シムドライブ、航続距離351kmを実現したEV開発車第2号「SIM-WIL」発表会
「これまでのEVの開発の中で、もっとも素晴らしい先行開発車が完成」

シムドライブ関係者とEV開発車第2号のSIM-WIL

2012年3月28日開催



福武總一郎会長

 シムドライブは3月28日、都内で電気自動車(EV)開発プロジェクトの成果である「SIM-WIL(シム・ウィル)」の発表会を開催した。SIM-WILは、同社の先行開発車事業の第2号にあたるモデルで、第1号の「SIM-LEI(シム・レイ)」は昨年の5月に公開している。

 シムドライブは、慶應義塾大学環境情報学部教授の清水浩氏が代表取締役を務めており、車輪それぞれがモーターを持つ「インホイールモーター」と、車体床下にバッテリーやインバーターといった走行コンポーネントを収める「コンポーネントビルトイン式フレーム」を核に、EVの普及に向けた技術開発を行っている。

 発表会にはシムドライブの福武總一郎会長、清水氏のほか、駆動、制御、ボディー、シャシーのぞれぞれの担当者がSIM-WILについて紹介した。

清水浩氏

 福武氏は冒頭、第2号のSIM-WILに続く先行開発車事業第3号の開発を開始したことを発表。「第3号ではEVの開発のみならず、スマートハウスやスマートグリッドといった大きなテーマを掲げている」と述べ、第3号の開発には自動車関連企業のほか住宅メーカー、電機、空調といった26の機関が参加したことを紹介した。

 一方、清水氏はSIM-WILについて「これまでEVの開発を30年行ってきたが、その歴史の中でもっとも素晴らしい先行開発車が完成した。このクルマをご覧になっていただき、時代が変わりそうだということを実感いただきたい」と述べ、SIM-WILの完成度の高さに自信を覗かせた。

 また、「SIM-WILはJC08モード燃費で351kmという航続距離を達成した。私たちは自信をもって次の時代がやっていきているということを紹介できるのが、今日の最大の喜び」とし、とかく言われがちなEVの航続距離の問題を、SIM-WILがクリアしていることを強くアピールした。


SIM-WILのアンベール
SIM-WILの名称は意志や決意を示す「will」と同音とし、“With Innovation and Link”の頭文字から取った。また、発表会会場ではスーツケース型可搬型充電器も公開。CHAdeMO(チャデモ)規格のコネクターを利用できると言う
先行開発車事業第1号のSIM-LEIも展示してあった

 SIM-WILで使われるインホイールモーターはSIM-LEIの改良版で、従来では「トルクリップル」(初動時の回転ムラによる振動)が課題となっていたが、モーター内の構造見直しにより大幅に減少させたと言う。モーターのトルクは、世界最大級の700Nmを誇る。リチウムイオンバッテリーの容量は35.1kW/h。

 また、コンポーネントビルトイン式フレームも進化させ、スチールパイプ(鋼管)内部に高圧を注入し、複雑な形状を一体成形するという新構造の「スチールスペースフレーム(SSF)」をアッパーボディーに採用。これにより、SIM-LEIで採用するモノコック構造と比べ重量を49kg減の360kgに、ねじり剛性を+25%の36.1kN/mにするなど、軽量かつ高剛性を実現している。軽量ポイントについては、前後ドア部も従来のスチール製からCFRP製に変更しており、44%の軽量化を行っている。

SIM-LEIとSIM-WILの諸元比較。重量配分も変更した

 ボディーサイズは4150×1715×1550mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2950mm。SIM-LEIと比べ85mm広くしたほか、リアのオーバーハングを600mm切り詰めた。

 デザインコンセプトは「Urban Groove(都市の粋)」とし、都市をキビキビと駆けるコンパクトEVを目指した。このキビキビ感を実現するべくサスペンション、ブレーキをSIM-LEIから進化させ、アッパーアームのハイマウント化といったジオメトリーの見直したことで、操縦安定性を向上させるとともに、最小回転半径5.4mを実現した。

 これらにより、SIM-WILの一充電あたりの航続可能距離は351km(JC08モード燃費)となった。最高速は180km/h、0-100km/h加速は5.4秒と、中級レベルのスポーツカーに匹敵するとしている。

 一方、インテリアでは、インホイールモーターとコンポーネントビルトイン式フレームを採用したことで、車室を車体前方まで伸ばすことが可能となり、ロングホイールベースと相まってBセグメントクラスのボディーサイズとしながらも、Eセグメント級の室内空間を実現した。

 そのインテリアでは、運転席正面に走行系・車両情報系、中央にカーナビ、助手席前にインフォテイメント系のモニターを備えており、これらはインターネットをはじめとする通信、テレマティクス等を駆使した車内エンターテイメントの表示を想定していると言う。

シムドライブが推進するインホイールモーターとコンポーネントビルトイン式フレームについてSIM-WILの概要SIM-WILの開発に携わった機関(公表の許諾を得ている機関)
SIM-WILのハイライト。運動性能は「中級レベルのスポーツカー並み」としているSIM-LEIとの比較。SIM-LEIよりも横幅が85mm広がった
SIM-LEIとの比較。リアのオーバーハングは600mmも切り詰められたSIM-LEIとの比較。後席スペースが拡大した
SIM-WILは開発に携わった機関の47の技術が組み込まれる
エクステリアはダイナミックモーションフォルムとしたサイドインパクトビームをダイナミックに造形した「カーボンドアマッスル」デザインを採用グリルはシチュエーションにより開閉する「エアロシャッターグリル」を採用
インホイールモーターはあえてホイールのすき間から見える意匠としたインテリアでは5つのモニターを装備前後席の空間特性
フラットフロアの採用により左右・前後のアクセスを可能にしている
桔梗、あじさいといった花をイメージしたボディーカラーを採用ボディーの開発テーマ超ショートノーズ&ロングスペースキャビンを実現した
「軽量・高剛性」「軽量」「遮熱・断熱」の3テーマを中心に開発スチールスペースフレーム(SSF)についてSIM-LEIとSIM-WILの重量とねじり剛性の比較
重量は44%も軽くなったフロントサスペンションの構造シャシー分野の主な取り組み。ロングホイールベースながら小回り性を両立している
モーター分野での主な取り組みモーターのトルクは700Nmと、世界最大級を謳う
SIM-LEIで採用されていたモーターをブラッシュアップスーツケース型可搬型充電器について

(編集部:小林 隆)
2012年 3月 28日