首都高速道路、「首都高点検・補修デモ2010」開催
橋梁補修の作業現場を学生らが見学

高速湾岸線の工事用足場内で補修作業を公開

2010年6月3日開催



 首都高速道路は6月3日、学生や首都高モニター、マスコミを対象に、さまざまな点検方法の紹介や実際の補修作業を間近で見学できる「首都高点検・補修デモ2010」を開催した。この点検・補修のデモンストレーションは、5月19日~6月18日を「首都高施設安全月間」とし、首都高ウォッチングや施設安全年間標語の決定といった諸活動の一環として開催されたもの。この活動は2001年から毎年開催され、今年で10回目となる。

土木工学専攻の大学生が多数参加
 デモが行われた場所は、首都高速湾岸線の高速京浜大橋。空港中央IC(インターチェンジ)と大井南ICのちょうど中間にあたり、都心と空港、横浜を結ぶ約330mの橋梁だ。

 開始時刻が近づくと現場には大型バスが次々と現れ、多くの見学者たちが降りてきた。芝浦工大や日大、早稲田などの土木工学を専攻している大学生38名、首都高モニター20名が参加。6班に分かれ、それぞれデモが行われているブロックを回った。

 今回のデモは、保全業務全般やコンクリートの点検、鋼構造物の点検といった内容に沿って6つのブロックで行われた。それぞれのブロックで説明員が細かく解説、点検の実演が行われ、実際に点検機器に触れることもできた。

 最初のブロックでは保全業務について詳しく解説されていた。構造物の点検方法、点検で発見された損傷個所をどのように補修や補強するかといった流れをパネルを使いながら説明。目視による点検のほか、さまざまな機器を使っての点検、調査が行われているとのこと。以降のブロックでは、それら機器の解説、実際に機器を使った点検のデモンストレーションが行われた。

現場となった首都高湾岸線。東京国際空港(羽田)の近くで、首都交通の動脈といえる開会式の様子。学生など、総勢58名が参加した保全業務の解説を熱心に聞き入る学生たち

叩いて確認するコンクリート点検機器
 コンクリート構造物の空洞や亀裂などの調査では、ハンマーを使った「叩き点検」が用いられる。ハンマーでコンクリート面を叩き、その音の違いで内部構造の異常を確認する。しかし、足場が設置できない状況など、人による近接点検を行えない場合に使われるのが「簡易型高所用打音検査システム」だ。

 「簡易型高所用打音検査システム」は、ポール先端に取り付けた打検機にマイクを付け、その音をパソコン画面で波形表示、同時にヘッドフォンで打撃音を確認する。打検機は、機械的に打撃球を叩く構造で、ハンマーと同様の点検ができる。約10mの高さまでの使用が可能という。

 デモンストレーションでは裏面を一部くりぬいたコンクリートを使用。打検機の叩く音の違いを実演していた。

簡易型高所用打音検査システム端ではこもっていた音がコンクリートの中央部分で抜けるように聞こえるデモンストレーション用のコンクリート裏面

ハイビジョンカメラを使ったコンクリート点検
 打検機と同様に、足場が設置できないような状況の高架下などで、視認による点検を行うための「簡易型高所点検用軽量ポールカメラ」も参加者の注目を集めていた。これはポール先端にリモート雲台とビデオカメラを取り付け、手元の操作でパン(水平方向にカメラを動かす)やチルト(垂直方向にカメラを動かす)、ズームなどの操作ができるというもの。6m以下の点検に有効とのこと。

 デモンストレーションでは実際にポールを伸ばし、高架下の様子を撮影。使用しているカメラがハイビジョンということもあり、かなり鮮明な映像を見ることができた。残念ながら今回は実機を見られなかったが、6~10mの高所・狭隘部の点検ができるCCDカメラを使った「ポールカメラII型」もあるという。

地表から高架下まで伸びるポール。先端にカメラが付いているポール先端に取り付けられたリモート雲台とビデオカメラ
手元のモニターで確認しながら雲台やカメラを操作できるライトも搭載されたHDビデオカメラが使用される

赤外線や電磁波を使った点検機器
 建造物の内部の点検機器として、赤外線カメラも紹介された。日差しなどで暖められた構造物は、空洞などで熱伝導が妨げられると表面温度に差が生じる。外部からは見えない空洞や滞水個所があっても、赤外線カメラを使えば表面温度の差を色の違いとしてはっきりと視認できるようになるという。デモンストレーションでは金属の構造物に水を入れ、赤外線カメラで撮影。表面からではまったく分からなかったが、モニターに映し出される映像では明らかな温度差が見てとれた。コンクリートの内部に空洞がある場合も、同様に色の違いとして表示されるとのこと。

