SUPER GTにタイヤを供給するミシュラン
「タイヤ競争が激しいSUPER GTだからこそ参戦する意味がある」


 日本のトップ3の自動車メーカーが激しい競争を続けるSUPER GTだが、その足下ではもう1つの激しい競争が繰り広げられているのを読者の皆さんはご存じだろうか? 文字どおりレーシングカーの足下を支えるのがタイヤだが、SUPER GTにはGT500にブリヂストン、ダンロップ(住友ゴム工業)、横浜ゴム、ミシュランの4社、GT300には横浜ゴム、ダンロップ、ミシュラン、ハンコックの4社が参戦しており、世界でも類を見ないタイヤの開発競争の激しいシリーズとなっているのだ。

 このSUPER GTで、GT500の23号車 MOTUL AUTECH GT-R、GT300の43号車 ARTA Garaiyaと74号車 COROLLA Axio apr GTの3車にタイヤを供給しているのが、フランスのタイヤメーカーであるミシュランだ。ミシュランは、日本のブリヂストン、米国のグッドイヤーと並ぶ世界の3大タイヤメーカーの1つで、モータースポーツにも古くから取り組んでいる。2006年まではF1にも参戦していたことを記憶している読者も多いだろう。

ミシュランタイヤを装着するSUPER GTマシン。左からGT500の23号車 MOTUL AUTECH GT-R、GT300の43号車 ARTA Garaiya、同じくGT300の74号車 COROLLA Axio apr

 今回は、ミシュランの日本法人となる日本ミシュランタイヤで、モータースポーツマネージャを務める小田島広明氏に、ミシュランがなぜSUPER GTに参戦するのか、夏場に強いミシュランという定評は本当なのか、などについてお話を伺ってきた。

日本ミシュランタイヤ モータースポーツマネージャ 小田島広明氏

世界的に見ても最も競争が激しいからこそSUPER GTに参戦する
 ミシュランはフランスに本社を置く企業であり、ヨーロッパの人々が言うところの“極東”に位置する日本のSUPER GTに参戦するということには、なんで?という思いを持ちたくもなる。実際、ヨーロッパのレースにおけるミシュランの存在は圧倒的で、現在では当たり前になっているラジアル構造のタイヤをレースに持ち込んだのもミシュランであり、1980年代前半にはF1を席巻したほか、1990年代から現在までのル・マン24時間レースではほとんどの年でミシュランタイヤを装着したマシンが凱歌を上げている。

 そうしたミシュランが、なぜ日本までやって来て、わざわざレースに参戦しているのだろうか? 「SUPER GTに参戦する理由ですか? それはSUPER GTが世界的に見てもタイヤ戦争が激しいものであるからです」と小田島氏はミシュランが日本のレースに参戦する理由を明快に説明する。

 これには若干の解説が必要だろう。現在グローバルな視点で見れば、SUPER GTのようなタイヤ戦争が激しいレースシリーズというのはほとんどないという現状をまず知っていただきたい。例えば、F1はミシュランが撤退した2006年を最後に、2007年からブリヂストンのワンメイクで、来年からはイタリアのピレリのワンメイクとなる。選手権も同様で、WRCはピレリ、WTCCは横浜ゴム、インディカーはファイヤストン(ブリヂストンの米国子会社)など、世界の主要なシリーズはみなワンメイクとなっているのだ。

 そのような潮流になっている理由の1つとしては、世界的な景気後退などもあり、スポンサーの減少が相次ぎ、どのシリーズもコスト削減に取り組まざるを得ない状況になっている。その場合、真っ先にやり玉にあがるのがタイヤで、1つのメーカーに絞り込むことでタイヤ開発にかかるコストを削減しようという考え方が主流になっているのだ。


 これに対して、SUPER GTでは古くからタイヤメーカーがスポンサーの1つであったうえ、タイヤメーカーにとって魅力的なシリーズたらんとしてきた歴史があるため、タイヤをワンメイクにするという動きはこれまでなかった。このため、GT500/300クラスをあわせると5メーカーものタイヤメーカーが参戦しているという、世界でもっともタイヤ戦争が激しいメジャーなシリーズになっているのだ。「ミシュランとしては、レースには競争があるべきだと考えています。日本のSUPER GTは日本の優秀なタイヤメーカーも参加しており、そうした中で勝利するということに大きな価値があると考えているのです」(小田島氏)と述べるように、ミシュランは競争があるからこそSUPER GTに参戦しているのだ。


