BMW、EV「MINI E」実証実験の詳細を発表
2013年発表のMCV、軽量ボディーシェルを公開

MINI E

2010年11月30日開始



 ビー・エム・ダブリューは11月30日、電気自動車(EV)「MINI E」の日本での実証実験を開始、その詳細を発表した。

 同社は東京のBMWグループスタジオで記者会見を開催。実証実験と、2013年に販売が予定されているEV「メガシティ・ビークル」(MCV)の概要を説明した。

 なお実証実験に使用されるMINI Eが、12月2日~17日にBMWグループスタジオに、12月2日~20日にMINI銀座に展示される。

28名がMINI E実証実験に参加
 実証実験に使われるMINI Eは合計20台。うち6台はビー・エム・ダブリューと、実証実験のパートナーである東京電力、早稲田大学が使用。残りの14台を、公募した一般ユーザーが使用する。

 一般ユーザーの実証実験は、2011年3月~7月までの第1期、2011年9月~2012年1月の第2期に分けて実施。各期で14名、のべ28名が参加できる。第1期ユーザーの募集は11月30日~12月22日にビー・エム・ダブリュー(またはMINI)のWebサイトで行われる。

 参加するにあたっては、充電装置を設置できる屋根付きの車庫があり、MINI Eを日常生活で使用できることが条件になる。MINI Eは月々6万円でリースされ、これには充電装置の設置やメンテナンス費用が含まれる。また、費用を負担することで、MINI Eの使用を促す効果も期待されている。

 MINI Eはすでに欧米で実証実験が行われているが、同じ条件で欧米と比較できるデータを得るために、実験への参加の条件は日本でも同じになっている。

 MINI Eは、MINIハッチバックのフロントに最高出力150kW/204PS、最大トルク220Nmのモーターを搭載したEV。35kWhのリチウムイオンバッテリーパックは、ラゲッジルームとリアシートの空間に搭載されているため、乗車定員は2名となっている。充電時間は200V/40Aで4.4時間。重量1465kgのボディーを、0-100km/h加速8.5秒で引っ張る。

 MINI Eの詳細は関連記事を参照されたい。

 なおMINI Eに続いて、1シリーズクーペベースのEV「アクティブE」も準備されている。アクティブEはT字型のバッテリーパックを、トランスミッションやプロペラシャフト、燃料タンクがあった空間に置き、後部のモーターで後輪を駆動する。4人乗りで、ラゲッジスペースが確保されている。

日本の実証実験で使用されるMINI E。スピードメーターがkm/h表示になり、PNDが装備されているほかは、以前紹介した米国仕様と同じ
MINI Eの概要アクティブE
早稲田大学と東京電力が実証実験のパートナーになる一般ユーザーによる実証実験の概要

軽量化がポイントのMCV
 MCVは、2013年に発売する予定のEV。「メガシティ」の名称どおり都市での利用を前提としたEVだ。全長約4mの4人乗りで、実用的なラゲッジスペースも備える。サイズはMINIに近いが、MINIとは異なるサブブランドで発売される。

 モーターはリアに搭載、後輪を駆動する。バッテリーはリチウムイオンで、サムスンとボッシュの合弁会社SBリモーティブが製造するもの。バッテリーがもっとも効率よく動作する温度を維持するためのクーリングシステムも備える。このドライブトレーンはMINI Eに搭載されているものとは異なり、BMWで内製化したもの。

 MCVはEVであり、大量のバッテリーを搭載しなければならないため、必然的に重量が増加する。これを相殺することでBMWらしい走りの楽しさを維持し、かつ安全性を確保するためにMCVに採用されているのが「ライフ・ドライブ」コンセプトだ。

 MCVのバッテリーとモーターは床下に搭載されるが、これらとサスペンションを備えた「ドライブ・モジュール」をアルミで製作。その上に4人が乗り込むCFRP(炭素繊維強化プラスチック)製パッセンジャーセル「ライフモジュール」を載せる。メカニズムが載る部分を軽量なアルミで、人間が乗る部分は軽量かつ強度の高いCFRPで、と使い分けることで、重量増を相殺し、人間も守ろうという構造だ。

 BMWはCFRPに10年以上前から取り組んでいるとアピールしており、最近ではM3クーペのルーフをCFRPとすることで、ボディー剛性を落とさずに軽量化したことが知られている。

 同社は10月にライプツィヒの工場を拡張し、MCV量産に備えている。

MCVのボディーシェル「ライフドライブ」(奥)とパワートレーン(手前)床下に平たいリチウムイオンバッテリーパックを配置、後部にモーターを置く
CFRPのパッセンジャーセル「ライフモジュール」とアルミの「ドライブモジュール」を組み合わせたMCVのボディーシェルフロントリア
ボディーシェル内部のリア方向ボディーシェル内部のフロント方向奥に見えるのはM3クーペのCFRPルーフ
MCVの概要CFRPとアルミでバッテリーによる重量増を相殺する

 

クルーガー社長

社長直轄部門を設立
 BMWは2007年に、次世代のモビリティコンセプトを作るために「プロジェクトi」を発足させた。このプロジェクトiの成果が、MCVだ。

 BMWの長期戦略「ストラテジーNo.1」は、「個人モビリティのためのプレミアム製品とプレミアムサービスで世界位置となること」を目標としている。プロジェクトiはこのストラテジーに基づき、未来志向のサステイナブルなモビリティを生み出し、都市部ユーザーのニーズに対応した新製品を開発することが使命とされている。

 プロジェクトiはBMWグループ全部門を横断するプロジェクトであり、技術や製品の開発だけでなく、生産や販売でもMCVにふさわしいアプローチを探る。

 先述したMINI Eを用いた欧米での実証実験では、MINI Eユーザーの1日当たりの走行距離は、同セグメントの車両(MINIクーパーやBMW116i)とほぼ変わらない40km前後であり、こうした使い方ではMINI Eでもあまり不満が出ていないという結果が得られた。これにより、MINI Eの航続距離をわずかに伸ばし、室内を拡大すれば都市ユーザーのニーズにほぼ応えられることが分かったと言う。こうした知見がMCVにも活かされている。

 ビー・エム・ダブリューのローランド・クルーガー社長は「日本は、単一では世界で最も大きなハイブリッド車の市場で、EVにも大きな市場だ。MCVは日本にも大きな意味を持つ」と述べた。MINI Eの日本での実証実験にあたっては社長直轄の部門を設立し、実験についての報告が直接社長に入るようにしている。

12月に日本でも発表されるハイブリッド車「アクティブハイブリッドX6」が東京マラソンの先導車を務める独BMWのアンドレアス・クルーゲシャイト執行役員がMINI Eによる実証実験を説明したEVのシェアが拡大すると予測
電動パワートレーンでは欧米中日の4つの市場が鍵を握ると見るMINI Eによる実証実験が行われた、またはこれから行われる地域MINI E実証実験での1日あたりの走行距離は、同セグメントのクルマとほぼ同じだった
現状のEVでもあまり不満はないプロジェクトiについて説明する、同プロジェクトのマヌエル・ザッティヒ コミュニケーション・マネジャー都市部ユーザーへのリサーチを通してニーズを探った
プロジェクトiが手がけるのは製品や技術だけでなく、マーケティングやセールス、生産に及ぶ発表会ではパートナーや関係省庁による実証実験へのエンドースメントが続いた。写真は実証実験のパートナーである早稲田大学から、大学院環境・エネルギー研究科の大聖泰宏氏

(編集部:田中真一郎)
2010年 12月 1日