 目視できない内部の点検機器としては、ほかにも電磁波レーダ法が紹介されていた。これはコンクリートの中にある鉄筋などの鋼材を探査するもので、位置や深さを細かく調査できる。コンクリートの補修や調査をする場合に、鉄筋などを傷つけない点でも有効だとのこと。

赤外線カメラ。一般的なビデオカメラよりふた回りほど大きい水を入れた構造物を撮影。外見からは滞水していることがまったく分からない明らかな表面温度の差を赤外線カメラはとらえている
電磁波レーダの測定器。コンクリート面上で転がすようにして測定する測定結果は、鉄筋の位置や深さなどmm単位で表示される

補修工事の実際。高架下の工事用足場内へ
 いよいよ、今回のデモンストレーションの目玉といえる補修現場の見学となった。見学内容は、高速京浜大橋高架下で発見された疲労亀裂を補修するというもの。疲労亀裂とは、力が集中したり繰り返されたりする場所で発生する「疲労損傷」の一種。京浜大橋のような薄い鋼板を溶接して組み立てられた鋼床版橋は、8cm厚のアスファルト舗装の下に12mmの鋼床版(デッキプレート)、それを補強するU字型をした縦リブという構造。この鋼床版と縦リブの溶接部に疲労亀裂が発生するという。

 取材陣はヘルメットや安全帯を貸与されて装着。高架下の足場まで昇降階段を上っていく。登り切ると、京浜大橋とほぼ同じ面積の足場が作られていて、眼下には京浜運河が流れている。橋のため下から支えるのではなく、無数の鎖でつり下げられている。立って移動できる高さの場所もあれば、屈まなくては通れない場所もあり移動もままならない。それでもこの現場はまだましな方で、はいつくばらないと移動できないような現場も存在するとか。

高架下に設置された工事用の足場。下に流れるのは京浜運河頭をぶつけそうになりながら、階段を上っていく足場は、場所によっては屈まなくては通れない高さ

 橋の端から数10m移動し、最初の補修個所にたどり着いた。そこで生じているのは、縦リブの溶接部から5cm程度の亀裂。まずは亀裂を視認するため「磁粉探傷試験」が行われた。これは電磁石を使って液体状の蛍光磁粉を亀裂に集め、ブラックライトを照射してキズを光らせるという方法。ここの亀裂も、ライトをあてて明るくするより磁粉探傷試験で蛍光磁粉を光らせた方が分かりやすかった。

 亀裂の先端が確認できたら次は補修開始。今回の補修で行われたのは「ストップホール法」というもので、亀裂の先端に穴を開け、丸くすることによって応力を分散し亀裂の進展を防ぐ。電磁石で鋼材に固定される磁気ボール盤を使って直径20mmの穴を開ける。その後、棒グラインダーにゴム砥石を付けバリ取りをし、表面をツルツルする。これをしないとバリから新たな亀裂が発生してしまう恐れがあるという。

縦リブの溶接部に発見された疲労亀裂ブラックライトをあてて蛍光磁粉で確認磁気ボール盤を使い、亀裂先端に穴を開ける
穴は、この後さらに磨く工程が必要となる亀裂をもう一度「磁粉探傷試験」で確認するこれがボール盤で切り取った亀裂の先端部分

 続いて場所を移動し、小さな入口から橋の内部へ入った。そこはすでに補修工事を終えた個所で、縦リブが取り換えられていた。微細な亀裂の場合はストップホール法で補修するが、亀裂が長い場合は、縦リブを部分的に取り換えるという。この縦リブ交換は鋼床版の上からもボルト止めが必要で、そのためにアスファルトをはがさなくてはならない。車線規制なども必要なため、かなり大がかりな作業になるようだ。

 大きな亀裂や大規模な損傷はそれほど多く発生するわけではないが、ストップホール法で防止できる程度の小さな亀裂は数多くあるという。この京葉大橋も供用開始から17年が経ち、大型車の交通量も多いとあって疲労亀裂が多数発生している。普段なにげなく利用している首都高速の橋梁も、このように地道な保全業務によって安全が確保されているということを実感できるイベントだった。

橋梁内部に移動。中は真っ暗で狭いすでに補修された縦リブ。9mmの縦リブよりも厚い12mmの鋼板が使われる
切り取った縦リブや、これから交換する新品(手前)が置いてあった交換のため切り取られた縦リブだが、ストップホール法の跡がよく分かる

(政木 桂)
2010年 6月 4日