ITカーズ、水素とガソリンを併用できる自動車を開発

右から、公開された車両、ITカーズの今井技術部長、同社の竹馬社長、山根博士

2012年9月25日発表



 ITカーズは25日、「ガソリン混合水素エンジン」自動車を発表した。既存のガソリン車をガソリン混合水素エンジンにコンバートするキットとして、発売を目指す。

 都内で開催された発表会で公開された車両は、スズキ「ワゴンR」の直噴ターボエンジン「K6A」搭載車を、ガソリン混合水素エンジン車にコンバートしたもの。既存の車両をコンバートすることで、クリーンかつ経済的な水素燃料を低コストで利用できるようにするのが狙い。

 ラゲッジスペースに35MPaの高圧水素タンクを設置し、エンジンのガソリンインジェクター(筒内)を水素インジェクターに置き換え、ガソリンインジェクターはインテークポートに移設した。これに合わせて専用ECUが設置され、燃料切替時の段付き防止、水素エンジンならではのバックファイア防止などを図った。パワーやレスポンスは改造前と同等としている。

公開されたワゴンRのコンバート車両。ラゲッジスペースに水素タンクを搭載し、左のリアクォーターウィンドーが水素充填口になっている。エンジンルームは一見するとノーマルだが、よく見るとインジェクターが増設されている。コックピットには燃料切り替えスイッチと、水素残量計や使用している燃料のモニターが設置される。モニターは水素使用時に緑、ガソリン使用時に赤、併用時にオレンジに点灯する

 水素だけ、ガソリンだけ、水素とガソリンを併用と、3つのモードで走行する。アイドリングと巡航時はほぼ水素のみで動き、加速時にはガソリンが併用され、アクセル全開時はガソリンのみとなる。水素で約150km、ガソリンで350kmの走行が可能で、合わせて500kmの走行が可能としている。また水素がなくなれば、切り替えスイッチによりガソリンのみでの走行を選択できる。

 車内とエンジンルームなど、水素が滞留しやすい場所には水素漏れ感知センサーを設置。漏れや異常を検知すると水素タンクのバルブを閉じ、必要に応じて安全弁から水素ガスを放出する。

 開発した同社環境事業部の今井作一郎技術部長はコンバージョンキットの価格について「現状は手作りレベル。水素関連部品のコストが高いので400万~500万円かかるが、将来量産化すれば30万円程度になる」と言う。

 開発には東京都市大学の山根公高博士が助言した。山根博士は水素自動車の研究を40年来続けており、フェアレディZベースの「Musashi-8」や、日野「リエッセ」ベースの「Musashi-11 水素シャトルバス」といった、水素エンジン車を制作してきた。

 山根博士は水素燃料により、CO2やNOxによる環境問題や、化石燃料の枯渇問題を解決できるとしている。化石燃料に代わるエネルギーとして太陽光や風力などの再生可能エネルギーに注目が集まっているが、これらは不安定かつエネルギー密度が低く、貯蔵しなければならないが、電気の形で大量に貯蔵するのは難しい。水素であれば貯蔵が用意なうえ、製鉄などの工程で排出される不要な水素を利用することもできる。

 水素燃料を使用する自動車としては燃料電池車が注目されているが、山根博士は加速時の余剰馬力が必要な自動車には、電気モーターより内燃機関の動力特性が合っていると主張している。

コンバージョンキットの概要水素漏れ対策
水素インジェクターとガソリンインジェクターを備える水素エネルギーは貯蔵しやすい

(編集部:田中真一郎)
2012年 9月 26日