【インタビュー】日産に聞く、「セレナ」がミニバンNo.1になったその理由は
「エコでワクワク」など3つの要素がお客様に受け入れられた


2010年11月に4代目となった現行「セレナ」。2011年は、見事8万4359台でミニバン販売台数トップの座を獲得した。この販売台数は、乗用車全体でも4位となり、日産自動車としてもっとも売れているクルマになっている。ミニバンの2位は、本田技研工業の「ステップワゴン」(4万8797台)、3位はトヨタ自動車の「ヴォクシー」(4万8652台)、4位は同じくトヨタの「ノア」(3万8855台)。震災による各社の製造問題やノア/ヴォクシーを同じクルマと考えるかどうかなど難しい部分もあるが、単一車名として最も支持されたミニバンであるのは間違いないだろう。セレナがNo.1になった理由について、開発を担当した日産自動車 商品企画本部 商品企画室 セグメント・チーフ・プロダクト・スペシャリストの角智彰氏と、マーケティングを担当したマーケティング本部 マーケティングダイレクターオフィス マーケティングマネージャーの須賀芳実氏にお話をうかがった。

2011年のミニバンNo.1セールスを記録した「セレナ」

──どこが購入者に受け入れられたのか?
角氏:商品という要素でいくと、今回セレナのアピールポイントは3つをうたってきました。

日産自動車 商品企画本部 商品企画室 セグメント・チーフ・プロダクト・スペシャリスト 角智彰氏

 1つ目は「乗って広々」。とにかくミニバンの最大のセールスポイントは室内の広さになります。それは単に物理的な寸法だけではなくて、広さ感にもかなりこだわっています。

 2つ目が「使って楽々」。使い勝手の追求をしました。たとえばサードシートのたたみ方の改善だとか、オートスライドドアの使い勝手の改善などになります。

 3つ目が「エコでワクワク」。これは、時代の要請もありますが燃費の競争力にこだわりました。このミニバンセグメントでは、初めてのエコモーター式アイドルストップ(再始動時間は0.3秒)を採り入れました。このアイドリングストップ機構の装備がお客さまに非常に浸透していて、燃費がよいクルマであることを理解していただいています。これが競合車に対して差別化となっています。

 この3つの要素をお客様に理解していただいたのが大きいと思います。そのほか、デザインでこだわったのがインテリアの質感になります。とくにコクピットに座った際に、お父さんにとってワクワクする空間にしたいと思って作ってきました。

 セレナは先々代から「家族」を中心にアピールしてきました。その位置づけは変えていないので、ブランドとして積み重なってきたのかなという感じはあります。

 「セレナって知っていますか?」というブランドに対する認知度や、「そのブランドに対してどのらくいポジティブですか?」という調査も行っているのですが、現在その調査ではセレナがミニバンとしてトップになります。それは、ここ10年の積み重ねがあって、セレナというブランドが際立ってきたのかなと思っています。

──「燃費がよいクルマとの認識がされている」とのことだが、アイドリングストップ機構の付いたグレードの販売比率はどの程度か?
角氏:セレナは、ベースグレード以外は2WDも4WDも標準装備となっています。そのため、90%はアイドリングストップ機構が付いた車種が売れています。また、2WD、4WDの比率ですが、2WDが85%の4WDが15%になります。4WDは北海道など寒い地域の方が中心に売れています。この2WD・4WD比率は代々のセレナで変わらない数値となっています。

マーケティング本部 マーケティングダイレクターオフィス マーケティングマネージャー 須賀芳実氏2011年9月に追加された、ハイウェイスター Vセレクション。ハイウェイスターシリーズがセレナの販売を引っ張る

須賀氏:各グレードに関しては、2011年9月に追加で出した「ハイウェイスター Vセレクション」がよく売れています。ハイウェイスターとハイウェイスター Vセレクションを合わせると、全体の75%を占めています。

角氏:セレナは先代もそうですが、ハイウェイスターなど上位グレードが売れる傾向にあります。ミニバンは家族のために購入されるクルマですが、(運転を担当する)お父さんのご褒美という面もあるのかと思います。平日はお母さんが運転することもあると思いますが、週末はお父さんが運転するのかなと分析しています。

 また、購入されるお客様の中心年齢は、30代、40代のファミリーとなっています。このミニバンセグメントのお客様の特徴として、一度ミニバンを購入されるとミニバンリピーターになる方が多いのです。自分の子供が独立された場合でも、孫ができるなどの理由でミニバンを再度購入されるようです。この辺りはラフェスタなどとことなり、定着率の高いことが特徴となっています。

