日産の新顧客管理システムは、「車中心」から「顧客中心」へ
日産、マイクロソフトとともに顧客管理システムを刷新、世界展開

左から日産の行徳グローバル情報システム本部長、パーマー副社長、マイクロソフトのタタリノフ プレジデント、日本マイクロソフトの樋口社長

2011年12月12日発表



 日産自動車とマイクロソフトは12日、次世代ディーラーマネジメントシステム(DMS)を構築する覚書を締結したと発表した。同日、両社は都内でこの件に関する記者会見を開催した。

日本から全世界に展開
 日産は6月に発表した中期経営計画「パワー88」において、2016年に世界市場シェア8%以上、営業利益率8%という目標を掲げている。これを達成するための柱として「ブランド力」と「セールス力」の向上をあげているが、DMSの刷新はこれを支えるための施策。

 より顧客志向で、かつ、現行システムにあるムダを削ぎ落した効率的なシステムを構築することで、顧客のユーザー体験を高め、販売力増につなげるのが狙い。2012年秋にはパイロット版をリリースし、2013年3月末には日本の全店舗に導入する計画だ。

 次世代DMSは日本から導入されるが、全世界のディーラーへの展開も予定されている。パワー88では「グローバルでのビジネス拡大」が必要であり、これから成長する戦略市場、特にロシア、中国、ブラジル、インド、タイ、インドネシアなどでのブランド力・販売力増を図るためだ。このため、次世代DMSは「グローバルで使用されるコア」と、国ごとの実情に合わせられるローカル・システムという構成を採る。

 また、日本が持つノウハウをパッケージ化し、全世界に展開しようという目論見もある。「いろいろ検討してきたが、日本のディーラープロセスはグローバルでも十分対応できるという結論になった。ただし、日本のいままでの複雑でウェットなやり方でなく、もうちょっとドライな方向に持って行って、プロセスをシンプルにして標準化するのが1つの大きな狙い」(日産の行徳セルソ グローバル情報システム本部長)。

次世代DMSの概要インフラにウィンドウズ・アジュール、CRMにダイナミクスCRMを採用日本の販売プロセスをグローバル展開する

顧客中心のシステムに
 次世代DMSが目指すのは「お客様におもてなしの対応ができること」(行徳氏)。具体的には、すべてのディーラーが顧客の情報(顧客のプロフィールや、車のサービス履歴など)を共有することで、顧客がどのディーラーに行っても最適なサービスを受けることができるようになる。「顧客がディーラーに来た時点で、ディーラーのスタッフがオンデマンドで顧客の情報をリアルタイムで分かるのが1つの大きなポイント。この顧客が日産にとってどれだけ重要なのか、リアルタイムで分かる」(行徳氏)。

 また、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を活用し、顧客が日産の車をどう評価しているかなどをディーラーで把握する。

 これらの情報にはPCだけでなくタブレット端末などさまざまなデバイスで次世代DMSにアクセスできるようにする。

 日産のアンディ・パーマー副社長は「この発表での重要な違いは、私たちは主にお客様に焦点を当てているということ。自動車メーカーは歴史的に自動車に焦点を当て、お客様を待っていた。ディーラーに来ると、ディーラーがあなたが誰なのか分かって、そのお客様の情報にタブレットでアクセスでき、どうやって話をすればいいのか把握できれば、自動的にブランドの関係が構築できる」と言う。

将来のディーラー像を提示
 行徳氏は「次世代DMSが実現すれば、ディーラーのマネジメントだけでなく、日本の他の業務(物流、生産など)も支えていくようになる」と、DMSの整備が単にディーラーマネジメントだけに留まらないことも示唆。テレマティスクサービスなどとの連携も視野に入っているようだ。

 このように次世代DMSにはさまざまなシステムと連携できる拡張性と、各国の実情に合わせることができる柔軟性が要求され、これらの条件を満たすプラットフォームがマイクロソフトのCRM(顧客管理)システム「ダイナミクスCRM」だったと言う。

 またその基盤システムとして、やはりマイクロソフトのクラウドサービス「ウィンドウズ・アジュール」を採用する。これらにより、従来のシステムから15~20%のコスト削減が可能と見る。

 米マイクロソフトのビジネスソリューション担当であるキリル・タタリノフ プレジデントはダイナミクスCRMがKDDIなどでも使われており、急成長を遂げていることをアピールした後、「ダイナミクスCRMは自動車産業でも人気がある。フォードではコールセンターで使われているし、小さなディーラーでも世界各地で散発的に使われている。しかし、日産とのプロジェクトのような規模、野心に匹敵するものはない。広範に世界のディーラーをつなげ、効率的に仕事をするのは、まさに進化のプロセスの1つだ。将来のディーラーがどうなるかが、これに凝縮されている」と述べた。

(編集部:田中真一郎)
2011年 12月 13日