NEXCO東日本、札幌でスノードライビングスクール開催
北海道民でもあまり経験できない雪上での限界走行を体験

篠塚建次郎選手と奴田原文雄選手を迎えたスノードライビングスクール

2009年12月19日開催
参加費無料



 NEXCO東日本(東日本高速道路)は12月19日、サッポロテイネスキー場(北海道札幌市手稲区)にて、スノードライビングスクールを開催した。これは、事前に申し込むと、講演会に計200名、実技講習に抽選で計30名が無料で参加できるもの。スクールには講師として、ラリードライバーの篠塚建次郎選手と奴田原文雄選手が訪れ、30分の講演と1時間15分の実技が行われた。

 今年は例年以上に雪が少なかった札幌だが、前日の夕方から一気に雪が降り積もり、当日の朝には市内も一面白銀の世界に包まれた。参加者もこの日が今季初のスノードライブだった人は多かったようだ。

会場となったサッポロテイネスキー場には、NEXCO東日本のパトロールカーや高速人カー、北海道警察のパトカーなどが展示されたスタッドレスを履いて自走してきたという高速人カー。FRで雪山を登るのは大変だったとのこと

 10時から始まった講演では、篠塚選手から、これまでの多くのラリーでの経験で得た、安全運転のためのノウハウが語られた。

 篠塚選手は「今日は基本的には安全運転を覚えていただくものだが、運転は楽しいものなので、最終的には楽しいというイメージを持って帰っていただきたい。私の考える安全運転は、やはり判断だと思う。こうなったときはこうすると言うのをパッと判断できるということが、安全運転で一番大切なことだと思う。ではその正しい判断を下す元になるものは何かというと、1つ目はルールがちゃんと頭に入っているか。2つ目は経験。どれくらい経験をたくさん持っているかで、判断は決まってくると思う。このルールと経験が、頭だけでなく体に染みついていることが重要なので、今日は、体に染みつくような講習をやりたいと思う」と述べた。

 実技講習の会場となる駐車場は、約100m四方の広場で、パイロン以外にはなんの障害物もない。「パイロンはあるけど倒してもかまいません。普段経験できないような急発進、急ブレーキ、急ハンドル、クルマがスピンしてもかまわない、ABSやトラクションコントロールなど、普段あまり経験したことのないことを体験してもらいたい。クルマはこういう状態の時こうなるんだなということを、頭だけでなく体で覚えていってもらうことが、今回のスクールのポイント」と参加者に説明した。

スクールで講師を努める篠塚建次郎選手(左)と奴田原文雄選手自らの経験を元に語る篠塚選手実際に起こりうるさまざまなシチュエーションを想定してコースを作ったと言う

 また、安全運転のポイントは5つあると述べ、その1つ目はシートベルトだと言う。篠塚選手はパリ・ダカールラリーを22回走り、その中で3回大きな事故をしたと言う。180km/hくらいで走っていて、1~2mくらいの段差をジャンプした際、フロントのバンパーから落ちてしまい、何回転も縦に転がってリタイヤしたときには、ナビゲーターはけがをしたものの、篠塚選手は無傷だったと言う。また、砂丘を150km/hくらいで乗り越えた際、大きくジャンプしてしまって、そのまま次の砂丘の斜面に正面から突っ込んだことが2回あり、いずれも顔をステアリングに強打し、骨もあちこち折ったが、150km/hからの正面衝突で生きていられたのはシートベルトをきちんとしていたからだと述べる。そのため、ラリーでは、「焦る気持ちはあるが、ナビゲーターがきちんとシートベルトをし終わるまで、絶対にスタートしないようにしている。これは一般道でも同じこと」と、シートベルトの重要性を自らの経験を持って説明した。

 2つ目に重要なのは集中力だと言う。ラリーの中でももっとも難しい砂丘の走行では、余計なことは考えず、砂丘を越えることだけに集中することが重要で、前に追いつこうとか、クルマの調子は大丈夫かなどと、余計なことを考えていると、すぐにミスをしてリタイヤにつながると言う。これは一般道でも同じで、「出発前に奥さんと喧嘩したとか、時間ぎりぎりに出発するとなると運転に集中できない。運転だけに集中することが大事」だと述べた。

