次世代車が多数展示された「第25回世界電気自動車・燃料電池シンポジウム」リポート

会場のブースはけっこうお金のかかったものが多かった。左に見えるフォルクスワーゲンは中国専用のEVを計画しているなど、中国市場をメインターゲットの1つに位置づけている

2010年11月5日~9日開催



 11月5日~9日の期間、中国 深セン(シンセン)において世界の自動車メーカーや関係者が集まって最新技術の紹介や現状の報告をする「第25回世界電気自動車・燃料電池シンポジウム(EVS25)」が開催された。EVSでは毎回、シンポジウムとともにEV(電気自動車)や燃料電池車(FCEV)関連技術の展示会が開かれるのだが、今回は会場の様子が今までとはまるで違ったものになっていた。それはまるで、EV専門のモーターショーだったのである。

 香港国際空港から約30分の深センにある国際展示場は、東京モーターショーが開催されている幕張メッセの約半分の面積がある。この会場がすべて、EVやハイブリッド車(HEV)など次世代車関連の展示だけで埋まっていた。250社以上が出展した展示会場では、BMW、トヨタ、日産などの自動車メーカーのほか、日米欧の部品メーカーの姿も少しだけ見えたが、ほぼ中国の地元企業が締めていた。中国にはこれほどたくさんの自動車メーカーがあったのかと思い知らされる。

 明るい照明が煌めき、大音量の音楽が鳴り響く様子は、中国のモーターショーやエキスポで見ることの多い演出だ。多くのコンパニオンがクルマの横に立ち、それを黒山のごとく集まったデジタルカメラが追いかけるのも、中国の展示会などで見かける光景だ。

EVSでこうしたショー形式のプレゼンを見かけるのは初めてと言う関係者は多かった。あちこちのブースから、大音量の音楽がひっきりなしに聞こえていたモーターショーのような展示風景と、撮影風景。中国人はカメラ好きが多い。コンパニオンの周りはいつもレンズで取り囲まれてる。多数のコンパニオンがEVSに登場したのも、今回が初めてかもしれない

 特筆すべきと思うのは、ブースを出している地元企業の多くが、21世紀になってから誕生したベンチャー企業ということだ。自動車メーカーだけでなく、電池、モーター、コントローラーなどの要素技術開発も、ベンチャー企業が多い。

 ベンチャー企業には、独立系の会社もあれば大手メーカーが出資している会社もある。中には米NASDAQ市場に上場している電池メーカーの子会社もあるし、中国自動車メーカーの中では最大手に入る東風汽車が間接的に出資しているEVメーカーも見かけた。

大手メーカー、奇瑞汽車のブース。11月5日には、中央の小型EV「瑞麒M1-EV」を発売するという発表があった。価格は日本円で約188万円~290万円奥新汽車はライトウェイトEV専門メーカー。大手自動車メーカーである東風汽車から間接的に出資を受けているため、資金、人材、技術は豊富とのこと大手メーカー・一汽のバスに電池を提供する深セン世紀新能源ブース

 電池メーカーが展示している電池の多くは、もちろんリチウムイオン電池だ。すでに大手の奇瑞汽車(チェリー)に供給が決まっているというメーカーもある。しかし、各社ともEV用はサンプル出荷をしている段階で(と言っても数百台規模のこともある)、価格や生産量など具体的な数字はこれからということだった。

 とは言え、ベンチャー企業の1つである奥新汽車のように、来年から年に1万台を生産すると鼻息が荒い会社もある。今年の生産台数は700台だったそうなので、一気に10倍以上になる。日本では考えにくい計画だが、中国なら不思議ではないのだろう。

モーターの展示も多かった。バスで使われているモーターの多くは、汎用モーターを改良したようなACモーターが主流。乗用車は、話題のレアアースを使用した永久磁石式のDCブラシレスが主流モーターとコントローラーの展示。サイズが大きいのでバス用か。ほかのブースでは、なぜかモーター類を撮影禁止にしている会社もあった
リチウムイオン電池の角型セル。電池メーカーの数はすごく多い。そのほとんどは、21世紀になってから誕生した新興メーカーセグウェイに似た2輪の乗り物。ちゃんと2輪でバランスをとり、前に傾けると発進、後ろに傾けると止まる。展示ブースの空いた場所で、自然に試乗会が始まっていた

 こうした乗用車より先に普及するだろうと考えられているのが、バスだ。そのほとんどは、エンジンからモーターにコンバート(改造)したタイプで、会場には電池メーカーのブースに多数のコンバートバスが展示されていた。EVバスの導入に熱心なのは渋滞と大気汚染の激しい上海などの大都市で、すでに少数のEVバスが導入されている。行政も後押ししているEVバス導入に向けた取り組みは、今後中国全土に拡がりそうで、電池メーカーやバスメーカーの期待も大きい。

 すでに電気駆動の4輪車、3輪車、2輪車が数多く走り、日常の足の一部になっている中国は、先進国にあるような「EVは使いにくい」という認識をほとんど持っていない。現時点で中国が世界一の電動車大国であるのは間違いなく、市場はまだまだ伸びると考えている関係者は多い。EVS25に展示されたEVの数や、出展者たちの明るい顔は、そんな予想を映しているようだった。

ロゴが米テスラ・モーターズに似てるし、クルマもどこかで見たような……。ちなみにボディーは鉄。粗悪なFRPボディーも多い中国では、鉄のボディーはセールスポイントになるらしいこのクルマもどこかで見かけたことが……まあ、ご愛敬というところか。なんでもあるのがこの国だ熱心な来場者もたびたび見かけた。それだけクルマへの関心が高いのだろう

(木野龍逸)
2010年 11月 24日