クリーンディーゼル普及促進協議会、ディーゼル普及に向けたシンポジウム開催
マツダ、ベンツによる企業プレゼンやパネルディスカッションを実施

2011年6月2日開催



 クリーンディーゼル普及促進協議会は6月2日、同協議会の設立を記念したシンポジウムを都内で開催した。

 同協議会は5月12日に設立された団体で、クリーンディーゼルの普及・促進を目的に国や地方自治体との勉強会や研究会などを開催するとともに、普及への弊害となる仕組みや制度を改革していくよう政策提言を実施していくと言う。会員企業はマツダ、メルセデス・ベンツ日本、ボッシュのほか、全国ディーゼルポンプ振興会連合会などで、現在も会員を募っている。

 シンポジウムでは、はじめに慶應義塾大学大学院教授であり同協議会の会長である金谷年展氏と、経済産業省製造産業局自動車課 課長補佐 笠間太介氏が登壇し、冒頭の挨拶を行った。

クリーンディーゼル普及促進協議会 会長 金谷年展氏経済産業省製造産業局自動車課 課長補佐 笠間太介氏

 金谷氏は協議会の意義について触れ、「ディーゼルに対するイメージは少しずつ改善されてきているものの、環境にわるい、健康にわるい、うるさい、汚いと思われている方が依然として多い。しかし、1990年代後半から登場したクリーンディーゼルでは、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)などの排出量は格段に減少しており、現在ではディーゼル車の持つ燃費性能や、CO2排出量の少ないといったメリットがクローズアップされつつある」と言う。

 また、クリーンディーゼル車では石油起源の燃料のほか、トウモロコシやサトウキビ、バイオマス起源のバイオ燃料などを使うことができ、これらを利用することでライフサイクル全体でCO2排出量を削減できることを紹介するとともに、ガソリン、軽油のいずれも石油から精製されるものだが、日本ではガソリン車が圧倒的に多いことから「ガソリンと軽油の需給バランスが取れていないので、(クリーンディーゼル車が増えることで)バランスが取れれば無駄なく、効率よく石油を使い切ることができる」と、そのメリットを説明する。

 一方、ユーザーから見てもクリーンディーゼル車は「燃費がよく、経済性が高い」「耐久性が高く、生涯コストが低減される」「加速性に優れドライバビリティに優れている」などのメリットがあるものの、実際に販売されているクリーンディーゼル車が極端に少ないという現状がある。近年ではメルセデス・ベンツをはじめ、欧州の各メーカーからクリーンディーゼル車が登場し始めている現状を踏まえ、「その勢いを加速させるべく協議会を設立した」と、金谷氏はクリーンディーゼル普及促進協議会の設立の背景を説明した。

 経済産業省の笠間氏は、クリーンディーゼル車について「環境に優しい」「グローバルに需要がある」「電気、プラグインと違い長距離移動する人にうってつけ」と、そのメリットについて説明。また、今後片寄ったエネルギーに依存するのではなく、さまざまな省エネルギー対策が必要とし、ガソリン、電気、軽油など各エネルギーを有効利用することが必要であり、そういった意味で「今後ますますクリーンディーゼル車が必要になる」と述べるとともに、「協議会にはディーゼルに対する消費者のマインドを変えてもらいたい」と、期待感を示した。

ディーゼル乗用車普及によるPM、NOxの大気への影響について。ディーゼル車が普及しても、PM、NOx濃度は影響が少ないと言うガソリンを1としたCO2排出量相対値をグラフ化。バイオマスでもライフサイクルではCO2排出量が大きく異なるのが分かるディーゼル車の普及によってCO2排出量は635万t削減できるとの試算
日本ではガソリンと軽油の需給バランスが崩れているユーザーから見たクリーンディーゼルのメリット日本で販売されているクリーンディーゼル車は、メルセデス・ベンツのEクラス/MLクラス BLUETEC、日産のエクストレイル、三菱のパジェロにとどまる
日本のメーカーも欧州では多数のディーゼル車を販売している

 次に、マツダ 執行役員パワートレイン技術開発部長の人見光夫氏と、メルセデス・ベンツ日本 商品企画・マーケティング部 部長 永久仁一氏が企業プレゼンテーションを行った。

マツダ 執行役員パワートレイン技術開発部長 人見光夫氏メルセデス・ベンツ日本 商品企画・マーケティング部 部長 永久仁一氏

 人見氏は同社のディーゼルエンジンに対する取り組みについて語った。現在、マツダでは次世代技術「SKYACTIV(スカイアクティブ)」の開発を進めているところで、その中にはディーゼルエンジンの「SKYACTIV-D」も含まれる。