SUPER GTで利用されているミシュランのレーシングタイヤ

GT500には現在は1台のみの供給だが、理想は2台以上への供給
 今年ミシュランは、GT500ではニッサンワークスのMOTUL AUTECH GT-Rへタイヤを供給している。13台出走しているGT500のうち1台のみというのは、不利ではないのかと思ってしまうのだが、どうなのだろうか? 小田島氏によれば「メリット、デメリットの両方があります。メリットは1台に特化できるので攻めたタイヤが作れます。デメリットは1台しかないことで、指標を見失ってしまう可能性があることです」と語る。特に昨年くらいからSUPER GTでのシーズン中のテストがほとんどなくなり、レースの週末も金曜日のフリー走行の時間がなくなったことで、タイヤのテストに当てられる時間がなくなってしまっているのだ。

 そうした意味では、供給する台数が多ければ多いほどデータが増えるため、より開発が効率よく進められると言えるのではないだろうか。実際、小田島氏もそれは否定せず「我々としては2台以上が望ましいと考えています。現在来年に向けて交渉中です」と述べ、供給枠を広げていきたいという意向を明らかにした。


SUPER GT第6戦鈴鹿でのパドック。パドックに設置されているミシュランのガレージでは各チームに供給されるタイヤを組み上げている

 その状況でもミシュラン(MOTUL AUTECH GT-Rは、と言い換えてもよいが)はなかなかの結果を残してきた。開幕から数戦は不運なトラブルなどもあり結果が残せなかったのだが、第4戦のセパンで2位に入賞、第5戦の菅生は終盤のトラブルで6位に終わったものの、ポールポジションからトップを快走し、もう少しで優勝という活躍を見せた。そのリベンジは、このインタビューを行った第6戦の鈴鹿で果たし、見事に2位入賞を果たしている。


夏場に強いミシュランって、本当なの??
 なお、ミシュランというと、よくテレビ放送などでアナウンサーが「夏場に強いミシュラン」などの形容詞つきで呼ぶことが多く、路面温度が高いときに特に強いという印象があるのだが、実際のところどうなのだろうか?

 小田島氏によれば「肯定も否定もできる」とのことだった。「前向きに考えると、シーズンの1/3~1/2を占める夏場に、特定ブランドのタイヤを履いていると優位だというメーカーはほかにないので、光栄なことだと考えています」と、夏場に強いという定評そのものは前向きに捉えているようだ。

 ただ、夏場に強いということは、夏場以外はダメなの?とも言うことができ、そのあたりをどのように覆していくかが課題ともなっているようだ。実際、今年のMOTUL AUTECH GT-Rの結果は、まさに“夏場に強いミシュラン”を裏付けるように、暑くなってからのセパン、菅生、鈴鹿の3戦でいずれもよい成績を残しているのも事実だ。

 これについては「GT500には昨年から参戦を再開したのだが、昨年はハセミモータースポーツ、今年はNISMOと同じワンカーでもチームが変わっており、これが序盤に苦戦した理由の1つになっています。実際には、第2戦の岡山でよいセットが見つかっており、その後の不運で結果は残っていないが、決して夏場じゃなければダメということはないと思います」(小田島氏)と、夏場だけでなく、これから涼しくなるシーズンでも十分戦えると強調した。

プロモーションという意味では、最も有名なミシュランの社員である“ビバンダム”のことも忘れることはできない。日本ミシュランタイヤの広報担当者によれば、ビバンダムと呼ばれているのはフランス国内だけで、フランス国外での正式名称は“ミシュランマン”とのことだ。なので、日本でもミシュランマンである

 ミシュランにとって、SUPER GTに参戦することは、プロモーションという意味合いももちろんある。「ミシュランはグローバルな企業で、ヨーロッパだけでなく、北米、そして日本を含めたアジアを重要な市場だと考えています。その中でも日本を重要視しており、開発センターを日本において日本の需要をリサーチしながら製品を作っています。そうした日本でのレース活動というのは、非常に意味があると考えています」(小田島氏)とのとおり、ミシュランでは日本にわざわざタイヤを開発するための開発センターを設けるなど日本市場を重視しており、そうした文脈の中でのSUPER GT参戦でもある。

 その意味で、ここ数戦のMOTUL AUTECH GT-Rの活躍は、その目的に大きく貢献しているということができるのではないだろうか。次戦のSUPER GTは9月11日、12日に富士スピードウェイで開催される。ドライバーや自動車メーカーの戦いだけでなく、タイヤメーカーによる争いにも興味を持って見ると、より一層レースを楽しめるだろう。


(笠原一輝)
2010年 8月 30日