国土交通省、地元小学生の原宿トンネル工事現場見学会
新技術のハーモニカ工法で掘削

年内開通に向けて工事が続く原宿トンネル

2010年2月2日見学会開催



 国土交通省 関東地方整備局は2月2日、国道1号原宿交差点(神奈川県横浜市戸塚区)の立体化工事現場にて、地元小学生向けに工事見学会を開催した。

 原宿交差点の工事現場では、これまでも地元自治会などを中心に、現場説明会を広く受け入れており、今回小学校サイドからのアプローチにより、この見学会が実現したと言う。見学したのは地元の小雀小学校と大正小学校の3年生、計200名ほどで、小学校の見学会は今回が初だと言う。参加した小学生らは、熱心に説明を聞くとともに、普段目にすることのない掘削機や巨大な重機を目の前にして大きな歓声を上げていた。

工事を請け負う大成建設のスタッフの話を熱心に聞く小学生ら現場で使われている重機の説明を受ける小学生らが見下ろすのはすでに貫通済みの2車線分。現在は上り線として使われているが、全線開通後はこちらが下り車線となる

神奈川県内ワースト1の渋滞ポイント「原宿」
 原宿交差点は、国道1号線と環状4号線が交差する交差点で、神奈川県内でワースト1の渋滞個所。国道1号を通行する車両の8割が直進するということで現在進めているのが、国道1号の立体(アンダーパス)化工事だ。2007年7月から迂回路となる側道を造り始め、2008年1月から原宿トンネルの工事に着工。2009年4月に2車線分のトンネルが開通し、現在はそこを上り線として活用しつつ、残りの2車線の貫通工事を進めている。

渋滞の名所の原宿交差点。下り線は現在も慢性的な渋滞で、取材時もやはり原宿交差点を先頭の渋滞が発生していた横浜側は横浜新道、藤沢側は藤沢バイパスができ、ボトルネットとなっている原宿交差点工事延長は全828m。そのうちアンダーパス区間が420mで、この内73mの区間をハーモニカ工法で開削する
以前の国道1号線原宿交差点部分右左折レーンとなる側道と、アンダーパスとなる上下2車線がとおる形となる
以前の原宿交差点側道を作りトンネルを作るエリアを確保
2車線分のみトンネルの貫通した現在の状況。アンダーパスを上り線が利用している4車線貫通後

 トンネル工事には、上から掘り下げてフタをする形の開削工法と、横に掘り進める非開削工法があるが、開削工法では環状4号線を通行止めにしないといけないため、環状4号線直下のトンネル部には、非開削工法が取られた。非開削工法としては、山手トンネルなどでも使われているシールド工法が有名だが、掘削機であるシールドマシン自体が巨大なため、今回のような狭い場所での作業には不向き。さらに地盤沈下といった影響も出やすく、浅い部分が掘れないというデメリットがある。そこで原宿トンネルでは、今回が4例目となる新技術の「ハーモニカ工法」という掘削工法が用いられた。

鋼矢板を打ち込んだ後、その内側を掘り下げていく開拓工法アプローチ部分は上から掘り進める開削工法で作られているシールドマシンよりも浅いところを掘れるのがハーモニカ工法のメリット

 ハーモニカ工法は、約4m四方の四角い小型の堀削機で小断面のトンネルを掘り、さらに隣接した場所も掘ったら、それらを合体させることで、大断面のトンネルを完成させるというもの。小断面のトンネルが並んだところが、ハーモニカの口に似ていることからその名前が付けられた。

 シールドマシンがセグメントと呼ばれる外殻を足がかりに、自走するのに対し、ハーモニカ工法では、ハーモニカ掘削機と同じサイズの四角い綱殻と呼ばれるものを、ところてん式に、外から油圧ジャッキで推し進める推進方式を採用する。これにより鋼殻部と実際に掘った穴とのすき間を小さくでき、浅い場所に穴を掘っても、地盤沈下が抑えられるのだと言う。

油圧ジャッキでハーモニカ掘削機を押し込んでいく一度ジャッキを縮め、そこに鋼殻をいれてさらに押し込むという作業を繰り返す
掘削機とおなじ4m四方の鋼殻。掘削機を押す役割と、トンネルを一時的に支える役割を持つ掘削した穴に隣り合うように穴を掘削していく
鉄筋コンクリートで床や壁、天井を作る最後に鋼殻の不要な部分を切り取って大きなトンネルとする

