ダイムラー、「ウニモグ」「ゼトロス」など復興支援車両の贈呈式 2年間限定の特例で日本に空輸、被災地の復興支援に活用 |
三菱ふそう 喜連川研究所 |
独ダイムラーとその日本法人である三菱ふそうトラック・バスとメルセデス・ベンツ日本は4月21日、東日本大震災の支援車両の贈呈式を、三菱ふそうの喜連川研究所(栃木県さくら市)で開催、寄付する車両のトレーニングを公開した。
ダイムラーが寄付したのは、三菱ふそうのトラック「キャンター」30台と、メルセデス・ベンツのトラック「ゼトロス」8台、多目的作業車「ウニモグ」4台、オフロード車「Gクラス」8台の計50台。寄贈先の日本財団を通じて被災地に送られる。
このうちメルセデス・ベンツの車両は、なるべく短期間で被災地に届けるべく、欧州にあったデモンストレーション車両を独シュツットガルトの同社本社に集めたもの。日本向けの改造や、ドライバーなどのトレーニングを施し、空輸した。いずれも特殊な車両であり、日独でのさまざまな手続きが必要だったが、両国政府の協力により、短期間で日本に持ち込むことができた。
これらの車両はすべて日本仕様ではなく、排出ガスをはじめとする日本の規制や認証はクリアされていないが、特例で2年間限定で日本の公道を走行できる許可を得ており、ナンバーも取得する。
ダイムラーの寄付には、車両のメンテナンスをはじめとするアフターサービスや、ドライバーのトレーニングも含まれており、作業は三菱ふそうとメルセデス・ベンツの拠点で行う。
左から寄付されたGクラス、キャンター、ゼトロス、ウニモグ |
会場には寄付される50台が勢揃いした | ||
ドイツから来た車両には、被災地と日本へのたくさんのメッセージが書き込まれていた |
■Gクラスは作業用バージョン
「ゼトロス」は2008年に発表された特殊トラック。4輪モデルと6輪モデルがあり、いずれも全輪を駆動する。水深1.2mまでの走行が可能でもある。全長×全幅×全高は4輪モデルが約9000×約2500×約3000mm。6輪モデルは全長が約10000mmとなる。重量は4輪モデルが約10t、6輪モデルが約12t。
エンジンは7.2リッター直列6気筒ディーゼルで、最高出力は240kW(326PS)/2200rpm、最大トルクは1300Nm/1200-1600rpm。
寄付されたのは4輪モデルのダンプタイプが2台、4輪駆動のトラックタイプが3台、ウインチ付きの6輪モデルが1台。ダンプのうち2台はクレーンを装備する。
ゼトロスはすべて左ハンドル仕様。運転席にははしごで“よじ登る” | ||
右側(助手席側)の側面を見るためのミラーがルーフから伸びている | ゼトロスのエンジンルーム | |
水深1.2mまでの渡河能力がある | ||
バケットブーム付きのゼトロス。バケットブームはワイヤレスリモコンで操作できる。瓦礫の除去での活躍が期待される | ||
ダンプタイプのゼトロス。ベッドを大きく傾けて瓦礫を一気に捨てることができる |
「ウニモグ」は4輪駆動の多目的作業車。車名は「ユニバーサル・モバイル・ギア」の独語表記を略したものだ。同社は「卓越したオフロード性能と強靭なシャシーにより、各種災害対策車のベースとして活躍している」と紹介しており、日本でも道路整備などの特殊車両として見かけることがある。
4.25リッター直列4気筒ディーゼルエンジンを搭載する「U4000」と、4.8リッター直列4気筒ディーゼルの「U5000」があり、最高出力と最大トルクは、U4000が110kW(150PS)/2200rpm、580Nm/1200-1600rpm、U5000が160kW(218PS)/2200rpm、810Nm/1200-1600rpm。全長×全幅×全高は約6000×約2500×約2900mm。重量はU4000が5.7t、U5000が約6.25t。
寄付されるのはいずれもトラックタイプで、U4000とU5000が2台ずつ。U400のうち1台はランフラットタイヤを、もう1台はウインチを装備する。U5000はどちらもウインチを装備する。
ウニモグもゼトロス同様の渡河能力がある |
「Gクラス」はロードゴーイングバージョンが高級SUVとして日本でも市販されているが、寄付されるのはまったくの作業用モデルであり、ラグジュアリーな雰囲気はまったくない。ボディーを取り巻くモールはゴムで、ボンネット上には、その上に乗って作業するときのための滑り止め塗装が施され、シートはファブリック、トリムは樹脂と鉄板であり、荷室の床にはゴムシートが敷かれる。全車、渡河用のシュノーケルを装着し、ピックアップトラックやソフトトップ仕様も混じっている。12Vと24Vの2系統の電源や、前後デファレンシャルのロック機能などを備える。