──ラフェスタは、再度購入はないのか?
角氏:どちらかというと、2人のためのクルマという捉え方をされてますね。1度購入されても、そこからミニバンタイプのクルマに行ったり、そのほかのセグメントのクルマに行ったりして、そこにとどまる人の比率は低くなっています。

 今の販売台数を見ていますと、日産から日産というお客様だけでなく、他社から移られてきている方も多いと思います。ミニバンを購入されるお客様は、年齢が若いこともあってブランドに固執しないところがあります。

 販売台数が1位というのは、そういった他社からの乗り換えもあってのものだと思っています。世代とか価値観で言うと、それほど先代のセレナから変わった部分はないと思います。いずれにしろ家族のためにクルマを買うお客様ですね。

──サードシートの使い勝手を先代から変更したが、その評判はどうか?
角氏:セレナは一昨年の11月に発売したのですが、1年とちょっと経っての評判を聞いてみると、やはりサードシートに対する評価は高いです。地方などでは塾に子供を迎えに行くという使い方もあるのですが、その際に自転車をそのまま搭載できるのが評価されています。

 セレナはマルチセンターシートを採用していますので、これをセカンドシートから運転席、助手席側の間に移動させて、セカンドシートの中央にウォークスルーできる空間をつくります。その後サードシートを跳ね上げて、セカンドシート中央の空間を上手く活用すれば自転車を簡単に乗せられます。そうしたお客様の期待とブレがないクルマであることが好評の理由だと考えています。

サードシートは跳ね上げ式。先代セレナから改良され、自転車の搭載性能も向上している

──「お客様の期待とブレがない」とのことですが、そこがうまくいっている理由は?
角氏:セレナの場合は、開発の初期からマーケティングのメンバーも一緒に定例会議をやっています。決して、開発が終わってからマーケティングを考えているのではなく、かなり初期の部分からマーケティングのメンバーと一緒に作っています。

須賀氏:先々代のセレナで「ものより思い出」というコンセプトを打ち出して、先代のセレナが「お父さんが自分の経験を子供に教えたい」というシチュエーションを設定しました。今のセレナは、そこからさらに世代が進んでいて、お父さんの世代もあまり経験が豊富でない、自分も子供と一緒に未来を探していきたいという世代感になっている。そこをクルマでもキャッチアップして、子供と一緒に出かけようという部分を「こどもみらいセレナ」として打ち出しています。

 そのため、カタログにも国内のおでかけスポットを「セレナで行こう! こどもみらいスポット」として紹介しているほか、最近のCMも(子供が)将来何になりたいというのをポイントにしています。たとえば、宇宙飛行士になりたい、パティシエになりたい、水族館の飼育員になりたい、という夢を、セレナで応援していきたいというコンセプトでCMを作っています。

──現行のセレナでは、アイドリングストップ機構のほかに、2リッター直噴のMR20DDエンジンを新たに搭載したが、この評判は?
須賀氏:お客様は、とくに直噴エンジンだからということで購入されてはいないようです。それよりも「アイドリングストップがスムーズだね」という声が大きくあります。ただ、直噴に関しての声では、「直噴のわりには静かだね」というのがあります。

MR20DD直噴エンジン

角氏:直噴エンジンは構造上、通常のエンジンよりもインジェクターの噴射圧が高いため高周波が出やすいというのがあります。そのため、現行セレナでは遮音性を上げており、それがきちんと評価されたのだと思います。

──現行セレナでは、アナログメーカーからデジタルメーターに変更しているが、この評価は?
角氏:デジタルメーターに関して、お客様がどう思われるかとは思ったのですが、総じてよい反響をいただいています。デザインの意図としては、クルーザーのアッパーキャビンみたいなコクピットを作りたいというのがありました。

 3つ目のアピールポイントとして「エコでワクワク」というのがありますが、メーター内にアイドリングストップタイマーや、瞬間燃費計を表示でき楽しんでエコドライブができるようになっています。

クルーザーのアッパーキャビンを意識したと言うインテリア現行セレナからはデジタル式のメーターとなった瞬間燃費計もグラフィカルな表示を併用している


 2011年はNo.1となったセレナだが、2012年の1月もミニバン1位の売り上げとなっている(乗用車全体では5位)。震災による生産問題がほぼ解消した今年が、その真価が問われる年になるのかもしれない。販売台数がクルマの評価のすべてではないが、その大事な要素であるのは事実。気になった方は、ディーラーなどでセレナの商品力を確認して見てほしい。

(編集部:谷川 潔/Photo:高橋 学)
2012年 3月 2日