デロイト トーマツ、「EVへの消費者意識調査」を発表
ユーザーが求めるEVと、現実のEVのギャップを埋めるには

デロイト トーマツ コンサルティング 自動車セクターリーダーの久保島悠氏

2010年6月17日開催



 デロイト トーマツ コンサルティングは17日、「電気自動車(EV)に対する意識調査」の結果を発表。同日、都内の同社において、この調査についての報道関係者向けのセミナーを開催した。

 EVが次々と発売・発表され、電動モビリティへの関心が高まる中で、消費者がEVをどのように捉えているかを調査することで、EVが受け入れられる可能性と、普及への障害を探るもの。3月13~15日に、日本の20~69歳の男女2075人にインターネットで調査した。

調査結果を発表した同社の尾山耕一シニアコンサルタント

現状のEVは消費者の期待から大きく乖離
 調査によると、消費者は自動車を移動手段・道具として捉えており、ステータスシンボルや憧れ、自己表現手段という意味は薄れていることが分かった。これに伴い、自動車を購入する際に重視するポイントは、ブランドやスタイル、性能よりも、価格・燃費を重視するように変化している。

 こうした中、EVは「環境に優しいが高価」というイメージを持たれており、購入の障壁となる理由も「高価なこと」「航続距離が短い」「充電が難しそう」となる。

 消費者が期待するEVは、価格が「250万円未満」、航続距離「320km以上」、そして「ガソリンスタンドなみに整備された充電インフラ」。現状ではリーフの価格(補助金適用後)と航続距離が299万円・160km、i-MiEVが284万円・160kmであり、充電インフラは整備が進んでいるものの、ガソリンスタンドなみではなく、希望を満たせていない。

 価格については、初期費用を抑えてその分をランニングコストに転化したり、ランニングコストを含めたトータルでの経済効果の高さを訴えるなどの対策が考えられる。

 航続距離はバッテリーなどの性能に依存するものだが、一方でほとんどのドライバーが運転する距離は、実際には1日当たり80km以下で、320kmが過大な航続距離であり、160kmで十分と納得させる余地もあるとしている。

調査の概要自動車はステータスシンボルから道具にEVのイメージは「環境に優しいが高価」
価格と航続距離、充電インフラが購入の障壁に消費者の希望と現実のEVにはギャップがあるギャップを埋めるため、ベンダーと消費者双方が歩み寄り、新しい着地点を創出する必要がある

EVの新たな使い方には不安が
 EVは従来のクルマとしての機能だけでなく、公共交通システムに組み込まれたり、大規模な電力網(スマートグリッド)を支える要素としても期待されている。

 この中で、新たな交通システムとして考えられているEVシェアリングは、自動車を保有していない消費者に限れば6割が魅力を感じているが、好きなときに使えるか、手続きはめんどうでないかなど、「利用のしやすさ」に対する懸念が大きいことが分かった。したがって、手軽に使え、万人に快適なルールが作られることが、EVシェアリング普及のカギとなるとしている。

 一方、EVをスマートグリッドの電力バッファとして使うことについては、消費者は必要性を感じているものの、自らにどのようなメリットがあるのかという疑問や、安全性やバッテリーの消耗に不安を感じる意見があった。

 この結果に基づき同社は、2020年のEV普及率を1%程度と予測。一方、環境省は同年に10%を目標としているが、これを達成するには購入インセンティブ、技術開発支援、インフラ整備、ガソリン価格上昇といったように、政府が環境の変化を促す必要があり、また、EVベンダーは車両価格の低下、ラインアップ拡充、電池の高性能化、充電しやすさの向上に務め、消費者は価格や航続距離、インフラについての意識を改める必要があると提言している。

 なおこの調査は米国デトロイトでも1612人を対象に行われており、日本と同傾向の結果が出ているが、米国の方が購入意向が強く、さらに希望する航続距離は2倍の640kmとなっている。

EVの新しい使い方であるシェアリングには、期待が大きい反面、不安もEVをスマートグリッドに接続し、蓄電池として利用する必要性は感じるが、メリットや安全性、耐久性に不安

 

佐瀬真人氏

次世代自動車普及で自動車産業は乱世に
 セミナーではこのほか、同社の佐瀬真人氏による「電気自動車普及に必要な複合的な視点」と、周磊氏による「中国自動車産業におけるHV/EV動向」と題した講演が行われた。

 「電気自動車普及に必要な複合的な視点」は、EVなどの次世代自動車により、自動車産業がどのように変化するのかを説明するもの。自動車産業では、市場が先進国から新興国にシフトし、クルマの性能が成熟してコモディティ化し、クルマの構造がモジュール化され、スタンドアローンであったクルマがネットワークに組み込まれるといった変化が起きる。

 これらにより、これまで自社ですべてを開発する「垂直統合型」だった自動車産業に、IT産業のように何社かの製品を組み合わせて1つの製品を作る「水平分業型」の構造が持ち込まれたほか、自動車の低価格化と価格競争、これに伴う収益性の悪化などが見込まれる。また、ハイブリッド車(HEV)で先行し、EV普及にも乗り出した日本に対し、欧米、中国はEV、HEVに注力し、グローバルな競争の激化が見込まれる。

 さらに自動車がネットワーク化されることで、ITやエネルギー、交通システムといった産業が、自動車産業に「浸食」「融合」することで、自動車産業がほかの産業のプレーヤーに攻め込まれるリスクが発生するとした。

次世代自動車により起こる自動車産業の変化先行する日本に、欧米中もHEV/EVを投入自動車産業外からの浸食と融合も

 

周磊氏

中国もEV普及に加速
 「中国自動車産業におけるHV/EV動向」では、世界最大の自動車市場であり、さらに拡大が見込まれる中国が、EVなどの次世代自動車にどのように取り組んでいるかを説明。

 2020年には中国での年間自動車販売台数は2000万台に及び、そのうち10~15%が次世代自動車になると見込まれている。次世代自動車については、中央政府と地方政府による支援が行われており、さらに海外との提携により技術開発を進めている。特にこの6月1日には中央政府が、個人向けのEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)の購入補助施策を発表している。

 また中国では現在、地方の中小都市でほぼ黙認に近い形で生産されている低価格な低速小型EVと、ハイエンドのEVが生産されているが、これらはミドルレンジのEVに収斂し、普及拡大すると見ている。

 EV/HEVの主要部品で見ると、中国はリチウムやレアアースの調達が容易なこと、労働力などのコストが安いことなどから、バッテリーやモーターは先進国並みの水準を持っているが、インバーターや制御技術、量産技術では遅れをとっている。したがって、日系企業は中国系企業の技術未成熟な領域にフォーカスし、積極的な技術供与と、新技術開発を検討しつつ、低コストな中国での生産を推進すべきと提言した。

2020年には2000万台市場に、うち10~15%が次世代自動車に中央政府と地方政府が次世代自動車普及を支援
EVは将来的にはミドルレンジに収斂する中国自動車産業のHEV/EVにおける特性日系企業に中国系企業との関係構築を提言

(編集部:田中真一郎)
2010年 6月 18日