SUPER GT300クラスに参戦する“痛車”を紹介【後編】
ハルヒ ポルシェ&エヴァ初号機&エヴァ弐号機


 前編では、SUPER GT300クラスに参戦する4チーム5台の“痛車”の中から、「PACIFIC NAC イカ娘 フェラーリ」「初音ミク グッドスマイル BMW」の2台を紹介したが、後編では「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」と、「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」「エヴァンゲリオンRT弐号機RIRECTION」を紹介していく。

涼宮ハルヒがサーキットへ。果たしてサーキットにも驚愕が訪れるのか?
 SUPER GTにおいて、もっとも新しい参戦キャラクターとなったのが「涼宮ハルヒ」である。富士スピードウェイでの開幕戦を約1週間後に控える4月22日に、公式サイトの「ハルヒイズム」(http://www.haruhikyougaku.jp/)において、「とうとう、あたしもカーレースデビューしちゃうわよ! みんな、応援するのよ!」と正式発表された。エントラントはHANKOOK KTRで、33号車と34号車の2車体制のうち、34号車が「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」の車名で登録されている。HANKOOK(ハンコック)は韓国のタイヤメーカーで、車輌はポルシェ911 GT3 RTR。

「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」。ボンネットには、SOS団参上の文字も踊るリア側。角川スニーカー文庫のスポンサーロゴも付いていた「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」のコックピット

 涼宮ハルヒは、角川スニーカー文庫から刊行されている谷川流(たにがわながる)氏による人気のライトノベルシリーズ。第1巻の「涼宮ハルヒの憂鬱」が2003年6月に書き下ろしで刊行され、巻数を重ねて現在では第9巻の「涼宮ハルヒの分裂」までが出版されている。そして来たる5月25日には、その「涼宮ハルヒの分裂」以来4年ぶりとなる最新刊「涼宮ハルヒの驚愕(前)(後)」が2冊同時に刊行される予定だ。大人気シリーズとあって、前後(ぜん・ご)編の2冊セットとなる初回限定版は、51万3000部(セット)が発行される。また、分売となる通常版は6月15日の発売を予定する(内容は初回限定版と同じ)。

 ライトノベルも人気シリーズだったが、大きな注目を集めたのは2006年のアニメ化がきっかけだ。「涼宮ハルヒの憂鬱」のタイトルで全14話が放送され、涼宮ハルヒというキャラクターと、関連コンテンツがブレイクし多方面に拡大していった。2009年には第2期となるアニメ化も行なわれ、第1期の14話に加えて新作の14話を追加。計28話をストーリーの時系列に沿った形で再構成して放送するという新たな試みに加え、第2期最終話では劇場映画となる「涼宮ハルヒの消失」の予告を行って、2010年2月にロードショー公開している。TVアニメ版は一貫して「涼宮ハルヒの憂鬱」というタイトルだが、原作であるライトノベル版と照らし合わせると、第6巻までの内容がほぼアニメ映像化されていることになる。

 涼宮ハルヒにはライトノベル版、アニメ版それぞれに公式サイトがあるが、今回SUPER GTへの参戦発表を行なったのはライトノベル版のほう。現在は「涼宮ハルヒの驚愕」発売記念のスペシャルサイトとして運営されている。同サイトでも「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」のカラーリングは確認できるが、車体には「涼宮ハルヒの驚愕(前)」の表紙と同じ涼宮ハルヒが描かれている。イラストはライトノベル版のキャラクターイラストを手がける、いとうのいぢ氏によるもの。

 開幕戦となる富士スピードウェイで「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」のピットを訪れると、そこにはサイトで紹介されているものと全く同じ車輌、そして多くのイラストボードなどが設置されていた。イラストボードには涼宮ハルヒ以外の主要登場人物である長門有希、朝比奈みくるなどの姿も見える。なかにはアニメ版にはまだ登場していないものの「涼宮ハルヒの驚愕(後)」では表紙にもなっている佐々木の姿もある。いずれも「涼宮ハルヒの驚愕」のロゴが付いたイラストになっていて、大型コンテンツとしての涼宮ハルヒではなく、ライトノベル「涼宮ハルヒの驚愕」発売に向けたプロモーションのひとつという印象が強い。

ピット内にあるウォールに描かれたイラスト。ハルヒレーシングの公式サイトURLも掲載されているこちらもピット内のウォール。ハルヒと佐々木のイラストが描かれている給油装置には朝比奈みくるちゃんのイラスト
長門有希のイラストもある。左奥にある33号車 車輌側のウォールはHANKOOKのロゴのみがあるドライバーを務める高森博士選手(右)と蒲生尚弥選手(左)のレーシングスーツにも涼宮ハルヒの驚愕のロゴ車体側面に大きく描かれた涼宮ハルヒ

