日産、技術開発拠点「テクニカルセンター」が30周年
新世代車両設計技術「CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」を発表

技術開発拠点「日産テクニカルセンター」

2012年2月27日開催



 日産自動車は2月27日、神奈川県厚木市の技術開発拠点「日産テクニカルセンター」が30周年を迎えたことを記念して、「テクニカルセンター30周年記念式典」を挙行した。同時に、新世代車両設計技術「日産CMF(コモン・モジュール・ファミリー)」を発表し、CMFについての説明会を同日開催した。

 同社の開発拠点は、1981年まで鶴見地区(神奈川県横浜市)と荻窪地区(東京都杉並区)の2拠点に分散していたが、開発体制の強化を図るため同年にテクニカルセンターを開設。その後、実車風洞実験棟や車体安全実験棟、ドライビングシミュレーター棟、フィールド・クオリティ・センター、エンジニアリングセンターなどを増設した。

 これにより、従業員数は1981年の開設当時の3400名から、現在は約9500名まで増えており、テクニカルセンターは技術・商品開発部門のみならず生産技術、品質保証、購買までを含めた「モノづくり」の総合的な拠点へと発展した。なお、本来であれば2011年がテクニカルセンターの30周年にあたるが、東日本大震災やタイの洪水といった災害があったため、同日の開催に至っている。

記念式典にはカルロス・ゴーンCEOも出席
 記念式典には、同社のカルロス・ゴーン会長兼CEO、山下光彦副社長に加え、神奈川県知事の黒岩祐治氏、厚木市長の小林つねよし氏、伊勢原市長の長塚幾子さんらが来賓。

 ゴーンCEOは冒頭、テクニカルセンターの開設によりマーチやフェアレディZ、リーフのほか、BセグメントのFF車用プラットフォーム「Vプラットフォーム」、自車上方から俯瞰したトップビュー映像を表示し、自車の周囲を確認する技術「アラウンドビューモニター」などが生まれたことを紹介するとともに、「投資の制約が厳しかった1999年に、ここで働く従業員の皆さんの情熱や覚悟があったからこそ、私も多くの研究・開発活動の続行を決めた。大小の進歩を積み重ね、日産は安全で環境に配慮した、乗って楽しいワクワクするクルマづくりを続けてきた。年月を経て、テクニカルセンターはモノづくりの機能を結集したグローバルセンターになった」と紹介。

 また、さまざまな部署をテクニカルセンターに集約させた理由について、「部門を超えたクロスファンクショナルな協力体制が、車両の組み立てラインにとどまらないモノづくりを実現するから」と述べるとともに、アライアンスパートナーのルノーや、戦略的協力関係にあるダイムラーといったパートナーとの取り組みを行うのがテクニカルセンターであることから、同社の中核的役割を担っているのがテクニカルセンターであることを説明した。

 そして最後に「テクニカルセンターが30周年を迎えたことを、従業員全員が誇りに思っていることと思う。少なくとも向こう100年間、魅力あるクルマを提供し、国内のみならず海外にも先進技術を送り出したい」と、今後の抱負についても語った。

山下光彦副社長カルロス・ゴーンCEO黒岩祐治神奈川県知事

執行役員 坂本秀行氏

CMFとは?
 同日発表されたCMFについては、同社の執行役員である坂本秀行氏が説明を行った。

 そもそもCMFを開発した背景には、環境対応や安全対策といった車両開発にあたってのコスト増があり、同社の算段ではこうしたコストが2015年には2倍以上(対2010年比)になると言う。そのコストを、車両価格に反映させることなく新型車に折り込むために開発されたものとなる。同時に、2016年に世界市場シェア8%、営業利益率8%という目標を掲げる中期経営計画「日産パワー88」を達成するための重要な手段と位置づけている。

 CMFは、メカニカルな4つのモジュールと、1つの電子アーキテクチャに分類して車両設計を行っていくという新しい設計手法で、「4+1 ビッグ モジュール コンセプト」とも呼ばれている。この新しい設計手法を取り入れることで、MPV、SUV、セダン、ハイブリッドなど、サイズや車高の異なる車両でも部品の共用が可能になり、その結果「共用化による量産効果の拡大」「新しい技術や新しい構造を複数車種に同時に展開できる」メリットがあると言う。

 4つのモジュールは、エンジンやトランスミッションを収納している「エンジンコンパートメント」、インストルメントパネルやシートなどを含めた「コクピット」、サスペンションや車両の構造系が集積する「フロントアンダーボディー」、クルマの重量を支える構造部材やリアサスペンション、燃料系などを指す「リアアンダーボディー」で構成され、これに電子部品などを指す「電子アーキテクチャ」を加えた形で車両を構成する。

 これらはあくまで概念的に4つのモジュールと1つの電子アーキテクチャに切り分けているだけで、例えば生産時にフロントアンダーボディーとリアアンダーボディーを接合する、といったことが行われる訳ではない。生産ラインも従来とは大幅に変わることはないと言う。

CMFは中期経営計画「日産パワー88」を達成するための重要な手段CMFの導入背景

 従来のプラットフォームとCMFの違いはと言うと、同社は現在「V-プラットフォーム」「B-プラットフォーム」「C-プラットフォーム」「D-プラットフォーム」を持つ。このプラットフォームの大きさに応じたエンジンを組み合わせているわけだが、同じプラットフォーム内の上級モデルと下級モデルで部品をすべて共有するわけにはいかず、個々の車両に合わせて必要な部品の開発・製造を行っていた。そのため当然コストはかさみ、「クルマ自体を合理的に設計することとの矛盾を抱えたまま仕事を進めざるを得ない状況だった」(坂本氏)と言う。

