パソコンゲーム「フェラーリ・バーチャル・アカデミー」に挑戦してみた


 誰もが知るイタリアのスポーツカーメーカーの名門、フェラーリが「フェラーリ・バーチャル・アカデミー(Ferrari Virtual Academy)」というF1シミュレーターをパソコン用にリリースしているのをご存じだろうか。

 いわゆるシミュレーター系のレーシングゲームなのだが、フェラーリのオフィシャルメイドで、「単なるエンターテイメント商品ではない」という触れ込みで登場したのだ。

 開発には、フェラーリのエンジニアリング・スタッフはもちろんのこと、フェルナンド・アロンソ、フェリペ・マッサ、ジャンカルロ・フィジケラといったフェラーリのトップF1ドライバーもが参加したというほど、その作りは本格派。クオリティはまさに「本物志向」の上を行く、「本気」のシミュレーターなのだ。

フェラーリが本気で開発したF1シミュレーター「フェラーリ・バーチャル・アカデミー」のモデリングデータ画面こちらがゲーム画面になる

 フェラーリによれば、エンジン特性やトランスミッションパフォーマンスはもちろん、サスペンション、タイヤ、ブレーキといった足まわりから、シャシー性能やディファレンシャルギアの特質までを、フェラーリのF1、2010年モデル「F10」を再現しているとのこと。

 これだけでもファンにとってはとても魅力的な商品と言えるわけだが、さらにこの商品を盛り上げるキャンペーンが開催されている。

 それはフェラーリのオフィシャルレギュレーションに従って、このシミュレーターで優良タイムを出したプレイヤーには、フェラーリの本拠地への旅行と、フェラーリのドライビングスクールへの体験入学がプレゼントされるというキャンペーンだ。

 この豪華でプレミアな賞品を受け取れるのは、世界でたった5人。フェラーリによれば、イタリア国内ランキングでトップ2、ワールドランキングではトップ3にこの賞品が与えられるとのこと。期限は間もなく来てしまうが、2010年12月31日。

グラフィックスだけでなくメカニカルな部分を高精度に再現したと言う

 ちなみに、このシミュレーターは時限リリース方式でリリースされており、これまでに9月9日にFIORANOサーキット、10月14日にMUGELLOサーキット、11月11日にNURBURGRINGサーキットがリリースされている。

 各サーキットのシミュレータは単体でも購入でき、1コースあたり9.9ユーロ(約1100円)で、2コースセットが19.8ユーロ(約2200円)となっている。ちなみに、NURBURGRINGサーキットが最後のリリースとなっていて、3コース全てのセットはややお買い得感のある25ユーロ(約2780円)となっている。

フェラーリ・バーチャル・アカデミーの動作環境は?
 購入はフェラーリ・バーチャル・アカデミーのオフィシャルサイト(http://www.ferrarivirtualacademy.com/)からのクレジットカードを利用したダウンロード販売に限定されている。

 動作環境はWindowsベースのパソコンのみ。MacやLinuxなどには未対応だ。

 最小動作環境は以下のように発表されている。

・OS: Windows XP/Vista/7 32/64ビット
・プロセッサー:Windows XP=1.8GHz 以上/Vista 、Windows 7 = 2.4GHz 以上
・メモリー:Windows XP=1GB、Windows Vista/7=2GB
・ビデオカード:GeForce 6800 GT以上/ATI 9800 PRO以上
・ディスク容量:1GB
・DirectX:DirectX 9.0c
・インターネット接続:モデム/ADSL
・入力:キーボード、マウス、ジョイパッド、ジョイスティック、ステアリング・ホイール/ペダル、最低 2 軸のアナログ入力の複数コントロール構成
・互換性: Nvidia 3D Vision、Track IR Enhanced、Matrox TripleHead2Go

 結論からいうと、CPUパワー、グラフィックスパワーは、それほどハイスペックでなくても大丈夫だ。グラフィックスも見た感じでは基本的なシェーダーしか動いていないので、1366×768ドット程度の解像度でのプレイならば、DirectX 10世代のミドルレンジクラスのもので十分だ。CPUもデュアルコア以上であれば2GHz以上であれば問題なしという感触。ネットブックでのプレイはきつそうだが、いわゆるハイエンドゲーミングノートでなくとも、中堅クラスのノートPCであっても問題なくプレイできてしまうだろう。

 1つ注意点を挙げるとすれば、このゲームをプレイするにはインターネット接続環境が必須たということ。購入時にアクティベーションコードがユーザーのメールアドレスに送られるのだが、毎回プレイ時には必ずこのコードを用いたアカウント認証が必要になるのだ。

 コード自体の入力は保持されるので、毎回キーボードを叩く必要はないが、フェラーリ・バーチャル・アカデミーの公式サーバーへのアクセスが必要になるため、インターネット接続がないと、事実上プレイすることができない。その代わり、といってはなんだが、コースを周回した際のベストタイムは随時この公式サーバーへ送られる仕組みが取られている。

