ピレリ、2012年のF1タイヤを発表
2012年シーズンは新コンパウンドのタイヤを投入

2102年シーズンのF1に投入されるピレリタイヤ

2012年1月25日開催



発表会は、ヤスマリーナサーキットで行われた

 1月25日、アブダビのヤスマリーナサーキットで2012年シーズンのピレリF1タイヤ発表会が行われた。

 今年供給されるタイヤは、ドライ用のスリックタイヤが4種類、雨天用の溝付きタイヤが2種類。ドライタイヤは「P ZERO(ピーゼロ)」と呼ばれ、コンパウンドの種類によって、スーパーソフト=レッド、ソフト=イエロー、ミディアム=ホワイト、ハード=シルバーと、昨年同様色分けされている。

 ウエット用の溝付きタイヤは、P ZEROに対して「チントゥラート」と名付けられ、路面がハーフウエット時や雨の量が少ない時に使うインターミディエイト=グリーン、ウエット路面で使う深溝のレイン=ブルーとなっており、ウエットタイヤにも色分けがされている。

 傍目には、昨シーズンのピレリタイヤは、グリップは高いけれどグリップの持ちがわるかったり、ロングライフだけれどグリップパフォーマンスが低かったりと、ややちぐはぐな印象があった。

 その理由はF1のレギュレーションにあり、4種類用意されたコンパウンドのうちからレースごとに2種類を選択し、同じコンパウンドのタイヤをすべてのチームに供給することになっていたため、気温や路面のミュー(μ:摩擦係数)に敏感なF1タイヤのナーバスな面が顔を出したということなのだろう。

 そもそも、元をたどれば、2009年シーズンにブリヂストンが2010年をもってF1タイヤサプライヤーから撤退することを発表してから、なかなか次のF1タイヤサプライヤーが決まらず、2011年になってから、ミシュランがタイヤ供給に名乗りを挙げたのを皮切りに、クーパータイヤ、ハンコックまで参加を表明。結局ピレリに正式決定したのは6月になってからだった。実際の試作タイヤを開発してテストが始まったのは8月半ばだ。

 そんな状態だったから、当然テスト不足は否めず、むしろ一定の性能をキープしつつ、大きなトラブルもなく2011年シーズンを過ごすことができたことは評価してよいと思う。

ピレリ社長兼CEOのマルコ・トロンケッティ・プロヴェーラ氏プロダクト&R&Dシニアバイスプレジデントのマウリツィオ・ボイオッキ氏モータースポーツ・ダイレクターのポール・ヘンベリー氏

 発表会の席上で、ピレリのCEOであり社長のマルコ・トロンケッティ・プロヴェーラ氏は、「昨年のポジティブな経験後、各チームは、2011年の素晴らしいレースに貢献した特性を持つタイヤの継続供給を我々に求めました。そして、これが我々の成果です。2011年のP ZEROシリーズの特徴である意図的なデグラデーションと組み合わせて、よりよい、安定した性能を保証するために、コンパウンドとプロファイルを最適化しました。我々は、多岐に渡る戦略と数多くのピットストップなど、昨年、レース参加者と観衆を魅了した予測不可能なレースを期待しています。我々のエンジニア達の素晴らしい習熟度と反応時間の速さによって、新コンパウンドの開発作業は、2011年シーズン中に行われました。そして、彼らは、今シーズンもタイヤの進化を継続させる準備が出来ています」とコメントしている。

 2012年シーズンは、吹きつけ排気禁止によるダウンフォース低減の影響で、タイヤ形状がよりワイドで平らな接地面が求められるため、ワイド&スクエアなタイヤ形状(プロファイル)を採用している。

 コンパウンドは、市街地サーキットで評価の高かったスーパーソフトコンパウンドはそのままに、ソフトとミディアム、ハードコンパウンドがそれぞれ新コンパウンドになっている。

 新コンパウンドは柔らかく、グリップ性能が向上しており、よりグリップのピークが持続するものに改良されている。また各コンパウンド間でのタイム差を1周あたり1秒以内──0.6~0.8秒程度に想定していると言う。2011年シーズンは1.2~1.8秒くらいあったということだから、各コンパウンド間のグリップ性能をかなり接近させている。

