日産、リーフから家庭電力を給電可能な「EVパワーステーション」を実質約33万円で
ニチコンと共同で電力供給システム“LEAF to Home”を実現。家庭で倍速充電も可能に

ニチコン 代表取締役会長 武田一平氏(中央)、日産自動車 常務執行役員 西沢正昭氏(左)、日産自動車 執行役員 渡部英朗氏(右)

2012年5月30日発表



 日産自動車は5月30日、ニチコンが開発した「EVパワーステーション」によりEV(電気自動車)「リーフ」から家庭への電力供給を行う“LEAF to Home”を導入すると発表した。EVパワーステーションとリーフを接続することで、24kWhのバッテリー容量を持つリーフから2日間ほどの家庭電力供給が可能になるほか、EVパワーステーションからリーフへの倍速充電も可能になる。

 価格は、補助金などを利用することで実質約33万円ほど。6月中旬から販売受け付けを全国の日産ディーラーで開始し、販売開始は7月から。年間1万台の販売を見込み、7月の供給能力としては3000台を見ている。

 日産とニチコンは、都内日産ディーラーで記者会見を開催。電力供給の仕組みなどについての説明を行った。

EVパワーステーションとリーフ

日産自動車 執行役員 渡部英朗氏

CHAdeMOプロトコルだから実現できた電力供給
 日産でEVを担当する日産自動車 執行役員 渡部英朗氏は、電力供給システム“LEAF to Home”の概要について説明。自動車会社としてEVを手がけた理由として当初はCO2削減が主な理由だったものの、東日本大震災以降は電力マネジメントの問題が加わったと言う。この2つに取り組んだ結果実現したのが電力供給システム“LEAF to Home”になる。

 EV「リーフ」には、動力源として24kWhのリチウムイオンバッテリーが搭載されている。これは一般家庭2日間分の電力容量にあたると言う。電力供給システム“LEAF to Home”は、この大容量のバッテリーを活かすもので、ニチコンが開発した「EVパワーステーション」を使用。

 EVパワーステーションとリーフを接続することで、夜間電力でリーフに充電し昼間にリーフから電力供給する「ピークシフト」、災害時など停電時にリーフから電力供給する「バックアップ電源」を実現できる。また、EVパワーステーションは充電機能も持ち、リーフを4時間で満充電可能な倍速充電を行える。

リーフはすでに世界で3万台を販売。そのうち、1万5000台が日本国内EVに託された2つの期待
“LEAF to Home”の意義“LEAF to Home”の4つの特徴

 これほどのことを実現できた背景には、リーフの採用する充電規格「CHAdeMO(チャデモ)プロトコル」があったとし、EVパワーステーションとリーフの接続も安全に充放電ができるCHAdeMOプロトコルのガイドラインに対応したものとなっている。

 ただし、実際にすでに販売されたリーフについては、内部プログラムのアップデートが必要で「ディラーでの作業でおよそ30分ほど」(渡部氏)とのこと。また、リーフ以外のCHAdeMOプロトコル対応EVとの接続については、「別途開発が必要」(渡部氏)と言う。EVパワーステーションは、現時点ではリーフ専用品と位置づけられている。

 渡部氏は、「日本の全世帯の1割がリーフを所有し、ピークシフトを行ったら450万kWの節電効果がある」と言い、これは発電所4基分にあたるとしたほか、LEAF to Homeでの生活パターンを紹介。深夜に充電し、朝と夕方にそれぞれ25kmを走行。昼はリーフから給電という生活パターンでも6割のバッテリー容量が残る。このバッテリー容量は、「およそ100kmの走行が可能なもの」と言い、EVパワーステーションとリーフを使ったピークシフト生活が現実的な生活スタイルであるとした。

充電・放電の安全性が確保されたCHAdeMOプロトコル全世帯の10%でピークシフトを行えば、450万kWの節電になる“LEAF to Home”の生活パターン例

ニチコン 代表取締役会長 武田一平氏

実質約33万円のEVパワーステーション
 EVパワーステーションを開発したニチコンは、高音質コンデンサー「MUSE」シリーズなどのコンデンサーや電源などで世界的に知られている企業。リーフに内蔵される充電器もニチコン製のものが使われている。

 このEVパワーステーションは、家庭用の系統電源(電力供給会社からの電源)に接続し、リーフを大容量のバッテリーとする充放電器として動作を行う。インテリジェントな自動充電制御機能を持ち、家庭の契約アンペア数に応じた動作が可能。6kWでのリーフへの倍速充電機能は確かに持つが、この実現のためには家庭の契約アンペア数が60A以上必要。一般的な家庭では60Aをすべて充電のために使われるとブレーカーが落ちてしまうため、自動充電制御を機能させることで、契約アンペア数を超えない範囲でのリーフへの充電が可能となっている。

