【特別企画】2012-2013年シーズンの新スタッドレスタイヤを雪氷レビュー
第1回:ミシュラン「X-ICE XI3(エックスアイス エックスアイスリー)」


 2012-2013年シーズンは、日本ミシュランタイヤ、ダンロップ(住友ゴム工業)、ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)から、新スタッドレスタイヤが市場投入される。スタッドレスタイヤは、凍った路面や雪の積もった路面など極めて滑りやすい路面でグリップを確保する必要がある製品で、その性能がウインターライフを安全に、そして楽しく過ごすためのポイントとなる。

 今シーズン投入される新製品について、各社は年初にそれぞれの所有する北海道のテストコースで報道陣向け試乗会を実施。本企画では、試乗会が行われた、ミシュラン、ダンロップ、ヨコハマの順に試乗記をお届けする。

 各製品の詳細については、リリース記事や発表会記事のリンクを記載しておくので、あわせて読んでもらえばありがたい。


リリース記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120727_549690.html

発表会記事
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20120730_550014.html

2012-2013年シーズンに投入されたミシュランの新スタッドレスタイヤ「X-ICE XI3」

 ミシュランが2012-2013年シーズンに新投入するスタッドレスタイヤ「X-ICE XI3(エックスアイス エックスアイスリー)」は、X-ICEシリーズの3世代目にあたる製品。もともと同社のスタッドレスタイヤは、コンパウンドに頼ることなく、コンストラクションや、サイプを刻んだトレッドパターンでグリップをしっかり確保。その上で、氷結路性能を向上させてきた。

 とくにX-ICEシリーズは、名前からも分かるように氷結路性能の向上に主眼を置いて開発されており、X-ICEからX-ICE XI2へ氷上ブレーキ性能を約15%向上。XI2からXI3においても約9%向上させてきた。

 XI3の試乗を行ったのは、北海道士別市にある交通科学総合研究所寒冷地技術研究会士別試験場。ここで、XI2とXI3の乗り比べのほか、XI3を装着したクルマで公道試乗も行った。

 まず最初にXI2とXI3を乗り比べたのは、レクサス「IS 250」の4WD車。IS 250でスラロームや単制動を行う。路面は前日雪が降ったばかりとのことで、ややふかふか気味の新雪路面。それほど深い状態でもないので、スタッドレスタイヤにとっては、もっとも性能を発揮しやすい路面と言える。

左が従来タイプのスタッドレス「X-ICE XI2」のトレッドパターン、右がX-ICE XI3のトレッドパターン。いずれも回転方向指定を持つ。XI3はXI2に比べて緻密なブロック配置が行われている。一目で違いが分かるのは外から2列目のブロックのサイプ方向。XI2が1列目3列目と同じ流れにあるのに対し、クロス方向の成分を持っているXI3の外側ブロックにあるサイプ底には、ティアドロップという水滴形状が刻まれる。これによりサイプ底にかかるストレスの分散化を実現している。非常に高度な抜き型技術により、量産されていることを示す

 XI2は、数多くあるスタッドレスタイヤの中でも剛性感の高いタイヤであり、スタビリティに優れる製品。実際、XI2を装着したIS 250でも確実に加速し、ステアリングの反応もしっかりしたもの。最後のブレーキングも確実にABSが効くことで、止まってくれた。

 次にXI3を装着したIS 250の4WD車。アクセルペダルを踏み込むと、タイヤが雪にかかる感じが向上しているのに気がつく。ただ、その差はわずかなもので、気持ち加速力が向上した感じだ。明確に分かるのが、横方向のズレが小さくなったこと。スラローム部分でよりコントロールしやすくなり、運転がより楽しくなる。ミシュランのスタッドレスタイヤの美点であるタイヤの剛性感がしっかりある上、横ずれ感も減ったことが、その原因だろう。

 ブレーキ制動については、こちらも確実にABSが効き、不安なく止まってくれた。XI2とXI3の制動距離差は、結果が安定しておらず、どちらがよいとは言い切れない状態。これはIS 250のABSの動作の追い込みが今ひとつで、ブレーキの初期から介入が始まる。結果として制動距離はどちらも長くなりつつも、安心感をもって止まれる状態だった。

