トヨタ、豊田社長が品質問題を陳謝、対応策を発表
グローバル品質特別委員会を設置。プリウスのブレーキは調査中

会見での豊田社長(左)と佐々木副社長

2010年2月5日
愛知県 トヨタ自動車 名古屋オフィス



 トヨタ自動車は2月5日、海外での大規模リコールやプリウスのブレーキへの苦情について、名古屋の同社オフィスで記者会見を開き、豊田章男社長が問題について陳謝するとともに、その経緯を説明した。

 金曜日の21時という異例の時刻に開始された会見は、同社の東京本社にも映像でリアルタイム中継され、多くの報道陣が聞き入った。会見に出席したのは豊田社長と佐々木眞一副社長。

金曜日の21時、トヨタの名古屋オフィスで会見が始まった

「不安な週末を過ごされるのは申し訳ない」
 2009年、米国でのフロアマットを原因とする事故に端を発し、欧州、米国、中国でのアクセルペダル不具合のリコール、プリウスのブレーキの効きについての苦情と、品質面の問題が次々と露呈し、日米の政府高官や閣僚からも発言が相次いでいるトヨタだが、豊田社長自身がこの問題について発表するのはこれが初めて。

 会見冒頭、豊田社長は「多くのお客様が私のクルマは大丈夫かと思われているのではないかと思い、わたしから直接お話させていただく場を急遽設定させていただいた」と、会見を開いた理由を説明。社長による説明が遅すぎたのではないかという報道陣からの指摘には「お客様に安全安心と受け取ってもらえる対応をするように指示してきた。社内で一番そのことに詳しい人間が、お客様に正しくお伝えするという方法をあえて採らせていただいてきたが、お客様が“私のクルマは大丈夫か”と不安に思って週末を過ごされるのはたいへん申し訳ないと思い、私が出てきた」と説明した。

 しかし、海外でのアクセルペダルのリコールについては「改修作業を準備中」とし、プリウスのブレーキ問題については「問題の報道以来、さらに多くのお客様から“(わたしのクルマの)この現象はそれが原因でないか”と言う申し出が増えている。1件1件お話をうかがい、現車を確認させていただいて、どのような処置をするのがベストなのか精査しているところで、まだ結論に至っていない」(佐々木副社長)と述べ、対応策をリコールとするのか、サービスキャンペーンなどで済ませるのかということも含め、具体的な対策は明らかにされなかった。

品質改善への取り組みを打ち出す
 この会見で品質管理について新たに発表されたのは「グローバル品質特別委員会」の設置。名称どおり世界各地で品質を改善するための委員会で、具体的な活動は「今回のリコールに至った要因を検証しながら、設計品質、製造品質、販売品質、サービス品質のすべての工程で間違いがなかったかを再点検する」というもの。豊田社長自らがヘッドに立つ。

 このほか「各地域でお客様の声や品質情報を収集し、“現地現物”を充実すべく、技術分室を増強する」「品質管理のプロを育成すべく、主要地域において品質教育・技能の強化を目指した“オートモーティブ・センター・クオリティ・オブ・エクセレンス”を設置」「外部の専門家から選ばれた人達により、上記改善を取り込んだ新たな品質管理マネジメントについて、業界のベスト・プラクティスに沿った内容での確認、評価をしていただく」「各地域当局とのコミュニケーションの頻度を上げる方策を採る」といった対策も講じる。

米国の対策が遅れたのは、夏で結露しなかったから
 豊田社長、佐々木副社長の発表の後、報道陣との質疑応答では「なぜ対応が遅れたのか」「問題を隠蔽する意図があったのではないか」といった、トヨタのトラブルに対する姿勢への問いかけが多数あった。

 とくにアクセルペダル問題では、2009年前半には欧州で問題が確認され、8月には対応が講じられていたのに、米国、中国での対応が数カ月遅れた点が指摘された。

 これについて佐々木副社長は「欧州で問題が発生した時点で、米国などの市場でも同様の指摘がないか監視していた。しかし、アクセルペダル問題の要因がペダル内部の結露であり、夏だったので結露せず、米国では不具合が発生しなかったのだろう」(佐々木副社長)とし、米国での不具合が把握できなかったため、年末の対応になったとした。

 また「社内の、生産品をどう改善していくかという部隊は、よかれと思うことを遅滞なく展開するが、市場措置が必要かどうかを検討する部隊では、(リコールの)判断が見えてきたのが2009年末から2010年始めにかけて」という時間差があったため、「故意にリコールを送らせたのではないか」といった疑念につながったと見る。

 これらの疑念の払拭については、グローバル品質特別委員会でも「透明度の高い情報公開も、重要なテーマとして採り上げていく」とした。

 4日に同社の横山裕行 常務役員が、プリウスのブレーキ問題について「ブレーキの効きがユーザーの期待値とずれているのが原因。踏み増せば安全に停止する」と発言したことについては、「4日の夕方、横山常務役員が会見するまでにトヨタが掌握している70数件の情報で得られた結論」とし、「その後、かなりのお客様から多数の指摘をいただいた」ため、「それが制御上の都合から来る現象なのか、ほかに原因があるのかを精査」していると言う。

会見の模様は東京本社にも中継され、多くの報道関係者が詰めかけた

嵐は続いているが、海図はある
 これらの品質問題が業績に与える影響については「お客様の不安をなくし、信頼を取り返すことを最優先にやっていきたい」(豊田社長)「遠回りのように見えるが、きちっと対応策をとると言うことが、お客様の信頼回復へのもっとも確実な対応と信じている」(佐々木副社長)と、そうした計算の前に今回の対応をきっちり行う姿勢を見せた。

 一方で豊田社長は「社長就任当時は“嵐の中の海図なき航海”だった。今も“嵐の中”に変わりはないが、しっかりとした海図のある安全な航海になっている。従業員、関係会社を含め、力を合わせて海図を作り上げてくれた」と、今後の業績見通しを表現した。

 また海外でのアクセルペダル問題は、現地調達部品が原因となったが、米国運輸長官には「トヨタは50年間お客様第一でやってきたし、従業員の幸せを願った地域貢献を図ってきた。昨今、それを加速させ(海外法人の)自立化に向けてギアを入れたとたんに問題が起きたが、自立化の方向性は変わらない」と伝えたと言い、「トヨタの経営理念はクルマづくりを通じて地域社会に貢献すること。クルマはできるだけ現地で作り、現地調達率を上げて行くことが、雇用も拡大し貢献できると考えている。コストと現地調達の関係に相乗効果があって、初めていいクルマができると思っている」と、海外展開の姿勢に変化がないことも表した。

(編集部:田中真一郎、協力:奥川浩彦)
2010年 2月 6日