう。

 最も数多くのマイコンを搭載しながらも、自動車がマイコンに要求する環境は家電製品に比べると過酷である。まず、使用温度範囲が広い。通常のデジタル家電がマイコンに要求する使用温度範囲は0℃~70℃である。これに対し、自動車がマイコンに要求する温度範囲は-40℃~+85℃とかなり広い。さらに機械的振動への耐性が必要になる。これもデジタル家電にはない要求である。

 こういった半ば特殊な仕様が要求される自動車用マイコンで、世界最大のシェアを占めるのが、米国のマイコンベンダーFreescale Semiconductorだ。同社の日本法人であるフリースケール・セミコンダクタ・ジャパンが9月9日に東京の目黒雅叙園で開催した顧客向けの講演会兼展示会「フリースケール・テクノロジ・フォーラム・ジャパン2009(FTFJ 2009:Freescale Technology Forum Japan 2009)」によると、自動車用マイコン市場におけるFreescaleのシェアは23.5%である。市場規模は50億ドル(約5000億円)なので、Freescaleは1000億円強を自動車用マイコンで売り上げていることになる。なお自動車用半導体市場でもFreescaleはシェア9.5%でトップを占める。

 自動車用マイコンは現在、ほぼすべてがフラッシュメモリーを内蔵する。いわゆるフラッシュマイコンである。このことはFreescale以外の自動車用マイコンベンダーでも変わらない。自動車用マイコンでシェア2位のルネサス テクノロジ、シェア3位のNECエレクトロニクスでも自動車用マイコンといえば、フラッシュマイコンを意味する。これは自動車電装品ではメモリーの外付けを嫌うことが大きい。メモリーを外付けすると、マイコンとフラッシュメモリーを接続する配線がプリント基板に存在する。この配線がアンテナとなって雑音を拾い、マイコンを誤動作させるおそれがある。フラッシュマイコンであればフラッシュメモリー領域とCPU領域が非常に近接しているので、プリント基板に比べると接続配線はずっと短く、雑音を拾いにくい。

エアバッグ用バスのコンソーシアムを設立
 自動車用マイコンが使われる用途はさまざまだ。パワートレイン(エンジンおよび変速機)制御、シャシー制御(電動パワーステアリング、電動アクティブサスペンション、アンチロックブレーキなど)、ボディー制御(パワーウインドー、電動サンルーフ、キーレスエントリ、パワーシートなど)、エアバッグ制御などにマイコンが使われている。

 なかでも重要なマイコンの1つが、エアバッグ制御用マイコンである。エアバッグは衝突事故発生時に瞬時に膨らむことで、搭乗者に加わる物理的な衝撃を緩和する。一度動作すれば、それで終わり。使いきりのシステムであり、普段は絶対に動作してはならず、衝突事故発生時には確実に動作しなければならない。非常に特殊なシステムといえる。

 エアバッグは衝突を検知するセンサーと制御用マイコン、エアバッグを膨らませる火薬を点火するスイッチ(点火スイッチ)などで構成される。エアバッグが誕生した当初は前面衝突を想定したものだったが、現在では側面衝突に対応したエアバッグも搭載されるようになっている。この結果、搭載するセンサーの数が増え、センサーとマイコンを接続する配線ケーブルの増加が無視できなくなってきた。

 そこでFreescaleは米国の自動車電装品メーカーTRWと共同で、1999年にエアバッグシステム用のバス規格「DSI(Distributed Systems Interface)」を開発し、2001年からDSIバスに向けた半導体製品を提供してきた。DSIは、マイコンを内蔵する電子制御ユニット(ECU)をマスター、衝突センサーをスレーブとするツイストペアの2線式バスである。通信方式は同期式の全二重で、データ転送速度は最大200kbps。原理的には1個のECUに対し、15個までのセンサーを接続できるが、実際には3個~4個のセンサーを接続する。

 FTFJ 2009では、DSIバスの規格策定と普及促進を目的とする業界団体「DSIコンソーシアム」(http://www.dsiconsortium.org/)の設立を報道機関向けに発表した。コンソーシアムの設立企業はFreescaleとTRW、それにデンソーである。

エアバッグシステムの構成乗用車(セダン)における衝突検知センサーやエアバッグなどの実装例「DSIコンソーシアム」の設立発表会。左から、デンソー走行安全技術3部部長の石川幸司氏、フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン車載事業担当ジェネラルマネージャーの林章氏、TRWオートモーディブジャパン代表取締役の四元伸三氏
エアバッグシステム用バス規格「DSI」の物理層DSIバスの通信方式

パワートレイン制御はデュアルコアへ
 自動車で電子制御ユニット(ECU)を最も早く採用したのは、エンジンの燃料噴射制御だとされている。現在も自動車用マイコンで最先端品を使うのが、エンジン用ECUである。FTFJ 2009でFreescaleは、自動車用マイコンの微細化ロードマップを示した。2009年現在の最先端品は、90nmプロセス技術を使った32bitフラッシュマイコンで、フラッシュメモリの書き換え回数は10万回、データ保持期間は20年という高信頼品になっている。

 使われるエンジン制御用マイコンは自動車の種別によって異なる。最も複雑で高性能な32bitマイコンは、ハイブリッド車のパワートレイン制御に使われ、32bitマイコンを複数個搭載する。それからハイエンド品は4気筒~12気筒の内燃噴射機関に使われる。高級乗用車のほか、ディーゼルエンジンのバスやトラックなどがここに含まれる。続くローエンドは、4気筒、1.6リッタークラスのガソリンエンジンが対象である。そしてモーターサイクル(2輪車)には16bitまたは32bitのマイコンが使われる。

 これを具体的な製品像に置き換えると、ハイエンドになるほど動作周波数が高く、内蔵フラッシュメモリーの容量が大きく、内蔵SRAMの容量が大きくなる。最先端では、4MB~6MBのフラッシュメモリーを内蔵したデュアルコアのフラッシュマイコンが提供される。さらに、タイマー処理専用のコプロセッサーを内蔵してエンジンのタイミング制御をまかせることで、メインCPUコアの負担を軽減した。

Freescaleの自動車用マイコン微細化ロードマップパワートレイン用マイコンの用途と種別Freescaleのパワートレイン用マイコン製品ロードマップ
Freescaleのパワートレイン用マイコンの内部構造Freescaleのパワートレイン用最先端マイコン(デュアルコア品)の内部ブロック。タイマー処理専用のコプロセッサー(eTPU)を搭載するタイマー処理専用コプロセッサー(eTPU)の役割。エンジン系の信号(クランク信号、カム信号、燃料噴射信号、点火信号)をすべて、eTPUが処理する

 このほかにもFreescaleは、シャシー制御やボディー制御などに向けた自動車用マイコンを数多く製品化している。こういった多彩な製品展開と積極的な製品開発が、シェアトップの要因なのだろう。

Freescaleの自動車用マイコン製品系列

(福田 昭)
2009年 9月 16日