中国の東風日産に行ってきました


東風日産のイベント「創新之旅」に参加。世界最大の自動車市場となった中国を初訪問

 中国の東風日産で12月中旬に開催された「創新之旅」イベントに、筆者も縁あって参加してきた。創新之旅は、広州市にある東風日産の広報イベントで、12月5日より約1カ月にわたって実施されるもので、今回が初の試み。国内外のメディアや有識者、従業員など招待客約3,000人が来場予定とのことだ。

 この創新之旅において、建設中の新工場や、まもなく始動する新ブランド「ヴェヌーシア」のディーラーのほか、現地で実績を挙げている有力ディーラーなどを見学することができたので、ここにお届けする。

 筆者にとって中国は初めてとなるが、世界最大の自動車市場となったこの国の実際はどうなのか。中国での躍進が伝えられる日産自動車が、現地でどのようなことをやっているのか?など、大いに関心を持って臨んだ。

中国で躍進する東風日産
 現在、中国には多数の自動車メーカーが存在する中で、いくつかの有力なメーカー対しては、海外の大手メーカーが合弁という形で事業を展開している。よく知られているところでは、GM系やフォルクスワーゲン系が販売的にも上位を占め、日本のメーカーもトヨタ自動車や本田技研工業が積極的に中国に進出している。

 ただし、彼らの多くが複数の中国のメーカーと組んでいるのに対し、日産は東風汽車の1社のみをパートナーとしているのが特徴だ。東風日産は、中国の3大自動車メーカーである東風汽車と日産自動車による中国における合弁事業で、乗用車を担当するのが「東風日産乗用車公司」となる。そのほか、商用車の合弁事業も行っている。

東風日産設立の背景東風汽車との提携の狙い東風汽車との提携の特徴
東風日産のポジション東風日産組織図

 日産ブランドで2003年より12車種の新型車を投入。初年度は65,000台を販売し、翌年こそ61,000台と減少したものの、その翌年の2005年には158,000台、2006年は204,000台、2007年は272,000台、2008年は351,000台、2009年は519,000台、2010年は660,000台を販売。短期間で10倍に販売台数を伸ばしたことで世界的にも注目されている。

 2011年の販売台数も、「サニー」や「ティーダ」といった新型車の投入や、ディーラーネットワークの拡張、販売促進活動などが功を奏し、当初目標だった772,000台を上回る800,000台に達する見通しとのこと。中国国内のディーラーの店舗数についても、約1年間で460店舗から540店舗へと、ほぼ週に1店舗という、他ブランドの倍以上のスピードで増えていると言う。

 中国における2011年の1月~11月の販売台数および対前年比を見ると、1位が上海GMの1,151,010台で21.2%増、2位が上海VWの1,060,899台で16.8%増、3位が一汽VWの940,820台で17.1%増、そして4位が1ランクアップを果たした東風日産の731,328台で20.7%増、5位が北京現代の675,875台で6.0%増となっている。

販売推移メーカー別順位

 東風日産は将来的にはトップ3入りを目指しており、2015年には年間1,300,000台の販売が目標と言う。ちなみにトヨタやホンダ系のメーカーは、ご覧のとおりあまり芳しくない状況とのこと。東風日産がいかに躍進しているか、ご理解いただけることだろう。

 中国自動車市場の傾向としては、沿岸地域では買い換えの消費者が増えているが、全土で見ると「ファーストバイヤー」と呼ばれる、初めて自動車を購入する消費者の割合が大きく、それは内陸地域に行くほど顕著で、まだまだ自動車販売が伸びる余地は大きいと見込まれているようだ。

 同イベントのために、東風日産では広州市の本社近くにあるドーム型の体育館をしばらく借り切ったとのこと。中に入ると、東風日産のこれまでの歩みと、現在の状況、そして将来のビジョンにいたるまでの諸々の展示物が並べられていた。技術的な展示も多数あった中で、とくに電気自動車(EV)のリーフに関するものが充実していた。日産はやはりEVの世界的な普及を考えているようだ。見学を終えて体育館を出ると、東風日産が現在販売している全車種が一堂に並べられており、希望者は試乗もできた。

ドーム型の体育館で展示が行われたリーフの構造展示MR16DDTエンジンなどの技術展示
屋内、屋外において完成車の展示が行われた

日産の中でも最大級の花都工場
 ドーム型の体育館に続き、この取材の直後に竣工式の挙行が発表された「花都第2工場」を見学。同工場への投資額は50億元(日本円で約615億円)で、生産能力は年間270,000台。現在は向かい側にある第1工場で生産されている「ティーダ」を2012年1月より生産する予定となっている。第1工場と合わせた花都地区全体の生産能力は600,000台となり、将来的には670,000台まで拡大する見込みで、花都工場は日産のグローバル工場の中で最大規模の工場となる。広大な敷地に余裕を持って建てられた工場内には、いくつもの大掛かりなロボットなど、自動化を意識した最新の設備が整えられていることが見て取れた。

 続いて、第2工場の向かい側で稼動中の花都第1工場を見学。何台もの無人台車が走っている様子は、日本の日産追浜工場などでも見たことのある光景。従来はラインを流れる車種ごとに必要な部品を、作業員がその都度ラインのわきの部品棚から選んで組み付けていたが、あらかじめ別の場所で1台分ずつ箱に入れてラインの作業員に供給する、日産がいち早く導入した「キット(KIT)供給」と呼ばれる合理的な手法も、もちろん採り入れている。

