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SUPER GTに導入予定の共通KERSシステムとDTM共通規定

GTアソシエイション坂東代表の記者会見より

GTアソシエイション代表取締役 坂東正明氏
2010年10月24日開催

 SUPER GTを主催するGTアソシエイション(以下GTA)は10月24日、SUPER GT最終戦が行われたツインリンクもてぎで記者会見を開催した。会見にはGTA 代表取締役の坂東正明氏が出席し、10月上旬に同サーキットで行われたタイヤテストで公開したザイテック製KERS(Kinetic Energy Recovery System:運動エネルギー回生装置)を搭載したホンダのNSXについての見解や、英AUTOSPORT誌Web版が報じたSUPER GTの車両規定のDTM(Deutsche Tourenwagen Masters:ドイツツーリングカー選手権)とのレギュレーション共通化前倒しの件について、記者からの質問に答えた。

共通KERSの導入

 これまでもGTAはKERSを共通システムとしてSUPER GTの車両に装着したい意向があることを何度も表明してきた。ただ、それはあくまで意向表明だったのだが、10月6日と7日の2日間にわたってホンダが走らせたテスト車両(NSXをFRに改造した特別車)に、ザイテック製KERSを搭載し走行。KERSの導入が“構想”から“現実”へと変わりつつある。

 ホンダの車にのみ搭載されたことについて坂東氏は、「もともとGTAとしては指定共通部品として2012年からKERSをやりたいという意向をメーカー間の話し合いの場で提案していた。全メーカーに対して協力をお願いしたところホンダさんが手を上げてくれたため、今回のテストになった」と述べ、あくまでGTA主導のテストであり、それにホンダが協力する形であるということを強調した。さらに、11月にもう1度テストを予定していることを明らかにし、「前回のもてぎテストでは、メディアの皆さんに対するお披露目という意味もあったので公開でやったが、次回のテストは非公開になるだろう」と語った。

環境を前面に押し出したいGTA

 このザイテック製KERSが指定共通部品になるのかに関して坂東氏は、「話し合うべきことは少なくない。3メーカーそれぞれの思惑もあり、指定共通部品にするには時間がかかる」と述べ、現時点では2012年からGT500クラスに参加する3メーカー(トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業)が合意し、導入できる見通しは立っていない。

 よく知られているように、SUPER GT500クラスのレギュレーションは、トヨタ、日産、ホンダの3社が話し合って決められており、3社それぞれの利害が一致しなければ新しい規則を導入するのは難しいと考えられている。GTAのテストに協力しているホンダがこのシステム導入に関して異論がないことは間違いないとして、トヨタ、日産がその話に乗れるかどうかが焦点になってくる。

 KERSは、エネルギー回生装置であるため、市販ハイブリッド車にも同様の働きをするものが積まれている。メーカーにとって、KERSをモータースポーツで利用することに大きな意味があることは言うまでもないが、トヨタのように市販ハイブリッド車で技術的に先行しているメーカーにとって、他社製のKERSを自社のレーシングカーに搭載してレースするというのはブランドイメージの上でどうなのかという議論は当然あるだろう。坂東氏は何が“3メーカーそれぞれの思惑”であるかについて語らなかったが、おそらくその辺りが問題になるのだと思われる。

 GTAにとってKERSを導入するメリットは、エコや環境への取り組みが問われる社会情勢の中にあって、モータースポーツとして無縁ではないというイメージを打ち出せることにある。実際、GTAはツインリンクもてぎで開催したSUPER GTの最終戦において、トヨタ、日産、ホンダの協力を得、グランドスタンド裏で燃料電池自動車(FCV)の展示を行った。

 また、土曜日の予選日にはキッズウォークで燃料電池自動車の試乗体験走行を行うなど、環境面への取り組みを強めている。「モータースポーツにとってもエコは大事。モータースポーツの認知度を上げていくためにも、環境面への配慮を行っていく必要がある」(坂東氏)と言い、メーカー関係者の理解を求めている。KERS搭載車のテストが公開されたのは、ホンダ以外の2メーカーに対してアピールする狙いがあると考えると分かりやすいのではないだろうか。

 なお、坂東氏は「GT300クラスに関しては今のところKERS導入を考えていない」と言い、現時点ではGT500クラスのみの導入であるようだ。

ツインリンクもてぎのグランドスタンド裏に展示された燃料電池車。左から日産のX-TRAIL FCV、トヨタのFCHV-adv、ホンダのFCXクラリティ。GT500クラスの3メーカーの環境技術をアピール

2013年からの前倒しはやぶさかではない

 英AUTOSPORT誌Web版が報じた、SUPER GTとDTMの共通車両規定が、当初目標とされてきた2015年から2013年に前倒しで行われることになるという報道に関しては「一部日本側にも2013年から導入してほしいという動きがあることは認識している。現在JAF(日本自動車連盟)の技術部会などで2015年から技術規定を共通化できるかどうか話し合いを続けているが、それがまとまり、さらに2013年から前倒しが可能であると合意できるなら、前倒しすることもやぶさかではない」(坂東氏)と述べ、前倒しすることもあり得るという姿勢を明らかにした。

 続けて坂東氏は、「車両規定を共通化するのはよいことだが、それと同時にモータースポーツを各社の営業戦略の中にどう組み込んでいくのかが重要だ」と指摘した。

 実際、ヨーロッパではモータースポーツを各社がマーケティング活動の一環として上手く利用している。例えば、DTMでは自動車メーカーが自社の顧客を招待する場として利用しており、その結果として多くの観客動員数を記録している現状がある。そしてその顧客の前で勝利を挙げることで、結果として自動車の売り上げにつながるなどの好循環がある。日本にもそうした“動員”のシステムは存在しているが、主にディーラーの関係者やその家族などで、顧客を直接サーキットに招待するなどの例はあまり多くないのが現状だ。

 同じことはスポンサーにも言える。現在SUPER GTのスポンサーになっているのは、主に自動車関連産業の企業だ。今後自動車関連企業以外のスポンサーを引きつける意味でも、観客動員を増やしたり、SUPER GTそのものの価値を上げていったりすることが、GTAのみならず参加する自動車メーカーにも求められることになる。おそらく、坂東氏の発言の背景には、そうしたことにもっと自動車メーカーが積極的になってほしいという思いがあるのだろう。

JAF Grand Prixについて

 坂東代表は、11月12日~14日の3日間にわたって富士スピードウェイで行われる「JAF Grand Prix SUPER GT & Formula NIPPON FUJI SPRINT CUP 2010」についても触れ、開催までに各種のプロモーションイベントを行うことを明らかにした。

 この中で坂東氏は御殿場で行われるイベントで、公道をSUPER GTカーでデモンストレーション走行させたい意向であることを明らかにし「現在関係各所と調整を続けている。いくつかの問題があり、まだ実現できる見通しが立っていないのだが、ぜひ未来を担う子供達にSUPER GTカーの音を聞かせてあげたい」と熱く語り、関係各所に対して引き続き働きかけをしていきたいと述べた。

 確かに公道を走らせるのは道路交通法上の問題もあり決して簡単なことではない(以前モータースポーツジャパンでお台場の公道を走らせた例がある)のは事実で、特に地元の警察との調整は難しいと言われている。

 この会見後の10月28日、静岡県駿東郡小山町で11月4日に開催される「小山町幼児防火・交通安全パレード」へのSUPER GTマシンの参加が発表されたが、現時点では“手押し”でのパレード参加となっている。