羽田空港、D滑走路との連絡誘導路橋を公開 新滑走路へ歩いて渡る |
2010年10月の供用開始を目指して工事が進められている東京国際空港(羽田空港)のD滑走路は、先月、新滑走路島と現在の空港部を結ぶ連絡誘導路の一部が開通。これに合わせて、11月10日、国土交通省 関東地方整備局 東京空港整備事務所は報道関係者に現在の工事状況を公開した。
羽田空港の4番目の滑走路となるD滑走路は、現在の空港の東南の海上に、現在のB滑走路とほぼ平行する角度で建設が進められているもの。滑走路長は、B滑走路と同じ2500m。
このD滑走路は大きく4つの区域から成る。海上に浮かぶ滑走路島は、従来的な埋め立て部、ジャケット工法による桟橋部、その両者をつなぎ合わせる接続部の3区域。そして、この新滑走路島と現空港を結ぶ連絡誘導路部で計4区域となる。滑走路島の一部で桟橋構造を採るのは、多摩川の河口域に位置することから、通水性を確保するためだ。ちなみに、連絡誘導路橋も一部で桟橋構造を採っている。連絡誘導路橋の構造については後ほど詳しく紹介する。
連絡誘導路部は、飛行機が実際に通過する2本の連絡誘導路橋と、その南北に空港管理用の場周道路橋を配置。今回開通したのは北側にある場周道路橋で、7月30日に桁架設を完了。公開日までに舗装などの整備を終え、工事用車両の通行に使われることになる。言い換えると、この場周道路橋の開通により現空港部と新滑走路が陸続きになったわけである。
11月10日に行われた報道陣への公開は、「D滑走路へ歩いて渡る」というプランで進められた。羽田空港の整備エリア南端にあるD滑走路展望台からマイクロバスで連絡誘導路工区へ移動。北側場周道路から滑走路島の桟橋部、埋め立て部を徒歩で見学し、船でD滑走路展望台へ戻る、というルートである。
大きく4つの区域に分かれるD滑走路。今回、連絡誘導路橋の一部が開通し、現空港へ車や徒歩で渡れるようになった | 一見ただのプレハブ小屋に見えるD滑走路展望台。一般開放されており、屋上から、建設中のD滑走路を望むことができる |
D滑走路展望台から見た連絡誘導路部 | D滑走路展望台から見た新滑走路島の桟橋部 |
■桟橋と橋梁を組み合わせる連絡誘導路橋
今回の公開におけるメイントピックである連絡誘導路橋は、先述のとおり、2本の連絡誘導路橋と、2本の場周道路橋を配置。水の流れを遮らないよう橋脚にはジャケットを用い、全長620mのうち、空港部に近い360mで桟橋構造、残る260mは小型船舶が往来できるよう橋梁構造を採る。工区は主に、現空港との接続部、桟橋構造部、橋梁構造部の3つに分かれる。
接続部は直杭式桟橋となっている。これは陸地に近いため、ジャケットを据え付けることが難しいためだと言う。そして、地震や振動などで生じる空港部と連絡誘導路部の変位を吸収するために伸縮装置も備えられる。X/Y方向それぞれに60度の変位を吸収可能な伸縮装置を利用しているが、これほどの変位を吸収できる伸縮装置は珍しいとのことだ。
桟橋部と橋梁部の下部はジャケット工法が用いられる。ジャケット工法とは、地中に埋め込んだ杭の上部に、ジャケットと呼ばれる、鋼管による立体トラス構造物のレグを乗せ、杭とレグをグラウトで固定してしまう工法である。下部は直杭式と同じように深く杭を打ち込む一方で、その杭は直杭式に比べ短く上部のレグが複数の杭をまたがるので耐震性が非常に高い工法だと言う。
また、工場で製作したジャケットを現地へ運び、架設することで、現地工事を短縮できる。新滑走路工事においては、この点が非常に重要なことだ。羽田空港という稼働中の空港の近くで工事を行っているからである。
新滑走路の工事においては、制限表面が非常に厳しく定められており、例えば連絡誘導路部の桟橋部工事においても、北側の連絡誘導路や場周道路では、昼間はクレーンが稼働しない。高さ20~30m程度のクレーンも使えないとのことで、こうした機材を用いる必要がある場合は、飛行機の離発着のない夜間にのみ作業を行うことになる。
連絡誘導路、桟橋部上部の床版(しょうばん)据え付け作業においても、こうした制限は影響する。桟橋部上部の工事をざっくりまとめると、ガータークレーンを用いて誘導路進行方向に受桁(約120t)を架設→床版(約25t)を架設→垂直方向に間詰コンクリート打設といった流れで作業が進められる。