花都第2工場花都第2工場内の様子。ロボットが多数ラインに並ぶ花都第1工場内では、無人台車によるキット供給が行われていた
花都第1工場の生産ライン風景

 花都第2工場のすぐ近くには、新ブランド「ヴェヌーシア」の建設中のディーラーがあり、そちらも見学した。自動車メーカー自身の名称ではなく、中国市場専用のまったく別のネーミングを用いたブランドを立てるという手法は、すでにGMやVWも行っている。こうすることで東風日産も、日産ブランドのままでは取り込みにくい潜在的なユーザーの発掘を目論んでいるわけだ。

 ヴェヌーシアは、イメージカラーであるブルー地に、中国の消費者にとってキャッチーに映るという☆のロゴマークをあしらっており、市販予定の「D50」と、先日のオート上海で披露されたばかりのコンセプトカーが展示されていた。D50は、日本の「ティーダ ラティオ」あたりに相当するCセグメント車だが、「より立派に、堂々と見えるよう、メッキを多用し、ボディーパネルのラインの入れ方にこだわってデザインした」とデザインの取りまとめを務めた、東風日産デザインセンター室長の山口勉氏は語る。ちなみに車名の「D」はセダンの意味で、「50」はクラスを表す。

建設中のヴェヌーシアディーラー受付の後方にはロゴマークが掲示されている
市販予定の「D50」東風日産デザインセンター室長の山口勉氏オート上海で披露されたコンセプトカーも展示されていた

購買意欲の盛んな中国の消費者
 ディーラー見学の後は、広州花都区の東風日産オフィスへ。オフィスの入口から入って少し進んだ一角には、東風日産のフラッグシップであるティアナを分解し、約3,200もの部品を天井から吊るすという「天馬行空」と題した奇抜な展示物があり、思わず目を奪われた。これも「創新之旅」の一環として制作されたものだ。

 東風日産の副総裁である任勇氏のインタビュー機会をいただいた。内容については非常に長くなるので、機会があれば紹介したいが、任勇氏は中国市場の現状をとても冷静に分析しており、非常の慎重な姿勢であること、さらには品質管理の重要性と、それを支える開発や技術、そして何よりも人材が重要であると認識していることが印象的だった。

東風日産のオフィス東風日産 副総裁 任勇氏
「天馬行空」と名付けられた、ティアナの展示

 翌日は、広州市白云区にある東風日産広利店を取材。10時前に現地に到着したのだが、すでにカウンターや商談席は来客で埋まっていたことに、まずビックリ。実のところ中国市場の急成長は最近ではやや鈍化しており、1桁台となっているとのことだが、東風日産は全国平均でも10%強を維持しており、同店も、2008年の設立以来、業績は順調に伸びている。代表の郭小龍 総経理によると、2011年1~11月の販売台数は前年比15%増の2,088台に達しているという。

 一般的な中国の消費者の傾向として、ブランド信仰は低く、実際の商品がよいものであれば評価してもらえるとのこと。東風日産のラインアップの品質面での評価は概ね高いと言う。中国でクルマの売れ行きを左右する、もっとも大きな影響力を持っているのは口コミで、次いで自動車ショーやディーラーの店頭などで実車に触れた際の感想とのこと。そこで東風日産では、大型トラックで各地を巡り、モーターショーのブースのようなスペースを展開して、より多くの人に実車を見てもらおうというキャラバン活動にも力を入れている。

 加えて同店では独自のサービスを行なっていることも少なからず販売に貢献しているようだ。いくつか例を挙げると、潜在的なユーザーに少しでも多く来店してもらえるよう、見込み客に対しては50元を上限に交通費を渡しているという。50元というのはタクシーで約20km走れる金額に相当するので、けっして安くない金額。また、成約したお客様が納車する際には、記念写真を撮影するとともに、お守りをプレゼントするという納車式を実施している。

 アフターサービスについては、8時から21時という長時間にわたって対応。さらに、保険加入者のみで年間3回までに限られるが、ユーザーがガス欠に見舞われた際に、市内であればガソリンを無料で配達したり、出先で飲酒した際には代行運転を無料で行ったり、日本ではまず聞いたことのないサービスも行っているのも興味深い。

 ちなみに、中国での自動車の購入時の支払い方法は、現金一括が主流で全体の9割を占めるとのこと。ただし、同店についてはローン利用者が約25%に達しており、徐々に増えつつあると言う。日本のような残価設定ローンは、まだ用意されていないようだ。

 店舗の上階に上ると、車両の一般的なメンテナンスのスペースだけでなく、非常に大掛かりな板金塗装ブースまである。日本では、ディーラーに板金塗装のできる設備が併設されているところはあまり多くない。しかし、同店では写真のとおり。それでも対応しきれないほど多くの補修の依頼があると言う。

東風日産広利店。数多くの新車が展示されている郭小龍 総経理
受付カウンターサービススペース
ディーラー内に、板金塗装ブースが備わっているのには驚いた

 2時間ほど同店に滞在したが、客足が途切れることはなく、非常に活気が感じられた。まだまだ娯楽の少ない地域のためか、同じ車種の購入者が独自に休日に集まってレジャーに出かけたり談話を楽しんだりするといった、いわばクラブ活動的な動きも盛んだと言う。

 一連の取材を終えて印象的だったのは、中国の成長するパワーとスピード感である。それが、欲しいクルマを手に入れるという行動に象徴的に表れているようだ。東風日産は、より多くの人々にとって魅力ある商品を的確に提供できているからこそ、これほどの急成長を遂げているに違いない。この勢いでいけば、目標どおりトップ3まで上り詰めるのも、時間の問題かもしれないと感じた。

(岡本幸一郎)
2011年 12月 27日