トヨタ、「ブレーキ・オーバーライド・システム」を全車に搭載
品質問題カイゼンの進捗を豊田社長が報告、

豊田社長(右)と佐々木副社長

2010年2月17日
トヨタ自動車 東京本社



 トヨタ自動車は2月17日、同社東京本社で記者会見を開催した。同日、トヨタ自動車はプリウスともにリコールを宣言していた「SAI」と、レクサス「HS250h」の改修作業を開始。これを期に、同社の豊田章男社長と佐々木眞一副社長が、一連の品質問題の進捗状況を報告した。

急発進の確率は低い
 豊田社長によれば、プリウスの改修作業は急ピッチで進んでおり「国内では、予約を含め100%改修の目処が立っている販売店もある」とのこと。「3カ月以内に90%以上」の改修を目標としているが、販売店の報告ベースでは、2月末までに70~80%が改修できる見込みだと言う。これは「前回の会見とほぼ同時に、販売店がお客様に電話をかけ始めた」と、販売店の努力と、顧客の理解のおかげで想定よりも速く改修がすすんでいるとした。

 一方、米国でトヨタ車が「予期せず急発進する」懸念が広がっている問題について、「電子スロットル制御システムは、多くのセンサーによる幾重ものフェールセーフシステムが組み込まれている」「システム異常の場合は、アイドリングまたはエンジンストップに戻るよう制御されている」「決して加速の方向に動くものではない」とした。

 佐々木副社長によれば、トヨタの電子スロットルシステムは「2系統のコンピューターがお互いを監視しあい、片方が加速の指令を出し、もう片方がそのような指令を出していないときは、減速するようになっている。要するにグーとパーだけのじゃんけん。チョキがないので、パーが必ず勝つ仕組み。パーのときは減速で、グーが加速」「アクセルペダルが踏まれたかどうかを検出するセンサーも2つある。ペダルが踏まれた信号と、踏まれていない信号があったら、これも踏まれていないほうが勝つようになっている」ので誤作動の確率は極めて低いとした。

 さらにこれらは「2つの系統が同時に非常に強い電磁波や衝撃でフェールする懸念に対しては、我々が考えうる条件のもとでテストをして確認している。例えば電波障害は欧州基準の約2倍強の環境でテストして、フェールしていない」と言う。

 また米国では、カローラのステアリングに多数の苦情が寄せられ、NHTSA(米道路交通安全局)が予備調査に乗り出したとの報道が出たが、これについては「NHTSAから具体的にどういう点について疑念があるのかを受け取っていない。パワーステアリングを油圧式から電動式に変えたことで、地面から入ってくる反力の伝わり方がシャープになったという苦情をたくさんいただいていることは、我々の調査でつかんでいるが、ステアリングの問題なのか、タイヤの問題なのか、要因となるファクターが多いため、調査を継続している。しかし、お客様が違和感を感じたものは不具合と認識して改善するし、安全に関わる問題ならリコールする。この問題についても速やかに行動を起こしている」とした。

ブレーキ・オーバーライド・システムを採用
 これまでのところ、同社が発表した品質問題への対応策は「グローバル品質特別委員会」の設置。豊田社長をヘッドとする委員会で、開発から販売までのプロセスで品質管理向上を目指す組織だが、その具体的な内容が示された。

 この委員会に参画するのは、各地域で任命された「チーフ・クオリティ・オフィサー」と、「各地域での市場処理を的確に判断できる人材」。改善策を話し合い、その結果を外部の専門家にチェックしてもらうことで、独善的な策になることを防ぎ、よりよいアイデアを求める。第1回は3月30日に開催される。

 さらに具体的な改善策として「今後発売する全車に、順次BOS(ブレーキ・オーバーライド・システム)を装着」すること、また「EDR(イベント・データ・レコーダー)をより積極的に活用」することが発表された。

 BOSは、アクセルとブレーキが同時に踏まれた際に、ブレーキの動作を優先するシステム。フロアマットによる暴走事故では、ブレーキを踏むなどの動作をしても速度が落ちなかったとされており、BOSがあれば防げたのではないかと言う議論があった。フォルクスワーゲン・グループなど、多くのメーカーがすでに採用している。