ここで、ガータークレーンは高さ約11m、床版を架設する床版架設機は高さ約5mのものを用いており、制限表面が厳しい昼間の連絡誘導路部の工事でも問題がないようにしている。このほか、床版の運搬にはフォークリフトも使用しているが、これはこの工事のために荷重30tに対応したものを特注したという。これらの機材は、新滑走路島の桟橋部でも用いられる。
ジャケットの間隔が広い連絡誘導路橋梁部の上部桁架設においては、潮位差を用いた工法が採られる。これは千葉市の工場で製作された橋梁を、台船に乗せて現地へ運搬。このさいに満潮時に現地へ運搬し、干潮で潮位が下がるのを利用して橋桁と橋梁を架設する台船架設などが行われている。
橋梁部の滑走路島に向かって見たもの。左が北側連絡誘導路で、上部桁の工事が始まっている。右側の南側連絡誘導路の上部桁架設はこれから | 橋梁部の工事風景。クレーン車が稼働しているが、橋梁部は空港島から少し離れていることもあって制限表面の規制も、やや緩やかなものとなる |
船から見た南側連絡誘導路のジャケット | 橋梁部の上部桁は潮位差を利用して架設される |
このほか、橋梁の周囲を覆うカバープレートの据え付けも進められていた。これは塗装の代わりになるものであるが、橋梁の周囲にわずかな隙間を空けてカバープレートを据え付ける。この隙間の中は、除湿器を設置して乾燥した空気を流し、相対湿度を50%以下に抑える。これは、相対湿度が50%以下であれば錆の発生を抑えられるという研究データに基づいており、鋼材の耐久性向上のために行われるものである。
この連絡誘導路橋は現在、北側誘導路の橋梁部は架設が進んでいるものの、南側の橋梁部はジャケットが剥き出しの状態。今後、これらの架設や、架設済み部分のアスファルト舗装が行われていくことになる。
■桟橋と埋め立てのハイブリッド構造を採る新滑走路島
この連絡誘導路橋を渡り切ると、実際の滑走路が置かれる新滑走路島へと上陸する。冒頭でも紹介したとおり、この滑走路島は多摩川河口部にかかる部分を桟橋構造、残りを埋め立て工法で建設するハイブリッド構造となり、両者を結合する接続部も特徴的な部分となる。
桟橋部の工法は、先述の連絡誘導路橋に近く、杭の上にジャケットを置いた下部構造と、床版を敷き詰めた上部構造から成る。ジャケットは全部で198基が架設されることになっており、11月10日時点で184基の架設が終了している。
上部の床版は2種類用いられる。飛行機が通過する部分に使われるPCa床版と、原則として飛行機が乗ることのない部分に使われるUFC床版と呼ばれるものである。両者は耐荷重が異なり、飛行機の荷重に耐える必要がある部分にはPCa床版が使われる。もちろん、先の連絡誘導路で使われるのもPCa床版だ。
床版を分けているのは、耐荷重が小さくてもよい部分は軽量の床版を使う、という方向性による。PCa床版が1枚当たり約25tであるのに対し、UFC床版は約10t。UFC床版を用いる部分は、下部構造のジャケットや杭といった鋼材の軽量化にもつながるというメリットがあると言う。
写真手前が桟橋部のジャケット。奥に見える連絡誘導路橋梁部のジャケットとは構造が異なることが分かる | 桟橋部は飛行機が通過する部分にPCa床版、通過しない部分にUFC床版を使い分けている | この写真に写っている床版が、飛行機が通過しない部分で使われる軽量なUFC床版だ |
このように鉄筋が埋め込まれているのがPCa床版。1枚当たり約25tある | 床版と床版の間をコンクリートで間詰する作業の様子 |
接続部の下部構造は鋼管矢板井筒構造が採られている。641本の鋼管矢板井筒を打設し、それを24個のブロックとする。その上にコンクリートを打設して護岸を形成するというものだ。上部構造は、このコンクリートのうえに円形スリット柱を使うことで、反射波を軽減させ、消波護岸としての役割も果たすと言う。
接続部の構造。下部構造に鋼管矢板井筒、上部に消波効果のある円形スリット柱を用いる | 写真中央にある独立した円柱が、円形スリット柱。その上に人が乗っているのが、渡り桁部で、今後、接続部全体に渡って架設が進められる | 渡り桁から接続部を見た様子 |