 今回の原宿交差点の場合、片側2車線ずつの計4車線のトンネルを掘るために、横5列×縦2段の掘削が必要となる。先に開通した2車線分を作るために、3列×2段分の穴は貫通済みで、残り2列×2段の計4つの穴ですべての断面が貫通する。この日はちょうど残り4つのうち、2つ目の穴が貫通したところで、小学生らは、そのハーモニカ掘削機が貫通し、顔を出したところを見ることができた。

4m四方の穴を隣り合わせに掘削し、大きなトンネルを作るハーモニカ公法。原宿トンネルでは横5列×縦2段の穴を組み合わせる原宿トンネルは4列×2段の穴をつなげる。すでに一次施工として3列の穴を貫通させ、2車線分のトンネルを完成させている

 掘削機は中央に大きな回転刃を持つほか、4隅みにも小さな回転刃を持つ。刃の先からは特殊な液が出て、削った土は液状化されて後方に排出される仕組み。実際に刃を回転させて見せたが、その動きは意外とゆっくりで、1分間におよそ2cmの掘削が可能だと言う。

現場の横浜側に開いた縦坑から掘削機が見える縦坑に降りて、間近で掘削機を見る。現在は残った4つのトンネルの内、下段2列が貫通したところだ掘削機の刃を回転させたところ。その動きはゆっくりで、シャッタースピードを1/6秒にしてもかろうじて回転しているのが分かる程度

 そこからトンネルの反対側(藤沢側)となる掘削を始めた側に行くと、そこには掘削機と外殻を押す油圧ジャッキが構えていた。油圧ジャッキは1基で200tの力を持つものが計6基、計1200tの力で掘削機と外殻を押し込む。外殻は奥行きが1250mmなので、1250mm押し込んだらジャッキを縮め、新たな外殻を追加してさらに押し込むという作業を繰り返す。

藤沢側の縦坑には、掘削機と鋼殻を押し出すための油圧ジャッキがある写真右手はすでに貫通した穴。このように隣り合わせで小さな穴を空け、最後に1つの大きな穴にするのがハーモニカ工法の特徴だ次は今回開いた穴の上に穴を追加していく。その穴と地表までのすき間はわずか1.6mだ

 原宿トンネルの内、このハーモニカ工法により掘削する区間は、環状4号を挟んだ73m(その前後は開削工法により掘り下げる)。この73mに1つの穴を貫通させるのに約1カ月を要するということで、あとおよそ2カ月程度で残り2つの穴が貫通する。すべての穴が貫通したところで、大枠を鉄筋コンクリートで固め、隣り合った小さなトンネルを、大きな1つのトンネルへと合体させる作業に入る。さらに舗装や照明といった設備を整え、年内の開通を目指すと言う。

 現在は既に開通した2車線を使って、すでに上り側でアンダーパスの運用を開始しているが、その通行状態を見てみると、下り側はほぼ慢性的に渋滞しているのに対し、アンダーパス化により信号のなくなった上り側では、交通量は多いものの、渋滞は発生しておらず、その効果をはっきりと見て取ることができた。横浜新道と藤沢バイパスの中間でボトルネックとなっている個所だけに、1日も早い全線開通を期待したい。

環状4号線も交通量の多い原宿交差点横浜側から見た原宿交差点と原宿トンネル。写真左手の下り車線は常に渋滞しているが、アンダーパスをとおる上り線はスムーズに流れている藤沢側から見た原宿交差点と原宿トンネル。左の側道が環状4号へ右左折するレーン。原宿交差点を過ぎた下り車線もクルマが流れている。原宿交差点がネックになっている証拠だ

 なお、同工事現場では、地域住民への理解を深めるため、広く一般への作業現場の公開を行っている。30名程度以上まとまったグループであれば、誰でも見学を受け付けるとしていて、すでにほかの小学校の見学会も決定していると言う。見学の希望は、国土交通省 関東地方整備局 横浜国道事務所 藤沢出張所(TEL:0466-37-2588)で受け付ける。

(瀬戸 学)
2010年 2月 3日