 サーキットでの活動だが、今回紹介する4チーム5車輌のなかでは現時点で唯一、個人スポンサー制度が実施されていない。また、ハルヒレーシング関連グッズなどの販売予定なども発表されてはいない。チームとしてディジョンレーシング所属のレースクイーンはいるが、彼女たちは主に33号車を中心に担当しており、ピットウォークなどでは他のチームがレースクイーンを車輌に寄り添わせるのに対して、ハルヒレーシングHANKOOKポルシェでは、涼宮ハルヒの立て看板が立っているというなかなかユニークなものだった。

 予選では残念ながらスーパーラップへの進出はかなわず、今回はテーマソングがサーキットに響き渡ることはなかった。前述したように今のところライトノベル版に合わせたキャラクターのみが露出しているだけに、果たしてどの曲がテーマソングになっているのかは気がかりだが、それは今後の楽しみにとっておこう。

ピットウォークの様子。ハルヒレーシングのピット前には涼宮ハルヒの立て看板キッズウォークでは、子供達に「ハルヒレーシングHANKOOKポルシェ」のペーパークラフトが配られたペーパークラフトの完成サンプルも展示されている

 公式サイトとしては「ハルヒレーシング」(http://www.haruhi-racing.com/)がすでに用意されているが、本稿掲載時点ではいまだ制作中の表示がなされている。参戦発表から日が浅いこともあってまだ準備が整っていないのか、それとも涼宮ハルヒゆえに今後何か大きな仕掛けを用意しているのかは分からないが、今後のハルヒレーシングのサーキット内外でのファンに向けた活動には注目していきたい。

 タイムスケジュール的には5月21日、22日に、延期されていたSUPER GT第1戦が岡山国際サーキットで開催される。翌週の25日には「涼宮ハルヒの驚愕(前)(後)」の発売を迎えることになるので、ここは大きなはずみをつけたいところだろう。

 チーム体制やレース結果は関連記事が詳しい。ハルヒレーシングHANKOOKポルシェのドライバーは、高森博士選手とマイケル・キム選手。今回の富士スピードウェイはドライバー三人体制で臨み、蒲生尚弥選手も加わっている。予選結果は18位、決勝は10位でハルヒレーシングのデビュー戦を終えた。いきなりの大活躍というわけにはいかなかったが、同じエントラントの33号車 HANKOOK PORSCHEは、予選で後続にコンマ8秒余りもの差を付けてのGT300クラス首位。決勝も危なげなくそのまま勝利を収めた。マシンセッティングの違いなどはあっただろうが、ほぼ同一の車輌が結果を出しているだけに、痛車の中ではもっとも勝利に近い位置にいるとも考えられる。


【お詫びと訂正】記事初出時、決勝の順位を11位としておりましたが、正しくは10位となります。また、ピット内のウォールに表紙イラストを使用としておりましたが、表紙イラストは別のものとなります。お詫びして訂正させていただきます。

弐号機を投入したエヴァンゲリオンレーシング。レースクイーンも5人が勢揃い
 エヴァンゲリオンは、もはや前提となる説明が不要なほどに認知されたコンテンツだろう。テレビで最初のアニメ放送が行われたのは1995年のこと。続いて劇場版が制作され、当時は社会現象とまで呼ばれた。その後も息の長いコンテンツとしてさまざまなメディア展開を続けてきたが、2006年より新劇場版のシリーズを始動。2007年9月に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」、2009年6月に「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」がそれぞれ公開され、今は続く「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」の公開が待たれている。

 SUPER GTには2010年の第3戦からメインスポンサーとして参戦。2010年はカローラ アクシオをベースとした車輌で「エヴァンゲリオンRT初号機カローラ」として戦っていた。そして今シーズンはCars Tokai Dream28をエントラントとして「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」、そしてDIRECTION RACINGをエントラントとして「エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION」の2車体制となる。

 初号機はムーンクラフト・紫電、弐号機はPORSCHE 911 GT3。それぞれに特徴の異なる車輌という点でも、弐号機の投入は作品とのシンクロ率が高まった。実際、シーズンを通しても、富士スピードウェイのようなストレートの長い高速サーキットでは弐号機をメインに、一方テクニカルなサーキットでは初号機をメインにと相互に補完するような戦略を描いているとのこと。例えば初戦では弐号機のトラブルにより実現しなかったが、長いストレートでは弐号機のスリップストリームで初号機を引っ張るといったシーンを目にする機会もあるかも知れない。

新たに弐号機を投入。ピットに設置されたウォールにもエヴァンゲリオン弐号機の姿フロント部。今回の開幕戦、すべての車輌のフロントグラスに「がんばろう!日本」の文字エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONのリアまわり

