BMWザウバーF1チーム レースドライバー 小林可夢偉選手記者会見
10月に開催されるF1日本グランプリを見に来てほしい

小林可夢偉選手

2010年4月8日会見



 今年、BMWザウバーF1チームのレースドライバーとしてF1世界選手権に参戦している小林可夢偉選手は、今週末に行われる中国グランプリを前に帰国し記者会見を行った。

一時はキャリア中断も危ぶまれた小林選手
 小林選手は、今年からF1世界選手権に本格的に参戦したルーキードライバーだ。よく知られているように昨年の終盤2戦では、昨年撤退を決定したパナソニック・トヨタ・レーシングのドライバーとして参戦した。

 昨年のブラジルグランプリでは、チャンピオンを決めたジェンソン・バトン選手と熱いバトルを繰り広げたことにより、一躍ヨーロッパのファンにも名前を知られる存在になり、9位で完走。さらに最終戦のアブダビグランプリでは、上位勢が2ストップのピットイン戦略を選択する中、上位では唯一となる1ストップを敢行し、レース中にも、キミ・ライコネン選手、バトン選手、フェルナンド・アロンソ選手という3人のチャンピオンと堂々のバトルを繰り広げた末に6位に入賞。チームメイトのヤルノ・トゥルーリ選手を上回る結果を残し、一躍期待の若手ドライバーとして注目を浴びる存在となった。

 トヨタがF1撤退を決めたことで、2010年のシートがどうなるかと思われたが、BMWが撤退を決めた後チームを買い取って再びF1への参戦を決定したBMWザウバーF1チームが、小林選手に契約を申し出て今年のF1選手権への参加が決定したのだ。

跳ねる車に手を焼く現状、新しいテクニカルディレクターが就任
 そうした経緯で加入することになったザウバーチームについて小林選手は「何よりも嬉しいことはペーター・ザウバーが自分のことを信頼してくれていること」と印象を語った。ドライバーの才能を見極める眼の確かさで知られるザウバー氏(キミ・ライコネン選手、フィリペ・マッサ選手もザウバーでF1デビューを飾っている)に選んでもらえたことが嬉しそうだった。

 しかし、現実は厳しいのも事実で、第3戦マレーシアグランプリの予選で、雨の難しいコンディションの中9位グリッドを獲得した以外は目立った戦績も残せていない。決勝レースではいずれもマシンのトラブルなどが原因で、早い段階でのリタイアに終わっており、周回数も20周程度にとどまるなど、散々な結果だと言ってもよいだろう。

 こうした結果について小林選手は「自分たちのポジションが分かってくると、正直に言って期待どおりの結果ではないことは事実。4強に次ぐポジションを目指していたが、実際にはフォースインディアは予想どおり速かったし、ルノーが予想外に速かった。ただ、厳しい競争の中ではこれは当たり前のことで、よい経験はできている。チーム全員が一丸となって、自分たちのポテンシャルを信じて改善していかないといけない。気持ち的には全然めげていない」と述べ、こうした状況の中でも心は折れていないと前向きであることを強調した。

 現在の状況については「今の車の短所はとにかく車が跳ねてしまうこと。冬のテストも最初の頃はそのような現象は出ていなかったのだが、バルセロナテストで走っているときに川井一仁さんがきて『可夢偉ちゃん、すごい車はねてるよ』って言うので確認したら確かにすごい跳ねてた。それから川井さんが来るレースずっと跳ねているから、もうレースに来ないでよってお願いしたいです(笑)」と冗談を交えながら、大きな問題になっていると語ってくれた。

 そうした状況を変える方策については「これまでの努力で跳ねるのもだいぶましになってきた。さらに次の中国グランプリからは新しいテクニカルディレクターのジェームス・キーが着任する。ジェームスはフォースインディアでも結果を残しているし、人が新しくなることで体制面のバージョンアップがあり、これが車の改善にも大きく貢献するものと期待している」と語った。