3リッターV型6気筒の直噴ターボディーゼルを搭載しており、最高出力は130kW(184PS)/3800rpm、最大トルクは400Nm/1600-2600rpm。
寄付されるのはステーションワゴンタイプが6台、ソフトトップが1台、ピックアップトラックが1台だ。
Gクラスは全車シュノーケルを装着。うねり路でデフロック機構をデモした | ||
ボンネット上の凹凸塗装は、上に人が立って作業するときの滑り止め | ゴムのモール | コモンレールの直噴ディーゼルターボを搭載する |
室内も作業車然としている |
ピックアップタイプ | |
ソフトトップ仕様 |
「キャンター」は2010年11月に発表された新型で、全国のデモンストレーション車両が集められた。いずれも3リッター直列4気筒ターボディーゼルに6速デュアルクラッチAT「DUONIC」を組み合わせる。寄付されるのは平ボディー、幅広バン、ダンプが10台ずつだ。
左からスピークス社長、三菱ふそうの鈴木孝男会長、尾形理事長、キルヒマン社長 |
■継続的に日本を支援
贈呈式では三菱ふそう社長兼ダイムラー東京代表事務所代表のアルバート・キルヒマン氏と、メルセデス・ベンツ日本のニコラス・スピークス社長から、日本財団の尾形武寿理事長に目録が贈呈され、各車両のデモンストレーションが披露された。
キルヒマン社長は「震災から6週間が過ぎようとしているが、報道や映像を何度見ても、未だにショックから目覚めることはない。被災者は依然として厳しい状況に置かれ、困難な生活を強いられている。ダイムラーは200万ユーロの義援金で財務支援を行い、物資を積んだトラックを被災地に送り、それらは現在も継続している。車両はできるだけ早く東北に届けたい。被災地の状況を考えると、頑丈な多目的車が活躍するだろう」と同社の支援を紹介。
「ダイムラーは、1912年から100年近く、日本でビジネスを行っている。ダイムラーは、前例のない大災害からの日本の復興支援を固く約束し、復興支援を継続的に行う。3月11日は史上最悪の悲劇を生んだが、日本と日本国民は大惨事を耐え抜き、復興する偉大な力を持っていると信じている。ダイムラーと関連企業は、その過程を支援する準備ができている」と、継続的な支援の用意があると表明した。
なおダイムラーは従業員による募金キャンペーンも行われており、集められた50万ユーロを超す義援金も寄付されている。
日本財団の尾形理事長は「被災地には2度入ったが、その光景は想像を絶するものだった。今の世の中で地獄というものがあるなら、あの光景そのものが地獄だ。600kmの海岸線に大小様々な漁村があったが、全て津波で壊滅した。“復旧”という生やさしい言葉ではすまない。必要なのは復興だ。(津波に襲われた地区は)何もなくなったが、すさまじい瓦礫の山が瓦礫が残っており、撤去する必要がある。義援金と車両は必ず被災地へ持って行き、役に立てたい」とした。
尾形理事長に目録を渡すキルヒマン社長とスピークス社長 | 駐日ドイツ大使館のロンドルフ公使 |
スピークス社長は車両のサービスについて「三菱ふそうはメルセデスの大型トラック アクトロスの整備をしているので、メルセデス車の整備や部品は問題ない。どのような目的、ニーズにも対応できる」と、車両のサポート体制をアピールした。
贈呈式にはドイツ連邦のペーター・ロンドルフ公使も出席。「日本だけが苦しんでいるのではない。全世界の多くの人が一緒に被災者を助けようとしている。日本にいることを嬉しく思う。三菱ふそうとメルセデス・ベンツはよい企業市民であり、連帯感を見せてくれた。また日本財団が、三菱ふそうとメルセデス・ベンツの取り組みを助けてくれた。国交省にも感謝する。さまざまな手順を踏まなければこの車がここにあることはなかった。日本は震災前よりも強く復興する。時にはこう言った危機が皆さん自身の力になり、一緒に取り組むことを見直す機会になる。独と欧州の代表として、お互いに手を携えて一緒に取り組んでいきたい」と述べた。
キルヒマン社長は「がんばろう日本」、スピークス社長は「日本に御加護を」と車体に書き込んだ |
(編集部:田中真一郎)
2011年 4月 22日