購入方法と設定方法
 購入時にダウンロードでるファイルは、いわゆる「setup.exe」タイプのインストーラーになり、これを実行するだけで、即プレイが可能になる。同時に1アカウントしかプレイできないが、複数のパソコンにインストールすることもできる。

 グラフィックスやゲームコントローラの設定は単体実行可能な「Configuration」にて設定する方式(ゲーム中からも選べるが、ゲームは終了してしまう)。グラフィックスの設定は、一般的なパソコンゲームよりもシンプルで、画面解像度の選択(Resolution)、フルスクリーンか否かの設定(FullScreen)、アンチエイリアス設定(Antialias)、環境マップのオン/オフ(Realtime Reflections)だけだ。

 やや難解なのはコントローラの設定だ。フェラーリ・バーチャル・アカデミーは、マウスとキーボードでもプレイできるが、それ以外にジョイパッドやステアリングコントローラでもプレイすることができる。ジョイパッドは、パソコンでは定番となっているXbox360パッドがサポートされていて、ステアリングコントローラは下記のものが対応リストに挙げられている。

・Fanatec Porsche 911 Turbo / Turbo S / GT3 RS Wheel
・Logitech Driving Force Pro
・Logitech Driving Force GT
・Logitech G25 Racing Wheel
・Logitech G27 Racing Wheel
・Thrustmaster Ferrari 430 Force Feedback Racing Wheel
・Thrustmaster Ferrari 430 Force Feedback Wireless
・Thurstmaster Ferrari F1 Wireless Gamepad

 筆者は、グランツーリスモ 5奨励ステアリングであるロジクール(Logitech)の「Driving Force GT」を所持していたので、さっそく、これを使おうとしたのだが、Controllerセットアップのプロファイルに「Driving Force GT」の名前がないのだ。

グラフィックス設定はこれだけのシンプルさ。画面解像度は低くすればするほど軽くなる。アンチエイリアス設定も数字を小さくすれば軽くなる。最下段は環境マップを適用するか否かの設定。オンにすると負荷は高くなるがビジュアルのクオリティは向上するフェラーリ・バーチャル・アカデミーのプリセット・プロファイルにDriving Force GTがない!?

 プロファイルになくても慌てることなかれ。「Custom Controls」メニューを駆使すれば、ステアリング操作、パドル操作、ペダル操作を、フェラーリ・バーチャル・アカデミーの操作に割り当てていくことができる。
 初期状態では、ブレーキペダル操作がアクセルペダルの“マイナス操作”に割り当てていたため、ピットから全く出走できないトラブルに見舞われたが、この一連の設定を行ったらちゃんと走れるようになった。

 ちなみに、ロジクールの他の製品のプロファイルをDriving Force GTにて使ってみたが、割り当てた瞬間にゲームがリセットされてしまうので、今述べた正攻法でセットアップするしかない。このあたりの作りはちょっと粗いので、パソコンゲームのプレイとセットアップの知識がそこそこ必要かもしれない。

プロファイルにないステアリングコントローラは、ここで設定する必要がある。右上が操作対象となるゲームコントローラの選択リストボックス。Windows側にあらかじめ「Driving Force GT」を認識させてあれば、ここで「Driving Force GT」が選べる設定が完了したらコントローラのプロファイルを「CUSTOM」とすること

実際にプレイしてみた。
 ゲーム画面は極めてシンプルで、オープニングムービーなどはなく、起動直後には無機質なログイン画面が出現する。

フェラーリ・バーチャル・アカデミーの起動画面

 ログインに成功後、「EXIT(ゲーム終了)」以外に選べるのは実際に走行を行う「Drive(走行)」「Replay」「Settings」の3つ。

 当然、DRIVEを選択することになるわけだが、ここで購入したパッケージに含まれるサーキットの全体像が表示される。3コース全部購入したユーザーは3つのコースが表示されることとなり、この中から走行したいコースを選ぶことになる。

 NURGBUGRINGはタイトコーナーが多く難易度が高いので、最初はFioranoかMugelloがよいだろう。

 車両はフェルナンド・アロンソが乗るF10 #8、フェリペ・マッサが乗るF10 #7、そしてカスタム仕様のF10 Customの3台から選択ができる。

 走行モードは練習用の「FREE PRACTICE」と、ランキングに参加するための「HOTLAP」の2つしかない。HOTLAPモードは全世界、全ユーザーが公平なセッティングでプレイするルール決めがあるので、基本的にはカスタマイズができない。トランスミッションもMTの使用が強制される。

 FREE PRACTICEモードでは、ATが選べ、走行アシストに相当するトラクションコントロールやブレーキアシスト機能も付けられる。また、コースには走行奨励ラインのマーカーも表示され、「いかにもレーシングゲーム画面」といった感じになる。最初は、FREE PRACTICEで走ってコースを覚えることから始めたほうがよいだろう。

