フォルクスワーゲン、新型「ゴルフ トゥーラン」「シャラン」発表会
ガラパゴス市場に挑むアウトバーン生まれのミニバン

シャラン(左)とゴルフ トゥーランとドリザス社長

2010年11月22日開催



 フォルクスワーゲングループジャパンは11月22日、ミニバン「ゴルフ トゥーラン」「シャラン」の発表会を都内で開催した。

 ゴルフ トゥーランはコンパクトクラス、シャランはミドルクラスのカテゴリーに属するミニバン。既報の通り、どちらも直列4気筒DOHC 1.4リッター ターボ+スーパーチャージャーエンジンを搭載しており、ミニバンでもダウンサイジングコンセプトにもとづき、走行性能と環境性能を高い次元で両立していることをウリとする。

 ここでは発表会の模様をリポートする。両車のスペックなどは関連記事を参照されたい。

2~3人の子供がいるファミリー向けのラージサイズミニバン「シャラン」ヤングファミリー向けのコンパクトミニバン「ゴルフ トゥーラン」

 

マーケティング本部の正本部長

ミニバンは大きなガラパゴス市場
 ゴルフ トゥーランとシャランが属する日本のミニバン市場(軽自動車を除く)は、3列シート車だけでも年間販売台数約70万台、乗用車市場におけるシェアはハッチバックに次ぐ28%を占める。2列シートのハイルーフ車を含めれば90万台、35%にもなる。

 同社マーケティング本部の正本嘉宏部長は国内ミニバン市場を「300万円を超えるラグジュアリーなモデルからコンパクトカーまで、多様なモデルが存在する成熟したマーケット」「世界的には日本ほどミニバンが普及しているマーケットはない。他のカテゴリーと異なり、今まで輸入車がほとんど根付かなかった、日本独自に発展してきた、ガラパゴス化したマーケット」と分析。

 この市場に同社は、1997年に初代シャラン、2004年に初代ゴルフ トゥーランを投入。後者は「ピーク時には販売台数が年間5000台を超え、輸入車ミニバンとして唯一安定した販売を誇っているモデル」(正本部長)としている。

 一方でミニバンカテゴリー内のクラス別シェアを見ると、ゴルフ トゥーランが属するコンパクトクラスは18%。ミドルクラスの44%、ラージクラスの22%に次ぐ大きさ。そのラージクラスのシャランは、1997年に日本に導入されてから2000年まで販売されたものの、2003年にフルモデルチェンジされた2代目の導入は見送られた。「ミニバンマーケットの主流はトゥーランより上のミドル、ラージクラス」(正本部長)との考えから、10年ぶりの日本市場復帰となった。

日本のミニバンは成熟市場ゴルフ トゥーランは日本でも安定した販売を維持してきた
日本のミニバン市場の主流はミドルクラス以上

 

会場に展示されているシャランは上級版の「ハイライン」。シャランのリアドアは左右とも電動スライド式。ドアハンドルのほか、センターコンソールのスイッチやリモコンキーでも開閉できる
シャランは2列目、3列目ともフルフラットになる。最大容量は約2300L
リアゲートも電動式3列目シートに乗り込みやすくするため、2列目シートが前へ大きく移動する
2列目シートにはピクニックテーブル装備ツインチャージャーの1.4 TSIエンジンシャランはアイドリングストップや回生ブレーキといったブルーモーション テクノロジーを搭載する
ブレーキはオートホールド(信号待ちなどでブレーキペダルから足を離してもブレーキがかかり続ける)機能付き6速DSGのシフトレバー。イグニッションはプッシュボタン
バイキセノンヘッドライトには、LEDのポジションランプがセットで付くターンシグナルランプ内蔵のドアミラー。左側はアンダーミラー付き
シャランのシートレイアウト
電動スライドドアにテールゲート、イージーエントリーなど国産ミニバンなみの仕掛けを備えるシートは後席の方が高くなるシアター式レイアウト。後席にも開放感が生まれる3ゾーンフルオートエアコンを全車標準で装備する
アイドリングストップなどのブルーモーション テクノロジーを搭載