 それに対しCMFの考え方は、例えば「エンジンコンパートメント」ではMPV/SUV向けには高いエンジンフードを、セダン/ハイブリッド向けには低いエンジンフードと、車両によってエンジンフード自体の長さは異なってくるものの、大きく分類すると2種類だけを用意する。以下「フロントアンダーボディー」ではヘビーウェイト、ミドルウェイト、ライトウェイト、「コクピット」ではハイポジション、ミドルポジション、ローポジション、「リアアンダーボディー」ではヘビーウェイト、ミドルウェイト、ライトウェイトと、各モジュールで3種類の設定にすることで共用性を高め、コストを抑える。

CMFという新しい部品共用の考え方CMFのバリエーション因子
4+1モジュールの組み合わせによってさまざまな車型を作り分けるEVはエンジンコンパートメントとリアアンダーボディーを専用とする

 このCMFを支える基盤技術には、精度の高いシミュレーション設計技術とプラットフォーム開発で培われた編集設計技術などが挙げられる。

 例えば安全性能設計を行う際、衝突時に4つのモジュールがそれぞれどういう働きをするか、シミュレーション上で緻密に行うと言う。また、形状の異なるセダンとSUVでも、「例えばステアリングメンバーやエアコンユニットのレイアウトを変更するだけで部品の共通化が図れる」のは、高い編集設計技術によるもの。こうした技術があるからこそ、CMFの実現に至ったと坂本氏は説明する。

 なお、CMFは2013年に12%(世界7拠点)の車両に、さらに2016年には58%(13拠点)の車両に展開していくと言う。まずはCセグメント車への導入を予定している一方で、GT-Rなど少量生産の車両にCMFを導入してもメリットがないため、これらの車両は従来どおりの生産方式を採用するとしている。

 また、同社は2016年までに90以上の新技術を市場投入することを明らかにしているが、CMFの導入によって複数車種への同時採用が可能になるとともに、開発効率の向上につながるとしている。説明会では2~3.5リッター車用の「新世代エクストロニックCVT」、FF車用の新開発ハイブリッドシステム(1モーター2クラッチ)、新開発のプラグインハイブリッドシステムなどを新技術として紹介していた。

CMFを支える基盤技術精度の高いシミュレーション設計技術が用いられる側面衝突実験もバーチャルの世界で行っていると言う
編集設計技術について高い編集設計技術を用いることで、形状の異なるセダンとSUVでも、ステアリングメンバーやエアコンユニットのレイアウトを変更するだけで部品の共通化が図れる
CMFは2013年に12%(世界7拠点)の車両に展開2016年には58%(13拠点)まで拡大する
同社は2016年までに90以上の新技術を市場投入する。その一部の2~3.5リッター車用「新世代エクストロニックCVT」、FF車用の新開発ハイブリッドシステム(1モーター2クラッチ)、新開発のプラグインハイブリッドシステムなど

 坂本氏によると、従来のプラットフォームで共通する部分は、総コストの約40%に過ぎなかったと言う。その点、CMFでは「車両1台を構成するために必要な部品コストを27%、新車を導入するために必要な生産投資を27.5%、直接開発費を29%削減できることが確認されつつある」としており、日産パワー88達成のためにCMFの導入によって市場競争力を高めたいと述べた。

 なお、テクニカルセンターの30周年を記念して、同センター内には日産の歴代車両が展示してあった。その一部を紹介する。いずれも有志によって保存またはレストアされた車両と言う。

スカイラインGT-R(R33)。その隣には1996年のル・マン24時間レース用に改良されたRB26DETTエンジンが展示してあった
初代から数えて5代目となるシルビア(S13)。展示車両は前期型でCA18DETエンジン搭載車。ボディーサイズは4470×1690×1290mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2475mm
7代目サニー(B13)をベースにクーペタイプに仕立てられたNXクーペ(FB13)。搭載エンジンは直列4気筒DOHC 1.6リッター「GA15DS」で、最高出力は94PS/6000rpm、最大トルクは12.8kgm/3600rpm1989年に開発されたルネッサEV。リチウムイオンバッテリーを搭載し、最高出力62kW/345V、最大トルク159Nm(16.2kgm)/4000rpmを発生
PAO キャンバストップ。ベースはマーチ(K10)で、直列4気筒OHC 1リッターエンジンを搭載。車名は中国語の包(パオ)を由来とする
エンジンをミッドシップに搭載し、4輪を駆動するニッサン MID 4(II型)。最高出力242kW(330PS)/6800rpm、最大トルク382Nm(39.0kgm)/3200rpmを発生するV型6気筒DOHC ターボ「VG30DET」を搭載する
マーチ コレット(K10)。直列4気筒OHC 1リッターエンジンを搭載。当時は行動的な女性を中心に人気を博したと言う
第6回豪州ラリー(1958年)Aクラスで優勝した「富士号」富士号とともに豪州ラリーに参加し、Aクラス4位になった「桜号」

(編集部:小林 隆)
2012年 2月 28日