日産の中国ブランド「ヴェヌーシア」は、“中国人のための国民車”を目指す
現地ブランドと同レベルの価格で高品質車を

東風日産「ヴェヌーシア D50」

2012年6月5日開催



 日産自動車は6月5日、同社が中国で展開している独自ブランド「ヴェヌーシア」についての説明会を、報道関係者向けに同社グローバル本社で開催した。

 同社は中国において、東風汽車との50%ずつの合弁会社である東風汽車有限公司(東風日産)を2003年に設立。「日産」ブランドで乗用車、バス、トラックを生産・販売している。

東風汽車有限公司 中村総裁

ロワーCセグメントでローカルメーカーと戦う
 ヴェヌーシアは、日産ブランドに続く東風日産の第2のブランドとして、2010年に創設された。ヴェヌーシアが狙うのは日産よりも低価格な市場で、海外との合弁ではない中国の地場メーカーが主な競合相手になる。

 東風汽車有限公司の中村公泰 総裁によれば、中国の自動車市場で最も大きなセグメントは「Cセグメント」。このCセグメントは「アッパーC」と「ロワーC」に別れ、アッパーCはフォルクスワーゲン「ラヴィダ」、トヨタ「カローラ」、GM「シボレー クルーズ」、そして日産の「シルフィ」「ディータ ハッチバック」といった、合弁メーカー勢が「熾烈な競争」を繰り広げている。

 ロワーCは1980年に登場して未だに生産されているフォルクスワーゲン「サンタナ」といった古い車種や、パオジュン、グレートウォール、BYDといったローカルブランドによる低価格なCセグメント車で構成。

 ヴェヌーシアはこのロワーCをターゲットとしているのだ。ロワーCセグメント成長の要因を中村総裁は、成長する地域がこれまでの沿岸部から内陸部に移ってきたこと、また需要の中心が北京、上海のような1級都市よりも、地方の3~5級都市に移ってきていること、こうした地域では9割以上が初めて新車を買う顧客で閉められること、ローカルブランドの成長が著しいこと、の4つを挙げている。3~5級都市の需要は中国全体の5割を超えており、2015年までに6割を超えると見込まれている。

 つまり低価格なローカルブランドの製品が、現在の中国でもっとも求められているのだ。

 一方で、こうしたローカルブランドの低価格なロワーCセグメント車を購入した層には、品質やサービスへの不満もあると言う。

中国自動車市場で最も大きなセグメントはC。なかでもロワーCは成長が見込まれる。D50はそのロワーCで、現地ブランドと戦う
内陸部や3~5級都市の需要がロワーCセグメント成長の要因ローカルブランド車への不満を潰した製品・サービスを提供する

日産品質を、ローカルブランドの価格で
 東風汽車は、このロワーCのための専用車としてヴェヌーシア「D50」を投入した。

 ローカルブランドの製品と同レベルの価格と維持費で、日産の技術・ノウハウを活用した高品質な商品とサービスを提供しようというのが、D50の狙いだ。

 もちろん、中国市場で好まれる“立派に見える”デザインを採用し、広い室内を確保した。また、日産ブランドの「キャシュカイ」「エクストレイル」の生産ラインで混流生産され、日産ブランドと同等の品質を確保する。

 販売網は、カスタマー層が異なる日産ブランドとは別に設けたが、そこで提供するサービスは日産のノウハウを活用したもの。ヴェヌーシアのディーラーは、日産ブランドのディーラーの中でも特に優秀なディーラーに、日産ブランドとは別な店舗として展開してもらい、ローカルブランドとは一線を画す。今年中に100店舗、2015年までに250店舗を開設する予定だ。

 また中国には、その車両を生産したメーカーの名称を、漢字でトランクリッドに表記しなければならない法規があるが、これもヴェヌーシアの品質が東風日産と同等であることを表す効果があると言う。

ヴェヌーシア D50のミニカーD50の特徴

 一方で、ローカルブランド並みの価格で提供するためには、さまざまなコストダウンの方策が採られている。

 まず生産工場を、内陸の鄭州工場とした。東風日産の工場は沿岸部の花都にもあるが、鄭州収のほうが需要地に近く輸送コストがかからない。また労務費も、輸出で潤う沿岸部より、内陸のほうが3割安くすむからだ。

 次に素材や部品の調達を現地化した。日産ブランドではローカルサプライヤーの採用率は5割程度だが、ヴェヌーシアではこれを35%に引き上げた。これにより、たとえばテールランプは、中国で好まれるような立派なスタイリングを作るために部材が多くなるにもかかわらず、日産ブランドよりも約4割安く作れたと言う。品質を確保するため、サプライヤー選びの苦労はかかるが、コストダウン効果は高い。

 ディーラーの運営コストも、人事総務などのシステムを日産と共用するなどして、日産の半分に抑えた。

現地サプライヤーの比率を引き上げ、コストダウンを図る生産拠点選びもコストダウンに繋がる

 

ヴェヌーシアのブランドマーク

 中村総裁によれば、「東風日産は若い会社。1万4000人の社員の平均年齢は27歳でモチベーションも高い」と言う。サプライヤーだけでなく、東風日産の社員、幹部も中国人を積極的に登用している。「中国人による中国人のための国民車を作るんだ、というのがヴェヌーシアのポジショニング」と中村総裁は言う。変化の早い中国市場に対応するため、両親会社から権限を委譲してもらい、意思決定のスピードアップも図っている。ヴェヌーシアブランドの設立からD50の投入までは、2年かかっていない。

 ヴェヌーシアは「ビーナス、金星」の意味だと言う。「東風日産に輝く星になる」がその心だ。また、ヴェヌーシアの中国語表記の発音は、やはり中国語で「スタート」を意味する言葉と同じになり、新しいブランドへの期待も込められている。

 ヴェヌーシアは2015年までに5モデル(D50を含む)投入し、250店舗を開設、ほぼ100%の国産化を達成し、年間30万台の生産を目標とする。

(編集部:田中真一郎)
2012年 6月 6日