国産ミニバンとは一線を画す
 その大きなガラパゴス市場に、フォルクスワーゲンはどのような戦略で挑むのか。正本部長は「ミニバンを購入する時の選択基準について、独自に調査して分かったのは、車の本来の走行性能や運転の楽しさ、経済性に目をつぶって、家族のためだけにミニバンを選んでいるという事実。走行性能のよさや省燃費はフォルクスワーゲンの強みである分野。日本のユーザーがあきらめているこうしたニーズを積極的に満たすことで、ミニバン選びにおいて新しい選択肢を提供できると考えている」と言う。

 また同社のゲラシモス・ドリザス社長は「日本のミニバン市場は豪華で重厚なリムジンのようなモデルが主流だが、シャランはクリーンな造形と軽快なプロポーション、クラスをリードする燃費性能と快適さで、日本のミニバン市場で新たな魅力的な選択肢となる」と言い、走行性能、経済性、スタイルの点で日本のミニバンとは違った価値観をアピールする。

 いずれにしろゴルフ トゥーランとシャランは、ミニバンの機能性に、フォルクスワーゲンならではの価値を加えることで、「国産ミニバンとは一線を画したクルマ」(ドリザス社長)であり、「日本のユニークなミニバンマーケットに新風を吹き込む2台」(正本部長)と言うことになる。

 ゴルフ トゥーランとシャランが日本のミニバン市場に提供する新しい価値の1つめは、やはりパワートレーン。もうおなじみになったダウンサイジングガソリンユニット「TSI」とデュアルクラッチAT「DSG」(ゴルフ トゥーランは7速、シャランは6速)の組み合わせで、動力性能と環境性能を両立がアピールされているが、同じパワーユニットを搭載するゴルフTSIハイラインの車重が1340kgなのに対して、ゴルフ トゥーランは1580kg、シャランにいたっては1830kgと重い。

 とくにシャランとの組み合わせでは動力性能が心配になるところだが「アイドリング同様の1500rpm域から2.5リッターエンジンなみのトルク(240Nm)を発生させることで、このクラスのスタンダードである2.4~2.5リッターエンジンを積んだ国産ミニバンを加速性能で凌駕すると言っても過言ではない。一方で高速巡航やアイドリングといった大きなパワーが要らない状況では、1.4リッターのベネフィットを最大限に活かし、すぐれた燃費性能を実現する」と言う。

ゴルフ トゥーランゴルフ トゥーランもツインチャージャーの1.4 TSIエンジンだが、シャランのそれより若干デチューンされているフロントシート。イグニッションはシリンダーキー
内装の質感は高い7速DSGのシフトレバー2列目シート
2列目シートにはピクニックテーブルを装備2列目シートを倒したところ。シート脇のベルトを引いて倒す3列目シート
ラゲッジルームは2重床になっている全てのシートを倒したところ。3列目はフルフラットになる
トゥーランのシートアレンジトゥーランとシャランの価格

安全にも手抜きせず
 環境性能については、シャランで初めて国内に導入される「ブルーモーション テクノロジー」も注目に値する。ブルーモーション テクノロジーは、TSI、TDI(ディーゼルターボ)、DSGを基礎に、回生ブレーキやマルチフューエル、ハイブリッドや電動ドライブなどで環境性能を向上させる技術のブランド名だ。したがってブルーモーションを名乗る製品が使う技術は様々だが、シャランにはアイドリングストップと回生ブレーキが搭載されている。これらの助けもあってシャランは10・15モード燃費14.6km/L、75%のエコカー減税を目指して型式申請中だ。