 車体のカラーリングはいわゆる痛車そのものとはベクトルが異なる。一般的に認知された痛車と言えば、キャラクターそのものずばりか、あるいはキャラクターをシルエットなどで描いたものを指すことが多い。エヴァンゲリオンで例えるなら、レイやアスカが描いてあるような車だ。しかし、エヴァンゲリオンレーシングの場合は、人型決戦兵器であるエヴァンゲリオンのイメージカラー数色ずつを使ってクルマのカラーリングを行なっている。しかしながら、誰が見ても「エヴァンゲリオンだ!」と思えるデザインになっている点が、いかにエヴァンゲリオンがコンテンツとして確立されているかを表すものに他ならない。また、昨年までのカローラ アクシオから、紫電とポルシェに変わったことで、車輌そのもののデザインも丸みを帯びた。人型というイメージにより近づいたと感じられることだろう。

「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」フロント。背後のパネルには特務機関ネルフやゼーレのロゴも見えるメンテナンス中の初号機。こちらのウォールにはエヴァンゲリオン初号機が描かれている

 レースクイーンにも注目したい。2009年は綾波レイと式波アスカの2人構成からスタートしたレースクイーンだが、終盤戦では真希波マリも加わって3人体制となった。そして2011年シーズンでは碇シンジ、渚カヲルという2人のレースクイーンも加わってチルドレン勢揃いということになった。もちろん、シンジ役、カヲル役のふたりはとてもボーイッシュ。作中では男性であることから、コスチュームもミニスカートではなくホットパンツになっているこだわりようだ。これは、何より写真を見てもらうのが一番だろう。

 エヴァンゲリオンレーシングのレースクイーン達はサーキットのピットウォークやパドックウォークだけでなくイベントにも登場している。今年はイベントのための専用トレーラーも投入され、開幕戦では予選、決勝の2日間を通じて計5回のイベントステージが行われていた。こうしたステージは各レースクイーンの紹介をはじめとして、クイズ大会、フォトセッションなどから構成されている。また、東日本大震災に対する援助活動のひとつとしてチャリティ握手会が開催されるなど、ファンサービスと社会貢献に務めていた。なお今回は開幕戦ということもあってレースクイーンの5人全員が勢揃いしていたが、今後はなかなか全員が揃うという機会は少ないかも知れないとのこと。貴重なチャンスは逃さないようにしたい。

イベントステージになるトレーラー車。側面には初号機、弐号機がそれぞれ描かれた痛トレーラーになっている。今回はSUPER GTということで初号機側が正面に設置されていたが、二輪のレース時には弐号機側が正面になるものと想像される。
まさに非常事態。東日本大震災の復興支援として、チャリティ握手会も行なわれた
ついに勢揃いした5人のレースクイーン水谷望愛さんが務める綾波レイ千葉悠凪さんが務める式波・アスカ・ラングレー
水乃麻奈さんが務める真希波・マリ・イラストリアス清水恵理さんが務める碇シンジ采女華さんが務める渚カヲル

 このイベントステージ横でも募集されていたが、エヴァンゲリオンレーシングにも個人スポンサー制度が用意されている。こちらは3000円から5万円(いずれも税別)まで全部で5つのコースが用意されており、もらえる限定応援グッズやチームが主催する各種イベントへの参加権などが異なる。内容の詳細は公式サイト(http://www.runat.co.jp/teamruna/evaracing11/supergt.html)を参照してほしい。現在は第4期の募集が行われており、個人スポンサー向けの公式グッズなどは7月頃に発送される見通しだ。

 開幕戦の結果は関連記事のとおり、新たに投入された「エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTION」は公式予選前の練習走行でエンジントラブルを発生。パーツの交換等で対処できるレベルではなかったということで、残念ながら初出走はかなわなかった。いっぽうの「エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電」は予選5位、決勝は残念ながら途中リタイヤに終わった。来期レギュレーションの変更により、ムーンクラフト・紫電は車輌として最後のシーズンとなる見通し。エヴァンゲリオン初号機として、是非とも勝利を得たいシーズンとなる。

レースクイーンにシンジ君とカヲル君が登場したため、ドライバーのスーツは昨年までのシンジ君デザインから変更されている。しかし、これもまたプラグスーツとのこと。初号機は、高橋一穂選手(左)と加藤寛規選手(右)がドライバー弐号車のドライバーはカルロ・ヴァン・ダム選手(右)と水谷晃選手(左)が務める

 以上、前編・後編に分けて4チーム5台の参戦車両を紹介した。このレースの模様はテレビ東京系列で毎週日曜23時30分からの「SUPER GTプラス」(BSジャパンでは毎週日曜10時30分から)で放送される。5月15日の放送内容はGT300クラスとなっており、このクラス特有の激しい戦いを見ることができるだろう(「世界卓球2011」放送のため、放送時間変更の可能性あり)。

 なお、次戦は震災で延期となった第1戦「OKAYAMA GT 300km RACE」が岡山国際サーキットで、5月21日、22日に行われる。

(奥川浩彦/Photo:矢作 晃/矢作 晃)
2011年 5月 13日