 3番目は“うっかり”の防止。篠塚選手は、自身も61歳になり、うっかりすることが増えたと言う。信号を見ているのにそれが脳に送られず、ぎりぎりでハッとすることがあるとのこと。篠塚選手は最近大型自動車の免許を取りに行ったと言い、大型車の運転では、「右よし、左よし」と確認する必要があるが、これが重要で、声に出さなくてもよいから、頭の中で確認するという作業が重要だと述べた。

 4番目は、周囲の確認。アクセル、ブレーキ、ハンドルを切る、バックするなど、クルマがまっすぐ走る以外のことをするときには、その前に必ず両横、後ろのすべてを確認するということを守ってほしいと言う。

 5番目は、クルマの流れで、クルマというのは流れていることが大事だと言う。篠塚選手は東京大学の教授と渋滞学の研究をしているとのことで、実際には速度が変わらなくても、ブレーキランプが点くことがきっかけで、渋滞は始まると述べ、「なるべく不必要なブレーキはかけないほうがよい。流れることが大切だと思ってもらえれば」と述べた。

 総合的には、運転はとにかく余裕をもって走るということが重要で、余裕ができれば、譲り合おうとかマナーを守ろうといった運転に変わってくる。「運転は、譲るとか、マナーによってかなりの部分が成り立っている」と言い、今日はその余裕を身につけて帰ってもらえればと述べた。

 なお、篠塚選手は2008年よりソーラーカーレースに参戦しており、今後6~7年かけて世界の大陸を走り、その後はソーラーカーでラリーに出たいと自分の目標を語った。「私は運転することが大好きで、とても楽しい。今日は最終的にいろんな経験をしてもらうと同時に、運転て楽しいなと思って帰ってもらえればうれしい」と締めくくった。

 実技講習は、雪の積もった広い駐車場を使って行われた。参加者は自らのクルマを運転し、助手席には、最初にインストラクターが、次に奴田原選手、最後に篠塚選手が乗って各2周ずつ計6周走ることができる。コースは4つのセクションになっていて、最初は急発進と急ブレーキ、次がコーナリング、次がクランク。これは直進で走っていて、急に危険な状況を回避する状況を想定したもの。最後はスラロームになっている。

 篠塚選手によると、だいたいこのくらいを走ると、普段経験できないようなことが一通り経験できると思ってコース設定したとのこと。

広い駐車場にパイロンだけで作ったコース篠塚選手、奴田原選手らが助手席に同乗し、ドライビングのアドバイスを行う
コース図急発進、急制動を体験するコース。改めて“急”のつく操作の危険性を認識するS字のコーナーを体感。特に2つ目のコーナーが滑りやすく、曲がれない人が続出
直線から直角に曲がるクランクコース。外から見ていても苦戦しているのがよく分かったスラロームコース。簡単そうに見えて意外と難しいらしく大回りしている人が多かった路面が磨かれてツルツルになっている個所もあった

 参加者のクルマは、若葉マークをつけたミニバンから、スポーツタイプの4WD車までいろいろだが、1つのセクションは1台ずつの走行のため、それぞれのペースで走っていた。序盤は昨夜から積もった雪である程度グリップしていたようだが、参加者が走行を重ねるごとに路面が磨かれ、終盤には大きくラインを外れるクルマも見られた。しかし、普段できない経験をすることがこのスクールの目的。札幌在住の参加者のクルマに同乗させてもらったが、やはり磨かれた路面に苦戦していた模様。「北海道に住んでいて雪道の経験は多いが、こんなハイスピードで走ったり、スピンをしたりする経験はまずないので、とてもよい経験になった」と述べていた。

国産車に輸入車、ミニバン、SUV、セダンとさまざまなタイプのクルマが参加していた
記者も同乗させてもらった。1周目はかなり苦戦している模様だったが、奴田原選手からシートを起こすように指摘されると、それだけでだいぶスムーズな運転になっていた

 最後にはラリー車を使った篠塚選手によるデモランや、篠塚選手、奴田原選手両名とクルマの前で記念撮影できる時間も設けられ、参加者は貴重な体験をそれぞれで写真に納めていた。

最後はラリー車を使って篠塚選手のデモランも行われた篠塚選手、奴田原選手との記念撮影も実施。NEXCO東日本のキャラクター、雪道研究家のマンモシ博士(写真左)と高速人ウサギ(写真右)も登場

【お詫びと訂正】記事初出時、篠塚建次郎選手の字を誤って記述しておりました。お詫びして訂正させていただきます。

(瀬戸 学)
2009年 12月 22日