日野、「ダカールラリー2012」に新レーシングトラックで参戦 「レンジャー」をミッドシップ化して戦闘力向上 |
日野自動車は10月18日、「ダカールラリー2012」トラック部門に、「日野チームスガワラ」から「レンジャー」2台で参戦すると発表した。ダカールラリー2012は2012年1月1日~15日に南米アルゼンチン・チリ・ペルーで開催される。
同社は1991年に同社創立50周年記念として日本のトラックメーカーとしてダカールラリー(当時はパリ・ダカールラリー)に参戦。以来、大会が中止された2008年を除いて連続して参戦し、クラス優勝11回、うち7回は連覇を遂げているほか、1997年にはカミオン(トラック)部門総合優勝、3位までを独占という成績を収めている。
同社のダカールラリー参戦を担うのは、ラリードライバーの菅原義正氏。ダカールラリーにはカミオンだけでなくモト(2輪車)、オート(乗用車)でも出場し、2012年大会に出場すれば実に29回連続出場となる。
■ミッドシップの新車を製作
菅原氏は1998年から次男の菅原照仁氏とともに参戦。今回は義正氏が1号車、照仁氏が2号車をドライブする。
1号車は2011年大会でクラス優勝した車両に改造を加えて、引き続き使用するが、2号車はまったくの新車。同チームが新車を仕立てるのは8年ぶりのことで、これまでは市販車クラスでエントリーしていたが、市販車クラスのホモロゲーションが切れた1号車とともに、2台で改造車クラスにエントリーする。
向かって左が1号車、右が2号車。キャブの長さが識別のポイントで、1号車はベッド付きの長いキャブ、2号車がベッド無しのショートキャブとなっている |
2号車は、ベース車をこれまでのレンジャーFTから、よりフレーム組幅が広く改造しやすいレンジャーGTに変更。工場からラインオフしたレンジャーGTをユニット単位まで分解し、改造を施した。
改造のポイントは、加速性能と操縦安定性の向上。まずエンジンの位置を300mm後退させ、フロントミッドシップとすることで重量バランスを改善。ベッド付きキャブからベッド無しのショートキャブへの変更、リアのサブフレーム廃止、リアボディーパネルをアルミから幌(ターポリン)に変更するなどして、約300kgの軽量化に成功した。
同チームは2009年にミッドシップレイアウトを採用したが、冷却で苦しめられた経験を持つ。そこで、レギュレーションによりラジエターは元の位置、つまり車両最前部に置かれたままだが、エンジンとの位置が離れているため冷却ファンとラジエターのあいだをシュラウドで連結。さらに、インタークーラーとオイルクーラーをリアボディー上部前端に移し、冷却性能を高めた。
これらの効果は8月にテストとして参戦したラリーモンゴリア2011で確認されており、タイムが10%ほど短縮されたと言う。ドライバーの照仁氏は「ダカールラリーは60時間以上走るので、(タイムが10%短縮されれば)6時間はマージンがとれる。狙い通りにクルマができあがっている」と言う。
テストコースで1号車をドライブした義正氏は、照仁氏がドライブする2号車と並走しようとしても追いつけなかったと言う。「加速性能がすごく違ったのと、運動性能がかなりよくなった。照仁に聞いたら、“アクセルはハーフくらいだった”と言っていた」と、2号車の性能のよさを語った。
なお、2号車は今後、エンジンやアクスルの強化を施し、複数年をかけて強化する計画。最終的には「総合5位を狙えるクルマにする」(照仁氏)と言う。
ダカールラリー2012のコース |
■厳しいが、チームの力を発揮しやすいコース
2012年のダカールラリーは、アルゼンチンのリゾート地マルデルプラタをスタートし、アンデス山脈を越え、チリを北上、ペルーのリマがゴールとなる。走行距離は約1万kmに及ぶ。
チームが入手した情報によれば、マルデルプラタには砂浜を使った20~30kmのコースが設けられ、初参加の選手の多くがリタイアすると予想されていると言う。
続くアンデス山脈は、富士山の頂上なみの3500mほどの標高まで上るSS(スペシャル・ステージ)など、勾配のある山岳地帯のコース。これを越えると砂丘が続くコースとなり、鉱山落盤事故で知られたコピアポ、アタカマ砂漠、リマ付近まで高い砂丘が続く厳しい戦いになると言う。
照仁氏は「砂、砂丘が多く、個人的な感覚では今までで一番難しいルート。しかし、厳しい所が続けば続くほどレンジャーの機動性が出せるので、難しいコースは大歓迎」と、日野チームスガワラの力を発揮しやすいコースとの印象を述べた。
菅原義正氏(右)と照仁氏。照仁氏が速い2号車に乗ることについて、「新米は試作車に乗せて、ベテランは熟成されたマシンで闘うもの」(義正氏)、「速いクルマに乗るとオヤジでは目がついて行かない」(照仁氏) |
今年70歳、古希を迎えるベテラン・ラリードライバーの義正氏も「ペルーがゴールなので、砂丘がかなり多くなると考えている。過酷さが増す後半に成績を上げるだろう」と語る。「どんな窮地に至っても決して諦めないスピリットを生み出すのは、人間の心であり、人間の力。震災があり、社会的にも経済的にも先が見えない状態が続いているし、我々の挑戦にも多くの困難が予想される。しかし、我々の進む道は1つ。私たちは夢から逃げないし、自分からも逃げない」「私自身、古希になり、大会に出る1500人中、最年長になると思う。しかしチームの夢も私自身の夢もまだ完成していない。どこまで行けるか分からないが、前をまっすぐ向いて進んでいく」と、ファイティングスピリットの迸りを隠そうともしない。
日野自動車の白井芳夫社長はダカールラリー参戦の目的として、「グローバルでの日野の認知度アップ」「日野の技術の実証」とともに、「チームワークの強化」を挙げる。「震災で被災した販売店の皆さんが、震災に負けないよう力を合わせて仕事をしてくれた。日野から派遣した支援隊も、自分たちのことはさておいて、どうやったら現地を助けられるか、毎日遅くまで働いた。ダカール・ラリーを戦うのも同じ事」。
今回のチームには、被災した宮城日野自動車 石巻営業所の稲葉勇哉氏がメカニックとして参加する。稲葉氏は「1つでも明るいニュースを持って帰れればと思い、応募した。全国からいっぱい支援をいただいたので、みなさんに元気で頑張っている姿をお見せしたい」と、参加の理由を語った。
白井社長 | 宮城日野自動車 石巻営業所から稲葉氏が参戦。メンバー最長18年の整備士歴を持つ |
(編集部:田中真一郎)
2011年 10月 18日