接続部の護岸工事は、下部構造の工事が完了し、スリット柱の設置もおおむね終了した状況。今後は、桟橋部と埋め立て部の表面をつなぐ渡り桁(273本中10本が終了とのこと)や伸縮装置の設置が進められる。
埋め立て部は、SGM(軽量混合処理土)、管中混合固化処理土、コンクリート、山砂など、さまざまな材料を使って埋め立てが進められている。見学時には、桟橋部に近い部分に使われるSGMの工事に使われるSGM船や、護岸工事船など、さまざまな船が作業にあたっていた。
このグレーの土が、埋め立て部のうち、桟橋部/接続部に近い部分で用いられる軽量混合処理土(SGM)。今年の5月から打設を開始し、残り1カ月程度で作業が完了する予定 | 土やセメント、空気などを混ぜ合わせて軽量混合処理土を作り、埋め立て部で送るSGM船 |
護岸の上部工を打設する船。この作業は最近スタートしたばかりで、これから護岸外周を作っていく | 土砂を埋め立て部へ送る船なども見られる |
■D滑走路の新設で発着枠が40万回超に
さて、工事の状況は以上のとおりだ。このD滑走路の建設に代表される羽田空港の再拡張整備事業は目的は、突き詰めて言ってしまえば、同空港の発着枠を拡大するためである。国内線の主幹空港として世界でも上位に入る旅客数を誇る同空港の発着能力が限界にきており、将来の国内航空需要に対応しきれないと推測されている。
また、先頃の前原国土交通大臣の発言でも話題になったとおり、現在は一部のチャーター便を除いて国内線用の空港として運用されている同空港が、D滑走路供用開始後は定期便の国際線を受け入れることになる。発着枠を拡大することで航空需要を満たし、国際線を含む広範な路線網を持つ空港を形成しよう、というわけである。
具体的には、現在の羽田空港は昨年9月以降、年間30万3000回の発着が可能な能力を持っている。来年10月のD滑走路供用開始後は、年間40万7000回へと増枠され、その一部が、国際線の定期便へと振り分けられることになる。
少し余談になるが、滑走路1本が約10万回で4本になって40万回、といった単純な計算では発着枠は決まらない。現在の羽田空港は北北西-南南東の向きに3000mのA滑走路(陸地側)と3000mC滑走路(海側)、北北東-南南西の向きに2500mのB滑走路を備えている。そして、このB滑走路にほぼ平行する格好で2500mのD滑走路が新設されることになる。
この4本の滑走路であるが、B滑走路は一部がA滑走路と交差しており、C滑走路とも経路上で近接する。このB滑走路と平行に近い角度を持つD滑走路は物理的な交差こそないものの、A/C滑走路の経路と近接しており、よく“井桁型”と表現される配置になっている。
平行する滑走路は一定の条件のもと、同時に離着陸を行うことが認められる。ここまで、B/D滑走路の角度がわずかに異なるにもかかわらず、ほぼ平行、と表現してきたのは、B/D滑走路を平行滑走路として運用する計画になっているからである。
しかしながら、羽田空港のような井桁型の場合は、A/C滑走路、B/D滑走路の経路交差/近接があるために、その運用は非常に複雑なものとなるはずだ。
ここからはパズルのような話になるが、現在のA~C滑走路では、北風時には木更津方向から降下してきてA滑走路へ北向きに着陸、C滑走路から北向きへ離陸する運用がメインとなる。A滑走路からの離陸や、C滑走路への着陸を行うこともあるが、このパターンは少ない。とくに、平行する滑走路から飛び立った飛行機同士が一定の間隔を開ける必要があるため、A滑走路から北向きに離陸した飛行機は左に旋回する必要がある。羽田空港の北および西方向が陸地であることはいうまでもない。陸上を低い高度で飛行機が通過することに対しては、騒音問題という課題を抱える。よって、A滑走路からの北向きの離陸は、回数が制限されている。
南風時はA滑走路から南向きに離陸、C滑走路へ南向きに着陸するのがメインの運用だ。着陸機は東京湾岸をかすめるように旋回し、お台場の先で左に旋回。C滑走路へと着陸する。滑走路直前で大きく旋回する運用となっているため、悪天候時や西からの風が強いような場合には、東京湾岸からB滑走路へ直線的に降下して着陸することもある。この場合、離陸機も運用が変わる。B滑走路とA滑走路が物理的に交差しているため、A滑走路ではなくC滑走路から南向きに離陸する。