ずらりと揃った、試乗会用の試乗車IS 250の4WDで新雪に近い路面を走行前日に雪が降ったせいか、雪が強く舞い上がる

 次はアウディ「A3スポーツバック」の4WDを使用して、定常円旋回での乗り比べ。こちらの路面はフラットな圧雪路面で、XI3の横ずれの小ささがよく分かる。ずれが大きくなる速度も3~4km/hほどXI3のほうが高くなるようだ。それ以上の速度になるとさすがにリアから回り始めようとするが、その唐突感はなく、コントロールしやすいものだった。このコントロールのしやすさは、XI2もXI3も同様で、タイヤが素直に踏ん張ってくれることにある。剛性の安定しないタイヤだと、突然ずれが大きくなるということが起きるだが、そのような気配すら感じることはなかった。

A3スポーツバックによる定常円旋回の路面は、フラットな圧雪路面。XI3のほうが、より高い速度で円旋回することができた

 試験場内での最後の乗り比べメニューは、日産のEV(電気自動車)「リーフ」による、3つのコーナーがある氷盤路走行だ。リーフによる氷結路面での比較は、もっとも違いが分かりやすかった乗り比べ。リーフはモーターで前輪を駆動しており、VDC(横滑り防止装置)も搭載している。そのためこのような氷結路面では、乱暴なアクセルワークを行うと、すぐに介入が始まる。

 その介入具合で比較も行えるのだが、XI2とXI3の氷結路面における差は顕著で、XI3のほうがアクセルを踏んだときに前に出る感覚を強く得られる。XI3がグイッと出ようとするのに対し、XI2はそこまでの駆動力をかけることが難しく、より丁寧なアクセルワークが必要となる。これは、止まるときも同様で、XI3では明確に止まる感覚を得られるのに対し、XI2はややそれが薄い感覚がある。もちろん最終的にはどちらも止まるのだが、加速も制動も、XI3の能力が明らかに上だった。約5%の氷上トラクション性能の向上、約9%の氷上ブレーキ性能の向上は、確実に体感できる数字と言える。

3つのコーナーを持つ、おむすび形状の氷盤路で、XI2とXI3を比較する青いリーフがXI2を装着黒いリーフがXI3を装着。パイロンを基準に止まった位置の確認をしているところ。XI3のリーフのほうが、制動力が高い

 最後はXI3を装着した、日産 セレナ 4WDと、スバル インプレッサ 4WDでの市街地走行。インプレッサは、そもそも雪道走行で定評のあるクルマだが、実はセレナ 4WDも雪道走行でのバランスがとてもよいクルマだ。実際XI3を装着した両車で圧雪路面の市街地を走ってみたが、コーナリングやアップダウンの道など、不安のないグリップを維持し続けてくれる。とくに、ゆるやかなアップダウンを伴うコーナーなどは、セレナの接地性の高さが光り、インプレッサよりも不安が少ない。また、ブレーキなどは重心位置の違いもあるのだろうが、XI3の制動力を強く体感できる。

試験場外となる一般道。圧雪路面だが、ゆるやかな凹凸もあり、タイヤの性能が問われる路面セレナ 4WDで一般道を走行中。トラクションのかかりがよく、ブレーキの反応も安心できるもの雪道には定評のあるインプレッサ。しかしながら、セレナにはこのインプレッサに匹敵するトラクションを感じる。どちらもXI3装着車であるため、圧雪の雪道では、確かな手応えを感じつつ走行できる

 XI2は、ドライ路面の高速道路を長時間走ってもまったく問題のない性能と、必要かつ十分以上の雪氷路面の走破性能を持っていたタイヤだが、XI3はその雪氷路面性能をさらに向上させたことを実感できるタイヤだった。冬の北海道の試験場における試乗会のため、ドライ路面での走行性能を確認することができなかったものの、多くのサイズでスピードレンジがT(190km/h)からH(210km/h)に向上している。これは、アイス・スノー性能を引き上げ、ブロックの耐久性が向上した結果実現したものであると言うが、その面で進化があったことを示している。氷結路性能が大きく向上したXI3ではあるが、ミシュランスタッドレスのよさを、しっかり引き継いでいるのは間違いない。

 あえて、残念な点を挙げるとしたら、当初のサイズラインアップが185/60 R14 86H XL~235/50 R18 101H XLの計32サイズとなり、XI2の半数のサイズとなることだ。XI3が気になる方は、自分の愛車にマッチするサイズがあるかどうかを最初に確かめてほしい。今年投入されなかったサイズも、来年以降順次増やしていくとのことだ。

(編集部:谷川 潔)
2012年 9月 24日