ニチコンの会社概要経営理念エネルギー分野での製品例
“LEAF to Home”のシステム概要4つの特徴インテリジェント充電制御機能

 また、リーフへの充電、リーフから家庭への充電はタイマーのほか、充電量によるコントロールが可能。これによるピークシフトの柔軟な運用ができるようになっている。

 EVパワーステーションのサイズは、650×350×781mm(幅×奥行き×高さ)と、「エアコンの室外機なみ」(武田氏)のサイズ。家庭に十分導入可能なサイズであり、1系統の給電線に対して複数台の設置も可能で、リーフを複数台運用する個所にも導入しやすいものとなっている。

 価格については、「EVパワーステーションは48万円。補助金が適用されると24万円。それに取り付け費が約6万円ほど」(武田氏)と言い、実質約33万円で導入が可能。単なる倍速充電器として考えても低価格なものとなっている。これだけ安価かつ、これから電力不足が心配される夏に向かう中で供給能力が心配になるところだが、「7月の供給台数として3000台」としており、年間では1万台の販売を目指していく。

タイマー予約機能履歴管理なども行える
コンパクトなサイズが特徴と言う販売価格(税抜き)などについて
EVパワーステーションとリーフEVパワーステーションのタッチパネル部。ここで充電や給電などの設定を行う
タッチパネル部の画面を切り替え充電・放電量をモニタリングEVパワーステーションの背面。左上の赤いボタンは緊急停止ボタン

日産自動車 常務執行役員 西沢正昭氏

リーフは安価な非常用電源。しかも走る
 販売を担当する日産自動車 常務執行役員 西沢正昭氏は、電力供給システム“LEAF to Home”の魅力を紹介。LEAF to Homeであれば、自宅にリーフを止めているだけで、「無理なく」「簡単に」節電できるほか、電力の節約にもなると言う。これは、平日の昼間は家庭にリーフがあり、週末はおでかけというライフスタイル時の試算で、平時の昼間使用する電力(10kWh)を夜間電力で充電したリーフから供給する場合、1カ月で約4400円節約になるとした。

 さらに24kWhのバッテリー容量を持つリーフは、2日間の家庭電力を供給でき「実際にまわりが停電しているなかで、エアコンをガンガンにかけ、煌々と明かりを灯している人はいない。節約しながら使えば、3日も4日も持つのでないか」(西沢氏)と語った。

リーフの魅力“LEAF to Home”のポイントピークシフト機能を使うことで、月4400円の節約になる
万が一の際にも2日間の電力供給が可能倍速充電もできる導入価格は実質約33万円

 その上で現在市販されている家庭用蓄電池とリーフの価格比較チャートを示し、「蓄電池は2kWhで100万円ほど。このグラフをずっと延ばすとリーフの24kwhでは1000万円を超える」と言い、家庭のバックアップ電源としてもEVパワーステーションとリーフの組み合わせで構築できる“LEAF to Home”が安価なことを示す。リーフは補助金込みで約300万円で購入でき、EVパワーステーションと合わせても350万円以下で、24kWhのピークシフト付き大容量非常用電源環境を構築できる。

 西沢氏は、「しかもリーフは、走る」と言い、クルマとしてもオイル交換などが不要でメンテナンスコストが通常のクルマより20%安価、かつ高品質なクルマであることを強く語った。

家庭用蓄電池とリーフの価格比較。リーフは圧倒的に低価格となっている日産販売店でもピークシフトなどを行っていく販売時期など

 EVパワーステーションは、全国2200の日産ディラーへの配備も順次行うとしており、リーフと組み合わせて日産ディーラーでピークシフトを行ったり、バックアップ電源や倍速充電器としても用いられる。実際、説明会の途中では、ディーラーの系統電源を切断し、“LEAF to Home”による給電を行うデモも実施された。

EVパワーステーション仕様

EV充電時
入力電圧:単相、AC 200V(±15%)、50Hz/60Hz(±5%)
入力電流範囲:AC 0~36A
出力電圧範囲:DC 50~500V(CHAdeMO方式)
最大出力電力:6kW
変換効率:最大90%以上
力率:99%以上

家庭供給時
入力電圧範囲:DC 150V~450V
入力電流範囲:DC 0~30A(ケーブル仕様により制限)
出力電圧:
 単相3線式(AC100V×2相)
 AC100V(±6%)、50Hz/60Hz
 AC200V(±6%)、50Hz/60Hz(最大±2%)
出力電流範囲:AC 0~30A
最大出力電力:6kW(単相AC100V・3kW×2相)
変換効率:85%以上
外形寸法:650×350×781mm(幅×奥行き×高さ、突起物含まず)
質量:約60kg


【お詫びと訂正】記事初出時、EVパワーステーションの価格を税抜き資料を用いて約30万円としておりましたが、税込み価格では約33万円となります。Car Watchでは、特記ない場合は税込み価格としており、初出時から変更しました。

(編集部:谷川 潔)
2012年 5月 30日