 ただし、すでに販売した車両への装備は「検討中」(豊田社長)。これまで採用してこなかったBOSの搭載を決めたのは「BOSは必ずしも全知全能ではない。BOSはそもそも電子スロットルをコントロールする仕組み。電子スロットルシステムが開く側にフェールすると、BOSも意味がなくなる。しかし電子スロットルは閉める側にフェールするようになっているので、電子スロットルに関してはBOSがなくても大丈夫と考えた。しかし、フロアマットなどでアクセルペダルが戻らないような状態なら、BOSが電子スロットルを強制的に閉じるのでBOSが有効。ペダル自身をちゃんとするとか、マットをちゃんと敷いてもらうというのが真の対策と考えてやってきたが、我々の調査能力では、すべての予期せぬ加速現象の原因などを、まだ説明できていない。それには大変な労力や時間がかかるので、お客様のご懸念を軽減するため、BOSを搭載する」(佐々木副社長)とした。

 EDRはこれまでの車両にも搭載されており、警察や監督官庁から指示があれば、顧客の了解を得て、内容を読み出して原因究明に活用していた。個人情報保護の観点などから、自主的にEDRを読み出すことはしていなかったが、今後は指示なくとも読み出し「技術解析力を上げ、意思決定を早くする」と言う。

顧客目線と人材育成がカギ
 米国での問題の根底には、トヨタの事故原因の調査能力が不足していたという認識が、明らかにされた。例えば日本でもアクセルペダル不具合の事例は報告されているが、全国5000近くの販売拠点の機動力を活かし、1件1件を精査し、車両側に問題がないことを証明できている。

 しかし米国では、「(日本とは)規模感と、情報収集の仕組みに違いがある」ため、1件1件を精査して、すべての事例の原因を明らかにはできていないと言う。「(調査の)体制が弱かったと言うことは率直に反省」しており、これがEDRの活用もつながっている。

 また、顧客目線での対応ができていなかったという反省もあるようだ。プリウスのリコール問題の原因は、リコールの要件となる技術的な欠陥や保安基準違反でもなかったし、ブレーキ機構の欠陥を原因とする事故も起きていないが「お客様の安心を優先させ、リコールを迅速に実施した。今後も顧客の安心に重点をおいた対応をする」と言う。

 ブレーキ等のフィーリングは、製品の味付け(付加価値)に関わる部分だが「クルマを快適に、便利に使っていただくために、ブレーキやアクセル、ステアリングといった部分の不安は、取り除く。これからもクルマの味付けをしていくためには、今は不安を取り除くことが必要」との認識だ。さらに佐々木副社長は「軽いブレーキングの低速側で、ヒヤッとした、怖いという声が入ってきた。こうしたことがたくさん起こらないようにするのが技術屋の責任だし、事前に“ブレーキのフィーリングがこれまでと異なる”と説明すればこの問題は防げたかもしれない」と述べた。

 品質管理対策では、人材育成もその項目としてあげられた。豊田社長は「ものづくり会社として、ものづくりの優先順位は安全、品質、量、コストの順番でしっかり拡大すべきと考える。そのすべてにおいて、ベースにあるのが人材育成。人材育成のスピードと、“量”の拡大のスピードでは、量のほうが上回っていたのではないかと思っている」「拡大戦略自体、お客様のご要望に沿ってきたことと、今までは申し上げてきたが、世界各国で実需以上の売上を伸ばしてきたことも事実。トヨタ生産方式の基本は、売れる分しか作らないこと。それを自ら破ってしまったと反省している。品質の作り込みを支える現場の人材を育てる十分な時間をとっていなかった。お客様の不平不満を集め、分析し、改善につなげる点も劣っていた。再度基本に立ち返って、もう1度ジャストインタイムの追求をしていきたい」と述べ、「カスタマーファースト・トレーニングセンター」を各地域に設立し、人材を育成するとした。

 なお大規模リコールでミソがついた形のプリウスだが、ハイブリッド車を次世代自動車の基軸に据える姿勢に変化はない。「今は(ハイブリッドカーが)よりよい商品になっている時。お客様のご支援をいただきながら、よいクルマを作っていきたい」(豊田社長)。

(編集部:田中真一郎)
2010年 2月 18日