11月10日は北寄りの風が吹いているので、着陸機は主にA滑走路へ北向きに進入する。写真はD滑走路展望台から撮影したもの | D滑走路島の埋め立て部から撮影したもの。C滑走路から北向きに離陸が行われる | わずかではあるが、北風時にC滑走路へ北向きに着陸する飛行機もある。これは連絡誘導路から撮影したもの |
このように、羽田空港は3本の滑走路を持ちつつも、クロスする滑走路であるということや、北側および西側が陸地であることから、3本の滑走路が同時に利用されることはほとんどない。D滑走路も西側は陸地であるうえ、経路での既存滑走路との交差/近接がある。例えば、南風時にD滑走路へ南向きに着陸する飛行機がいた場合、A滑走路やC滑走路から南向きに離陸する飛行機は、その着陸を待ってから離陸する必要が生じる、といったことが起こる。
具体的にどのような運用がなされるかはオープンが近づくのを待つ必要があるが、離着陸に各1つの滑走路を割り当て、残る滑走路は、メインに使用する滑走路の運用に支障がない範囲で離着陸を行う、といった具合に現在の発着枠プラスアルファ程度の発着枠を確保するような運用になるのではないだろうか。
ところが、D滑走路のオープンにはもう1つ大きなメリットがある。それが深夜の発着が行えるようになるということだ。現在のA~C滑走路の場合、北風時に北側へ離陸、南風時に北側から着陸する際に、どうしても東京湾岸を低い高度で通過する必要がある。先に騒音の問題に触れたが、深夜の騒音は昼間以上に航路近隣住民のコンセンサスが得られにくいわけで、現在の羽田空港は24時間運用が可能とはなっているものの、深夜の発着は貨物など非常に限られてしまっている。
現空港南東の海上に浮かぶD滑走路がオープンすれば、この状況が大きく変わる。北風時はA滑走路へ北向きに着陸、D滑走路から北向きに離陸。南風時はA滑走路から南向きに離陸、D滑走路へ南向きに着陸すれば、低空で飛行機が飛ぶ区間を東京湾上空に限定させることができるのだ。
D滑走路オープン後には、深夜に国際線の定期便を離発着させる計画があり、40万7000回という発着枠には、この深夜の時間帯の増枠も含まれる。発着枠の拡大といってもピンと来ない人もいると思うが、深夜の時間帯に飛行機に乗降できるようになる、というのは、D滑走路オープン後の羽田空港の変化を如実に表すものと言えるだろう。
■D滑走路オープンに向け、駐車場やターミナルの整備も進む
このほか、D滑走路のオープンに合わせて、羽田空港は国際線対応の整備を中心とした拡張が進められている。現在の羽田空港にも国際線ターミナルは存在するが、非常にこぢんまりしており、乗降口も3カ所しかない。チャーター機しか就航していない現在では処理可能であっても、D滑走路オープン後にキャパシティを超えることは目に見えている。
そのため、A滑走路を挟んで第1旅客ターミナルと反対側にあたる部分を国際線地区として、新国際線ターミナルやエプロン(駐機場)、貨物ターミナルなどを整備している。
また、国内線の発着枠も拡大することから、現在の第2旅客ターミナルも拡張。A~D滑走路すべてを見渡せる115.7mの高さを持つ新しい管制塔も建設された。
駐車場も、現在のP4駐車場を拡張する工事が進められている。P4駐車場はもともと450台収容の平面駐車場であったが、2007年12月にP4簡易立体駐車場をオープンし、1200台へ収容台数が増加。ただし現在は平面駐車場として利用されていた部分の立体化工事が進められており、777台の一般車と4台のマイクロバスが駐車可能に留まっている。この平面駐車場部の立体化が完成すると2400台を収容可能な新たなP4立体駐車場へと拡張されることになる。この供用開始は、D滑走路供用開始と同じ2010年10月が予定されている。
羽田空港の駐車場は第1/第2旅客ターミナルの間にP1~P4、国際線ターミナル用にP5を備えている。P1~P3は立体駐車場で、P4は平面駐車場だったが、P4駐車場の完全立体化が進められている | 2007年12月にオープンした、P4簡易立体駐車場。一般車777台を収容可能 | P4簡易立体駐車場の北側に建設が進められている、新P4立体駐車場 |
工事現場はバリアに覆われており、地上からは様子をうかがうことができない |
(多和田新也)
2009年 11月 12日