「SUBARU BRZ R&D SPORTS」SUPER GT参戦リポート
第2回:第3戦 セパン~第5戦 鈴鹿、真夏の3連戦


 今シーズンより大挙参戦してきたFIA-GT(以下GT3)の速さは想定内だっとは言え、それをいつまでも手をこまねいて見ている訳にはいかないJAF-GT勢。初戦は惜しくもリタイアに終わるものの、第2戦には9位につけてポイント獲得。さらに上位を狙うJAF-GTマシン「SUBARU BRZ R&D SPORTS」の第3戦セパンから先月鈴鹿で行われた第5戦の1000kmレースまでの戦いを振り返ってみた。

SUPER GT第3戦セパン「SUPER GT INTERNATIONAL SERIES MALAYSIA」
 SUPER GTシリーズ唯一の海外ラウンドが行われるのは山野哲也選手にとって非常に相性がよいセパンインターナショナルサーキット。ここでの入賞率やポディウム獲得率はほかのサーキットに較べ群を抜いて高いと言う。また佐々木孝太選手は前月のニュルブルクリンク24時間レースで昨年に続き2年連続でクラス優勝を獲得するなど、2人のドライバーにとって相性、勢いともに申し分のないレースだった。

 結果から言うと、練習走行時にターボのトラブルに見舞われるなどの不運もあったものの、予選12位、決勝レースでは8位を獲得し今季最上位でレースを終えた。

 しかしながら山野選手によると、マシンの改善という点においては当初に目論んでいたイメージ通りには進まず、足踏み状態のままのぞんだ部分もあると言う。ここまでの開発において、このBRZは十分なドライでのテストが行われておらず、この時点では経験豊富なR&Dスポーツのメカニックと両ベテランドライバーのノウハウによって一歩ずつマシンの進化は見られるものの、さらなる上位を目指すためには、ドライコンディションでのテストが必要な状態ではあった。

 ある意味、そんな状態での1年目のマシンで2戦連続ポイント獲得は見事と言える。

SUPER GT第4戦SUGO「SUGO GT300km RACE」
 直前の鈴鹿の合同テストも雨に見舞われ、またもやドライでの十分なテストができず望んだ灼熱のSUGO。そう、東北のSUGOも非常に暑かった。せめて練習走行だけでもドライコンディションで走行をしたかった佐々木選手であったが、こともあろうにドライブシャフトのトラブルが発生。またもや走行できず。マシン自体は鈴鹿のテストでリアの足まわりを大幅に変更し、よい方向に向かっているが、まだまだバランスはよくないようだ。

 そんな状態でのぞんだ予選は17位。これまでで最も後ろからのスタートだったが、決勝レース当日朝のフリー走行後セットアップを試み、大きな改善が見られたとのこと。コースレイアウト的にはGT3勢に対抗できるSUGO。山野選手からも「オーバーテイクショーを見せたい」と力強い言葉も聞くことができた。

 決勝レースは山野選手の言葉どおりオーバーテイクショー。周回ごとに順位を上げ、一時は6位まで順位を挙げるものの最終的には10位でゴール。ここでもポイントを獲得した。

セパンは8位、SUGOでは10位と確実にポイントを獲得するBRZ。山野・佐々木選手のドライバーランキングは現在14位SUGOでもスバルファンシートが設定され、山野・佐々木選手と辰己総監督がスタンドでファンとの交流を楽しんだ決勝1時間前くらいに突然の雨。レインタイヤも用意されたがスタート時には完全に乾きドライコンディションのレースとなった
スタート直前までスタッフとセッティングについて意見を交わす佐々木選手。まだまだ理想形には遠いようだ17番手スタート。ここからBRZのオーバーテイクショーが始まった

SUPER GT第5戦 鈴鹿「インターナショナル ポッカ 1000km」
 久々に復活の1000kmレース。R&DスポーツとSTIの夜チャレンジのデビューレースの場。そして2年連続で優勝している伝統の大会。そして何より大きなファクターはこの大会直前にドライでのテストができたことにある。直前の富士スピードウェイでの合同テストが念願のドライコンディションであったことは、BRZのポテンシャルを大きく引き上げたようだ。また富士でやり残してしまったことも鈴鹿入り後に詰められ、今季最良の状態でチームはレースにのぞんだようだ。