日本におけるF1の歴史を途切れさせないように頑張る
 「F1ドライバーになって変わったことは?」という質問に対しては、「正直今日の会見にしても1人しか来なかったらどうしようかと思ってました(笑)。こんなに人が来てくれてびっくりしている。ただ、注目されていること自体はよい意味でプラスに考えてなければ思っている」と、常に注目される存在になったことには若干の戸惑いを感じているようだ。「これまでは育成ドライバーという立場で正直甘えていた部分はあった。しかしこれからはプロに徹しなければF1ドライバーとして生き残れない。そうした意味での切り替えを行った」と、今後の課題を述べた。

 その中で自動車メーカーやタイヤメーカーなど日本の企業が次々とF1から撤退をしている、あるいは撤退を発表している現状について触れ「昨年まではコースに行くと日本人の関係者がいっぱいいた。しかし、今年はメディアの方を除けばほとんど自分1人という環境に置かれて、ある意味日本を背負って走るという状況になってしまっている。自分もそうだったが、テレビを見ると自国のドライバーがF1を走っているというのは、将来F1を目指す子供達にとって重要なこと。これまで日本のF1の歴史をつなげてきた人にも申し訳ないので、みんなで協力し合って次につなげていけるようにがんばっていきたい」と、日本におけるF1の火を消さないようしたいと述べた。

 また、「現在ザウバーに足りないものは何か?」という質問には「予算」と即答し、「今年の分は確保されているとはいえ、余分はないので開発過程も必要なモノだけに絞り込むなど厳しい状態。チームとしては性能向上に必要なものをよく考えて、それに効率よく使うように心がけている」と述べ、さらに効率のよい使い方の例として「この間マレーシアで借りたレンタカーなんて、これまで乗ったことないような25万kmも走った車だった(笑)。でも、よいレンタカーを借りることでパフォーマンスが向上するならそうするけど、そうじゃないからそれでよい」と述べた。

 そうした状況であるため、常にスポンサーを探しており「ぜひスポンサーになっていただける方がいらっしゃればお願いしたい」と、冗談を交えつつスポンサーを募っていた。

 「今年からザウバーチームが使っているフェラーリエンジンや、フェラーリについてどう思うか?」との質問が出されたが、「フェラーリと言えばイタリアのチームで、エンジニアとかにもイタリア人が多いです。ヨーロッパに来た最初の頃はイタリアに住んでいて、イタリア人の気さくなところには好感を持っていたので、すんなり入っていけました。チームとしてのフェラーリはどうかということですけど、やっぱりブランドだし、将来乗ってみたいというのはあります。でもそうしたチャレンジをするには、自分のほうも準備をしていかないといけない」と、将来のステップアップへの意気込みを語った。

10月開催のF1日本グランプリのポスターを持つ鈴鹿サーキットクイーン第32期生の古川みゆきさん。F1日本グランプリは10月8日~10日に開催される

10月開催のF1日本グランプリ
 最後に日本のファンに向けては、「今年のマレーシアグランプリでも日本のファンがたくさん来てくれていて大きな力になった。F1日本グランプリでは7年振りに日本でレースをすることになり、本当に楽しみ。日本以外のグランプリだと、国によってはファンがものすごい少ないところがあるが、日本グランプリはスタンドもファンがいっぱいで本当にありがたいです。それと同時にこれまではサーキットにきていなかったような新しいファンの方にもぜひレースを見に来てほしい。実際に見てもらえればF1ってこんなにおもしろいんだと分かってもらえると思う。その上で自分がよい成績を残せれば最高なんですが」と述べ、10月に開催されるF1日本グランプリをアピールした。

 このF1日本グランプリは10月8日~10日に開催され、観戦チケットの発売は、モナコグランプリの決勝日となる、5月16日10時から順次発売されるほか、ローソングループ各種会員を対象として、ローソンチケットを通じた先行販売が5月1日10時より行われる。

 チケットには一般的な観戦チケットのほか、小林可夢偉選手の特別応援席も用意され、特別応援席のチケット購入者にはオリジナル応援グッズも用意される。そのほか、アマチュアカメラマン向けのカメラマン専用シート、V1-2エリアの女性専用のレディースシートなど、各種の特別企画観戦チケットが用意される。チケットの詳細は、鈴鹿サーキットのWebページを確認していただきたい。

(笠原一輝)
2010年 4月 12日