日産、世界各国の拠点で行われている「クオリティフォーラム」を公開
社員、サプライヤーを含め、グループ全体でモノづくりの品質意識を向上

2012年1月26日開催



 日産自動車は1月26日、同社社員やサプライヤー向けに開催している「クオリティフォーラム」を、日産グローバル本社(神奈川県横浜市)で報道陣に公開した。

 クオリティフォーラムは、日産車のさらなる品質向上を目指して開発、デザイン、生産、アフターセールスなど、モノづくりから販売までの多岐にわたる部門が、どのような取り組みを行い、そして活動しているのかを報告する社内イベント。

 初開催は2003年で、当初はTCSX(トータル・カスタマー・サティスファクション)本部の活動報告を行う「CSコンベンション」との名称で始まった。そして2005年から現在のクオリティフォーラムという名称に変更するとともに共催部署を増やしていき、2008年には日産社員やサプライヤー社員を含めて12,000人を動員する一大フォーラムとなった。

 9回目を数える今回の模様は、同社の厚木テクニカルセンターで昨年11月から先行公開されていて、すでに10,000人の関係者が参加。また、グローバル本社では1月26日、27日の日程で開催され、テクニカルセンターでの動員と合わせると12,000人以上の関係者がフォーラムを見学すると言う。

クオリティフォーラムの概要歴史と動員人数についてクオリティフォーラムは各国の拠点で開催されている
中期経営計画「日産パワー88」の中にある2つの柱「セールスパワー」「クオリティの向上」を強化するためにクオリティフォーラムは開催されているクオリティフォーラムのコンセプトと経営計画がリンクするポイントを解説

クオリティフォーラムを共催しているTCSX本部主管の鹿城弘史氏

国内外で行われているクオリティフォーラム
 専用の展示ホールで開催されたクオリティフォーラムを見学する前に、プレスルームで概要の説明があった。TCSX本部主管の鹿城弘史氏は「クオリティフォーラムは、全社員の品質マインド(意識)や管理を向上させるのが目的で、日産が置かれている現状や市場でのユーザーの反応を知り、また、各部署が品質向上に対してどのような活動をしているのかを報告する場となっていまる」と、クオリティフォーラムの要旨を語った。

 日産では昨年6月に新たな中期経営計画として「日産パワー88(エイティエイト)」を発表した。88には、2016年度までにグローバル市場の占有率を8%に伸ばすとともに、売上高営業利益率を8%に引き上げるとの意味が込められる。この2つの「8」からなる計画で、具体的に実行するために6つの柱を掲げている。その中でも、第2の柱である「セールスパワー」と第3の柱「クオリティの向上」を、社内により浸透させることがクオリティフォーラムの重要な目的の1つとなる。

 クオリティフォーラムは欧州、アメリカ、メキシコでも国内の発足とほぼ同時期から行われていて、グローバルで品質向上に取り組んでいるあらわれとなる。今年度は日米欧に加え、タイで東南アジア初となる同フォーラムを開催する予定と言う。このように、グローバルで日産の品質を向上させるため、国内のみならず全生産地域でフォーラムを開催し、共通意識を持たせている。そうすることで、より高いセールスパワーと高い品質を生み出すというわけだ。

世界中のリーフの情報が集まる「グローバルタスクセンター」
 それでは、専用の展示スペースで行われた内容を紹介しよう。展示されていたパネルやパーツ、資料などは撮影不可だったので、文章のみの解説となることをご了承いただきたい。

 会場内は「クオリティフォーラムのテーマ」「Enhancing Quality(品質向上)活動概要」「感性品質」「開発と生産の品質向上活動」「サプライヤー品質」「不具合対応スピード」「重大不具合」「営業&サービス品質」「プロジェクト品質(EVへの取り組み)」「CSマインドセット」の10のセクションから成っていた。

 この中でも興味深かったのは、一昨年の12月に世界初の量産型電気自動車(EV)としてデリバリーが始まった「リーフ」について。リーフはセールス側の対応やメカニックを含めたサービス、インフラ整備など、ガソリン車で構築してきたマネージメントが通用しないところがある。そのため、EVを量産販売するために必要な36項目を用意したと言う。その中には、ディーラーマンやメカニックのトレーニングを始め、販売後の迅速な対応方法なども含まれる。

 そして厚木テクニカルセンターには「グローバルタスクセンター」が設置され、各国のディーラーに入庫したリーフの情報を「コンサルト(故障診断機)」を通じて収集し、トラブルがあった場合は対応方法や不具合の内容を敏速に解析して処理する、といった取り組みを行っている。これを実現するために、各国のディーラーにWebカメラを備え付け、動画、画像でトラブルがあった場合の状況をチェックし、遠隔で対応を指示しているのだと言う。さらにスクランブル調査という、販売後にディーラーに入庫した車両の状態をチェックする回数を、これまでのガソリン車の10倍程度に増やすことで、積極的に情報収集を行っているそうだ。

「見て」「触って」「使って」というユーザーが直接感じる品質の向上
 感性品質の向上も、クオリティフォーラムで公開された項目の1つ。感性品質とは、外観や内装を実際に見て、触れて、使うことでユーザーが感じる品質のこと。この質感が高いと購入率が高まり、商品の売れ行きに直接つながると判断している。

 内外装に使われる素材の質感からインパネ、メーターまわりといったディスプレイ、ボディーや室内のデザインなど多くのカテゴリーに対して、それぞれ数学的に数値で解析し、どのような方向性や特徴を持たせれば感性品質がアップするかを研究している。研究結果はデザイナーや開発部門にフィードバックされ、新型車の内外装に活かされていると言う。

 また、感性品質は地域や国によって受け取られ方が異なる。例えば中国では、エンジンルームの質感が高いと「そのクルマがよく走る」というイメージを持ってもらえるそうで、エンジンルームの質感向上に注力しているそうだ。このように、仕向け地ごとにユーザーが好む方向性に仕上げることも感性品質の向上となる。

 これらの取り組みに加え、設計、生産、デザインの各部門が独自の質感、魅力を作り出すことで、競合車に対してアドバンテージをもたらしている。

外部指標でのトップレベルの評価を目指す
 質感の向上は自動車メーカーならどこでも取り組んでいることなので、品質の評価は主観では難しい。そのため、ユーザーが重要視している雑誌や外部機関の指標でトップレベルの評価を得るような取り組みも行われている。

 以前は、7カ国/7指標で評価されることを目標としていたが、現在では8カ国/11指標と設定を広げ、より多くの指標でトップレベルになることを目指している。外部指標は、他社の競合車も同じ土俵で評価されるので、品質の良し悪しが分かりやすいのと、アメリカのコンシューマーリポートのように、評価がよければ売り上げに直接つながることも大いにあるので、設定した外部指標でのトップレベル入りは達成必須の目標となっている。

 そのほかにも、サプライヤーから納入されるパーツの品質向上、リコールに関する重大不具合の情報を迅速に収集するなどの取り組みを各部門で行っていることが公開された。

 クオリティフォーラムを開催することで、開発、デザイン、生産、アフターセールスなどユーザーとつながる各部門の活動を、サプライヤーを含めた全関係者に知ってもらい、より強固な生産体制、品質向上に向けた取り組みを全社を上げて実施していることが見えた。

専用の展示スペースで開催された「クオリティフォーラム」。各部門の担当者がどのような活動を行っているのかを紹介。パネルや動画、パーツを使って詳細で分かりやすく実情を公表している

(真鍋裕行)
2012年 2月 9日