トヨタ、軽自動車市場参入について記者会見を開催
ムーヴ・コンテとハイゼットをOEM。残り1車種は未定

トヨタの一丸副社長(右)とダイハツの伊奈社長

2010年9月28日開催



 トヨタ自動車は9月28日、ダイハツ工業から軽自動車のOEM供給を受け、国内軽自動車市場に参入すると発表した。同日夕方、トヨタの一丸陽一郎副社長とダイハツの伊奈功一社長がトヨタ東京本社で記者会見を開き、詳細を説明した。

 既報どおり、トヨタはダイハツから軽自動車3車種のOEM供給を受け、2011年秋以降にトヨタブランドで発売する。供給を受ける台数は3車種合計で6万台となっている。

 また、トヨタのHV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)など環境技術分野において、国内で協業することについて、2011年末までに具体的な商品・技術を決定するとしている。

3車種目は未定
 OEM供給される車種として決まっているのは、乗用車の「ムーヴ・コンテ」と、商用車の「ハイゼット」。もう1車種は検討中で、2011年中に決める。したがって3車種が揃うのは2012年ということになる。

 残りの1車種の候補としては、スバルもOEMを期待しているという「e:S」(イース)が考えられ、伊那社長も「候補の1つ」と認めた。

 e:Sは2009年の東京モーターショーに出展され、2011年の販売が計画されている軽自動車で、小型軽量化やパワートレーンなどの高効率化により、ガソリンエンジンのみで30km/Lの燃費を目指している意欲作。

 伊那社長は「タントを含めスペースの広い車は、1つの商品のコンセプトとして正解だったと思うが、“地方の足”ということから見ると大きすぎるところもある。e:Sのような、100万円を切って30km/Lくらい走る車を作って、もう1回、軽の存在価値のある、庶民の足となるクルマを作るのが我々の責務」と言う。

 しかしe:Sは「投入時期も決まっていない。まずはダイハツが来年、独自に出す」という方針があり、OEM供給するかどうかは未定と言う。スバル、トヨタへの同時供給も、「スバルとトヨタは違う。棲み分けのために、同じクルマを両社に出すことはない」とした。

ムーヴ・コンテハイゼット カーゴe:SはOEM供給候補の1つ

トヨタも無視できない、軽自動車の比率
 国内におけるトヨタの年間販売台数(2009年実績)は約138万台。これに6万台の軽自動車を加える形になるが、一丸副社長は参入決定の理由を「マーケットにおける軽の比率が上がってきた。トヨタでも軽に変わっていく顧客が増えていた」と言う。

 トヨタは国内大手乗用車メーカーでは唯一軽に参入せず、また軽自動車の税制上の優遇に批判的でもあったが、「(軽自動車の販売により)トヨタと販売店に引き続きおつきあいいただける。またグループ会社であるダイハツの生産増にも貢献できる」メリットをとって、軽市場参入を決めた。

 両社には、「TAD」(トヨタ・アライアンス・ダイハツ)という販売提携があり、ディーラーで顧客を紹介しあう契約を結んでいる。これによってトヨタは年間約3万台のダイハツ車を販売しているが、「TADでトヨタが軽を扱っているということは、ほとんど知られておらず、知らずによそに行く顧客もいるので、(トヨタが軽を扱っていることを)明確にしたい」と言う。

 なお軽自動車の取り扱い店舗は全国のカローラ店、ネッツ店。また、新車販売のうち軽自動車の比率が50%を超える県(四国全県、福岡を除く九州全県、鳥取、島根、秋田、青森、計15県)のトヨタ店、トヨペット店となっている。しかし、展示するのは全国で約300店舗に限られる。

軽自動車市場活性化とラインアップ拡充がダイハツの狙い
 一方ダイハツにとってトヨタの販売力は脅威であり、伊奈社長も「競争はたいへん激化すると認識している」と言う。しかし、「いろいろな形でシミュレーションしているが、全体としてはそんなに大きな影響はないと見ている。スズキが日産にOEMしたときも、スズキの量は減らず、OEM分だけ増えている」とし、「トヨタが扱うことで、軽自動車の存在感が高まる。軽として生き残っていかなければならない。軽そのものを増やしていきたい」と、軽自動車市場の活性化や拡大が期待できることをメリットとして挙げる。

 また、トヨタの環境技術を得られることもメリットの1つ。伊奈社長は環境技術での協業について「登録車のHVのOEMも視野に入れて検討している」と述べ、「HVを軽自動車で展開するのはきわめて難しい。登録車のHVをOEMしていただくのが我々の戦略」とした。

 販社からはOEM供給台数への心配が多数寄せられたが、「6万台と言えばダイハツの年間国内販売台数の約1割。販社への影響を考えて6万台と決めた。これはトヨタとの約束でもあり、販社との約束でもあるので、これを超えることはない」と、供給台数の背景を説明。「(OEM供給の)意義は軽のファンを増やし、ダイハツにはないHVのようなもののOEM供給を受けること。軽であれ登録車であれ、クルマはエコカーになっていく」と販社に説明したと言う。

 なおEVについては「いい技術だと思っている。小さいクルマに向いている。ただ軽そのものにとって代わることは、今は考えにくい。航続距離のために、たくさん電池を積まなければならない。軽は100万円くらいの価格で、数100km程度の航続距離の商品。EVをそのまま軽には展開できないが、もう少し航続距離を減らすなどすれば可能性がある。EVは軽と棲み分けられるだろう」と述べた。

(編集部:田中真一郎)
2010年 9月 28日