 2つめの価値は高速走行での安定性。「高張力鋼板を用いた軽量かつ高剛性のボディー、低重心かつ空気抵抗の少ないパッケージ、優れた直進安定性をもたらす電動パワーステアリング」によって、「アウトバーンの国、ドイツで生まれ育った新型ゴルフ トゥーランとシャランは、ミニバンのイメージからは想像もつかない、驚くほどの高い走行安定性と安心感を誇る」(正本部長)という点。電動パワーステアリングは走行状態を常にモニターし、横風の影響を最小限にすることで「ストレスや疲労の少ない高速走行や長距離走行が可能」としている。

 3つめは安全性。アクティブセーフティーとしてESPを、パッシブセーフティーとしてゴルフ トゥーランには6つ、シャランには9つのエアバッグを全モデルに標準装備する。また全席に3点式シートベルトを備え、シャランには運転席から5つの後席のシートベルト着用状態が分かるモニターを搭載する。国産ミニバンでは省略されがちなこれらの装備だが、「大切な家族を乗せて走るミニバンにおいて、乗員の安全を守ることはなによりも重要」という姿勢を強調する。

TSI+DSGで動力性能と環境性能を両立電動パワーステアリングで、横風の影響を受けやすいミニバンでも直進安定性を確保
ESPやエアバッグ、全席の3点式シートベルトを装備価格も国産競合モデルと競争力を持たせた

 

ドリザス社長

マルチ・パーパス・ビークルには長年の経験と知識
 ドリザス社長は市場の状況を「9月のエコカー補助金終了が、消費者に大きなブレーキをかけた。しかし、客足はショールームに、ゆっくりとだが戻ってきている」と総括。10月の国内販売は前年比+15%まで縮小し、その傾向は今年いっぱい続くと予想されるものの、エコカー補助金の影響が軽微だった輸入車は前年比+16%を確保したことを明らかにした。

 そのなかでフォルクスワーゲングループジャパンは、シェアを0.3%伸ばして27.3%とし、「輸入車の回復を牽引した」とアピール。その原動力は「魅力的なラインアップ」。現状の同社は5車種11モデルに及ぶエコカー減税対象車を揃えるが、エコカーラインアップの柱は、パワフルかつ高効率なTSI+DSGパワートレーン。実に販売の9割を占めると言う。また、「プロフェッショナルケア」のようなアフターサービスや、「フォルクスワーゲン報道官」に代表される広告も、好調の一因として挙げた。

 そんな同社が、盤石になった小型車市場の次に目を付けたのが、成功したモデルがほとんどないと言っていい、輸入車ミニバン市場だ。国産ミニバン市場はすでに十分に大きな市場だが、同社のゲラシモス・ドリザス社長は「今後も安定的な販売が見込まれる」一方で、先述のような新しい価値の提供によって「新規顧客の開拓が可能」と見る。

 日本の消費者の多くはフォルクスワーゲンのミニバンにはなじみがないがドリザス社長は「オリジナル『ビートル』のランニングギアを使った1950年の『タイプ2』バス以来、フォルクスワーゲンは長年、安全で多目的なマルチ・パーパス・ビークルを製造し続けてきた。安全かつ柔軟で快適なミニバンには、長年の知識と経験を持っている。日本でもタイプ2以来、今日まで3万4194台のミニバンを販売してきた」と、この分野でもニューカマーではないことをアピール。

 長年の経験とブルーモーションに代表される革新性を持って、「輸入ミニバンの潜在需要を掘り起こすことができるだろう」と意気込みを語った。

 

先行予約キャンペーンが行われる

先行予約キャンペーンとプレビューイベントを実施
 なお、ゴルフ トゥーランは2011年1月11日、シャランは同2月下旬に発売されるが、2010年の12月26日までに予約すると、ゴルフ トゥーランでは5万円分の旅行券、シャランでは純正AVナビがプレゼントされる、先行予約キャンペーンが開催される。

 また年内の週末は、全国主要8都市のショッピングモールなどで、ゴルフ トゥーランとシャランを展示するプレビューイベントが行われる。会場ではオリジナル風船や白クマのぬいぐるみ、記念写真入りオリジナルカレンダーなどのプレゼントが用意される。

(編集部:田中真一郎)
2010年 11月 22日