 ディーゼルエンジンが抱える問題として、欧州Euro6、北米T2B5エミッション規制など、より厳しくなる排ガス規制への対応が挙げられる。こうした規制をいかに低コストで乗り越えられるかを鍵に、SKYACTIV-Dの開発目標として「2ランク下のガソリンエンジン車の燃費(現行ディーゼル車から20%改善)」「高価なNOx後処理なしでEuro6、国内規制、T2B5に対応」「HEV以上の経済合理性、既存Euro5対応エンジンより低コストで各国の排出ガス規制への対応」の3点が掲げられたと言う。

 その開発目標を背景に、これまで16~18程度だった圧縮比を14まで下げた。燃焼タイミングの最適化を図ることで、燃料がシリンダー内でよく混ざるまで着火せず、上死点付近での燃焼効率が向上するとともに、NOxやススを低減させることができたと言う。また、均質な混合気を最適なタイミングで燃やすことができるため、出力、燃費性能も向上したことを人見氏は説明した。

厳しくなる排ガス規制への対応でコスト上昇要因が増大してしまうディーゼルエンジンの存在意義は、大幅な燃費改善と排ガス規制への対応で増大するコストを抑える技術にかかるSKYACTIV-Dの開発目標
SKYACTIV-Dでは低圧縮比14を実現した低圧縮比化するメリット低圧縮比の効果
低圧縮比により機械抵抗をガソリンエンジン並みに抑えることができたと言う開発目標どおり、現行比で約20%の燃費改善を達成した現行ディーゼルエンジンに比べ、低速および高速トルクを大幅に向上させることができた
コストが増大するため、高価なNOx後処理なしで対応した

 一方、永久氏は「メルセデス・ベンツが目指す未来のモビリティ」をテーマにプレゼンテーション。未来のモビリティは「魅力的でエモーショナルな製品」「事故ゼロのドライビング」「高効率でクリーンなドライビング」からなるとし、ここでは高効率でクリーンなドライビングに焦点をあてて説明を行った。

 同社は、欧州でCO2排出量の削減に向けてさまざまな取り組みを行っており、対1995年比で14%の削減に成功した。その削減には、クリーンディーゼル車が大きく寄与しているそうだが、Euro6のクリアに向けては自動車産業だけの改善では限界があると言い、燃料産業に既存燃料の改良、ユーザーに低燃費運転の啓蒙を行うなど包括的なアプローチを実施しており、「相当な努力を要している」(永久氏)ことを説明した。

 また、東日本大震災後、独ダイムラーはオフロードトラック「メルセデス・ベンツ ゼトロス」、多目的作業車「メルセデス・ベンツ ウニモグ」など50台の復興支援車両を日本財団に寄贈したが、「これらの車両は日本の規制に対応していないので、役目を終えた後返還されることになる。この例からも分かるように、世界各地の規制に対応するのは非常にコストがかかるので、規制を世界統一して欲しい」と述べていた。

自動車産業は多岐にわたる課題を同時達成しなければならない未来のモビリティは「魅力的でエモーショナルな製品」「事故ゼロのドライビング」「高効率でクリーンなドライビング」からなる欧州でCO2排出量を対1995年比で14%削減
世界各地で排出ガス規制の厳しさは増している厳しい排出ガス規制をクリアするには自動車産業のみならず、燃料産業、顧客、政策の観点からCO2排出量の削減に向けた取り組みを行う必要があるBLUETEC技術について
日米欧の排出ガス規制値の比較東日本大震災での被災地への支援活動を行い、ゼトロス、ウニモグといった復興支援車両を日本財団に寄贈した

 プレゼンテーション終了後には、会長の金谷年展氏、東京工業大学大学院教授の柏木孝夫氏、自動車評論家の川端由美さん、ジャーナリストの崎田裕子さん、早稲田大学大学院教授の大聖泰弘氏の5名によるパネルディスカッションも行われた。

 柏木氏はディーゼルエンジンについて「“どんな燃料でも食べられるブタの胃”のようで、対応の幅が広いエンジン」とその特徴を紹介したほか、川端さんは「欧州では2030年あたりまで内燃機関に期待している。燃費のよいエンジンを作り、その上でモーターを乗せるという考え方。一方、日本では旧来の内燃機関に開発費をかけない方向で進んでいる。企業にはエンジンの開発に目を向けて欲しいし、政府にもっと研究機関に向けて開発費を出資してほしい」、崎田さんは「消費者はディーゼルエンジンに対して大気が汚れるというイメージを持っている。これを改善しなければならないし、(そう消費者が思っているから)ディーゼルは普及しないと考えている企業の考え方も改善しなければならない」など、今後のクリーンディーゼルの普及に向けたさまざまな問題についてディスカッションが行われた。

司会進行は毎日新聞社 水と緑の地球環境本部長 斗ヶ沢秀俊氏が務めた東京工業大学大学院教授の柏木孝夫氏ジャーナリストの崎田裕子さん
自動車評論家の川端由美さん会長の金谷年展氏早稲田大学大学院教授の大聖泰弘氏

(編集部:小林 隆)
2011年 6月 3日