日産、エルグランドの新安全装備「踏み間違い衝突防止アシスト」の実証デモ
駐車場や路地での切り返しでペダルの踏み間違いによる事故を防ぐ

レンガ壁を模した軽量ブロックを使って踏み間違い衝突防止アシストをテスト

2012年11月22日開催



電子技術開発本部・IT&ITS開発部の飯島徹也部長

 日産自動車は、12月13日に発売する新型「エルグランド」に、世界初の技術「踏み間違い衝突防止アシスト」を搭載する。この踏み間違い衝突防止アシストについての技術説明会を、11月22日に開催した。

 当日は、始めに日産自動車グローバル本社内にあるプレゼンテーションルームでスライドによる概要説明を実施。説明会に出席した、踏み間違い衝突防止アシストの開発を担当する電子技術開発本部・IT&ITS開発部の飯島徹也部長は、同社が長年に渡って続けている安全への取り組みにおいて、「計画を大きく前倒しして死亡・重傷者数の低減に成功している」と説明。しかし、事故の発生件数自体はそれほど減っていないことを受け、新機能である踏み間違い衝突防止アシストの市場投入を決定したと語る。

1990年代後半からABSやエアバッグ、衝突安全ボディーなどが車両に搭載されるようになり、事故が起きた際の重傷・死亡件数が低下。日産車1万台あたりの重傷・死亡件数は、1995年の15.3から目標より6年も早い2009年での半減に成功している。今後のさらなる引き下げには、予防安全による「ぶつからない、事故に遭わない」技術の積極的な採用が必要になると言うさまざまな先進技術で構成される「オールアラウンド セーフティ シールド」は日産が誇るテクノロジーだが、さらなる事故低減に向けて機能の進化と採用拡大による普及に向け努力を続けていると説明近年は毎年7000件前後が発生しているというペダルの踏み間違いによる事故が目立つ。この3年では2カ月に1回は大きな事故がニュースになる状況で、年齢別では若者とシニアドライバーによる事故が多く、高齢化社会に向けて対策の重要度が高い分野となっている

 踏み間違い衝突防止アシストの技術解説では、この新アイテムが車両の前後左右に設置されているアラウンドビューモニター用のカメラと、インテリジェントクルーズコントロールで使用される前後バンパーの超音波ソナーの合わせ技によって機能することを紹介。インテリジェントクルーズコントロールが3.5リッター車だけに設定される装備であることから、踏み間違い衝突防止アシストが2.5リッター車には設定されないと説明する。

前後バンパーに各4個装備される超音波ソナー。フロントグリルやドアミラーなどに設置されたアラウンドビューカメラがチェックする情報をもとに、加速制御と自動ブレーキで踏み間違い衝突のリスクを低減させる
障害物との距離を正確に感知できる超音波ソナーが、衝突回避に向けた自動ブレーキのトリガーになる。アラウンドビューカメラは、車両が駐車場で動いていることを検知するのが主な仕事で、サポート的な立ち位置となる

飯島部長は「ペダルの踏み間違いは普通の人が一生に1回経験するかしないかという異常事態。そんな不測のトラブルから人を救うシステムとして作っています」とコメント。今後も安全性向上を目指して採用車種を拡大させていき、そのためには今回のエルグランドのようにアラウンドビューカメラと超音波ソナーの組み合わせ以外にも、さまざまな方向性を模索する必要があると語った

 作動時の具体的な動作についてだが、車両が15km/h以下で走行中にアラウンドビューカメラが白線で区切られた駐車スペースを発見し、超音波ソナーが壁などの障害物を感知すると、制御ソフトが「これから駐車操作でアクセルとブレーキの踏み替えが行われるぞ」と判断してスタンバイ。この状況下で大きなアクセル操作が行われた場合は、この操作をペダルの踏み間違いと判定し、アクセル開度を絞って急加速しないよう制御。ドライバーがブレーキに踏み替える時間的・心理的余裕を作り出してくれる。それでもドライバーがパニック状態になってブレーキを踏めない場合には、自動的にブレーキが作動して急制動し、6秒間停車する仕組みとなっている。

 また、これまでにもあった「ソナー連動アラウンドビューモニター自動起動機能」がさらに進化。従来はソナーが障害物を検知した場合に、カーナビの画面がアラウンドビューモニターに切り替わり、警告表示とアラームでドライバーに危険を知らせていたが、踏み間違い衝突防止アシストのある車両では、ぶつかりそうになった場合に自動ブレーキが作動するようになっている。

 これにより、駐車時以外にもスイッチバックするようなシチュエーションでの活躍も期待でき、狭い路地での切り返しで壁にぶつかる、うっかり見落としたポールなどに激突するといった事故のリスクが低減される。

前進中の衝突回避
 解説後の同乗体験デモは、グローバル本社から少し歩いた場所にあるマリノスタウンを会場に実施された。

 まずは前進中の衝突回避シーン。このデモは、運転を担当した開発スタッフの操作により、壁に向かってアクセルをベタ踏みするというもの。実際の車両挙動はゆるゆると進んでいるので緊迫感は薄い。

 車内では壁が迫ってくる状況だが、これなら落ち着いてブレーキに踏み替えられそうだ。通常であれば、3.5リッターエンジン搭載のエルグランドでこれだけ一気にアクセルを踏み込むと勇ましいエンジン音が響くところだが、システムによるアクセル開度の抑制で車内で気になる音は障害物の接近と自動ブレーキの作動を知らせる2種類の警報音だけ。

 

 

 

 

 

 

後退中の衝突回避
 バックでの衝突回避もやはり緊迫感はほとんどない。また、車内でのシーンでは、切り返し中にパイロンを感知して自動ブレーキが作動する場面も含まれている。少し見づらいかも知れないが、足下を撮影した動画では、自動ブレーキの作動でブレーキペダルが前方にすばやく動いていることが確認できる。

 

 

 

 

 

 

クリープ走行での衝突回避
 最後は運転中の車内だけだが、L字型に障害物がある状況で、サイドを気にしながらクリープ走行でバックしているときにうっかり後退しすぎてしまったというシチュエーション。このように、アクセルを踏んでいなくても障害物を検知すれば自動ブレーキは作動してくれる。

 

 

(佐久間 秀)
2012年 11月 27日