購入したコース図が表示されるので走りたいコースを選択するFREE PRACTICEモードは自由度の高いカスタマイズを行ってプレイが可能
公式タイムアタックに参加することになるHOTLAPモードでは、走らせたい車両タイプが選べるだけとなる燃料の量は重量に影響する。FOVとは画角(Field of View)のこと。角度は表し、値を大きくすると、より広範囲が見えるようになる。大画面ディスプレイの場合は大きい値に設定すると迫力が増す

 さて、筆者は車は好きだし、趣味の範囲内でサーキット走行もするが、F1には興味がなかったため、「グランツーリスモ」シリーズや「フォルツァモータースポーツ」シリーズのような市販車主体のレースゲームはプレイしてもF1系のゲームにはほとんど手を出したことがなかった。

 なので、フェラーリのF1の本気のシミュレーターなんて、まったくどんなドライビングフィールか想像もできなかったのだが、実際に走らせてみると、車両のスピードとドライビング操作のテンポが、自分が知っているクルマとは異次元であることに気がつかされた。

 まず、アクセルを踏み込んだときのエンジンの回転数の上がり方が半端なく速い。1速から4速くらいまでは、パドルシフトを連打する感覚でシフトしないとすぐにオーバーレブしてしまう(オーバーレブしてもエンジン破損はしない)。

 スタートから100km/hまでは3秒そこそこと言ったところで、とにかく加速が市販車の常識を超えている感じだ。ただし、タイヤのグリップはものすごくよくて、かなり速い速度でもぐいぐいと曲がっていける。車体が軽いことを間接的に感じる瞬間でもある。

最高速はご覧のように300km/h近くになる。250km/hまではあっという間だが、さすがにそこから上の速度域への加速はゆっくりになるFREE PRACTICEモードも相当ハードな手応えだ。まさにリアル系シミュレータの真骨頂といったところか

 FREE PARCTICEで少し練習すると、なんとかこの異次元なクルマの運転にもなれてきて、それなりにうまく走れるようになってくるのだが、HOTLAPに挑戦して第二の壁にぶち当たった。それはMTだ。

 エンジンのパワーが凄いので、大抵のコーナーは4速で速く走れてしまうのだが、7速→6速→5速→4速のシフトダウンのタイミングと、ステアリングを切るタイミングと、ブレーキングのタイミングのオーバーラップのさせ方がとても難しい。

 例えばブレーキングして前輪荷重になってからステアリングを切っているときに、シフトダウンがかぶるとトルク変動が発生するためなのか、突発的なオーバーステアが発生してスピンしやすくなってしまう。もう、このタイミング感覚は音楽アクションゲームをプレイするような感じで、リズムとして身体で覚えていくしかない。

 また、ステアリングを切っているとき、ブレーキを残しておくのは前輪荷重を維持するのにとても役に立つのだが、その加減を誤ってフルブレーキングに近いままだと前輪がロックして、これまたスピンモードへと直結してしまう。

油断すればあっという間にコースアウト
自分の走りは保存が可能。再生はReplayモードにて

 このあたりのペダル操作のシビアさも、一般的なレーシングゲームとは違う印象だ。

 果たして、こんなに難しい操作を実際のF1ドライバーはやっているのだろうか。その疑問に対する答えは、収録されている実際のこのシミュレーターをフェルナンド・アロンソ、フェリペ・マッサ、ジャンカルロ・フィジケラの3人がドライブしたリプレイ映像にある。リプレイ映像は2周目からは[ESC]ボタンを押すことでドライバー視点で楽しめるので、その電撃的な操作を自分の目で確認するとよい(パドル操作やペダル操作は音の変化で判別するしかないが)。

F1ドライバーの実際の走りがReplayデータとして収録。コクピット視点、中継カメラ視点のどちらからも楽しむことができる。一流ドライバーのドライビングテクニックを盗め!

 ところで、言い忘れるところだったが、フェラーリ・バーチャル・アカデミーは、敵のクルマなどは一切登場しないし、着順を争うレースモードもない。純粋なタイムアタックモード専用なので、ゲーム性という観点からすると、それほどエキサイティングなものではないかもしれない。ただ、F1ドライバーがどういう世界で生きているのか、というのを“リアル”に知る機会としては絶好のソフトウェアといえる。

 自動車に少しでも興味があれば、「F1ドライバーの仕事場をバーチャルに体験できる大人の社会科見学的なソフトウェア」として体験するとよいだろうし、まじめにモータースポーツに打ち込んでいるファンは、自分のテクニックが実在のF1ドライバーや、世界にいるF1フリークに通用するのかを診断するツールとして利用するとよいかもしれない。

(トライゼット西川善司)
2010年 12月 27日