 予選は今シーズン最高の4番グリッド獲得。辰己総監督曰く、「決して鈴鹿に特化したセットアップの成功ではなくBRZ自体の完成度がアップした」とのこと。

 レース自体はタイヤバーストやコースアウトするマシンが続出する荒れた展開ではあったが、BRZは快調にラップを重ね一時は2位にまで順位を上げた。佐々木選手から山野選手に交代する2度めのピットイン直前の93周目、何とコース上でストップ。すでにピットにはタイヤがセットされ山野選手も既に臨戦態勢でマシンを待ったが、そのままリタイヤとなり、絶好調のマシンでのぞんだポッカ1000kmは、あっけなく終わってしまった。

今季最高の4番グリッド後続車を従えて先頭グループでスタートするBRZ。前を走るGT3マシンは2台のみGT-R、BRZ、そしてCR-Z。数少ない国産スポーツクーペがトップグループに顔を揃えた
絶好調BRZがファンの前を快走するR&Dスポーツ本島伸次監督と後半戦へ向けての作戦を練る山野選手体勢を整えピットで待つ山野選手の元へBRZは戻らず。残念

BRZ GT300 第5戦までの変更点

デビュー時からSUGOまではリアフェンダー前方にあったマフラーの出口位置(写真左)が鈴鹿の第5戦ではフロントフェンダー後方に変わった(写真中央)。ちなみにレガシイB4時代はフロントフェンダー前方にあった(写真右)

車体後方のディフューザーも常に改良が加えられている。写真左は鈴鹿での第5戦。写真中央は富士での第2戦、それ以前は写真右のような形状であった

リアウイングの形状変更。写真左からSUGO、富士、岡山。毎戦そのコースに合わせての変更が見られるが特に翼端板の形状の違いは走行中のマシンでもよく分かる。SUGOでは左右の翼端板のサイズが異なり、富士では極端に小さい。また富士、岡山の取付ステーは後方にグッとRを描いた形状が美しい

鈴鹿ではフロントタイヤ前方に小さなパーツが取り付けられている。(写真左)。鈴鹿以前は写真右のような形状

辰己英治総監督

 残念な結果に終わったもののマシンの完成度という点において鈴鹿のマシンはこれまでの4戦から大きくステップアップした。それは決して鈴鹿のコースとのマッチングだけではなく根本的なBRZのポテンシャルが上がったと辰己英治総監督は言う。データのまったくない新型マシンにとってR&Dスポーツの蓄積されたノウハウや2人のベテランドライバーをもってしてもやはりドライでのテスト不足は致命的だったのだろう。そしてドライコンディションでの富士での合同テストによりその足かせがようやく外されたのであった。

 それにしても今振り返れば、たった5戦の経験での仕上がりは順調かつ、むしろ少々ペースが早い感じもするが、辰己総監督はそれを否定する。とにかく、この鈴鹿までの開発の苦労は並々ならぬものだったと言う。

 その多くは足まわりのセッティングなど、マシンの外から眺めていても気づかない変更であろう。しかしながらレースごとに変更されるエアロパーツなど、スタンドからの観戦でも確認できる変更点の多さにその開発の苦労を垣間見ることができる。それはR&Dスポーツ・STIおのおののスタッフ、山野・佐々木選手達の葛藤のプロセスでもあるのだ。

 マシンの特性からすれば、今週末SUPER GTが開催される富士スピードウェイは、決して相性のよいサーキットとは言えないものの、大幅なポテンシャルアップを果たしたBRZがどういう戦いをするのか非常に興味深い。また、ストレートが長く最高速重視の富士ならではのモデファイがマシンに加えられる可能性もありそうだ。観戦する方は注意深くマシンを見ながら、開発の苦労を感じるのも一興だろう。

 この富士スピードウェイでは、前戦同様スバルファンシートの用意がある。各車全開で駆け抜ける長い長いストレートが見渡せるこのシートで、他のマシンとは違う独特のボクサーサウンドを堪能するのもよいだろう。

(高橋 学)
2012年 9月 6日