 またウエット用タイヤでは、インターミディエイトのチントゥラート・グリーンに変更はなく、ウエット用のチントゥラート・ブルーに手を加えている。

 チントゥラート・ブルーはアクアプレーニング時の水の分散を最適化するためと、高いドライビング精度を保証するために、リアタイヤを従来と異なるプロファイルに変更。トレッドデザインにも手が加えられ、300㎞/h走行時の排水量が60L/秒以上発揮できるように改良されている。

 この発表会があってから、すでにへレスとバルセロナでテストが行われており、へレスにおいては、昨年ルーベンス・バリチェロが記録したベストタイム1分19秒832を4日間それぞれのトップタイムで超えており、しかもコンパウンドもミディアム(初日)ハード(2日目)、ソフト(3、4日目)と3種類のコンパウンドで記録している点は注目てきる。

2012年のF1シーズンへ向けて、各チームは精力的なテストを開始している

 2月21日~24日のバルセロナでのテストは、小林可夢偉が4日目に4日間のベストタイムとなる1分22秒312をソフトタイヤでマーク。タイム的には昨年の予選タイム(1分20秒981)を超えるものではないが、ピレリのモータースポーツ・ダイレクターのポール・ヘンベリー氏は「デグラデーションと性能に満足しています」とコメントしており、順調にテストが進んでいることをアピールしている。

 さて、そんなわけで、2012年シーズンのタイヤ開発は着々と進んでいるわけだが、じつは今シーズンのF1では、タイヤの性能をいかに引き出すかがレースを有利に運ぶ大きな要因になりそうなのだ。タイヤを上手に使うのはレースの初歩の初歩だが、それでもあえて、タイヤが重要なファクターを占めそうなのだ。理由の1つは、吹きつけ排気の禁止というのがある。

 吹きつけ排気とは、エンジンの排気をディフューザーに直接吹き付けることによってダウンフォースを得ようというもの。しかもアクセルOFFのときには熱く膨張した燃焼ガスが排気されないため、エキゾーストマニホールドに生ガスを噴射するアフターファイヤリングシステムを導入していた。

 これがF1のレギュレーションに抵触するという解釈によって2012年シーズンから禁止されることになったのだ。当然ダウンフォースが(わずかながらでも)減少すれば、その分グリップが少なくなるので、タイヤにかかるファクターが大きくなる。

 もちろんF1エンジニアの英知(?)は一筋縄ではいかないので、あらゆる知恵を絞ってこれに代わるアイデアを持ち込んでくることが予想されるが、タイヤをいかにうまく使いきるか、性能をどれだけ引き出せるかは相変わらずF1 2012年シーズンのテーマではあるのだ。

 これについては面白い話題もある。2011年シーズン、マクラーレンはブリヂストンのF1タイヤ・チーフエンジニアであった今井弘氏をヘッドハンティング。2011年シーズンのピレリタイヤの性能分析や特性分析を行うことで、レースを有利に進めることができマクラーレンチームの速さに大きく貢献した。

 そして、2012年シーズンからは、元ブリヂストン タイヤ開発第2本部長付フェローであった浜島裕英氏がフェラーリに移籍する。当然タイヤ性能の分析が仕事。ワンメークタイヤであり、タイヤテストに制限が加えられ、開発テストもほぼ均等のチャンスしか得られない──つまりタイヤに関する情報は各チームともほぼ横並びとなれば、1歩でも半歩でもタイヤを詳しく分析し、自らマシンにフィッティングすることができるチームが有利になるのは当然のこと。

 言ってしまえばいまのF1の速さの違いは、排気ガスをディフューザーに吹き付けてできるダウンフォースなど僅かな性能の積み重ねによって得られている。特に緒戦は各チームマシンの完成度は万全とはいえない。性能の積み重ねが必ずしも速さに結び付かないことも多々ある。そんな中で確定しているのはタイヤの性能だ。その性能を、どのチームがどこまで引き出せるか。予選から始まるタイヤの使い方に注目してF1を楽しむことができるのではないかと思う。

 まずは開幕戦となる、3月18日開催のオーストラリアGP、そして、3月25日に開催される第2戦マレーシアGPに注目したい。

(斎藤 聡)
2012年 3月 1日