スバル、新世代水平対向エンジン「FB型」説明会
ロングストローク化を図り、燃費性能を10%アップ

第3世代水平対向4気筒エンジン「FB20型」

2010年9月29日開催



 スバル(富士重工業)は9月29日、21年ぶりに全面刷新した新世代水平対向エンジン「FB型」の説明会を東京本社で開催した。このFB型は、2リッターのFB20型と、2.5リッターのFB25型があり、国内市場ではFB20型をフォレスターから搭載していく。

 スバルというと、すぐに水平対向エンジンが思い浮かぶほど、同社のコア技術となっている。この水平対向エンジンは、1966年のスバル1000に第1世代水平対向4気筒 OHV 1リッターの「EA52型」を搭載。第2世代の「EJ20型」は、OHCや、DOHCとなり、1989年の初代レガシィから搭載され、排気量の変更やターボ化の派生型を含め、インプレッサ、フォレスターなど軽自動車を除く同社の乗用車の大きな特徴となっている。

スバルにおける水平対向エンジンの位置づけ水平対向エンジンのメリット水平対向エンジンを搭載するスバル車の特徴
第1世代水平対向エンジン第2世代水平対向エンジン第3世代水平対向エンジンとなるFB型。環境性能の引き上げが主なテーマとなっている

富士重工業 エンジン設計部 白坂暢也氏

 説明会において富士重工業 エンジン設計部の白坂暢也氏は「ボクサー(水平対向)エンジンは、スバルブランドの象徴。第3世代のエンジンでは燃焼効率を追求することで、環境性能を引き上げた。今回やっとロングストローク化できた」と言う。

 スバルの水平対向エンジンは、これまでボア(ピストンの直径)がストロークより大きいショートストロークタイプのエンジンとなっていた。これは一般的に、エンジンの高回転化には有利なものの、中低速のトルク向上には不利となる。燃焼効率を上げるためにはさまざまな方法があるが、燃焼室をコンパクトにでき、中低速トルク向上に有利なロングストローク化はその有効な手段であり、各社とも近年はロングストロークタイプのエンジンを市場投入していた。

 スバルの場合、水平対向エンジンを左右前輪の間に搭載するという制約もあって、単純にロングストローク化することはできなかった。

 そのため、全面刷新した第3世代のFB型では、ボアを92φから84φに小型化するとともに、コンパクトな燃焼室形状へ変更。バルブ駆動もカムシャフト配置の自由度を上げるため直打式からロッカーアームを利用するタイプへと変更し、バルブ挟み角を41度から27度へ狭角化。吸気側と排気側のバルブ間隔を126mmから104mmへと狭め、コンパクトなシリンダーヘッド形状とすることで、ストローク量を75mmから90mmとしたロングストローク化を実現した。これにより、ストローク/ボア比(S/B比)は、EJ20の0.82から1.07になっている。また、圧縮比は10.2から10.4へと向上している。

 このロングストローク化の目的は、燃焼改善による中低速のトルクや燃費性能の向上にあり、吸気側・排気側への可変バルブタイミング機構「AVCS(Active Valve Control System)」採用、吸気系への「TGV(Tumbule Generated Valve)」採用、EGRクーラーの採用などにより、燃費性能をEJ型と比べ約10%向上。燃焼が改善し、排ガス性能が向上したことで触媒のレアメタル使用量を約30%削減し、触媒コストは約50%減少したと言う。


第3世代水平対向エンジンの特徴エンジンサイズは同等ながら、ロングストーク化を実現燃焼室はコンパクトになった
ピストンとコンロッドは約20%の軽量化を実現吸気系・排気系ともに可変バルブタイミング機構のAVCSを採用EGRガスを冷やすことでEGRの充填効率を改善。結果燃費性能が向上
第2世代の水平対向エンジンに比べ、大幅に燃費性能を改善している。縦軸の燃料消費率は、単位馬力あたりの消費率ガソリン1Lあたりの燃費性能では、約10%の改善燃焼効率が改善したことにより、排ガス性能がよくなった。その結果、触媒に使用するレアメタルが減少した
グラフはアクセル全開時の数値。低中速トルクの速い立ち上がりにより、実際の実用域での動力性能の違いは分かると言うアクセルの踏み込み量に対するレスポンスも向上。より早く、大きな加速度を得られる

 エンジンサイズについては、現行車両への搭載互換性が図られていることもあり、第2世代とほぼ同等。振動面についても、ボアの小径化もあって爆発時の気筒内圧力は上昇したものの、クランクマスなどの変更で同等となっており、エンジンマウントについても特別な変更を必要としていない。

 ただ、エンジン重量については、ピストンやコンロッドで約20%の大幅な軽量化が図られているものの、ロッカーアームの採用、タイミングベルトのチェーン化によるメンテナンスフリーの実現などもあり、約4kgの増加となっている。これについて白坂氏は「吸気系・排気系にデバイスを追加して燃焼改善を行っており、同様の燃焼改善をEJ型で行ったらさらに重くなっただろう」と述べた。

FB型では、補機類のベルトは2本から、1本のサーペンタイン方式に変更された樹脂製のインテークマニホールド
エンジン左バンクのアップ。AVCSが吸排気の両方に付く。上が吸気側、下が排気側左バンクのヘッドカバー
EJ20(左)とFB20(右)のピストン。ボアは92φから84φと小径化された。燃焼室形状も大幅に異なるスカート部が狭くなっているのが分かるほか、バルブリセス(吸排気バルブと干渉しないための凹み)の角度が異なるのが見て取れるピストンピンのサイズも異なるとのこと
EJ20(左)とFB20(右)のコンロッド。ピストンピンのサイズの違いが分かるFB20のコンロッド。斜めになっているのは、ロングストローク化に伴い、エンジン組立行程を変更したためEJ20のコンロッド
FB20のシリンダーヘッド(写真左)と、EJ20のシリンダーヘッド(写真右)
FB20(写真左)とEJ20(写真右)では、燃焼室形状が異なり、FB20は浅く円に近い形状となっている。EJ20は典型的なペントルーフ形状
FB20(写真左)とEJ20(写真右)のシリンダーヘッドをカム側から撮影。FB20はヘッド本体とカムキャリアが分割構造となったため、外観が大幅に異なる
EJ20(左)とFB20(右)のクランク。右のFB20では、クランクマスが厚く(重く)なっている。これは、気筒内の爆発圧力向上に対応するため薄い板状のものが、吸気側に設けられたTGV。これにより燃焼効率の改善を図るFB20の樹脂製インテークマニホールド
FB20のEGRユニット。水冷による冷却機構を持っており、EGRの充填効率を高めるEGR用排ガス流入部EGR用排ガス流出部

 このFB20、FB25は自然吸気タイプのエンジンとして設計されており、ピストンやコンロッドの軽量化も、それを前提に行われている。ターボエンジンについては、これまで同様EJ型の第2世代水平対向エンジンを用いていくと言う。

 また、このFB型エンジンは、今後のスバルエンジンの基本となるもので、直噴化やハイブリッド対応なども、このエンジンをベースに行われていく予定だ。

(編集部:谷川 潔)
2010年 9月 29日